3日後、そして逃走
旅日記
―――記入日:皐月 28ノ日 日魂日
記入者:白鷺シード―――
『…あれから3日が過ぎた…
何が『ここで何をするか…分かっているね…?』だ…
何も分かんねぇよ…
だから『分からない』って言ったんだが…そしたらあの人…
『教会を手伝え』…って言いやがった
…つまりだ…
小さい子供ばっかり居る教会だからこそ、常に教会を汚したり散らかしたりしやがる
それをイェロン一人で掃除しているらしい…
んで、ジンビスの野郎もロクに手伝わねぇからイェロンの負担が大きいんだとよ
加えて『果樹園』の収穫…炊事洗濯…森に配備された設備の点検…それと壊れた『コンパス』の修理等々…
…それらを俺達に手伝えってよ…
もちろん…『嫌なら『照会状』を渡さないよ…』なんて言いやがって…
…確かに『アレスが英雄の息子』って情報と『紫村リト』の情報は釣り合わない…のは分かっていたが…
こっちが得た情報の方が大きいのは分かっていたが…
だからって俺達を『3日』もここに居させるのはどうかと思うがな…
俺は反対したんだが…あのミーシャが俺に反対しやがって…
『いやよ! こっちがお世話になったんだから、そのお礼はキッチリ返さないといけないでしょ!?』…とか言って…
別に世話になったつもりは無いんだがな
…あいつはただ単に子供と遊びたいだけだろう…
しかもミーシャに便乗して、スイも『…情報を教えてもらったのですから…なにかお手伝いはするべきですよ…』とかなんとか言って、アレスも『いいじゃないかシード! ヒーローは逃げたりしないぜ! ゆっくりしていこう!』…とかアホみたいな事言って…ふざけていやがる…
…それからというもの…『果樹園』の収穫手伝わされたり料理作らされたり洗濯やらされたり…散々な目に会わされた…
それ以上に…3日も居させるか普通…!?
俺達はそんなに暇じゃない…
…だが…俺は転んでもタダでは起きない…
ここに居る間に、気になっていた事を調べた
大体の事は教えてもらったし、予想である程度の事は解決出来た
だがそれでも分からなかった事がいくつかあった
…まず、『ウィークエンドの森』…という名の由来だ
俺達の居る森が『ウィークエンドの森』と名付けられたのはおよそ20年前らしい
あのハロノラさんがこの森に来た時、『ウィークエンドの森』と名付けられてはなかった
『かなり迷う大きな森』程度にしか伝えられてなかった
それが20年前に『ウィークエンドの森』と名付けられたらしい
…ハロノラさんいわく、自然とそう名付けられたそうだが…
十中八九、あの『紫村リト』の力だろう
この森の『管理人』としてなったあの人が、この森をそう名付けたんだろう
目的は『この森を守るため』
容易に森へと入らせない、近付かせないためにそんな名前を付けて人を遠ざけた
だが逆に、例の『教育』を受けてしまった『人種違いの子供達』がこの森に入りやすくなった
…おそらくそれが『狙い』だろう
この教会に子供達がたどり着く…いや、大人が子供達を送りやすくするためにそうしたと考えられる
もちろん根拠はある
その20年前に、この森に大量に設備が配備され始めた
そして20年よりも後に産まれた人は、そもそもこの森に『名前が昔は無かった』と知らない
要するに産まれた時から、この森は『ウィークエンドの森』と呼ばれていると認識しているわけだ
ハロノラさんみたいに名前が無かったと知らない
それが根拠だ
…まあ…別に…どうでもいい事だが…
もう1つ気になる事がある…
この森…エニグマがほとんどいない
これは森に『退魔魂石』が大量に設置されているのもあるが…一番の理由は、あのジンビスが森にいたエニグマを殲滅したのが原因らしい
エニグマにはまだまだ分からない事が多いが、とにかく『倒せば減る』事は分かっている
それでも減らないから問題になっているんだが…
