覚醒 ≪クリュソキュオン≫
『タテガミオオカミ』≪鬣 狼≫
全体にほっそりとしており、毛は長くて柔らかく、毛色は黄褐色で鼻面や四肢の先は黒っぽい
足が大変長く、イヌ科の中ではもっとも背が高い
頭から肩にかけての黒っぽい毛がタテガミ状に見られ、尾の先は白い
鼻面はとがっていて、耳は大きな三角形をしているのため、顔はハイイロオオカミよりもキツネに似た雰囲気をもつ
走るのも速く、短い距離なら時速90km以上の速さで走ることができると言われている
その速度はチーターに負けない程と言われ、動きも敏捷である
『 覚醒 ≪クリュソキュオン≫ 』
「あ…アレス… 何よその『姿』…!?」
ミーシャは非常に驚いた
ミーシャの知っている『獣心化』とは明らかに違う姿をしている『獣心化』を見て、ミーシャは驚きを隠せなかった
まずアレスの『手足』に変化が見られた
アレスの腕…ちょうど肘から指先にかけて、薄青色の『ソウルの籠手』を纏っていた
足も同じように膝から足先にかけて『ソウルの臑当て』を纏っていた
『籠手』や『臑当て』と言ってもゴワゴワした形では無く、スラッとしたグローブやタイツの様な形でソウルが纏い、指先と足先には鋭い『爪』も現れていた
まるで『狼』の四肢の様に
次に目につくのは『耳』だった
頭頂部に生えた『獣耳』が通常よりも2倍程大きくて長く、キツネに似た印象を受けた
しかも『獣心化 ≪電光閃火≫』の様な不安定なソウルで作られた物では無く、しっかりとした本物の獣耳で生えていたのだ
髪の色はもちろん『黒』
だがその髪の襟足からは『伸びた髪』が背中の中心にかけて生えていた
アーサーの様に髪をソウルで作ってそれに着色するという形では無く、アレスの『獣心化』時の『獣耳』と同じ原理で実際に襟足から髪の毛が生えたらしい
アレスの地毛である黒いツンツンな髪がまるで『鬣』の様に伸びていた
全体的に見て、変わった所はそれぐらいである
あとは通常の『獣心化』と同じで、狼の様に鋭い目付きや小さな牙、尻尾が生えていない等の特徴は変わらない
この変化した『姿』がどう戦闘に現れるのか…それはきっと今からアレスが見せてくれるだろう
………アレスは軽く呼吸をする
「……よし…安定してるな… やっぱり『鬣狼形態』はこの形が一番扱いやすいかもな… あとはアレがうまく使えれば…」
アレスは小さくガッツポーズをする
そこへ、おそるおそるミーシャが尋ねる
「あんたのその姿が…『獣心化 ≪鬣狼形態≫』…ってやつなの?」
アレスはコクンと頷く
「色々紹介したいけど…この『鬣狼形態』は長くは出来ないんだ… だからサクッと倒すぞ!」
するとアレスは四つん這いになって正面を向く
そんなアレスをへらへらと笑う団員達
「本当にヤる気か…? あのガキ…」
「ムダムダ…俺達を誰だと思ってんだ?」
「コイツ『キツネ』の獣人だったのか?」
それぞれがそれぞれの反応を見せるなか、
『そこ』にアレスはもう居なかった
「「「「「!!!???」」」」」
これにはさすがに敵である獣人騎士団団員どころか、ミーシャやスイまでもが驚いた
『そこ』に居たはずの…確かに目の前に居たはずの人物が、瞬すらもしていない自分達が一瞬で見失ったのだ
そして『どこ』とか『あれ』とか何か言う前に、1つの悲鳴が上がった
「うごぉあぁっっ!!?」
『それ』が聞こえたのはミーシャ達の前方奥…場所で言えば、団員達の最後方に位置取っていた団員が居た場所から聞こえた
おそらく『そこ』に居たはずの獣人が一人、空中へと舞い上がっていた
フォンッ…
『何か』が空を切る音…
それが聞こえたか聞こえなかったか分からないぐらいに鳴り響いた『声』…
「がぁうぅっ……!!?」
またどこかで誰かが空中へと飛んだ
「グフゥッッ…!!」
「ガぁッッ…!!」
「げうぅっ…!?」
次々に舞い上がっていく獣人達…
一体何が起こっているのか?
