空を断ち斬る白き槍
「『エアロバッシュ』」
シードが高々と上げた左手に呼応するように、シードの周りから何かが飛び出した
ビュオオォォォッ!…っと、風が逆巻く様な音を出しながら飛び出した『それ』は、2つが森の木々を飛び越す程の高さまで上がり、1つはシードの身長よりも少し上の高さまで上がった
よく見ると、『それ』は『風の塊』だった
直径1メートル程の丸い風の塊が空中へと飛び、一瞬静止した
そして、ブルール達に向かって高速で飛んで行った
「うおぉっ!?」
グァメは慌てて右方向へと飛び退く
「…っ!」
フレールも同様に左方向へと飛び退いた
「……」
しかしブルールはその場で立ち尽くすばかりか、防御体勢や攻撃体勢すらもしなかった
余裕の現れではない
これが当たらない事を知っていたからだ
案の定、その『風の塊』はブルールの頭上と脇を通り、後方に居た『獣人騎士団』の団員の場所へと着弾し爆発する
「「「うわぁぁあっっ!!?」」」
団員達はその爆風に巻き込まれ吹き飛ぶ
威力はそれほど強くない
しかし人を吹き飛ばすには十分過ぎる威力であった
グァメはそんな団員の様子をチラッと横目で見ると、直ぐにシードに向かって走り出した
そして腰のダガーをその『透明な鞘』から手早く抜くと、シードにその触れた物を瞬時に斬り裂く事が出来る刃を見せ付ける様に振り下ろす――
「ナメたマネしてんじゃねぇぞガキがッッ!!」
「ナメてんのはお前だろ…?」
シードはグァメに、まるで鬼の様に冷酷で無慈悲な表情を見せながら、上げた左手を向ける
「『エアロサイスト』」
その瞬間、シードの周囲に『風』が吹いた
しかしその『風』は、剣よりも切れ味が良く銃よりも速く吹き荒いだ
シードを中心に円形に真っ直ぐ『風の刃』がヒュォンッ!…っと、空を切る音を鳴らしながら空間を裂いた
「ぐぁっあ…!?」
ザシュッ!…っと、グァメにその『風』が直撃する
しかしグァメも簡単には受けない
風が当たる直前に、全身にソウルを瞬時に纏わせてガードする
威力はある程度抑えられた
だがそれでも『勢い』までは抑えられなかった
「クソッ…が…ッ!!」
その風の勢いそのままに、グァメは大きく後退させられる
ズザアァァッ!…っと、地面を擦りながらブルールの居た場所まで戻ってしまう
グァメはバッと顔を上げてシードを睨む
「『魂術』2連発だと…!? 『練魂』する暇は無かっただろうが…!?」
グァメは体勢を立て直し、ダガーを構える
「……」
そしシードも、片手に持っていた槍を両手で持ち、臨戦態勢へと移行する
「団長…! アイツ…訳の分かんねぇ攻撃してきやが
「『重練魂』…か…」
「!?」
グァメはブルールが言った言葉がよく分からず、苦い顔をする
「『下位魂術』を2つ以上同時に『練魂』して、同時…もしくは順番に発動させる『技術』… 彼の放った『魂術』は2つとも『下位魂術』…よって『重練魂』を行ったと言えるだろうが…あの若い年齢で『重練魂』を行えるのは中々だな…」
ブルールは一歩、二歩と前に歩み出した
そして右手を広げながら真上に高々と上げた
その瞬間、カッッ!!…っと閃光がブルールの指から走った
正確には、ブルールの指にはめていた『指輪』が光り輝いた
まばたきする間も無く、唐突にブルールの手に大きな『槍』が現れた
槍先には刃渡り20センチ程の大きな刃、柄はおおよそ2メートルはあると見える朱槍を、ブルールはその手に持った
「…! 『ティールテイク』か…!」
シードは更に警戒度を高めた
設定した『体勢』を取る事で収納した武具を瞬時にその手に持つ事が出来る魂機『ティールテイク』…
シードの仲間である『スイ』も同じ様な物を持っているため、それ自体には何も警戒はしなかった
しかしブルールが『武器を持った』という事は、少なくともシードを敵と認識して戦うという事…シードが警戒しない訳が無い
(…さて…どう動くか…?)
