暴力
―――黒いコウモリの様な羽が生えたその姿…
まさに『悪魔』そのものだった
いや…彼女の種族から言わせれば『サキュバス』そのものだった
普段のイェロンからはとても元の種族が『サキュバス』であるとは想像つかない
だか今はそれそのもの…
これが本来の『彼女』である
そんな彼女が胸の前に両手で『三角形』を作る
そして体からソウルが溢れ出る
『前の』イェロンがやっていた、両手を組んで祈る様な体勢をして『練魂』を行っていた
それと同じ、『今の』イェロンが練魂を行う際にする体勢なのだろう
「…! フレール!」
「分かっているよ兄さん!」
『練魂』しているという事は、再びあの威力の魂術が放たれるかも知れない…という事
今のイェロンの力が分かっていない状態での不用意な攻撃は危険である事は理解している
が、このまま何もしなかったらどんな威力でどんな魂術を繰り出して来るか分からない…ならば、とりあえず練魂だけは妨害しなくてはならない
迷わず、躊躇わずに、撃った
「『ストライク』」
フレールの持つ銃から風属性のソウルの弾丸が発射された
空を切り、真っ直ぐ一直線にイェロンへと飛んで行った
高速で飛んでいくその弾丸をイェロンは防ごうとしない
そのまま練魂を続ける
だが、イェロンは防がなかっただけである
空中に浮いていた3つの十字架の1つが動き、ヒュッ…っと音もなくイェロンの前へと移動して、その弾丸を防いだのである
バアァンッッ!…っと、耳を塞ぎたくなる音を出して弾丸は消える
(…あの十字架…! 自動で使用者を守
「自動で守ってくれる訳じゃないわよ?」
ブルールの思った事を読んでいたかの様に遮るイェロンの声
直後、イェロンの目の前に来た十字架が紅く光る
そして両手を広げて前に突き出す
「これは『武魂』…これが何かは知ってるでしょ? だったらそんな機能は無いって分かっているはずでしょう? 『叛逆十字架』は『私』の『武魂』…あれこれ考えるよりか、回避か防御をオススメするわ…♪」
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第九章
森の中の激闘 第六話
『 暴 力 』
「『インフェルマーズ』」
イェロンの目の前にある紅く光った十字架から、無数の『火の玉』が放たれた
軌道が定まらない、乱発射された玉がブルール達目掛けて飛んでいく
山なりに弧を描きながら飛ぶその玉はどちらかと言えば『弾』…当たれば無事では済まされない
ズドドドドドドドドドォォッッッ!!!
「ぐぅッ…!!」
「うぁっっ…!?」
地面に着弾したそばから炎の混じった粉塵を巻き上げる弾丸…そんな威力を持つ弾を必死で避ける2人
右へ左へ…後ろに下がりながらジグザグに避ける
(この威力…! 避けざるをえない…!)
(なんて威力だ…! 僕の使う魂術よりも数段上…!)
十字架から放たれた弾丸が収束し始める
射出される弾丸の数が少なくなり、十字架の紅い光も消えていく
―――が、次が用意されていた
「ウフフ…♪ さ、次と次も…よ~く味わってね…?」
イェロンは両手を大きく上に上げる
上空にあった残りの2つの十字架が、『蒼色』と『翠色』に光り始める
同時に目の前にある十字架が上へと飛び、射線を空ける
イェロンが意地悪く笑う
そして悪どい『声』で言う
「『アトランヴィーナ』『ガイアサーギュス』」
蒼色の光を帯びた十字架から、大きな『水の玉』が山なりに放出された
1つ1つの水の玉が大人一人余裕で座れる程の大きさを持ち、それが数十個…ざっと12個程が放出された
一方翠色の光を帯びた十字架からは、無数の『木の葉』が2人に向けて真っ直ぐに乱雑に発射された
一枚一枚は葉っぱと何ら変わりない姿と大きさをしてはいる…が、数は尋常じゃなく百は軽く超える
その2つが同時にブルールとフレールに襲い掛かった
「まずい…!!」
「これは…!?」
右往左往に2人は駆け回り、避け続ける
何故なら、『水の玉』は着弾と同時に水の大爆発を起こし、『木の葉』は触れた瞬間にその物体を切り裂くのだから
「う…おおおっ…!!」
「くっ…ああぁっ…!!」
…もはや避けきるのは、避け続けるのは不可能だった
ドドドドドドドドッッッ!!!