その瞬間、ほんの少し前にアレスが消えた地点に再びアレスが現れた
ズシャッ!…っと地面に着地して
「…ふぅ……やっぱりまだうまくコントロール出来ないな… それにこの調子じゃ、あと5分ぐらいしかもたないな…『船』でやった時、動かないままなら10分ぐらい出来たのに…イメージトレーニングばっかりやってたのがダメだったのかな…?」
アレスがボソボソと何か言っていると、アレスの前に居た団員が大きな声で叫ぶ
「テ…テメェ…! 一体なにしやがった!? 答えろや!!」
その顔には当然のごとく『焦り』と『疑問』と『恐怖』が見られた
「教えてほしいのか!? んじゃ教えてやるぜ! 俺のこの『獣心化 ≪鬣狼形態≫』は
「ちょっとアレス!? そいつよりも先に私達に教えなさい!? ていうか…説明している暇はなかったんじゃないの!?」
アレスはそこでハッ!…っと気付いた
「あぶないあぶない…そんなヒマはなかったんだった… あやうく騙されるところだったぜ…あいつシードと同じぐらい頭いいな…!」
「それはあんたがただ単にバ……じゃなくって…とにかく! ここはあんたに任せればいいのかしら!? 私達はどうすればいいの!?」
「もちろん2人も手伝ってくれ! スイは『全力』で移動しながら攻撃して、あいつらを中心に飛ばしてくれ! だけど『斬っちゃだめ』だぞ!? そんでミーシャはそこに『一撃』を加えてくれ! 頼むぞ!!」
それだけ言うと、アレスはまた消えてしまった
ポカンとするミーシャとスイに対し、団員達は気が気でない
また同じ様に『どこからともなく』現れて攻撃されるのだ
「クソがっ…! ナメんじゃねぇぞ……!!」
アレスの目の前に居た団員が、その手に持つナイフを振りかぶって思いっきりミーシャ達に向けて投げた
「あっ…」
アレスの意味不明な言動を理解出来なかった2人は反応が遅れてしまった
間に合わない…確実に当たってしまう
しかもナイフはミーシャの腹に向けて投げられた
辛うじて避けられたとしても、脇腹には当たってしまう
それを覚悟したと同時に、突然そのナイフが弾かれた
キィンッ!…っと、ナイフは弾かれて明後日の方向へと飛んでいく
「あぶなっ! …『鬣狼形態』じゃなきゃ間に合わなかったな… でも…うまく使えてるな…!」
そのナイフを弾いたのはアレスだった
地面に両手足を着け、着他する
だがこれを待っていた様に、その団員が隠し持っていたもう1つのナイフで斬りかかって来た
「死ねやガキャァァッッ!!」
怒りの形相でナイフを振りかぶる団員
しかしアレスは余裕だった
次の瞬間、アレスは左へと跳んだ
四肢に力を込めて地面を蹴った
更にその瞬間、なんと空中で方向を変えて、真っ直ぐ正面に飛んだ
そして再び空中で方向を変えて、団員の真後ろから彼を思いっきり叩き落とした
ドガャッッ!!