シードはブルール達の動向を探る
するとシードの期待通り、ブルールは動いた
「…フレール、お前の方がやりやすいだろうな」
「…分かったよ兄さん…あんまり気乗りはしないけどね…」
フレールはブルールに言われて少しやりにくそうにしながらも、右手を広げながら胸の前に掲げる
その瞬間、カッッ!!…っと閃光がフレールの指から走った
正確には、フレールのはめていた『指輪』が光り輝いた
まばたきする間も無く、唐突にブルールの手に大きめの『銃』が現れた
銀色の本体に黒色のグリップ、しっかりとした『銃』という印象を誰が見ても受けるその形から、小柄な人や女性が撃てばその反動でのけ反る事間違いないだろう
「…『銃』!?」
シードは焦った
シードの仲間である『ミーシャ』も銃を武器にして戦闘を行っているので、銃自体には何も焦りは無かった
しかし、だからこそ、シードは銃自体の対策を何も持っていなかった
(…カートリッジが無くてあの形状…おそらく充魂式【※銃の弾倉に直接自分のソウルを流し込んで補充し、それを銃弾として射出する型式の事】…それ自体は別にいいが…こういう状況でまさか銃を持つやつと戦闘するとは…! クソッ…! ミーシャに詳しく銃持ちとの戦闘方法を聞いとけばよかったな…)
シードは基本、戦闘についてはアレスに次ぐ努力家である
戦闘はいわば『命のやり取り』…対策も何もしない訳が無い
しかし『銃』は少し別なのである
何故なら銃は即死する可能性が低いからである
剣や槍の様に『刃物』ならば一発で死ぬ可能性は高い
逆に『銃』はその可能性は低い
『銃』は構造上、弾丸の形が丸みを帯びている
当たりどころが良くてアザ、悪くて『気絶』程度である
これは銃そのものが対人ではなく『対エニグマ』だからなのだが、これとは別に『銃に即死性を持たす事を禁ずる』という『全大陸共通項目』が存在するためである
よってシードは一撃一撃が死に繋がる剣などの戦闘に関しては対処法を持ち得てはいるが、銃に関しては少ない
それがシードが焦っている理由である
「僕の愛銃『サンドスワロー.50AE』…君を制圧するには申し分無い威力を持っているよ… さて…少し大人しくしてもらうよ」
カチャッ…っと、銃口を真っ直ぐシードに向けるフレール
「……」
しかし、フレールはスッ…っと銃を下げる
そして静かに口を開く
「…兄さん…彼はグァメさんに任せよう…」
「…そんな暇は無い…全員で仕留めれば早いだろう」
「でも…グァメさんはもう獲物として『見た』みたいだよ」
それを聞いてブルールは横目でグァメを見る
すると、姿勢を低くして唸る様にシードを睨むグァメがそこに居た
そして普段は少し高めの声を出しているグァメが、まるで死肉を貪り喰らうハイエナの様な低い声を出した
「…団長……手を出さねぇで下さいよ… アイツは……俺の『獲物』だ……」
ゾクッッ…
シードはとっさに二歩下がる
自分に向けられた明確なる『殺意』と『視線』…いくらシードがグァメを下に見てるとはいえ、その身に感じたものにはたじろいてしまった
「調子にのんじゃねぇぞクソガキ…お前はもう…俺の『獲物』だ… 後悔すんじゃねぇぞ……ガキが……!」
グァメは更に姿勢を低くし、足に力を入れる
間違いない…シードに突っ込むつもりだ
シードもそれを感じ取ったのか、自らの体に『風』を纏う
「『鎧風』」
