序章 ~憎悪【嘆】~
「くそッ……!! くそォッ……!! 許さない…決して…!! お前達を……赦しはしないッッ!!」
一人の男の声が、燃え盛る『炎』の中から響き渡る
低く、若々しいが、堂々とした声だった
「私は…! 私はッ…!! お前達を殺しはしないッ……」
男の顔には、溢れる程の涙が―――
そして男の腕には、血まみれになった女性が―――
三度、男は叫ぶ
「私は…私は必ずッ……!! 生き延びてみせるッ…!! そしてお前達に『復讐』を果たすッ!! 必ずだ……必ず…」
「お前達が自らの『心臓』をその短剣で貫きたくなる程の『絶望』と『後悔』をッ…!! 私が必ずその『脳』に…焼き付けてやるッッッ!!!」
序章 ~憎悪【嘆】~
『英雄』と呼ばれる存在を目指すべく旅をする『暁アレス』
旅の同行者である『白鷺シード』、『青原ミーシャ』、『スイ』と共に、世界で三番目に大きな大陸『第三大陸 リーバイド』へと訪れた
目的は、20年程前に活躍した『英雄の一人』に会うためである
しかし『人間』と『獣人』がお互いにいがみ合い、ほぼ完全に別れて生活する『文化』を目の当たりにし、アレス達は驚きを隠せなかった
道中、その『英雄』の情報を持つ老婆『城ヶ峰ハロノラ』と出会い、彼女から『英雄』の情報を入手するが、その代わりとして彼女の住む『教会』の雑用を押し付けられた
同じくそこに住む子供達と『緑堂ジンビス』と『イェロン・キュバス』と共に、数日間生活を続ける
そこへ…『人間側の陸王』が遣わした私用部隊『獣人騎士団』が迫る
団長『ブルール・ルフエス』と副団長『グァメ・ブチィエナ』、ブルールの弟である『フレール・ルフエス』との激闘が繰り広げられ、戦いにこそ勝利出来なかったものの『逃走』に成功する
…が、その最中…一人の『男』が現れる
『男』が一言…アレス達にこう言った
『眠れ』…と…
…次にアレスが目を覚ました場所は、『リーバイド』の人間側の王都『シタルシュバ』…その王城『ヒューレリア』の城内であった
そこには先ほどの『男』も居た
『男』の正体は『条王寺セイスビーク』…人間の『陸王』であった―――
「………色々……聞きたいことがいっぱいあるけど…とにかく…俺達をどうするつもりだ…!?」
アレスは青ざめた顔でセイスビークに尋ねる
それが何よりも気掛かりである
彼は言った…『『獣人』の駆逐を、アレス達の『血』を持って行う』…と…
『死』…
どうしてもその一文字が頭をよぎってしまう
だが…アレスの不安とは対照的に、セイスビークは恐ろしい微笑を浮かべる
「………『何も』…だ… 今、現在はな… だが…『その後』は保証しないがね…」
「…!? ……どういう…!?」
アレスはそんなセイスビークを警戒して立ち上がった
――が、それを黙って見ている訳がなかった
アレスの周囲を取り囲む数十人の『特殊殲滅隊』が武器を構える
『剣』を、『銃』を、アレスに向ける
「…!!」
アレスはその瞬間に、反射的に腰へと手が伸びた
「あっ…!?」
しかしそこには『刀』は無かった
当然、彼らが武器を持たす訳がない
「ほう…? 感心するな… この状況で諍うとはな… やはり君とは、少し『話』がしたかった」
ゆっくり…そして確実に、セイスビークはアレスに歩いて近付いて行った
「…!!」
アレスは棺桶の中から立ち上がって動けなかった
武器も無い…周りに大勢の敵…仲間もそこに居る…
動いても無駄であり、『次』に繋げられずに動けない
ザッ…っと、アレスの目の前にセイスビークが立つ
低く野太い堂々たる声で、アレスに話し掛ける
「君は『人間』と『獣人』の子である…それは間違い無いだろう?」
「…!! なんで…なんでそれを…!?」
「そして…」
セイスビークはスッ…っと顔をアレスの耳元に近付かせ、アレスと自分意外には聞こえないように小声で囁いた
「…『英雄達』の…子なのであろう…?」
「…!!!」
…アレスがかつての…約20年程前に存在した『英雄の息子』である事は、シード以外は誰も知らない
ミーシャやスイはもちろん、ジンビスやイェロンも知らない
唯一、先日出会った『城ヶ峰ハロノラ』には情報の等価交換のために打ち明けたところではあったが、それ以外の人には全く伝えられていない情報だった
それを…この『男』は知っていた
アレスの顔から…汗が止まらなかった
アレスの顔が…より一層青ざめていく