「グボッォ……!??」
地面に顔から倒れた団員は、そこで静かになった
…他の団員達は動くに動けなかった
全方向から不規則に襲い掛かってくる『攻撃』の正体が『アレス自身が高速移動して行った攻撃』である事を再認識したと同時に、あり得ない移動方法を見せられて動くに動けなかった
『それ』はミーシャとスイも見た
当然ながら、『普通の方法』では『空中で方向転換して移動』なんていう移動は出来ない
足にジェット機能の付いた魂機でも付ければ可能かもしれない
それを『生身の人』が平気で行う事なんてほぼ不可能だった
ソウルを一点集中させ、周りに拡散させず、一気に大量射出させなければ、空中で移動なんて出来ない
それこそ生半可なソウルコントロールでは失敗して暴発、そしてあらぬ方向へとただ単に飛んでいってしまうのがオチである
それを目の前の子供であるアレスが平気でやって見せたのだ
はっきり言って、実力差は歴然だった
…しかし仮にも『獣人騎士団』…『プライド』が逃走を拒んだ
「う…ゥオオオオッッ!!」
自分達を鼓舞するように、声を荒らげてアレスに向かってくる
「まだまだ! 行くぜ!!」
アレスもまた、それに負けじと自分に言い聞かせる
そしてまたフッ…っと消えた
と同時にどこかで舞い上がる団員…
これに、ミーシャもスイも何もしない訳がなかった
「…黙って立っているだけじゃアレスのお荷物ね…よく分からないけど…アレスが言ってた通りに戦いましょ!」
「…はい…! 『全力』で…いきます…!」
スイは全身に力を込める
すると――『半透明の白いソウル』が、スイの体から溢れてきた
スイの持つ『力』…それは、全大陸に蔓延る怪物『エニグマ』の『力』だった
彼女の肉体には『エニグマの力』が宿っている
それを使った時、薄青色のソウルが白くなる
その力は幼いスイの力を限界以上に高め、優に常人の力を上回る
強化された腕力はその手に持つ両刃双剣を軽々と振り回して高速剣技を放つ事ができ、強化された脚力は目では追えない程の走力を身に付ける事が出来る
しかしその強さの反面、スイの『心身状態』に非常に左右されて、『心身状態』を左右してしまう
つまり『心』と『体』が大きく傷付いたりした状態で使えば、たちまち『力』にスイ自身が支配されてしまう
力に負けて『暴走』してしまう
だが今のスイなら問題無い
不安定な力を安定して発動出来ている
(…ご主人様に…『頼むぞ』と言われました… だから…わたしは『全力』で戦えます…! ご主人様に…『信頼』されたんですから…! わたしの全てはご主人様のもの… ご主人様のためなら…わたしは…『全力』を出して戦えます…!)
スイの『魂』は、アレスのために揺れ動かなかった
『力』を制御するのに何も問題は無かった
「…『ブレイクエッジ』…!」
すると、スイの持つ両刃双剣が白いソウルで覆われていく
剣の刃に添ってソウルが纏われ、まるで剣を『コーティング』するかの様にソウルが纏われる
そして『白きソウル』を纏ったスイは、目にも止まらぬスピードで駆け出した
ヒュンッ…
一瞬でスイの姿が消えると、アレスと同じく団員を攻撃する
「ガッアァ……!!」
姿の見えないスイの剣が団員に直撃する
しかし斬れない
剣が『ただの棒』の様な『打撃』武器になっていたからだ
先程の『ブレイクエッジ』…アレスの技の1つ『無刃剣』と同等の技だった
剣に『打撃属性』のソウルを纏わして、対象を『斬れなく』させる技である
だが『斬れない』と言っても、十分過ぎる程の威力がある
結局はこん棒などと同じため、スイのスピードと相まってスイの当てた剣の攻撃は団員を軽々と吹き飛ばす事が可能だった
「「「………!!」」」
団員達は言葉が出ない
目で追う事が出来ない程のスピードで動く2人の子供に翻弄され、まともに戦う事が出来ないでいるのだ
もちろん彼らはそこそこの実力を持ち合わせている