ズシャシャシャシャシャシャッッッ!!!
落ちた『玉』は弾け飛び、当たった『葉』は傷を付ける
上から、正面から、同時に攻撃が向かって来る…
当たらない訳が無かった
水の玉を避けても、その先で木の葉に当たり体を傷付ける
木の葉を避けても、その先で水の玉に当たり体を痛め付ける
衝撃も斬撃も『並』では無い
二種類のダメージが確実にブルールとフレールを襲った
「……」
ジンビスはそれを眺める事しか出来なかった
介入する余裕・隙が無い
…むしろジンビスは、こうなる事を予想していたのだろう
『これが本来のイェロンの力』…そう言わざるを得ない顔をしていた
………時間にしてわずか6~7秒の猛攻を避けきった2人は、息を切らしていた
『避けきった』…と言うのは語弊があるかもしれないが
全身『木の葉』による傷だらけ…そして『水の玉』による衝撃の痕が付けられていた
「ハァッ…ハァッ…ハァッ……!」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
ガクッ…っと片膝をつく2人
その顔には余裕の笑みは一切無かった
「あ…あり得ん…! 今の魂術は完全に『上位魂術』…! 下位魂術ならまだしも…『重練魂』を…上位魂術を『重練魂』するなんて聞いた事も無い…!! フレール…あれが出来るか…!?」
フレールは首を横に振る
「…無理だよ兄さん…! いくら僕達が『エルフ』でも…あんな高等技術は不可能だ…! 一体どうやって…!?」
「フフフッ…♪」
イェロンが不気味に笑う
「『普通』はムリよ… もう一人の『私』でも、それは不可能… でも…こんな『私』なら出来るのよ…?」
するとイェロンは小さく上に跳ぶ
そのままフワフワと上空へ浮遊する
「「!!?」」
「あら…? 何を驚いているのかしら…? 羽があるんだから飛べるに決まっているでしょう? それなら…こうすればもっと面白い顔を見せてくれるのかしら…?」
イェロンはパチンッ…っと、右手で指を鳴らした
その直後、イェロンの左手に杖が現れた
紫色の丸いオーブが先端に取り付けられた、イェロンの身長よりも少し短い長さの黒い木製の杖である
まるで『魔女の杖』の様である
それだけではない
今度はその杖を軽く振ると、次々と『武器』が空中に現れた
『剣』、『槌』、『槍』、『斧』、『太刀』、『大剣』…
どれも黒い色をしているが材質までは分からない
鉄で出来ているような艶めきさを持ちながら鋼の様な頑丈さの印象を受ける
それらをどこからともなく出現させた
「なん…!?」
「一体何処から…!?」
「…ずいぶん『余裕』…なのね?」
イェロンは再びパチンッ…っと指を鳴らす
現れたそれらの『武器』が、一斉にブルール達に向かって行った
「!!」
「兄さん! 下がって!!」
フレールは銃を構えてその武器達を撃ち落とそうとする
が、それを黙って見ている訳が無かった
他ならぬジンビスが
「『爆迅撃波』ッッ!!」
ジンビスの持つ十字架の先端をフレールに向ける
瞬時にソウルを柄の先端に取り付けてある半球体の赤い宝石の様な物にソウルを流し込んだ
そして十字架の先端に埋め込まれた『銃口』から弾丸が発射される―――
ズドゥンッッ!!
「ぐあっ……はっ…!?」
発射した瞬間に銃口から飛び出した弾丸がフレールの横っ腹に直撃する
前回撃ち出した弾丸とは比べ物にならない程の弾速で飛ぶ
フレールは自分達に飛んできた『武器』に集中していたのもあり、その弾丸を見切れなかった
しかし、意地でその弾丸の勢いを全身で堪える
ズザザッ!…っと、地面を両足で擦る
「…! フレー
ヒュンヒュンヒュンッ!!