シードの体に添うように『風』がその身を包みこんだ
薄い緑色の風属性のソウルがシード自体とその周辺に、さわやかだが力強い風を巻き起こす
「…来いよハイエナ野郎…俺を狩ってみせな…」
文字通り『風の鎧』を身に纏ったシードが挑発的なセリフをグァメに吐きかける
グァメは青筋を立てて苛立ちを顕にする
そして両足で強く地面を蹴り、シードに突っ込んだ
シードは踵を返して逃走する
ほんの数秒で、2人の姿が見えなくなった
その様子を呆れた顔で見るブルール
「…全く…グァメの奴は…」
「兄さん…」
ブルールにフレールが問い掛ける
「グァメさん…まさか彼を
「大丈夫だ」
フレールが何を言おうとしていたか、ブルールには分かっていた
「グァメは俺の指示には必ず従う…今回の任務は『教会に居る人物達の生け捕り』だ… 俺の指示を無視するような真似はしないだろう」
「テメェは絶対殺す! 団長のために絶対殺す!! 逃がさねぇぞ!!」
森の木々をかき分けながら、高速でシードを追いかけるグァメ
そんなグァメに追いかけられるシードは、グァメと付かず離れず一定の距離を保ちながら逃げていた
「………」
シードの纏う風の鎧…『鎧風』は、シード自身の身体能力向上の技では無い
自身の体に『風の鎧』を纏うことで空気抵抗を極限まで小さくし、まるで激流を遡る鮭が水を物ともせず進むかの様に移動が可能となる技である
纏った風が空気を自身に添わせるかの様に後方へと流し、空気抵抗を全く気にさせずに高速で移動出来る
他にも応用出来る技で、例えば戦闘中であれば相手の攻撃を添わせて回避する事も可能である
シードはその『鎧風』を逃走用に使用した
グァメはそんなシードを追いかける
「ハハッ…! 懐かしいぜぇ…!! この感覚…! ガキの頃が懐かしいぜ!」
グァメは高揚した表情で語る
「俺は『逃げるヤツを狩る』のが大の得意なんだよッ! 何故か教えてやろうか!? 俺が今のテメェよりもガキの頃…! 『鬼ごっこ』や『かくれんぼ』じゃ負けなしでよぉ! 誰がどこに居んのかスグに分かったんだよ!! 野生のカンってヤツが働いてんのか知らねぇが…俺には分かんだよ!! そっから俺にはある『才能』が発現してよぉ…! テメェみてぇなヤツを『能力を使いながら見る』だけで…ソイツを『マーキング』出来るようになってよぉ…! 一度『マーキング』したヤツがどこに行ってもその居場所が分かる能力を俺は手に入れたんだよ!! 俺から逃げる事なんて不可能だ…! 俺の『才能』…『狙った獲物は逃さない』からはなッ…!! 絶対に逃がさねぇぞクソガキがッ…!!」
「………」
シードは後方の追いかけてくるグァメを振り向かず、黙って逃げていた
「俺は団長のためなら『命』をかけられる…! あの人は俺の目標で尊敬する恩人だ…! 獣人側じゃケンカばかりで敵なしだったどうしようもねぇ悪ガキの俺をブン殴ったあの人の強さに…俺はどうしようもなくホレたのさ! 俺を救ったあの人に恩返しがしてぇ…だからこそ! 団長の期待にはなにがなんでも応える!! そのためにテメェをブッ殺す!! 団長のジャマになるようなテメェを…俺がブッ殺す!!」
「………」
シードは考えていた
それは2つある
1つは『彼らの目的』だ
教会に居る人物…教会の最年長者であるハロノラや、『ウィークエンドの悪魔』と呼ばれるジンビス達を狙う彼らの『目的』とは何か…?