陸王の私用部隊である以上、弱いはずがない
それでもアレスとスイのスピードは常軌を逸している
はっきり言って『見えない』
あえて言い換えるなら『居た』
『何か居た』だ
「うぅっ……! ぅうああぁぁッッ!!」
団員達は、ただただ狼狽える事しか出来なかった
そんな最中―――
―――数日前 中央大陸・第三大陸間往復魂機船内
第25号室 アレス達の部屋にて―――
―――アレス視点―――
……………
アーサーとの修行から…まだイメージトレーニングしか出来てない…
そう毎回毎回、だれかと戦うなんてあんまりないからしょうがないけど…
修行のあとはここに来るまで『馬』で移動してたから『エニグマ』と戦うこともなかったし…しょうがないけど…
でも…このイメージトレーニングでものにしなくちゃ…
アーサーの『俺の分身』を避けた時…足にソウルを纏わせて、『狼』みたいな足を作って避けることが出来た…
だから『速度特化』の形はこれでいい…はず…
だけど…それを『技』としてこれからも使えるようにするには…もう少し改良する必要がある…
………よし…部屋にはだれも居ない…
今なら………
コオオォォォッ………
……うん…これでいい…
足にソウルで『すね当て』みたいな形で纏って、それで高速移動をする…
耳も…高速移動するなら感覚だけじゃ相手を感知出来ないから…なるべく大きくして『聴覚』も使う…
あとは…なんでか分からないけど…この形にすると後ろ髪がちょっと伸びるんだよな…なんでだろ…?
なんか『タテガミ』っぽい…
……この状態なら…20分は余裕だな…
『スピード』はかなり速いはず…
でも脚力を上昇させる代わりに『パワー』と『ガード』が弱くなっちゃう…
振り分けは『10:80:10』…パワーもガードも低いけど…スピードがついた攻撃なら相手に強力な攻撃が出せるし、相手の攻撃を避けれればガードする必要もない…
…けっこう万能かもしれない…?
よし…いける…
……………
でも…これでいいのか…?
アーサーは言ってた…
『コツ』…『可能性』…『習得出来るはず』………
あの時…この姿をアーサーに見せて攻撃を避けた…
それなら普通…『使いこなせ』とか『そのまま』とか…速度特化を認めた言葉があってもいいはず…
たしかに、この『コツ』を使って違う特化形態の『可能性』を探っていつか『習得出来るはず』…ていう意味なら通じるけど…
たぶん違う…そうじゃない…
あの時のアーサーは、『この姿ですら可能性の範囲内』…っていうのを伝えたかったはず…!
直接俺にそう言ったら…俺が成長出来ないって理解して…
……でも…これ以上にどうすれば…?
もう『獣心化』でやれることは全部したはず…
『狼の力』はこれ以上ないぐらい引き出したはず…!
『速さ』を限界まで求めた姿になったはず…!
これ以上どうすれば………
………ん?
まてよ…?
『狼の力』…?
……違う…
今の俺は狼じゃない…
そもそも…なんで『足』にだけソウルを纏っているんだ…?
それは『人』が『二足歩行』だから…
じゃあ『狼』は…?
『狼』は…『四足歩行』…!
前足と後ろ足…その4本の足で地面を蹴って移動するから速いんだ…!
足にかかる負担や力も…2本の足と4本の足とじゃ全く違う!
なら…俺もそうすればいい…!
『足』だけじゃなくて…『腕』にも同じようにソウルを纏って武装すれば…!
そしてなるべく『四足歩行』を心がけて移動すれば…!
地面を蹴る強さも2倍…その手で攻撃すれば威力倍増…
壁蹴りも『手』と『足』で出来る…例えば森の中とかで戦闘した時とかなら、木々を好きな方向に素早く蹴って移動出来るから縦横無尽に動き回れる…!
でも…消費するソウルも2倍…
発動時間も半分ぐらいになっちゃうけど…それでも十分だ…!
…いける…!
…やってみよう…!
コオオォォォッ………
……うぅ……!
…足と腕を同時にするのは少し難しい…!