『アレスが英雄の息子である』…その情報が知られる事で何が発生するのか…
3年前の『恐怖』が蘇る
セイスビークは、その反応を待っていたかの様にニヤリと笑いながら、顔をアレスから離す
「クックックッ…安心したまえ… それを吹聴する予定は無い。 …私は君に『興味』がある。 この『リーバイド』には君も知っているであろう『文化』が存在する…だからこそ、君という存在はこの大陸には存在し得ないのだよ。 …それは解るかね?」
『人間』と『獣人』が中立港を除き、完全に分断されて生活しているこの第三大陸『リーバイド』
分断される前にはあった事でも、現在それは一切無い
アレスと同じく、『人間』と『獣人』が結ばれて子を産むという事は
「……だから…なんなんだ…!? それが…お前に関係あるのか…!?」
セイスビークは右手を軽く上げる
「良い…気にするな」
周りに居る『特殊殲滅隊』の数人が銃を撃とうとしていたのを、セイスビークは止めたのだ
「『言葉』は『武器』であり、『人』に与えられた『力』なのだ。 『言葉の暴力』と言う『言葉』も存在し、『口は禍のもと』という古き『言葉』も存在する。 『言葉』が『人』を壊し、『禍』すらも招く…皮肉であろう? 『人』にだけ与えられた『力』を、『人』は軽々しく扱い『武器』とする。 誰かを傷付ける為に平気で『口にする』。 嘘偽りを重ね平気で人を『騙す』。 『言葉』は『人』も『変えてしまう』のだよ。 行動・理念・信念・思考・心情…『人』の『心』も『身体』も…そして『魂』すらも、生かすのも殺すのも可能なのだよ。 …理解したかね? 君が何気無く私に言ったその『言葉』は、ここに居る者達にとって私に対しての『暴力』として認識されたのと同義であると…」
「………」
セイスビークはこの大陸の人間側の陸王…
一つ一つの発言に対して妙に説得力がある
だが…彼のこの『言葉』には、説得力というよりは…むしろ『感情』が大きかった
『何か』の感情…強さとか弱さとかそういう次元ではなく…それこそ『言葉』で言い表せない『何か』が込もっていた
アレスは何も言い出せなかった
彼の『言葉』に気圧されたからだった
「…話を元に戻そう… 私は君に『協力』して欲しいのだよ」
「……『協力』…!?」
「そうだ… 正確には、『君だけ』…だがね」
「……」
「何…難しい事では無い。 君はただ
「ふざけんなっ!!」
アレスは片足を地面にドンッッ!!…っと踏みつける
その震動は大きく、建物全体が少し揺れた気がした
更に、アレスの入っていた棺桶をバキバキッ!…っと破壊して周囲に飛び散らかした
棺桶は木製とはいえ…地面に打ち付けた一発の足の一撃でバラバラに破壊するのはかなりの威力
それほど『怒り』のこもった一撃だった
「俺達を…! どんな理由かわからないけど…俺達をこんな風に連れてきて…! 『協力しろ』ってなんなんだ!! 『教会』を襲わせて…みんなを傷つけて…それを全部お前が命令したんだろっ!? そんなやつと協力なんて出来るわけないだろ!!」
アレスは体からソウルを溢れ出させる
それでも『彼』は余裕だった
セイスビークは目を細くし、アレスを蔑んだ表情で見る
そして一言―――
「『落ち着け』」
それだけ言った
そしてアレスは落ち着いた
「!!?」
アレスは驚いた
自分を覆っていたソウルが無くなっていき、『怒り』に燃えていた自分の感情が段々と『落ち着いて』いったのだ
「!? …!!? なん……で…?」
『驚き』と『疑問』…そしてほんの少しの『恐怖』…
それらがアレスの心を満たしていた
「クックックッ…不思議か? …まあ今は気にする必要は無い。 とにかく『協力』出来ないのなら仕方が無い…君達は処理する必要が有るな」
「『処理』…!? 俺達を…殺すのか!?」
「通常…ならな… だが…『博士』が君達と会いたがっている…話をしたいそうだ。 それが終わり次第…君達は『処理』するとしよう」
「…!! …なんだ……なんだお前は…」
アレスはワナワナと震える
『驚き』が消え、『疑問』と『恐怖』が膨れ上がる
「お前は一体…何をしようとしてるんだ!? 『全ての獣人を駆逐』するって…どうしてそんな事が出来る!? 『人間』と『獣人』が対立してるからって…だからって…『人』を殺すなんて事をを…なんでそんな平気で出来るんだ!? 同じ『人』だろ!? 見た目が違うだけで…それが嫌いになる理由にはならないだろ!! なんでそんな…冷たい目が出来る…!?」