それをシードは考えていた
…だがやはり分からない
しかし『予測』の範囲ではあるが、仮説を立てた
それは『自分達が何かに利用されるのではないのか』と…
現状で教会に居る人物を狙うのか教会そのものを狙うのか…どちらかは分からない
それでもシードは彼らが『人間側の陸王が使役する私用部隊』である事から、公に出来ないような『殺人に関与する』事をすると考えた
よって自分達…教会に居る人物達が目的と考えた
だが…イコール『殺人をする』とは限らない
むしろ『殺人する理由が無い』からだ
わざわざこんな『一週間迷って死ぬ森』まで来ているのだ…ただ殺人をするだけならこの森の『管理人』を脅したりしてそれを協力させるのが一番手っ取り早い
例えば教会に送る物資に『毒』を入れたり、教会の果樹園から採れた作物を回収する業者になりすまして教会へ行くなどの方法がある
殺人を主にするならその方法が最も適切で確実だ
だが正確な教会の場所を知らなかったり各所に設置された罠を受けながら来ているという事は、少なくともその線は低い
例え殺人以外であっても…例えば『誘拐』が目的でも、管理人の協力をもらえればそれも容易に出来る
が、前述通りでその線は低い
だからこそ殺人をする理由が無い
管理人からの協力が得られなかった上で殺人が目的ならば、そんな危険を冒す程の理由は無い
そもそも彼らが『人』である以上、寿命でいつかは死ぬ
端的に言えば、放っておけばいつか死ぬだろう
『死』が目的なら別に『今』でなくていい
逆に『今』すぐに『死』が必要な理由が見当たらない
今、彼らを手に入れる必要がある…管理人と協力する間もなく、今すぐ教会に居る人物達の身柄を手に入れる必要があるという事だ
つまり『森の管理人とは関係なしに独自で動いて教会を目指し、教会に居る人物達を殺人ではなく誘拐して連れ出す必要がある』…
シードがアレスの提案した『逃走』ではなく『闘争』に便乗した理由もここにある
『逃走』すれば、もしも子供達が捕まった時に人質として自分達も捕まり、部隊は五体満足に自分達を誘拐出来るだろう
『闘争』すれば、部隊にダメージを与えると同時に追い返す事も可能である
そしてある程度傷付ければ、自分達を誘拐する体力も合わせて逆算させる事ができ、結果『一時撤退』を余儀なくさせる事が出来る
シードはそれらを踏まえて、『自分達を誘拐して何かに利用する』のだと結論付けた
それを踏まえた上で、その『何か』が何かを考えていた
これとは別に、シードはもう1つ考えていた―――
「ハァッ…! ハァッ…! 逃げ足だけは速ぇじゃねぇか…! だが…! 俺からは逃げられねぇぞ…! いや逃がさねぇ!!」
「………」
グァメはソウルを脚部により纏い、更に加速した
しかしそれでもシードとの距離は詰められない
グァメの加速したのと同時にシードもまた加速しているのだ
(…クソが…! あんなクソガキに追い付けねぇだと…!? ふざけんじゃねぇ…!)
グァメは右手に持ったダガーにソウルを纏わせる
そしてそれを振り下ろす――つもりだったが、その少しの動作でシードとの距離が更に空いてしまう
「クソがぁぁッ!!」
ほんの少しでも他の動作をしてしまえば追い付けなくなってしまう
グァメは走る事だけに集中した
だが『怒り』が込み上げる
「ハァッ…ハァッ…!! クソがクソがぁァッ!! テメェ…ごときに…!! この俺がッ…!!」
「………」
不思議な事に追い付けない
だけでなく引き離されもしない
一定…常に一定の距離を保たれている
それがより『怒り』を蓄積させていった
「クソがクソがクソがッ……!! 俺は『獣人騎士団副団長』だぞッ…!? ハァッ…ハァッ…俺が…俺が負ける訳がねぇ……!! テメェを殺さなきゃ…団長のためにならねぇんだよ…!! 何のために…アイツに従ってるのか分かんねぇだろうがッ…!! ふざけんじゃねぇぞ…フザけんじゃねぇッ…!! 俺は…! 俺は獣人側じゃ誰にも負けなかったんだ…!! それが…それが…こんなクソガキに…!! 『契約』と団長を守るために…俺は…! 負けてたまるかよォォオォッッ!!!」