あのジンビスは…自分を鍛える事とこの森を平和にする事を目的として、森中に存在したエニグマを一匹残らず殲滅しまくったらしい
…しかもだ…
あのジンビスがこの森に来たのはわずか『7年前』らしい…
言い換えれば、『7年で森中のエニグマを殲滅した』…そういう事だ
あいつの年齢は19才…
12才からエニグマを狩り続けた…しかも…おそらく『一人』…
…あいつの戦闘力はなかなか侮れないな…
『退魔魂石』の力もあって、今じゃ森の中にはエニグマはほとんどいない
…実に平和になったもんだな…
ところで…俺達はいつになったらこの教会から解放してくれるのか…
ダメもとで聞いてみたら、『明日の午前まで』らしい
ようやくこの教会から出れる…
まずは人間側の王都『シタルシュバ』に向かうとしよう
そこに『バイオレット社』の本社がある…さっさと行く支度をするか…
…ここを離れるなら…ミーシャのやつがうるさそうだな…
…だが…念には念を入れて…だ…
最後の最後に…『照会状』を渡さないなんて事があるかもしれない…
午前中に『準備』をしておこう…
今日の午後に………『逃走』する準備をな………』
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第八章
森に棲む『悪魔』 最終話
『3日後、そして逃走』
―――皐月 28ノ日 日魂日 午後2時22分―――
「…うぅ…離れたくないわ…」
「…ミーシャさん…部屋に戻って支度しましょう…」
「だって…だって… こんなかわいい子達と離れるなんて…! うぅ…いやよ~…」
むぎゅうぅぅ…っと、両手にヘストルとチーを抱きしめながらスイの提案を拒否するミーシャ
うっすらと、目には涙が見える
余程悲しいのか…?
別れを惜しんでいるのか…?
よく分からないが、ミーシャは掴んだ2人を離す気配は無い
そんなミーシャを宥める様に、ヘストルとチーは抱かれたままミーシャの背をポンポンッと叩く
「だいじょーぶだよおねーちゃん! またあそびにきてね!」
「わたしたち…まってるからね…!」
元気良く、慰める様にミーシャにそう言う
するとブアァァッッ!…っと、目から大量の涙を出して更に強く2人を抱きしめた
「ああぁぁあぁ~~~っ❤!! なんてかわいい子達なの~~っ❤! もう…もう…! 持って帰りたい~~~❤❤!!」
骨が折れるんじゃないかと思うほど強く抱きしめ、顔を2人のもふもふした毛に埋める
(…いつものミーシャさんではありません… 理性をうしなってしまうほど…小さい子供が好きなのでしょうか…?)
若干引くスイ
というかだいぶ引いている
だが逆に周りに居るロロイ、キナ、エラットの3人は、ミーシャにああされるのを恐れておらず、近付いて来た
「おねーちゃーん! つぎはなにしてあそぶー?」
「わたし…おままごとがいいー!」
「ぼくはヒーローごっこがやりたいな…!」
子供達が色々言う中、ミーシャはそっ…とヘストルとチーから離れる
「明日にはここを離れるの…だから最後に…」
ミーシャの目から涙が無くなり、その目がギラッと光る
視線の先にはロロイ達…という事はつまり
「全員抱きしめさせてちょうだい~~~❤❤❤!!!」
ミーシャは勢い良く走り出して子供達を捕まえようとする
光っている目付きが逆に恐く、最早『襲う』と言ってもおかしくない
しかしこれを子供達は無邪気にとらえる
「「「わ~~い!! おいかけっこだーー!!」」」
そして逃げる子供達とそれを追い掛けるミーシャ
はたから見れば子供と遊ぶお姉さん…と思うかもしれない
が、『おいかけっこ』なんてかわいいもんじゃない
『逃走者』と『追跡者』…なんて言えてしまう
(………『子供好き』…と…一言で言ってもいいのでしょうか…? ミーシャさんは…)
「おい…シード…」
「…なんだ? ジンビス…?」
ミーシャ達とは少し離れた場所で、シードとジンビスは向き合っていた
…雰囲気は、決して良くない