「!!」
ブルール達にはそれがあった
イェロンの放った『武器』達が2人を襲う
『剣』がブルールの脇を掠め、『槌』がブルールの足元に叩き付けられる
『槍』をブルールは朱槍で防ぐが、『斧』が鈍い音を出してソウルを纏ったブルールの腕に当たる
『太刀』が回転しながらフレールに向かうがそれをしゃがんで回避…しかし『大剣』の直撃をフレールはソウルを纏って防ぐ
2人に当たった『斧』も『大剣』もソウルを纏っていたために『斬れ』はしなかったものの、当たった際の衝撃を防ぎきる事は出来なかった
「ガハッ…!」
「ぐくっ…!」
当然痛い
痛みを必死で堪える2人
その様子を空中でクスクスと嘲笑うイェロン
ニヤニヤと笑いが止まらないらしい
普段の『イェロン』ならこんな事は絶対にしない
『悪魔』たる所以だろう
そして『悪魔』たる妖しくも美しい声で語り掛ける
「フフフッ…♪ 私ね…『暴力』って言葉が好きなの…♥ 人や物に『苦痛』を与える『乱暴な力』が…♥ 特に…貴方達みたいな強~い人達が傷付く様な『圧倒的な暴力』が…♪ さあ…次はこれでいきましょうか…♪」
イェロンは右手の指をヒュイヒュイっと動かす
その指の動きに合わせる様に、イェロンの周りに浮いている3つの十字架が動き始めた
イェロンの周りをグルグルと飛び回り、やがてそれがブルール達の真上で停止する
そのままイェロンは右手の指をジンビスに向ける
「ジン君~? 合わせてね?」
「ハッ…! 分かってらー…!」
イェロンの『指』からジンビスに向かって、青紫色の光線が照射された
その光線を浴びたジンビスの体が淡く青紫色に光る
ジンビスは軽く息を吸い、吐く
「……ゥオラあぁァッッ!!」
そして駆け出した
先ほど受けたダメージなんて物ともしない程の元気っぷりで走り、ブルールとフレールに狙い定める
その大きな十字架を振りかぶり、攻撃する
「『爆廻衝』ッ!!」
柄にソウルを流し、十字架の先端から爆撃が放射される
ジンビスはその爆撃の勢いを利用し、体を大きく回転させる
そのままグルングルンと回転しながらブルールとフレールの『足元』を狙う
「くっ…!!」
「っ…!!」
回転しながら向かってくるジンビスの攻撃を避けるには、もう『跳ぶ』しか方法が無かった
これまでの連続攻撃を受けた傷付いた状態では、『防ぎきれない』と2人は判断した
ましてやジンビスの持つ十字架は重量級の一撃…防ぐ形で受けた場合、体に伝わる衝撃はかなり大きいはず
よって上空へと『跳ぶ』しかなかった
しかしそこには―――
「やっぱり…そうするわよね~…♪」
イェロンは指をクイクイッ…っと動かす
その指に合わせ、宙に浮く3つの十字架が回転しながら跳んだ2人を襲う
ビュオンッビュオンッ!…っと高速回転して四方八方から十字架が飛び交う
ただえさえ体にダメージを負った状態…空中では身動きがろくに出来なかった
避ける事は至難の技…防御体勢を取るがそれも空中では踏ん張りが効かず半減してしまう
2つの十字架がそれぞれブルールとフレールの胴体を直撃する
ドゴッッ!!
まさに鈍器で殴られたかの様な音を響かせながら、回転する十字架の勢いそのまま吹き飛ばされてしまう
しかも狙ってやった事なのか、2人は別々の方向へと吹き飛ばされてしまった
「「……!!」」
それぞれ左右に吹っ飛び、地面を全身でズザザザッッ!!…っと擦る
「フフフッ……アハハハッ!!」
イェロンが勝ち誇った様に笑い、2人を見下ろす
そんな弱い所をこれ以上見せられないと言わんばかりに、傷付いた全身を震わせながら立ち上がるブルールとフレール
「…お……お前の……この『力』は…何だ!? 先ほどまでの『君』とは…何もかも違う…!! 誰なんだ…『お前』は…!?」
ブルールが苦痛に歪んだ顔をイェロンに向けながら問い掛ける
「フフフ…♪」
イェロンは微笑しながら右手で指を鳴らす
パチンッ…っと音がした直後、イェロンの出した『剣』や『杖』が一瞬で消えた
そして同時に、3つの十字架もフワフワと空中を移動しながらイェロンの周囲へと戻っていく
イェロンは自慢気に言った