でも…これなら出来そうだ…!
……………
……………
……よし………安定してきた……
『足』だけじゃなくて『腕』にも…!
腕にソウルを纏って…『籠手』みたいな形で…!
これで両手両足に爪を作れば…『狼の四肢』が出来上がる…!
これが……これで………『完成』だ…!
『獣心化』の『速度特化』…
よし……これを次の戦闘で使ってみよう…
なるべくなら多人数相手で戦ってみたいな…
『スピード』を最大限に活かせる戦いで…
………でも……
速さを求めるなら…もう少し工夫がほしいな…
『ただ速い』だけじゃなくて…『違う速さ』がほしい…
………
そうだ!
シードの『風刃』みたいな槍技に似た、『鋭い一点集中のソウル放出』を手や足から出来るようになれば…!
空中での移動方向転換が可能になって、更なる速さが実現出来るはず…!
直線的な方向転換じゃなくて…三次元的な動きの移動が出来る…!
…よし!
さっそく試して…あっ…そうか…ここじゃ出来ないか…
う~ん…練習したいな…
…戦う前にどこかで練習出来ればいいけど…
じゃなかったらぶっつけ本番になっちゃうな…
…そうなってもうまくいくように…イメージトレーニングを頑張らないと…!
あとは…この『速度特化』の名前かな…?
やっぱり技の名前がないとしっくり来ないからな…!
………どうしよう…?
う~~~ん………
…なんか…『速い狼』の名前…とかがいいな…
…あとでシードに聞いてみよっと…
―――そして現在―――
「クソッ…クソッ…! 見えねぇ…! どこにいやがる!」
団員達はアレスをまともに見ることは出来なかった
それに加えてスイの姿までも見失ってしまう
もう、全身にソウルを纏ってガードするしか方法が残されていなかった
ガギッ!…っという、アレスとスイの攻撃が身に纏ったソウルとぶつかってする鈍い音が、何度も何度も響くだけだった
「ググゥ…! ……!??」
――すると奇妙な現象がそこで起こっていた
いつの間にか、団員全員が一ヶ所に集められていたのだった
アレス達に弾かれたり、その攻撃をガードしてよろめいたり、逃げようとしてそこに………
これが明らかに狙ってやられた事というのは直ぐに理解出来た
偶然とか奇跡とかそんなんで全員が一ヶ所に集められる訳がない
『必然的』にそうやられた…それしかない
その『証拠』が彼らの上空にあった
「「「……!!!」」」
一ヶ所に集まった彼らの上の『空中』に、なんとミーシャが立っていた
両手に『自動連射小銃』と『単発小銃』を1丁ずつ持ったミーシャが、小さな2つの『風の塊』に、片足をそれぞれ乗せていた
ミーシャが『立っていた』風の塊は、大きさはハンドボールぐらいの薄緑色のソウルで出来ており、ミーシャが立っていても破壊されずにそのまま原型を留めながら空中に滞留していた
そんな風の塊に立っていたミーシャが、団員達を見下ろしている
「そんなに時間はないから…一気に決めるわよ…!」
ジャコッ…!…っと、両銃を下に向けてミーシャは叫ぶ
「『炎爆滅連射』!! 『炎爆滅弾丸』!!」
向けた銃口から火花が飛び出した
それと同時に両銃から『緋い弾丸』がそれぞれ放たれた
ジュドドドドドドドッッッ!!!
ジュドゥンッッ!! ジュドゥンッッ!!