「お前…俺とちょっと戦えよ…?」
「…『理由』がねぇな…お前と戦って俺に何のメリットも無い…」
この場合の『戦う』はおそらく『ケンカ』に近い意味合いだろう
しかしシードの言う通り、それをする『理由』は無い
「いーや『理由』はある… 俺とお前…どっちが強ーかハッキリさせようじゃねーか…!」
「…俺の話を聞いてたか? 俺には何の『メリット』も無いって言ってるだろう?」
ジンビスは中立港『ダリルコート』でシードを見た時から、シードが『強い』と判断していた
下手したら…自分よりも強いのではないかと思う程に
「お前もハッキリ出来ていいじゃねーか…! 俺とどっちが強ーか分かるぜ? それとも…俺に負けるのが恐ーのか?」
「そんな安っぽい挑発には乗らねぇぞ? それに…俺と戦ったらお前が負けるだけだ」
ジンビスの挑発に、シードは挑発で返す
まさに『犬猿の仲』
「チッ…頭の良いやつは頭が固いのか? お前がそんな態度すんなら…ばあちゃんに頼むぜ…?」
「………テメェ…」
シードはジンビスの言っている事が即座に理解出来た
つまり…ハロノラにシード達の教会滞在期間を伸ばしてもらうという事だ
それはシードにとって致命的だった
明日、王都に向けて出発するはずが出来なくなった
そうなるとどんどん目的から遠ざかる
シードには、この挑発に乗るしかなかった
「…やってやろうじゃねぇか… 『後悔』…するなよ…?」
「しねーさ… テメーこそ…途中で逃げんなよ…?」
シードとジンビスは、お互い臨戦態勢を取る
もちろん武器は持っていない
こんな所で殺し合いをすれば、イェロンや子供達に何を言われるか分からない
まさに『ケンカ』…それが始まろうとしていた
…だが…シードはこう思っていた
『予想通り』…と…
シードがこの挑発に乗ったのは、完全なるわざとだった
むしろ、こうでもしないと逆に怪しまれるからだ
もしもこれを『それでもいい』なんて突っ返すと、いくらジンビスと言えど『コイツはなんでそれでもいいんだ? 教会に居る時間が長くなるのは困るだろ?』…そう思うだろう
すると遅かれ早かれ『もしやここから逃走するんじゃないのか?』と思われるはず
『滞在期間が長くなっても構わないのは途中で教会から逃走するから』…そう推理するのは簡単…特にあのハロノラであれば当然
だからこそ逆に『乗った』
シードはこういう、ジンビスのような単細胞の扱いに慣れている
同じ様な単細胞が近くに居るからだ
…シードは心の中で、そう思っていた
「…ちょっと待って下さい…!」
森の中から、その声が聞こえて来た
と同時に1つの人影が木々の間から飛び出して来た
「だから大丈夫だって! これぐらい平気平気!」
元気にそう言いながら、アレスが森から教会へと走っていく
「アレスさん…ちょっと待って下さい…! 駄目です! 今すぐ治療させて下さい…!」
少し息切れをしながら、アレスに続いてイェロンも森から出て来た
「大丈夫大丈夫! これぐらいのケガなんてなんともないから!」
アレスをよく見ると、体のいたる所に擦り傷や切り傷がいくつもあった
何かやっていた…それも体が傷付くような何かを
軽い怪我なのはアレスの元気な様子で分かるが、イェロンはそれを良しとしない
「駄目です! 私は傷は治せますが、『病気』は治せません…! 傷口から入ったバイ菌で…簡単に病気になってしまいます…! そうなったら…アレスさんが苦しむだけでなく…子供達にもうつってしまう可能性もあるんですよ…!?」
「むぅ…そっか…そうだな」
アレスは正論すぎるイェロンの言葉に反論出来なかった
仕方なくアレスはイェロンの治療を受ける
地面にあぐらをかいて座り込んだアレスに、イェロンは近付いてしゃがむ
そして両手を前に突き出して『練魂』をする
そしてすぐさま、その両手から『光の球』が出てアレスに当たる
すると瞬く間にアレスの傷が治っていく
