情報の等価交換
「…シードさんは…いったいどうやって情報を聞きだすのでしょうか…?」
「う~~ん… まあ…あの人の事だから大丈夫だと思うけど…」
教会内の2階から1階へとつながる階段を下るミーシャとスイ
「…ご主人様のために…『英雄』につながる話が聞ければいいんですが…」
「そうね… 正直…私達にはあまり関係ないんだけど…」
階段を下りて教会の中を歩く2人
「とりあえず外に出て…子供達と遊びましょ?」
「…そうですね… …ミーシャさん…なにか…顔がほほえんでいますよ…?」
「そ…そう…? 気のせいよきっと…」
(子供達…かわいかったわ…! あの子達と遊べるなんて…ちょっとわくわくしちゃうわね…!)
少しニヤつくミーシャと一緒に、スイは教会の扉を開いて外へと出る
ギギギィッ…っと扉を開けると、そこには元気に遊ぶ子供達と、その様子を温かく見守るイェロンが居た
「わ~~い!」
「こっちこっち!」
「まてまて~!」
「ふふっ…」
子供達は楽しそうに走り回っていた
「…あ、皆さん…シスターからお話を聞けましたか?」
ミーシャとスイにイェロンが気付き、声を掛ける
しかしミーシャは首を横に振る
「まだみたいね… あの人…シードが今聞き出している所よ」
「…?」
「…いろいろあったんです…実は…
「あっ! ジンビスおにいちゃーん!!」
キナが森の方を指差して大きな声を出す
そこには、上に短くしっかりと伸びた黒髪で黒の短パンと黒のジャンパーを羽織った少年…緑堂ジンビスが、虎の獣人の少年…エラットをおんぶしている姿があった
「あっ…! ジンビス君…! ようやく帰ってきたの…? 戻ってくる時間が遅くて心配して……その怪我…どうしたの…!?」
イェロンは驚いた
とても大きな怪我では無かったものの、ジンビスには擦り傷や切り傷が体のいたる所に付いていた
よく見ると…血も所々に付いていた
「…大変…! すぐに治療するから…!」
イェロンが走ってジンビスに駆け寄る
「…大した事じゃねーんだが…頼むイェロン…」
ジンビスはエラットを背中から降ろす
そのまま立ち膝をついて座り込む
「………」
イェロンはジンビスを治療する為に『練魂』する
「エラット~! ジンビスおにいちゃんとどこにいってたのー?」
エラットに教会の子供達が駆け寄る
「えっ…と…その…」
おどおどし始めるエラット
そんな子供達にジンビスが告げる
「エラットは俺と一緒に町に行ってたんだよ… でもよ…途中でめんどうな事になってよ…あー…説明すんのもめんどくせーな… お前ら…とりあえずエラットと一緒にフロに入ってろ…エラットもずいぶん疲れてるしな」
エラットをそう催促する
「わかったー! エラットいこー!」
「おふろおふろー!」
「わたし…おふろきらい…」
「う…うん…」
子供達はまとめて教会の中に入って行く
(お…男の子も女の子も一緒に入るのかしら…?)
(…入浴室は…2階にあった気がしますね…)
子供達全員が教会に入った事を確認すると、イェロンが切り出した
「…ジンビス君…みんなは教会に戻ったわ… 何があったのか…話してちょうだい…?」
イェロンは手のひらから『光の球』を出して、ジンビスを治療する
身体中の傷が治っていく
あっという間だったが的確な治療…やはり、イェロンの『治癒魂術』は相当なものだった
「…俺はエラットを追いかけて町に行ったが…エラットはバカな連中に絡まれてた…だが、そこにアホみたいなガキが来てエラットを助けてたんだ… ゴチャゴチャしたが、エラットを連れて町を出ようとした…が、その時にまたバカなヤツらが来て俺達を襲ったんだよ… 俺が負けるワケがねーから全員半殺しにしたんだが…その時に『コンパス』を壊されてな…『隠し通路』から出て森に入ったがコンパスが壊れたせいで森で迷ってよ…結局、遅くなっちまった…」
「…エラットは『コンパス』を持ってたでしょ? それで森を抜けられたと思うけど…」
「それは…エラットが最初に絡まれてた時に壊れていたらしい… 後で直してくれ」
「もう…直すのも大変なのよ…?」
「俺のせいじゃねーよ…」
…その2人の会話を聞いて、スイは思い出していた
『…それに教会へ行く方法はおそらくもう1つある…それを探すのにも町に戻りたい… ここから直接追ってもいいが、まずはミーシャを落ち着かせよう』
森でアレス達が迷っていた時、シードはアレスにそう言っていた
ミーシャもスイも、気になっていた
そもそも『人間』と『獣人』が別れているこの大陸…そして中立港『ダリルコート』には『トビラ』が2つある…『人間側』と『獣人側』へ行く、別々の『トビラ』が…
もしも『人間であるジンビス』と『獣人であるエラット』が一緒に居たら…どちらの『トビラ』も通れないのだ
ならばどうするか?
答えは1つ…『そのどちらでも無い通行方法』を使うしかない…
シードはその『存在』があると確信していた
誰も知らない…教会に住む人達しか知らない…『秘密の隠し通路』を…
(…シードさんの言っていた…『教会へ行く方法』とは…この『隠し通路』のこと…『ダリルコートを安全に抜け出せる通路』をさしていたのですね…?)