「『私』は正真正銘『イェロン・キュバス』よ…? さっきまで貴方達が見ていた『私』と今の『私』は同一人物…でも少しだけ違うの… 分かりやすく言えば…今の『私』が本当の『私』…人種『獣人』で種族『魔族』の分類『サキュバス族』…それが『私』… 『あの子』は、本当の自分である『サキュバス』から逃れるために造り出した人格…ま、『二重人格』ってものなのかしらね…♪」
「『二重人格』…!?」
イェロンは再び笑う
「と言っても…『あの子』も産まれた時から一緒に居るから、『天然の複数人格保持者』って事になるのかしらね? 美人で優しくてジン君もメロメロになっちゃう『イェロン・キュバス』と…美人で強くてジン君がもっとメロメロになっちゃう『イェロン・キュバス』…どっちも『イェロン・キュバス』なのよ? でも…『あの子』は優しいだけ…」
イェロンの体からソウルが溢れ出てきた
「私達の持つ『武魂』…この『叛逆十字架』だって『あの子』はまともに使えない… 本当だったら、『私』みたいに『ソウルで形作られた3つの大きな十字架を操作出来る』はずなのに…『あの子』はそれが出来ない… 代わりに『治癒魂術』が『私』よりもはるかに強力になるから、『あの子』も十分凄いんだけど…」
イェロンは再び両手を上げた
するとイェロンの周りにある十字架がそれぞれ『紅』、『蒼』、『翠』色に光り始める
「でもそれだけじゃないわ…私の『才能』…『悪魔の小道具』も、『私』しか扱えない… でも『あの子』の優しい性格じゃ、例え使えても使わないかもしれないけどね…」
「『悪魔の小道具』…!?」
「それが君の『才能』かい…!?」
イェロンは嬉しそうに笑う
「私の才能は『キュバス家』が持つ大きすぎる『ソウル』と『練魂技術』… 『家系』が持つ『才能の遺伝』…って感じかしらね…? 『悪魔の持つ力を補完・強化する道具や技術を発現させる』…それが私の『悪魔の小道具』よ♪ 貴方達をいじめた『剣』や『斧』…上位魂術を『重練魂』する技術…ジン君に当てた『身体能力を強化する光線』も…全部『私』の『センス』よ♪ もちろん…この『羽』もそう…」
黒いコウモリの様な羽とピンクの長い髪を揺らめかせながらまたもやニヤニヤと笑う
「でもこの『髪』や『瞳』は違うわよ? 『私』になったらサキュバスっぽさが上がって自然にこうなっちゃうの…どう? キレイでしょう? ……さて…」
イェロンは両手の指先をそれぞれブルールとフレールに向ける
「さぁ…たっぷりと味わってちょうだい…? 今度はもっと強い『暴力』を
「なるほどな」
ババッ!…っとブルールは左手を、フレールは右手を広げて上げ、手を繋ぐかの様にそれぞれ向ける
その刹那、2人は同時にこう言った
「「『双乗効果』」」
2人の突き出した手のひらが光り、瞬間で何かの『光』が飛び出してブルールとフレールのお互いに当たる
「「……!?」」
ジンビスもイェロンも戸惑う
意味不明な行動と、聞き慣れない『言葉』…
そして『光』…何かが起こるのは予想していたが、それが起こるのは予想していなかった
その光が当たった2人の体が薄く金色に光り始める
すると…傷がみるみる治っていく
完全にではないものの、ある程度の傷が回復していく
更にゆっくりと立ち上がる
ブルールは朱槍を、フレールは銃を構える
「「……」」
息を整え、目付きが鋭くなる
明らかに『戦闘体勢』を取っている
「…『暴力』……か…」
冷静で…冷たい声でブルールが話し掛ける
「君も…君達も…『暴力』という言葉の意味を履き違えている。 だがそれ以前に…君達はまだ幼く戦闘経験も低い」
フレールも同じく冷静で冷たい声で話す
「僕達も…正規の騎士団に比べれば戦闘経験はそれほど多くはないけど…少なくとも君達よりは上だよ」
2人の体から金色の光とは別にソウルが溢れ出る
「「『それ』をお前達に見せてやろう」」
―――瞬間、2人姿が消えた
「「!!?」」
あまりの一瞬の出来事でジンビスもイェロンも驚く
だが気付いた時にはそこに居た
ジンビスの後ろ正面にブルールが現れ、イェロンの頭の上の上空にフレールが現れる
「なん
「遅い」
ドゥグッッ!!