やはりイェロンの『治癒魂術』はレベルが高い
アレスは少し感動する
「すごいな… イェロンはすごいな!」
「私は…色々と努力しましたから…」
「そうだ! イェロン、俺達の旅に一緒に来ないか!?」
「えっ…?」
突然そんな事を言われて、イェロンは硬直する
「俺達は今『ヒーロー』になるために旅をしてるんだ! あっ…俺は『ヒーロー』になるためだけど、シード達は違うか…まあ色々目的があって旅をしてるんだけど、やっぱりケガしたりするからシードやミーシャに治してもらってるんだ! でも…2人はあんまり『治癒魂術』はうまくなくて… だからイェロンが一緒に来てくれれば、俺達のケガなんてあっという間に治すことが出来る! 俺達のために…一緒に旅しないか!? もちろんイェロンは死んでも守る! 当たり前だ! イェロンも世界中を旅すれば、きっと楽しいぞ!」
生き生きとした表情で将来の夢でも語るかの様にそう言うアレス
その目はキラキラと輝いていた
「なあ! どうだ!?」
グイグイと来るアレス
しかし手慣れた様子でそれを受け流すイェロン
「アレスさん…私はこの教会から離れるわけにはいかないんです… ここに居る…みんなが心配ですからね…!」
これを聞いたら、もう一度誘ってOKを貰うのは難しい…
「う~~ん…そうか~…」
それはアレスですら感じていた
だが…アレスには、『嘘』を見分ける『目』があった
「でも…イェロンは行きたいんだろ? イェロンの『魂』は『行きたい!』って言ってる感じがする… なんか…『行けない理由をむりやり作っている』…って感じがするぞ?」
「……アレスさんは…不思議ですね… 私の思っている事が…見透かされている感じがしますから…」
イェロンの雰囲気が徐々に変わっていく
アレスの言った事が『図星』であるかの様に
「…私は…この森と、この教会の『外』にほとんど出た事がありません… 理由は…ちょっと複雑な事情があるからですが…そんな私は『外』に憧れて、『外』で知りたい事があるんです… いつか私が…『外』に出れる時が来たら…その時は、アレスさん達と一緒に旅をさせて下さいね…?」
「みんなが心配…? 複雑な事情…? よく分からないけど、イェロンがこの教会を安心して離れられるようになればいいんだな!? んじゃ、俺達が『ヒーロー』にあっ…えっと…『管理人』に会って、この教会をもっと安全な所に移してもらうようにするぞ! そしたらイェロンも安心して離れる事が出来るだろ!? そうなったら俺達と一緒に旅しよう! 約束だぜ!」
「…ふふっ…! 分かりました…! 約束します…アレスさん…! でも…」
イェロンはそっとアレスに近付き、耳元で囁く
(…『管理人』さんが…この大陸に居た『英雄』だと…実は私達は知っているんです… 『シスター』には内緒なんですけどね…? だから…私達が知っているという事は…シスターには秘密にしていて下さい…シスターにばれてしまうと、私や…特にジンビス君は『外』に出してもらえなくなってしまいますから…)
シスター…つまりハロノラは、『英雄』という概念そのものが溢れる事を避けている
しかも何でそうしているかも理解して
だからそれを知ったアレスやシードを、かなり気にして警戒していた
教会に常時居るイェロンとジンビスならばその警戒度は余計強くなるだろう
ただしバレるかバレないかではない
見ず知らずのアレスとシードよりも、良く知り得たイェロンとジンビスの方が、もしも万が一バレた場合にどう傷付いてどう自分を責めるか手に取るように分かるからだ
バレるかどうかは二の次…その後に彼らが自分自身をどう責めるか…ハロノラはそれを一番懸念している
「…分かった! でも大丈夫! 絶対イェロンを旅に連れてくからな! それまで逃げんなよ!?」
「大丈夫です…待っていますね…アレスさん…!」
ほのぼのとした会話が続いていたその様子を、シードはジンビスと戦いもせず眺めていた