右手に持った『自動連射小銃』からは、チョークに似た形の『緋い弾丸』が次々と撃ち出された
左手に持った『単発小銃』からは、ピンポン玉に似た形の『緋い弾丸』が一発一発しっかりと撃ち出された
「「「!!!」」」
団員達は戦慄しただろう
ミーシャはたった5秒程しか撃たなかった
そもそもミーシャの持つ『サブマシンガン』も『ピストル』も、それほどソウルの装弾量は多くない
それでも多かった
サブマシンガンからはおよそ50発、ピストルからはおよそ10発の弾丸が発射された
しかも、地面に着弾した瞬間に爆発を巻き起こす弾丸である
ミーシャの放った『炎爆滅連射』と『炎爆滅弾丸』という技は、火属性のソウルと風属性ソウルを『7:3』の比率で配合・混合してそれぞれの銃口に合った弾丸の形状へと成形し、それを撃ち出す技である
風属性ソウルで火属性ソウルを囲うような形で弾丸を形成し、一発の弾丸を作る
そして着弾した瞬間、その衝撃で内部に閉じ込められた火属性ソウルが風属性ソウルと混じり、火属性ソウルの威力を何倍にも増幅させて結果『爆発』を引き起こす
威力は言わずもがな、そこそこの高威力である
特にピストルの弾丸はサブマシンガンの軽く5倍…
それが上空から合計60発である
団員達が戦慄しない訳がない
ボガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!
次々と着弾する弾丸が次々と爆発する
「「「………!!!」」」
団員達は何も言えず、ただただその爆発に巻き込まれるしかなかった
先程のアレスとスイの攻撃も相まって、爆発が収まる頃には全員が地面に倒れ、気を失っていた
身体中が軽く黒く焦げてしまい、爆発の衝撃で出来たアザがそこら中に広がっていた
もはや起き上がる素振りもない
完全に鎮圧出来たと言える
その様子を確認したスイは体から『力』を抜き、息を整えた
同時に両腕を胸の前で交差させ、その手に持った両刃双剣を『納刀』した
あらかじめ設定した『体勢』を取ると武具の収納・取り出しが行える魂機『ティールテイク』の力である
やがてアレスも同じように、地面へと着地して深呼吸をする
「すうぅっ………はぁぁ~~……」
一気に肩の力が抜けたのだろうか?
呼吸が終わると同時にアレスからソウルが溢れ出る
それは、アレスの纏っていた『獣心化 ≪鬣狼形態≫』の『解除』を意味していた
伸びた襟足が無くなり、大きな獣耳や腕と足の『ソウルの武装』も消失していた
「…っふぅあ……ハァ…」
その場でガクンッと膝をつくアレス
相当の疲れが今、アレスを襲っているのだろう
「ふぅっ……ナイス連係だったぜスイ…! あの『鬣狼形態』についてくるなんて…スイもめちゃくちゃ速いな!」
スイは若干照れながら、首を横に振る
「…いえ…ご主人様に追いつくことはできませんでした… ご主人様を追いかけるのが精一杯です…」
「そうか? あの『速度特化』に付いてくるだけでも
「アレス~~~!!」
そこへミーシャが駆け付ける
「おっ! ミーシャ! ミーシャもさすがだな! あの最後の技っていったい何だ? それと空中に立っていダッァッッ!!?