ブルールが重い掌底を喰らわす
ジンビスの背中へとそれが直撃する
鈍い音…そしてジンビスの苦痛に歪む顔…
「…ッッ……!!」
声にならない声がジンビスの開いた口から出る
その勢いでジンビスは吹っ飛ぶ
だが、それをそのまま逃がさない
ブルールは朱槍を高速で真横から振り抜く
ジンビスが掌底の威力によって吹き飛びどこか遠くに行く前に、朱槍を真横から当ててそれを阻害する
槍先には『打撃属性のソウル』を纏わせているため『斬れ』はしなかったが、ズドュグッッ!!…っと強い音を出してジンビスの横っ腹を捉える
「ガ……ッッ…!!」
横に振り払った勢いで、ブルールは槍とジンビスと共にグルグル回転する
「『覚悟』しろ」
そのまま…無慈悲に槍ごとジンビスを地面に叩き付けた
いつの間にかはるか上空へと跳んでいたフレールは銃を構え、イェロン目掛けて撃つ
「甘いわよ…!」
イェロンは指を動かして、『蒼』く光る十字架を使いガードする
が、それは『悪手』だった
ガドァッッ!!
「えっ……
十字架が吹き飛ばされてイェロンを直撃した
イェロンは止めたつもりだった
先ほどまでの威力であれば止められたはず
なのに弾丸の威力が強すぎてそれを止めきれなかった
イェロンはとっさに両手を使ってその十字架を受け止める
――フレールはこれを狙っていた
大きすぎる十字架で視界が遮られ、フレールの姿を視認出来なくなってしまった
フレールはこの状況を利用した
「逃がさ…ないわよ…!」
即座に目の前にある十字架をイェロンは退かした
…しかし眼前にフレールの姿はなく、代わりに他の十字架の姿も無かった
「…!?」
イェロンは辺りを見渡す暇も無かった
もうすでに、片足をフレールに掴まれていた
「なっ…
「これは『痛い』よ」
左手でイェロンの左足首を掴んで、銃を持った右手を真上に上げて弾を発射する
その際ただ単に発射するのではなく、まるでジェット噴射の様な勢いを出す弾を撃ち出した
その勢いでフレールの体は下に急降下していく
それは同時にイェロンも落ちていく事になる
更にそこにフレールは回転を加える
イェロンの体を縦に大きく振り回し…
そのまま…無慈悲にイェロンを地面に叩き付けた
ドドゴゴォォオオッッ!!!
鳴り響く2つの衝撃音…
それだけで地面に叩き付けられた時の威力が伺えた
実際…それで決まったも同然だった
だが2人は警戒を怠らない
2人を叩き付けた直後にすぐさま撤退、少し離れた場所でブルールとフレールが並んで立つ
体勢を立て直して『次』に備える
「フレール…上々だな…?」
「兄さんこそ… でも少しやり過ぎだよ…?」
「フッ…かもしれんが…『悪魔』相手には丁度良いだろう…」
ブルールは余裕の笑みすら浮かべる
「がぁっ……っは……」
ジンビスは受けた三撃に耐えられず、立ち上がる事すら出来なかった
「んぐっ……ふぅっぁ……」
イェロンは方膝を付きながらも何とか立ち上がる
衝撃は強かったが、ジンビスよりかはダメージが少なかったようだ
震えながらも右手を上げて、十字架を『呼び戻す』
「こ…のぉっ…! 『私』を…なめないでちょうだい…!」
いつの間にか何処かに消えていた十字架が飛んできて、イェロンの目の前に3つとも集結する
『紅』と『蒼』と『翠』く光る十字架から何か発射されそうになる
…が、それは叶わなかった
ドドドッッ!!!
瞬く間に3つの十字架が弾き飛ばされてしまった
しかもほぼ『同時』に…何かが十字架に当たってイェロンの後方へと大きく吹き飛ばされてしまう
ザグッッ…!!