そしてこう思っていた
(あいつのコミュニケーション能力というかなんというか…人の懐に簡単に入り込んで『魂』を開かせる力ってのは…相変わらず凄いな…)
「…おい…シード…」
そんなシードに話し掛ける人物が、シードの対面に居た
「…おい…あのアレスってガキ…」
ジンビスもまた、シードとは戦い始めずにアレスとイェロンの様子を見ていた
しかもかなりガン見で
「…まさかよ…イェロンをよ…連れてく気じゃねーだろーな…!?」
「……」
シードはちょっと呆れた表情でジンビスを見て返事をする
「…まぁ…旅の仲間って意味で連れて行く気はありそうだな…」
ジンビスはシードの胸ぐらを掴む
そしてかなり焦った状態で、しかも早口で質問する
「本当だな!? 本当だよなオイ!? イェロンをあのガキが…あのガキが…!! 自分のモンにしようとしてんじゃねーよなぁっ…!?」
もう『鬼の形相』と呼べる域に達しているジンビスの表情
本気でイェロンを取られる事を懸念している
もちろんそんな事ある訳が無い
アレスを良く知るシードが、その可能性を否定する
「………かもな……」
「なっ…!! んだとぉっ……!?」
しかしシードは否定しなかった
何故かと言うと…
「もしも…お前の大切なイェロンを取られるのが嫌なら…今すぐ俺達をここから出せばいい… そうすれば…よっぽどそうなる事は無いだろうからな…? どうする…? お前次第…だぜ…?」
『これ』が狙いだった
アレスをダシに、自分達を一刻も早くここから出そうとさせる…それが狙いだった
「ん…グゥ…テメェ…!!」
ジンビスは『揺れる』
シードと戦いたい事もあるが…そうするとアレスがイェロンを口説く可能性がある
…まあ実際にはそんな事あり得ない
(アレスは『超』が付く程、恋愛沙汰には興味が無い。 あいつの育った環境…周りには自然しかなくてロクに勉強せずにずっと剣ばっかり振っていた…『ヒーロー』になろうとな… だからそういった知識がまるで無い…信じられないがな… だが…)
シードは意地悪い顔をこれでもかとジンビスに見せ付ける
完全に『悪役』が見せる顔だ
(俺達にとって…これはチャンスだ…!)
「俺達もここを出れる…お前も邪魔者を追い払える…お互い…『メリット』しかないと思うんだがな…?」
ジンビスは悩む
確かにその通り
ジンビスにとってシードと戦う事よりも、イェロンの方が死活問題だ
そして…
答えを聞く前に、それは鳴り響いた
ビィーーーーーッ!!
ビィーーーーーッ!!
「「「「「「「!!!!??」」」」」」」
それは、今まで聞いた事が無い程にけたたましく鳴り、誰もがその音の方向を振り向いた
それは、イェロンだった
正確に言えばイェロンの『懐』から鳴っていた
そしてその音を、イェロンはやはり知っていた
「おいイェロン! 今の音…!!」
ジンビスも知っていたようだ
イェロンに駆け寄るジンビス
「うん…! 誰か…来てる…!」
イェロンはそう言って懐から『魂機』を取り出す
ボタンやらダイヤルやらが取り付けられたその魂機をのぞき込む
魂機のディスプレイには、赤く小さく光る玉が密集していくつも映し出されていた
「…! これって…!?」
イェロンは魂機をいじくる
アレスやシード、鳴り響いた音を聞いたミーシャやスイ、そして子供達までもがイェロンの所に集まって来る
「…やっぱり…『獣人』がたくさん来ている…! …人数は…およそ『20人』…!」
「チッ…! ここがバレたのか…!? んなわけねーだろ!? 誰がこの教会をバラしたってんだ!? イェロン…! ソイツら追い返せねーのか!?」
イェロンは再び魂機をいじる
「………ダメ…! 配備したほとんどの仕掛けが作動して…全部突破されてる…!」
「クソ…! どうなってんだ!?」
「おい落ち着け…」
シードはここに居る誰よりも落ち着いていた
ミーシャやスイ…そして子供達も、今の状況が理解出来ていた