そこで、シードは止まった
「!!?」
急に止まったシードに驚くのと、その加速した状態の勢いを止められずについついシードを追い越してしまう
「うおぉっ!?」
ズザァァッ!!…っと、地面を強く擦りながら止まるグァメ
やがて止まると、グァメはシードと向き合う
「ハァッ…ハァッ…! ………ようやく…諦めやがったか…!」
「…礼を言っとく」
「…!?」
グァメは驚いた
『礼を言われた事』ではない
シードの『声』が、冷たく冷徹で暗い暗影を宿したその『声』に、グァメは驚いた
グァメはダガーを構えた
急に自分を襲った『感覚』に…グァメは明確なる『危険』を感じた
「…ハァッ……ハァッ……俺は礼を言われる事なんて何もやってねぇぞ…?」
「いいや…十分だ… あんたのおかげで理解出来た…」
シードは自身に纏っていた『鎧風』を解く
「俺はずっと考えていた…あんた達の『目的』が何かを… だが…いくら考えても結局分からなかった… それでももう1つ…あんた達がなぜ人間側で飼われているのかが…今ようやく分かった」
「…ハァッ……『飼われている』…だと…?」
グァメは不意に『風』を感じた
しかも、『不穏な風』を
「こんな事…考えればすぐ分かる事だったのに…俺も冷静じゃなかったんだろうな… あんた達は『獣人』で、あんた達を使役するのは『人間』…この大陸の風土なら、決して交わらない人種だ… だからこそ、その両種族の間には何かしらの『密約』が存在する…おそらく『人間側と獣人側に関係する』何かが… あんたがさっき言った『アイツに従っている』と『契約』という言葉…そして『人間側の陸王に獣人の部隊が使われている』という状況…この2つから考えるに、あんた達は『人間側の陸王に仕方なく従って何かを守ろうとしている』…そしてその『何か』は、『獣人の全て』である…違うか?」
「……ハァッ……ハァッ……」
グァメは息を整えるだけで、返事はしなかった
しかし、疲れと怒りが混じっている何か言いたげで突っかかった様な表情から、シードの言っている事が図星であるのが見て取れる
シードはそんなグァメの様子から自分の考えが当たっているのを確信すると、話を続けた
「『エルフ』は『信仰心』と『誇り』を何よりも大切に強く持つ種族だ…だがこの大陸には、信仰心はあっても崇めるという『文化』そのものが無い… どういった経緯かは分からないが、あんたの団長はその2つを捨ててでも『獣人そのもの』を守る事を選んだ… 『エルフ』として人知れず『信仰心』を持って生きるのではなく、『獣人』として全ての『獣人』を守る事を選んだ… 自分が人間側に飼われる事で、獣人側には一切手出しをしないという『密約』を交わして…な… 『誇り』を捨てて…人間側に飼われるなんて屈辱を受けてでもな…」
グァメの顔が少し歪む
「あんたの団長は、人間側の陸王にこう言われた…もしくはこう言ったんだろうな… 『人間側に飼われる代わりに獣人側には一切干渉しないようにしろ』と。 つまり、『自分の身を売った』んだ…自らの存在で人間側が獣人側に攻め行ったりしない様な『抑止力』として… もしも人間側の陸王がそれでも獣人側に戦争を仕掛けたりしたら、あんた達はそのまま人間側の陸王やらなんやらを殺ればいい… 逆にあんた達に人間側が手出しをして殺せば、もちろん獣人側は黙っちゃいない…即戦争ものだが、『獣人が殺された』という明確なる正当防衛理由が出来る… そしてこれを獣人側の陸王も了承している…『人間側に手出しをしない代わりにブルール達を貸し出す』と… だから今、この大陸は均衡を保っている…戦争ならないようにそんな『密約』が交わされていたらな… あんたもそれを知っていてあの団長に協力してるんだろ?」
「……ハァッ……それが……どうした…? だから…何だってんだ?」
グァメはシードに対してもちろん友好的に返事はしない
それでも、苛立ちと同時にうっすらと『恐怖』すらも覚えてしまう
『勘がいい』とか『頭がいい』とかそういう次元ではない