「ぁあッ……!?」
イェロンは立ち上がろうとしていた足に強烈な痛みを覚えた
よく見なくても、その足のふくらはぎに『小さなソウルの矢尻』が突き刺さっていた
それほど深く刺さっている訳ではないが、痛みは十分
イェロンは前のめりで地面にうつ伏せで倒れ込んでしまう
刺さった『ソウルの矢尻』は直ぐに消えはしたが、痛みは直ぐには消えそうに無い
血も出てしまっている
イェロンは頑張って顔を上げて視線をブルール達に向ける
そこには確かにフレールが銃口をイェロンの十字架に向けている姿があった
その隣には、槍先をイェロン自身に向けているブルールの姿もあった
『ソウルの矢尻』は間違いなく朱槍から放たれていた
だが…
「…っ……いつの間に…! どうやって同時に撃って…!?」
「…君の『才能』の名は『悪魔の小道具』…だったね? 君の才能は素晴らしい… 人の持つ長所や特長をソウルによる超強化させた力…『センス』と呼ばれるそれらは、君みたいな多量にソウルを持つ者なら発現出来る『可能性』がある…だからこそ僕達も例外じゃないよ」
フレールの体から、金色の光が溢れ出る
「この『光』こそが俺の…俺達の『センス』だ… 俺達『兄弟』の…血縁よりも太く濃い『繋がり』…それが俺達の『才能』だ…」
「………」
色々気になる所ではあるが、イェロンはそれどころでは無かった
全身…特に地面に叩き付けられた際の背中の衝撃には、耐え難いものがあった
あれだけ流暢に喋っていたイェロンも、今の状況ではそんな余裕も無い
そんなイェロンを見て、ブルールは槍の構えを解き、スタスタとジンビスの所まで歩いて行った
「ちょっ…! 貴方…!」
イェロンはそれが何を意味するのか瞬時に理解した
ブルールは倒れ込むジンビスの傍らに立つと、ゆっくりと足を上げ、そして足を腹に添えた
そのまま…ゆっくりと確実に押し潰していった
「がッッ…! ハアッ……ぁ!!」
ミシミシ…っと、骨が軋む音がイェロンの所まで聞こえて来る
「やめっ…やめなさい…! ジン君に
ドォンッッ!
「あぁっっ…!!」
フレールは何の躊躇もなく弾丸をイェロンの肩に当てた
痛みで叫び声を上げるイェロンを、フレールは冷たく見る
「…ごめんね…でも…これが僕達の『力』だから…」
「フレール、慈悲を掛けるな… 『殺らなければ殺られる』…それが『戦場』だ。 それに、この2人は俺達に慈悲を掛けなかった…ならばそれに応えよう。 『暴力』には『暴力』を…『力』には『力』を、だ…」
そう言っている間にも、ブルールはジンビスを踏む力を強くしていく
「はっ…ガァッ…!!」
ジンビスは呼吸すらままならなくなる
傷付いた体でも、何とか両腕を動かしてブルールの足を掴む…が、焼け石に水である
その圧倒的なる『力』を防げない
(クソッ…がぁ!! なんだ…この『力』は…!?)
(あの『光』を纏ってから…全くの別人みたいに強くなって…! 私達の力を軽く超えている…!!)
「……不思議か? 俺達の『力』が…」
ブルールは冷たく笑う
「先ほどまで君達の『暴力』を受けていた俺達が…何故ここまで君達を圧倒出来るか…」
「僕や兄さんが一人で使ってもこうはならない…二人で使うからこそ真価を発揮する… それが僕達の『才能』、『双乗効果』だ」
ブルールとフレールの2人は、全身に纏う金色の光をたぎらせる
「この『金色の光』を纏った『もの』は強化される… 性能・能力・本質…あらゆる面が『強化』される…それが『物質』であろうと『人物』であろうとな」
「発動時のソウルの量に比例して『強化』の効果も上昇する…でも、それほど大差ないしこの『センス』自体の強化力もそれほど高くはない…でも…」
2人の『光』が更に強くなる
「二人が同一の『もの』に『光』を纏わせれば、その効果は何倍にも跳ね上がる…それがこの『双乗効果』の本来の力だ」
「珍しいでしょ…? 兄弟揃って同じ『センス』を持っているなんてね…? でも…それが僕達の『絆の力』だからね」
体の傷が治ったのも、常人以上の身体能力を手に入れたのも、2人が使う『双乗効果』という『才能』の力だった
『金色の光』を当てた対象を強化させる『センス』…だが、ブルールとフレールが同一対象にその『光』を当てると、その『強化』が何倍にもなる
それこそ、治癒能力の超強化によって怪我を回復させたり、身体能力の超強化によって高速移動・高跳躍も可能になる