『この教会が見つかって、自分達の身が危険にさらされている』
そんなのを聞いて、落ち着くというのが無理な話
「あ゛ぁ!? そんな余裕があるわけねーだろ!?」
「違う…こんな状況だからこそ『落ち着け』と言っているんだ…」
ジンビスをシードは宥める
「いいか…? 現状、この教会に向かって来ているやつらの狙いは分からない…が、少なくとも『教会が狙いではない』はずだ…教会そのものを破壊したって何も意味が無い…潰してもまた建てられたら同じだからな… つまり、やつらの目的は『お前達』だ」
「俺達…だと…!?」
「予想を立てるにももう少し情報がいる…イェロン、詳しく現状を教えてくれ」
シードはイェロンへと近付き、魂機を見る
「はい… 獣人の人達の数はおよそ『20人』…方向は『人間側から来ています』… ある程度の『武装』…統率の取れた『動き』…配置した設備を『簡単に突破』した事から…こちらに向かって来ているのは、『王国騎士団』の人達だと判断出来ます…!」
「…なるほどな…だが…『人間側から獣人が来ている』…それはありえるのか…?」
「はい…ありえます… 人間側の王都…人間側の陸王が組織した、獣人で構成された騎士団があるんです… その理由や目的は分かりませんが…『獣人騎士団』として、陸王が私的に利用する騎士が存在するんです…!」
「………」
シードは考え込む
しかしそれも数秒だけだった
「そういう事か… やつらの目的が『この教会に居る人達』…イェロンやジンビス…そして子供達なのは間違いないな… なら…そうするしか…」
「…ちょっとちょっとシード!? あなた一人だけで話を進めないでよ!?」
ミーシャがシードに詰め寄る
「…ここに向かって来る連中は武器を持って戦闘意欲全開で罠を抜けてここまで来てる…逆に考えれば『それほどの理由』があってこんな『ウィークエンドの森』に来てるって事だ。 しかも『陸王の私的利用獣人騎士団』…法的で公的にはしてはいけない理由があるって考えるのが普通…それを踏まえれば、『建物の破壊』じゃなく『殺人にすら関与する程の行動』をする…そんな感じだろうな… なら目的はこの教会に居る人物達…ジンビスやイェロンに子供達…その『命』が狙われている…だが、その対策は簡単に出来る」
シードは教会を指差す
「…まずは教会を『逃走したもぬけの殻』にする。 要するに、教会をわざと荒らしてこっちが逃走したかに見せる…その間俺達は近くに潜んでやつらの行動や言動をうかがう…居ないと分かって帰った所を見計らって教会に戻る…そして『管理人』にこの事を報告する…あとはそっちが対応してくれるのを待っとけばいい…簡単だろ?」
シードの言う『作戦』…実現不可能ではなく実行可能で一番安全である
教会を荒らさずに無駄に逃げ回る方法を取れば、子供達はシード達の足に付いて行けず、結果捜して来た騎士団に追い付かれるだろう
教会に立てこもるのももちろん勝算は無い
わざと教会を荒らすからこそ、慌てて準備して逃げたというシチュエーションを作り出すからこそ、手の打ちようが無いと思わせる事が出来るのだ
今のままで教会を後にする…例えば金品や道具といった物をそのままの状態で残すと、『こちらの存在に気付いて、自分達が帰るまでどこかで待っている』と思われてしまう
貴重品が無い状態で何処かへ行っても、たかが数人の子供じゃ何も出来ない
特にこんな森の中の教会に住んでいるような『子供達』じゃ当然だろう
『武器を持った人物が今から襲いに来る』と事前に分かった時、何も持たずに逃げる人はいない
せめて必要最低限の貴重品等は持って行くだろう
そして近くの安全な場所…例えば人の多く居る場所に避難するだろう
シードの必要としているシチュエーションはまさにそれ
『教会から完全に居なくなった…ここへはもう戻って来ない』と錯覚させれば、これほど広い森で慣れている子供達に追い付く事はほぼ不可能だと思うだろう