『天才』…そう言ってもいいかも知れない
グァメは本音を言うと、シードの相手はこれ以上したくなかった
ただ単純に嫌だった
こっちの考えている事が筒抜けになっている様な感覚が非常に恐ろしくて嫌だった
それでもシードは語り続ける
「それだとおかしいんだ…何がって、あんたのしようとしている事がおかしいんだよ… 俺はあんた達の目的が俺達の『生け捕り』だと踏んでいる…なら…あんたが俺を殺そうとしているのがおかしいんだよ… 誰よりも団長のために動くあんたが、その団長のやろうとしている事に反する様な真似はしないはずだ… まるで…その団長のために団長を裏切る様な感じで… つまり…最終的には団長のためになるが、一時的にその団長の指示を無視している…となると、そこには第三者の何かしらの指示がある…そう考えるのが妥当…ってところか…?」
「…ハァッ……知るかよクソが……」
「そらしたな? 目線を俺から若干下に… 当たっていると断言していいわけ…か…」
「………」
グァメの微妙な目線の変化すらも、シードは見逃さなかった
グァメはつい黙ってしまう
歯を食いしばりながら、必死にシードを睨み返す
せめてもの抵抗だった
これ以上、『何か』で負ける訳にはいかない
「テメ
「2つ言っておく…」
グァメが『テメェ…さっきからゴチャゴチャうるせぇぞ!!』…と、啖呵を切ろうとした瞬間にシードが言葉を被せてくる
「…人も…『獲物』もそうだが…追ったり追われたりするといつも以上に体力を消費してしまう… それは『追う』や『逃げる』といった通常とは違う体の動きに余計な体力をや力を使ってしまうからだ…普段慣れない事をすれば、うまく行かないのは当然の事だろ? 慣れない事をやろうとすれば、必然的に変に力を使いすぎて体力の消耗が激しい…今のあんたと同じってことさ。 逆に…普段と同じ様にしていれば、当然余計な力を使う事なく動ける…今の俺みたいにな… 俺の言っている意味が分かるか…?」
グァメは分かってしまった
「………」
分かってしまったからこそ黙ってしまう
それを言ってしまえば、『負け』た事になってしまう
シードはつまり…『グァメの追跡なんて、自分からすれば追われているとも思っていない』
『だから追っているお前は息切れしているが、俺は息切れしていない』…と…
「…分かんねぇな…ガキの言う事なんざ…」
必死で強気な言葉を出すが、その言葉には明らかに覇気が無かった
――ふと、グァメは先ほどの事を思い出す
それは自分が感じた『風』の事だった
『不穏な風』は比喩表現ではない
実際にグァメはそう感じたのだ
その『正体』が今、分かった
「そして…あんたは『副団長』失格だ… あんたには…『恐怖』が無い… あいつみたいに…あいつみたいな『恐怖』を…俺はあんたからは感じない」
シードの周りに『風』が吹いていた
シードを取り囲む様に、シードに纏う様に、『風』が、シードを包み込んでいた
朝方、窓を開けた時に入ってくる『少し冷たい風』なんかではない
墓地や薄暗い森に突如として吹き付ける、背筋がゾクッ…っとなる様な…そんな『風』がシードを包んでいた
「中央大陸『セントレイン』に居た…あんたとは違う『本物の副団長』を… まあ…人間側も『強すぎる獣人』を手元に置くと厄介だと思ったんだろうな…それに…『単細胞』だと扱いやすいから…というのも理由の一つだろうな…」
シードが使っていた『鎧風』とは違う
確かに形やその風の纏い方はそれに近い
しかし『風』の性質そのものが明らかに違った
「…俺がこのまま何もしない場合…俺はあんたに殺されるだろうな…」
シードが口を開く
「でもな…例えあんたが俺を生け捕りにしようとしてもだ…」
シードはゆっ…くりと、槍先を自分の左へと向ける
「俺はお前を
殺す。」
シードは纏った風を槍先へと凝縮して、大きく一回転して槍を振り回した
「『白槍・断斬ノ空』」
「―――ッ!!」
グァメは急にそんなあからさまな『攻撃』を防ぐため、手に持ったダガーを自身の胸の前に掲げた