ガンッ!…っと、アレスの頭を強烈な拳骨で殴るミーシャ
「あんたふざけないでちょうだい!? あんたが勝手に突っ走るから私達がここに来たんでしょ!? シードに言われたじゃない! 『2つ上がったら教会に2人以上待機』って! だから今はジンビスとイェロンちゃんの2人しか居ないのよ!? 早く合流するのよ! ほらさっさと立ち上がりなさい!!」
ミーシャがグイィッ…!…っとアレスの腕を掴んで引っ張りあげる
「いだっ! いだだだだっっ!! ひっぱらないでくれミーシ
「うるさいわ! そもそもあんたが1人でここに来るからいけないんでしょ!? だったら文句言わないで!」
「あだっ!! あだだだだだだっっ!! いたいいたいって!!」
そのままミーシャはアレスを引っ張って森の中へと引きずって行った
「……」
そんなご主人様の様子を少しかわいそうと思いながらも、スイは2人に付いて行った
―――皐月 28ノ日 日魂日 午後3時18分―――
「…兄さん…あれは…」
「ああ…『目的の場所』だ…」
ブルールとフレールは『教会』へと辿り着いた
少し拓けた場所に建つ教会…2人の目的地である
だがそんな教会の前に、2人が居た
「マジで来やがったか…しかも2人… アイツが予想した通りじゃねーか…なんつー頭してやがんだ…」
「うん…シードさんはきっとこうなる事を予測してたのかも…」
『何か』に納得する2人
しかしそんな暇は無かった
ジンビスは背中に背負った『十字架』をウェポンホルダーから取り出す
十字架の下に伸びた部分が柄になっており、そこを持って十字部分をハンマーの様に振り回すジンビス
「かかって来いや騎士団共…! 俺がテメーらをブッ倒してやらぁ…!」
そしてイェロンは首から下げた『十字架が3つ繋がったネックレス』を軽く握る
そのあと両手を組んで、祈る様な体勢を取る
するとイェロンからソウルが漂い始める
「あなた方の『目的』は分かりません… ですが…これ以上この森を…私達の『家』を…『家族』を…! 壊させる訳にはいきません…!」
対照的に、ブルールはゆっくりと真上に右手を上げた
その手に、ブルールの身の丈よりも大きな朱槍が現れ、軽々と片手で振り回す
そして切っ先をジンビスに向ける
「安心しろ…俺達の『目的』はお前達だ… 大人しく俺達に捕まれば痛い思いはしないだろう」
更にフレールも胸の前に右手を広げる
するとその右手に『サンドスワロー.50AE』が現れた
銃としてはそこそこ大きな銀色に光る銃…その銃口を軽くイェロンへと向ける
「…あまり気は進まないんだけど…抵抗するなら撃つよ… 覚悟してほしい…」
ジンビスは軽く笑う
「ハッ! どーせ抵抗しなくても撃つんだろ? なら…先にテメーらを俺がブッ倒してやるよ!」
イェロンは教会を軽く横目で見る
「教会に居たシスターと子供達は全員避難しました… それでも…教会を破壊なんてさせません…!」
ブルールは大きく槍を薙ぎ払う
「俺達はお前達を捕まえればいい…教会を破壊する必要は無い」
フレールは引き金に指を掛ける
「大人しくする気は無いんだね… じゃあ…しょうがない…」
ブルールとフレールは目付きが鋭くなる
「「容赦はしない…エルフの『誇り』にかけて…『全力』で仕留める…!」」
ジンビスとイェロンは『覚悟』を決めた
「「俺達は負けねー…『全力』でブッ倒す…!!」」
次回 「思考、目覚める『悪魔』」
ガチャッ…
「ん? どうしたアレス?」
「シードシード! 『狼』のなかで一番速い狼ってなんだ?」
「どうした急に…?」
「いいからいいから! シードなら知ってるよな?」
「…一番速いかどうかは分からないが…『タテガミオオカミ』が狼の中で速い分類になるな」
「そうなのか!? なら…『ドライブビースト ≪タテガミオオカミ≫』………ちょっと…ダサいな…」
「…?」
「…タテガミオオカミ以外に速い狼はないのか?」
「さあな…俺はそれ以上知らないな」
「んん…ん~~…名前…どうしようかな…」
「…『名前』…? なんかの技の名前か?」
「ん…そう…そうなんだけど…技っていうか…」
「『タテガミオオカミ』はその名前以外にも別の呼び方がある… その名前を『クリュソキュオン・ブラキュウルス』って言うらしい。 昔、アリスさんが俺とアリアに『狼の図鑑』を見せてくれた事があって、その時に俺も知った名前なんだがな…『とにかく速い』って印象を受けたから良く覚えてんだ」
「…『クリュソキュオン』…『クリュソキュオン』か…! よし! それにしよう! ありがとうなシード! よ~し! イメージトレーニングをがんばるぞ!!」
「………???」