そしたら自動的に森から撤退する
そして今度は近くの『ダリルコート』を探しに行くといった行動をする
そこに子供達が居る可能性が非常に高いからだ
その間に自分達は教会へと戻り『管理人』に連絡する…それがシードの計画である
『命』を狙うからこそ、そういった行動を取られてしまえば手詰まりなのだ
だが…
「それでもおそらく数人はこの教会に残るだろうな… そこは俺達の出番だ…数人なら何とかなるだろ? 『ウィークエンドの悪魔』さん…?」
シードはジンビスをチラッと見る
しかも、とびきり悪い顔をして
「…ハッ…上等だ…! 良く分からねーが…ここに来たヤツらの残ったヤツらをブッ倒せばいいんだな…!? 簡単じゃねーか…!」
ジンビスは両手を組んでバキバキと音を鳴らす
「だが…まずは逃げる準備をするぞ… 俺達の取る行動は『戦闘』じゃない…」
シードは全員…特に子供達の方を見てハッキリと言い放った
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第八章
「俺がこれまで言った内容はあくまで『予想』だ… 相手は俺達よりも数段実力が上の『大人』…どんな行動をしてくるかは確定出来ない… だからこそ…俺達の取る行動は『戦闘』じゃない…」
森に棲む『悪魔』 最終話
「俺達はこの教会を守るために…俺達は俺達自身の命を守るために…『逃走』するんだ」
『3日後、そして逃走』
「なあシード…」
逃走する準備をしようとしたシードの足を止めたのは、一人の少年の声だった
「…なんだ…やけに静かだったじゃねぇか…アレス…」
シードはその声の主の方を見る
「なんで逃げるんだ?」
アレスのキョトンとした質問に対し、シードはハァ…っとため息をつく
「あのな…話聞いてなかったのか? ここに居ても危険…ましてや『戦う』なんてもっての
「俺は逃げないぞ!!」
アレスは力強い声で、シードの声を遮ってしまう
シードは再び、今度はより深いため息をつく
「アレス…いいか…? ここに向かって来るやつらは陸王の私的部隊…実力は『折り紙つき』だ…下手したら、俺達が中央大陸で戦ったあのアーサーやロウみたいな『王国騎士団特殊殲滅隊』の団長や副団長クラスのやつがいるかも知れない
「関係ない!」
アレスは腰に携えた刀の鞘から、刀を抜く
「俺は逃げない! どんなに相手が強くても戦う! 俺はみんなを守るんだ! 『ヒーロー』は逃げない…逃げたら…『ヒーロー』じゃないんだ!!」
そしてそのまま、アレスは森の中へと入って行こうとする
どうやら何となくだが、その私的部隊の居る方向が分かるらしい
その方角へと歩いて行こうと進み出す
「俺が敵と戦ってる間にシード達は逃げてくれ! 俺が時間をかせぐ…! みんなを守るから…!」
そんな決死の思いで殿を努めようとするアレスを、もちろんシードは止める
「待てまて…誰かがお前に『俺達が逃げるまで時間を稼いでくれ』なんて頼んだか? 誰かがお前に『俺達を守ってくれ』なんて頼んだか? まだここにやつらが来るまで時間がある…逃走の準備は出来る…俺達は戦う必要なんて
「違う! 誰かに言われて守る訳じゃない! 俺は俺の『意志』で! みんなを守るって決めたんだ!! 『ヒーロー』の体はみんなを守る『盾』で…『ヒーロー』の腕は悪を倒す『剣』なんだ! 今! ここで戦わないと! 『ヒーロー』になんかなれないんだ!!」
「………強情だな…本当に…」
シードはこういった時のアレスが何を言っても聞き入れない事は理解している
シードは諦めた
アレスを説得する事ではなく、自分達がアレスに反発する事を諦めた
「………分かった… なら…『最善策』は諦める…『最悪策』を実行するとしよう」
「「「「!!!?」」」」
ミーシャもスイもジンビスもイェロンも、シードの言った言葉が分からなかった
『最善策』から『最悪策』…どういう事だろうか…?