アレスには分からなかった
この大陸の『忌まわしき文化』…
他大陸では一切そのような事が無いにも関わらず、この大陸のみそれが起きている
アレスには信じられなかった
自分の『父』と『母』の仲睦まじき夫婦の間柄…それを見ているアレスにとって、その産まれである自分にとって、『いがみ合う』この『文化』があり得ない
その『片方』の頂点に君臨する彼…セイスビークのこの『憎しみ』が、アレスには『異常』に見えた
いや…そう『感じた』
それは気のせいではなかった
その冷たい目で、セイスビークはアレスを睨んだ
「………」
「…ッッ!!」
アレスの『恐怖』が、より一層大きくなった
彼から放たれる…圧倒的で絶大な『憎悪』によって
「…君は何も解っていない… 『獣人』を…『人間』を………『人』を…」
セイスビークは、アレスが見た事がない『目』をしていた
今まで出会ったどの人物よりも、『憎しみ』が強かった
山賊稼業を行っていた『ボアボス・ブルブ』よりも
奴隷売買を行っていた『鎖牢ネレイボル』よりも
一時的に敵として立ちはだかった『天帝アーサー』よりも
中央大陸『セントレイン』の王都を襲った『灰島ヴェル』よりも
そして…3年前にアレスを襲った『灰島ルベル』でさえも
誰も彼の『憎しみ』には敵わない
その『目』を、アレスは見て『恐怖』した
その『恐怖』を更に煽る様に、セイスビークは冷たい声で話し続ける
「『見た目が違うだけ』…あぁそうだとも…それだけだ… だがそれが一番の原因なのだ… 自分と『違う』だけで…たったそれだけで、『人』は浅ましくも侮蔑し…差別し…貶める… 『違う』だけで…『違う』からこそ…価値観の『違い』を…自分の『芯』として持ち続ける… それが…この大陸の『文化』…いや…『呪い』とも云うべきモノだ…」
セイスビークはアレスに、ゆっ…くりと近付く
「この『リーバイド』に根付く『呪い』…人種が違う者同士が互いに忌み嫌い合う『呪い』… これは最早、『解呪』出来ずに避けられぬ『存在』… それにより、我々の大陸は黒く淀んでいる…特に人々の心が…それに蝕まれている。 ――ならば『方法』は一つ。 『駆逐』…それが最も効率の良い方法だ」
セイスビークはアレスの眼前まで迫り、見下す
例により…その冷たい目で
「私は『人間』の『王』だ。 この忌まわしき『呪い』に縛られた『人間』を解放する為にも、『獣人の駆逐』を決行する。 我々は…いや…私は何者にも止められない。 況してや君の様な少年には不可能だ。 たとえ…『英雄』であってもだ…!」
「………」
アレスは不思議だった
これほどの『憎しみ』の込められた目だというのに…
溢れるほどの『悪意』が放たれる言葉だというのに…
どうしてこれほどの『哀しみ』が伝わって来るのか
彼は本気で『獣人の駆逐』を実行する
しかし『獣人の駆逐』が『本心』であるかは別…なのだと思う
それを感じさせる哀しみ…アレスはそれを彼の『魂』から感じ取った
『嘘』や『隠し事』を、アレスの『目』は見抜ける
正確に言えば、言った『言葉』に対しての嘘偽りを『魂の揺らぎ』で判断する
アレスの前で隠し事はほぼ出来ない
言った言葉と相違無い『魂の状態』を保つ事が出来れば、アレスの目を欺けるかもしれない
つまり…嘘されつかなければそれでいい…
だからこそ
だからこそ、アレスはセイスビークの『魂』から『哀しみ』を感じ取った
しかし…それを追及する暇は無かった
セイスビークはアレスから少し離れると、少し大きな声でこう言った
「『起きろ』」
(…! また…!)
アレスは今度は何が起こるのかと身構えるが、アレスには何も起きなかった
ガタガタッ…!
「!?」
アレスの近くにある『棺桶』が不意に揺れる
「ちょっ…何よこれ…? どこ…ていうか暗いんだけど!?」
「…オイ…なんだコレ…!?」
「…状況の把握ができません… まっくらです…」
「皆さん…! 一体ここは…!?」
棺桶の中から次々と声が聞こえてきた
(みんな…! …これは…『起きた』のか…?)
アレスはなんとなくセイスビークの『力』が分かってきた感じがした
それでもそれを気にするよりも、皆を心配する方を優先した
「みんな! 『上』を押すんだ! みんなは『箱』に閉じこめられている! 押すんだ!」
「…! アレス!? よく分からないけど…分かったわ!」
再びガタガタと棺桶が揺れ、そして『開いた』
バキッ! バキバキッ!!