その挙動からして槍先から『斬撃』が出るだろうと予測して、ダガーと自分の体…踏ん張りを効かすために特に足に多くソウルを纏わした
シュイィィィィィッ…………ン………
………鋭い刃物で金属を切った音でもない
………風が吹き荒れる様な音でもない
ただ一瞬だけ、風がなにかを斬った音がした
比喩が出来ない、何とも言えない音がした
「………」
グァメは驚き半分、拍子抜け半分の顔をしていた
シードは槍先に風を纏った槍を、体を大きく一回転させて振り回した
そしてシードを中心に半径約25メートル程の範囲に、風の斬撃がうっすらと円形に飛んだだけだった
さながら先ほどシードが見せた魂術『エアロサイスト』の様な『円形の風の斬撃』…それが広くなったみたいな物である
その斬撃がグァメを貫いても、グァメ自身には何も感じない
『当たった』とか『ぶつかった』とか、ましてや『切れた』とかを感じなかった
「………ンだよ…見かけ倒しか…?」
グァメはダガーを構えたまま、シードを挑発する
「そんなんじゃ俺は殺せねぇぜ…? ハッタリは止めとけ」
グァメは自らにソウルをより纏い始める
完全なる臨戦態勢に入るつもりだ
「俺は団長みたいに甘くね
からなぁ…お前をいきおい ぇ… 俺はなにせ『悪』だ
知れねぇからな…? そこは 余ってころしちまうかも
たえものはにがさねぇ』… ゆるしてくれよ… 『狙っ
それがおれなんだからな」
………グァメは違和感しか感じなかった
一言で言えば…
『言葉がずれていた』
もちろんそんな事は起こり得ない
『言葉がずれる』という現象は意味不明で理解不能である
ただ、感覚的にそんな感じがした
その『感じ』の正体が、グァメは分かってしまった
(あれ…俺は…『俺は団長みたいに甘くねぇ… 俺はなにせ『悪』だからなぁ…お前を勢い余って殺しちまうかも知れねぇからな…? そこは許してくれよ… 『狙った獲物は逃さねぇ』…それが俺なんだからな』………そう言ったはずだが…?)
グァメは『下』を見た
そこには…自分の胸が横に真っ二つに斬られて、上半身と下半身が徐々にズレて行っている光景があった
「――!!? ……??!?」
…確か、自分はダガーで身を守ったはず…
…ソウルを纏って防御を行ったはず…
…胸の前でダガーを構えていたはず…
おぼろ気だが確かにそうした
…そのダガーですら、完全に真っ二つになっていた
鮮やかすぎる切り口…鉄で出来ているはずのダガーの刃が横に真っ二つになり、徐々に徐々にズレていった
ダガーと自身の胸だけでない
そのダガーを構えていた腕…上腕部分も綺麗に真っ二つになり、これも徐々にズレている
更に彼の周りを取り囲む木々…それら全てが、同じように切れていた
シードを中心に半径25メートル程…直径50メートルの範囲全ての木々、そしてグァメの体が、鮮やかすぎる切り口同士をスライドしてズレて行っている
まるでマンガやアニメでよくある光景…剣の達人が物を斬った時に、少し遅れて斬った対象がズレて斬られたかの様な光景がここで起きていた
グァメには分かっていた
『言葉がズレている感覚』と『どうしてそうなったのか』…その正体が、先ほどのシードの攻撃によってもたらされたものだという事が…
グァメには分からなかった
『何故生きているのか』、『どうして即死しなかったのか』…
その答えを聞く事はおそらく出来ない
グァメの意識はそこで消えた
『後悔』も『未練』も抱く間もなく、気付いた瞬間にすでに『死んでいた』
そこに言葉は無かった
彼の『命』も無かった
ドチャッ………
…ようやく切り口同士から『もの』が離れた
生気の無くなったただの肉の塊が、地面に静かに崩れ落ちる音が響いた
『グァメ・ブチィエナ』という存在がそこにはあっても、彼自身がそれを理解出来はしなかった
「………」
振り回した槍を静かに背の『ウェポンホルダー』に納刀するシード
息づかいは随分穏やか
息切れはしていない
しかし『倦怠感』が彼を襲った
「ぐぅっ…ぁぁ……」
シードはよろめきながら立ち膝をついてその場に座る