「なに言って…シード!? アレスなんてほっといて行きましょ!?」
「…ご主人様が…わたしたちのために戦ってくれるのです…ここは…お言葉にあまえましょう…」
「そんなガキのワガママに付き合ってるヒマはねーぞ!?」
「シードさん…アレスさん…森の他の設備をほとんどそちらに向けます… 少しは時間が稼げるはずですので、その間に逃走の用意をしましょう…だから戦う必要はありません…」
「…こう言ってるぞアレス…? それでもやる気か…?」
「もちろんだ…それでも俺は行く!」
皆が皆でアレスを止める
しかしそれでもアレスは止まらない
もう、誰にも止められなかった
「…お前の軽率な行動はここに居る全員を危険にさらす…それは理解しているな…?」
「危険にさせないために俺は行くんだ!」
「…結果、自分が死ぬかもしれないんだぞ…?」
「俺は死なない…絶対にだ!」
「……戦って勝てる保証はどこにもないだろ…?」
「勝てなくても…追い払えばいいんだろ!」
「………んじゃ、放っておく訳にはいかないな」
シードは背中の『ウェポンホルダー』から長槍を取り出す
そしてアレスの隣へと並ぶ
「…アレス、お前を…お前だけを危険な目にあわせる訳にはいかないな… やるなら俺もやる…当然だろ?」
シードは振り向き、ミーシャ達に告げた
「お前達はさっき俺の言ってた方法で『逃走』の準備をしておけ… 俺達はそいつらと『戦闘』してくる…任せたぞ」
「シード!? ちょっと…あなたさっき『最悪策』って言ってたじゃない!? どうして戦おうとしてるの!?」
ミーシャは焦った様子でシードに尋ねる
「…俺が『最善策』と言ったのは…『リスク』や『安全性』を考慮した上での『最善策』だ…リスクは低く安全性は高い… 俺の言った『最悪策』は…リスクが大きく安全性は皆無…だが…成功すればリターンは大きい。 『最善策』の逃げ回るや教会を一旦捨てるのは確かに良い策じゃない…それでも他よりかはまだマシってところだ。 だが逆に『最悪策』は直接やりあう策…ただ『戦うだけ』で済む…つまりやつらに『勝ち』さえすれば、全てうまくいく… それが難しいから『最悪策』なんだけどな…」
シードは正面を向いて歩き始める
「俺達が足止めしておく…じゃあな」
アレスもシードに付いて行く
「オイ待てやシード!」
そんなシードをジンビスは止める
「なんでテメーらだけそんないいカッコしようとしてんだ? 俺にもやらせろや…!」
ジンビスは懐から『ルテイク』を取り出す
そしてルテイクのボタンを押して光線を出す
そこから身の丈程の『十字架』を出してみせた
それを背中に背負う
「この教会とコイツらを守りたいのはお前らよりも俺の方がデケーだろ? そんな俺が教会捨てて逃げるなんてマネ出来ねーしやりたくもねー…そんなダセーマネすんなら…アイツらをブッ倒した方が早ーだろ!」
ジンビスは…『逃げる』という選択肢を選ばなかった
それは、彼だけではなかった
「…私もお手伝いします…! ここを…みんなを守るためなら…戦います…!」
イェロンもまた、守るためなら戦う『覚悟』があるらしい
「私達ももちろん戦うわ…! スイちゃん…頑張るわよ!」
「…はい…!」
ミーシャもスイも、戦う気になっている
「…お前ら…その『選択』は賢くも正しくも無いんだぞ…?」
シードとアレスは正面で向かい合って、ジンビス達を見る
その目には…『覚悟』が満ちていた
「…分かった…もう止めねぇよ… だがとりあえず
「イェロン、森の設備で数分は稼ぎな…」
その声の主は、教会の扉から聞こえた
「…シスター…!」
イェロンはその声の主の方を見る
シスター…ハロノラだった
ハロノラはイェロンに向かって言う
「この教会の…『逃走準備』はこっちでやっとくよ… 子供達も私と一緒に避難しておくさね… その時間を…森の設備で稼いでおくれ…」
そう言われてイェロンはコクンッと頷き、手元にある『魂機』をいじる
ハロノラはスッとシード達を見る
「…あんた達に…私達を任せたよ… でも…無事に帰って来るんだよ…?」
「もちろんだ! 俺達は負けないぜ!」
アレスは意気揚々と返事をする
普通は戦って死ぬかもしれない状況でここまで元気を出せるとは思えないが
「んじゃ、そろそろ行くぞ…もうすぐそこまで来てるからな…」
サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第八章
「俺達のやろうとしている事は『逃走』じゃない…」
森に棲む『悪魔』 最終話
「俺達は…『逃げ』も『隠れ』もせず…正面切って戦う…」
『3日後、そして逃走』
「…『逃走』ではなく…」
『3日後、そして 』
「『闘争』だ…!」
『3日後、そして闘争』
完
次回からバトります