半ば強引に棺桶を内側から開けたり、ゆっくり確実に開けたりする青少年少女達…
水色の髪をポニーテールにしているミーシャ
白い瞳と白いショートヘアーのスイ
上に短くしっかりと伸びた黒髪のジンビス
背中の中心まで伸びた美しい黄色の髪を持つイェロン
そして短く薄い茶髪のシード
棺桶から全員出ると、やはりアレスと同じ様な反応をする
「まぶしっ…! …って…ここはどこかしら…?」
「なっ…!! コイツら誰だ!?」
「…どうやら…捕まったみたい…ですね…」
「私達の『武魂』もありません…! 抵抗はしない方がよろしいかと…!」
「………」
慌てる4人
シードだけが落ち着いていた
それでも『彼』には関係無い
右手を少し上げて、アレスに向けて振り下ろす
そしてそれを待っていたかの様に、周囲に居た『特殊殲滅隊』がアレス達を捕まえる
「…!? オイ…離せコノヤロー!!」
「ちょっ…ちょっと…! ひとつも状況が分からないんだけど!?」
「……っ!」
「私達を…どこへ連れていくのですか…!?」
「………」
棺桶から無理矢理出され、そのまま連行される
大きな部屋の入口…両開きの金属で作られた強固な扉が開き、シード達が部屋の外へと連れ出される
「ま…待て! まだ俺の…! 俺の質問に答えてないだろ!? どんな事情があったかしらないけど…! お前達はどうやって『獣人の駆逐』をやるつもりなんだ!? 答えろ…!!」
アレスは部屋から連れ出そうとする『殲滅隊』に必死に抵抗しながらも尋ねる
しかしセイスビークは後ろを向き、アレスを見ようとはしない
代わりに…その質問には答えた
「当然…『戦争』に決まっている。 『人間』と『獣人』の全面戦争…私はそれを決行する。 …君達の流した血は…忘れる事は無いから安心したまえ」
「…!! ふざけん
「それと…少年」
セイスビークはくるりと振り向き、アレスを真っ直ぐ見つめた
「『人』は君が思っているよりも、冷酷で残忍で愚かで…救う価値など無い『生物』であるのだよ」
低く、野太い、堂々とした声でそう言ったセイスビークの言葉を最後に、アレスは部屋から連れ出され、金属の扉はバタンッと閉じられた
文章だけだけど、4コマ風旅の一コマ
『教会での一時 その①』
「オイ…シード、どっちが薪割りを速く終わらせられるか…勝負しろコラ!」
「…なんで俺がそんな面倒な事をしなくちゃならねぇんだ…?」
「ハッ! 決まってんだろ!? どっちが優秀かハッキリさせるためだろーが! それにだ…どっちが的確に薪を割れるかも試してみてーからだ! テメーとは『格』が違うって所をみせつけて
「あ、シードさん。 先ほどは薪割りありがとうございました…! 後でお頼みしようと思っていたのですが…すみません… しかもあれほどの量を綺麗な形で短時間で…ジンビス君の『3倍』は的確に行っていますよ…!」
「………」
『教会での一時 その②』
「うわ~…! おいしい…! イェロンちゃん、料理上手なのね!」
「いえ…そんな… ここで長く料理をしていると、自然と身に付くものですよ…」
「…うらやましい…です…」
「なるほどね~… この味でジンビスの『胃』もがっちり掴んでいるってことね~…?」
「!! そ…そういう事では…!」
「『慣れ』でここまでおいしくはならないわよ? どうせジンビスに『ウマイぜ…イェロン…!』みたいなことを言われたいから努力したんでしょ~?」
「い…いえいえ…! …実は…皆に…ここの子供達に美味しい料理を食べてほしくて… 食事は『幸せ』の栄養源の1つ…食べる事での『幸せ』と、美味しいと感じる『幸せ』を受け取ってほしくて…色々と努力したんです… ちょっと恥ずかしい…ですが…」
「………良い子ね… スイちゃん、ちょっと私を殴ってくれないかしら…?」
『教会での一時 その③』
「あああああぁぁぁ~~~♥♥♥ なんてかわいい子たちなのかしら~~♥♥!! 私…私…私は一生ここに居るわ~~~ッッ♥♥♥!!」
「落ち着けミーシャ…暴走すんな」
「…シードさんの言うとおりです…」
「かわいいから仕方ないじゃない! 愛して愛されて…そんな関係になるまで…私はここに居るわ!!」
「…話がかみ合っていません…」
「なら…お前の旅の目的である『団長を探す』のを諦めて、ここにずっと居るのか?」
「!!! …それは………」
『……2時間後……』
「…でもそれじゃ団長は…! あぁ…でもこのかわいらしさを放っておくのは…!? ならいっそ団長を探したあとに…でもそれじゃいつになるか…そもそもここの子達だって…!」
「…いつまで悩んでんだあいつは…」