その顔には疲労の色が見えた
「………」
シードは自身の手を見る
小さいが確かに震えていた
(この技…俺の使える技の中でもかなりの高威力技… 自分を中心とした直径約50メートルの範囲を、超圧縮した風属性ソウルを纏った槍を振り回して斬り裂く技…自分が斬られたとも感じない程の切れ味を持ち、斬られた対象は自分が死んだと気付くまで十数秒はかかってしまう… ガードはほぼ無力…防いだ盾や剣ごと斬り裂いてしまうからな… だが…そんな威力を持つ反面、『反動』もデカイ… 『一定時間、風属性ソウルを扱えない』事に加えて、『強い疲労と倦怠感が襲う』事も起こってしまう…ゆえに『一撃必殺』…連発どころかこの一撃で決めないとまともに戦えはしない… とにかく当てられたから良いけどな…)
シードを襲う大きな『疲労』と『倦怠感』…
しかしシードが震える理由は他にもあった
シードは震える右手を、同じく震える左手でガッ!…っと押さえ込む
右腕の震えを止めるように
そして自分に言い聞かせる
(落ち着け…落ち着け… たかが…たかが人ひとり殺しただけだ… この旅を始めた時に…いや…それよりも前に…それをする『覚悟』はしていたはずだろ…? あの時に俺は誓った… あの時…アレスの妹の『アリア』を守れなかったあの時から… 俺の目的を果たすためならば…『殺人』すらも躊躇なくやると…! それに…俺はすでに人を殺している… 今さら一人殺したところで…何ともないはずだろ…? 落ち着け…落ち着け……落ち着け………)
シードは深く息を吸い…そして吐いた
自分を落ち着かせる
………ゆっくりと、目を閉じる
………ゆっくりと、目を開ける
そこに広がるのは、元は『グァメ・ブチィエナ』と呼ばれた肉塊だけ
それを見て、シードはようやく落ち着いた
「………」
彼にとって、今の『現実』を見る事が一番自分を落ち着かせる方法だった
『現実から目をそらす』事はただの『現実逃避』
『現実をその目で直視する』事が、何事も変えられない『今』である事を自分の脳裏に焼き付ける方法
故にシードはそれを『受け入れる』
誰よりも冷静沈着なシードが、自分を落ち着かせる方法の一つである
「………」
(…あいつら…俺の打ち上げたメッセージを見ただろうな… 俺は少し休む… だからその間は…お前達に任せた… まあ…アレスなら…きっとやってくれるだろうな…)
―――皐月 28ノ日 日魂日 午後3時20分―――
アレスは『敵』に囲まれていた
アレスだけでない
アレスの両脇にはミーシャとスイが居た
彼らを取り囲む様に、ハイエナの獣人や犬の獣人がそれぞれ武器を持って立っていた
ジリジリと距離を詰める獣人達
彼らはあのブルールやフレールやグァメと共に居た『獣人騎士団』の者達である
実力はおそらくアレスよりも上かも知れない
そんな17人の獣人が取り囲む中、ミーシャは焦っていた
「どうするのよ! 私達じゃこんなにたくさん相手出来ないわよ!?」
ミーシャは両手に銃を構えて銃口を向けながら、焦りと恐怖が入り交じった声で問い掛ける
「…たしかに…3人だけでこの人数は…不利ですね… ご主人様…どうしますか…?」
さすがのスイでも不安になる
一方のアレスは笑っていた
「「!!?」」
ミーシャとスイは驚く
…確かにこういった時に笑うのはおかしいが…アレスに関しては無くは無い
だが、アレスの『この時を待っていた』と言わんばかりの表情に、2人は驚いた
「よっしゃ…! 見せてやるよ…! 俺はこの時を待っていたんだ!」
周りの獣人は『気が狂ったのか…?』みたいな顔でアレスを見る
しかしアレスはワクワクが止まらなかった
「アーサーとの修行の成果を…ようやく見せることが出来るぜ!!」
そしてバッ!…っと、アレスは両腕を交差させる
そして…待ちわびていた様に叫ぶ
「見せてやるぜ…俺の新しい力…! 新しい『獣心化』の形を…!!!」
Q.ミーシャとスイとイェロンの3サイズは?
「………」
ガチャッ
「ミーシャが今にも銃を死ぬほど撃ちまくりそうだから次回な」