「しかし例外もある…それが俺達だ。 本来ならば『同一のもの』に光を当てるべきである『双乗効果』だが、俺達同士がお互いに光を当てても、その超強化が発生する。 フレールは俺に、俺はフレールに光を当てれば、『双乗効果』の真の力が発動する…さすが『兄弟』…と言った所か…」
「純粋に僕達の力を強化させるだけじゃなく…僕達の扱う『武装』も同時に強化されるんだ… ほぼ同時に弾丸を3発撃てたり、高速で斬撃を放てたり…僕達兄弟で『双乗効果』を使えば、正直君達じゃ僕達には勝てないのさ… 兄さん…そろそろ終わらせようか…?」
ブルールは静かに頷く
そして再び…力一杯ジンビスを踏む
そしてフレールは銃口をイェロンの頭に向ける
「君達は十分強いけど…『僕達』には敵わない」
「誰も…『俺達』の『絆』には敵わない」
ブルールとフレールは静かに…そして低い声で言い放った
「君達のその『力』は『暴力』じゃない…『暴力』は『乱暴な力』ではないんだよ…?」
「『暴力』とは…強者が弱者に与える、絶大にして防ぎようのない圧倒的なる『力』の事だ。 それを…身をもって味わっているだろう?」
―――そして、ブルールは足に力を込め
―――フレールは引き金を引いて
2人を、潰した
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第九章
森の中の激闘 第六話
『 暴 力 』
(ふざ…けんじゃねー…! 俺はあの時…)
(私は…あの時の弱いままじゃないのよ…! 私はあの時…)
(…私は…ジンビス君と一緒に誓ったの…! 私はあの時…)
(((『強くなる』って『約束』したから……!!!)))
―――その日は雨が降っていた。
文章だけだけど、4コマ風旅の一コマ
『装備 その①』
「そういえばシードって、武器は『槍』なのよね? なんで『槍』なのかしら?」
「槍は間合いが剣や刀よりも長い。 加えて長斧よりも軽量…素早く動けて敵を牽制しつつ間合いを取って攻撃…槍の理想の使い方ってところだな」
「…シードさんらしい…立ち回り方法ですね…」
「ん~…じゃあ『銃』を使うって考え方はなかったのかしら? あなたならうまく使いこなせると思うし…」
「………当てちまうから……」
「……へ?」
「………思わず……あいつに当てちまうかもしれないからな…… 時々…槍すらも当てたくなる…」
「………分からなくもない……けど…… でもだめよ…槍を当てたら死んじゃうかもしれないでしょ…?」
「…ミーシャさん……シードさん……槍も銃も当ててはだめです…」
『装備 その②』
「…ご主人様の武器は『刀』…なんですね…?」
「そうだぜ! 父さんの持ってたこの『刀』…切れ味バツグンで何でも斬るぜ!」
「実際、『剣』よりかは良物だな。 長くてもしなやかさと切れ味を両立してて折れにくい…見た目にも美しさを持っていて鑑賞用としても人気があるな」
「…そうだ! 二本持って『二刀流』ってのはどうだ!? 威力倍増だぜ!」
「…いつか言うと思ってたが…」
「…わたしは…悪くないと思いますが…」
「ダメよ! 絶対にダメ! 私の『二丁銃』が目立たなくなるじゃない!!」
「………そんな理由かよ」
『装備 その③』
「ミーシャは2つの銃…『ピストル』と『サブマシンガン』だったか?」
「ふふん…そうよ? 私が『海族』の時に使っていた銃ね」
「両方とも『サブマシンガン』じゃだめなのか?」
「ピストルにはピストルの…サブマシンガンにはサブマシンガンの良さがそれぞれあるのよ」
「…? よく分からん…?」
「あんたで例えるなら…同じ『手』でも『右手』と『左手』じゃ全然違うでしょ? そういう事よ」
「…そんなんで納得するわけ
「なるほど! そういう事か! メチャクチャ分かりやすいな!」
「………納得すんのかよ…」
『装備 その④』
「スイの剣は『双剣』か! しかも立派な剣だな!」
「…はい… ですが…そもそもわたしが入手した剣ではありませんし…出所も不明です…」
「切れ味や剣の形状の良さ…かなりの業物であるのは間違いないが…」
「出所不明…っていうのがちょっと不安よね…」
「そんなのどうでもいいだろ? 剣はよく斬れればそれでいい! 折れなかったらもっといい! だろ!?」
「……! その通りです…ご主人様…!」
((…スイも段々あのバカに侵食されて(るわね)んな……))