(あの人…あの時点でそこまで考えてたってこと…? さすがね…)
イェロンはため息をつく
「もう…心配したんだから… でも…エラットも連れ帰ってきてくれたし…良かったわ… それより…『武器』をしまってて平気だったの…? 『エニグマ』に襲われなかった?」
それを聞いて、ジンビスはポケットから何か小さい物を取り出した
「平気だ… 森の中にいるエニグマはほとんど俺がブッ倒していたから全然いなかったし、エラットをおんぶするなら『コイツ』でしまう必要があったしな」
取り出したのは『ルテイク』だった
大きさがタバコの箱ぐらいの小さい魂機からレーザーの様な光が飛び出し、光が当たった物体を圧縮して魂機内に収納する事が出来る『物体圧縮携帯魂機』…それが『ルテイク』
ジンビスはそのルテイクに、自身の持つ身の丈程の大きい『十字架』の情報をインプットしておき『ルテイク』に収納させていた
そうでもしないとエラットをおんぶ出来なかったからである
「…とにかく良かったわ… ありがとうねジンビス君…」
「当然だろ? …つーか…アイツらは…」
ジンビスは目線をミーシャとスイに向ける
「あの人達はお客さんよ? 確か…
「あ゛~大丈夫だ…何となく分かる… あの時の近くに居た2人だ…つーことは…頭がキレそうなヤツと頭が悪そうなガキも居るって事だよな… 2階か?」
「うん…シスターと一緒に居るの…」
ジンビスはチラッと教会の上の方を見る
「あそこか…ま、ばあちゃんがテキトーに相手してんだろ。 とりあえずハラが減った…何か食わせてくれ」
「あ、じゃあ今日採れた『ウィークアップル』はどう?」
「ハラは満たされねーが…何も食わねーよりかはマシか…もらうぜ」
「わかった…教会に戻ろう…?」
「あぁ…そうだな…」
治療を終えたイェロンと傷の治ったジンビスが立ち上がる
そして教会内へと歩き出すが、教会の扉前には妙にニヤニヤ顔をしたミーシャが立っていた
「…? ミーシャさん…?」
「?」
「なんだ?」
まだニヤニヤ顔をしているミーシャ
声もなんだか少し嬉しそうに聞こえた
「それでそれで? 2人は付き合っているのかしら? もうアレコレやっちゃったのかしら~?」
「「!!」」
…どうやらミーシャは、おちょくっているらしい
「なっ…! あのな…! 俺達はそーいうアレじゃ…!」
「わ…私達はその…! あの…!」
「あれあれ~? 『否定』しないのかしら? そりゃそうよね~? こんな森の中の教会で…『何もない』訳がないわよね~!」
ジンビスもイェロンも顔が真っ赤になる
ミーシャもすごい意地悪そうなニヤニヤ顔を見せびらかす
「だっ…! 俺達はまだ…! 大体…俺はまだ19で…イェロンは15だ…! そーいうのは…早えーだろ!」
「えっと…! そうです! ジンビス君とはまだ…まだそういった関係には…!」
「ふぅ~ん? 『まだ』…ね? でも『いずれ』…そうなるのよね? うらやましいわね~? 妬けちゃうじゃないの~? 『なれそめ』…聞かせてもらおうかしら…?」
「「…!!」」
教会の扉の前にドンッ!…っと立ち塞がり、2人を通さないようにするミーシャ
…完全に楽しんでいる
というか、いじっている
あたふたするジンビスとイェロン
こういった雰囲気やらノリやらに慣れていないようだ
その3人の様子を冷たい目で見るスイ
(…ミーシャさんに…こんな一面があったとは…ちょっと驚きました…)
そしてそのまま…目線を教会上部へと向ける
そこは先程までスイ達が居た部屋…
現在、アレスとシードとハロノラが居る部屋を見た
(…ご主人様…シードさん… 『英雄』につながる…有力な情報が得られていればいいんですが…)
「こいつが…アレスが、『英雄の息子』って言ったら…あんた信じるか?」
…ハロノラは表情を変えなかった
驚きだとか疑問だとかそう言った感情は一切無く、ただただ真剣な眼差しシードに向けていた
「シード…それって…」
「今、俺の隣に居るアレスは、20数年前に有名になったとある『英雄』の息子だ… そしてアレスは、その『英雄』という存在に憧れている… 当然アレスもその『英雄』を目指す…そのために、直接その『英雄』に会って話を聞きたい…英雄足らしめる『資格』や『力』をどうやって手に入れたか…だからこそ英雄に会う必要がある。 だからあんたに会いに来た…英雄をおそらく知っているであろうあんたに…その英雄の居場所を教えてもらうために…」
「………」
ハロノラは何も言わなかった
シードは話を続ける
「俺は誰にも『アレスが英雄の息子だ』と言っていない…こっちには何もメリットが無いからな… 今のアレスは英雄に憧れているただの子供…英雄の息子だからといって妙な期待をされても迷惑だし、実際はまだ英雄じゃない…『英雄の息子』と言う必要はどこにも無い…」
シードはハロノラの目をしっかり見る
「だが…こうでも言わないと納得しなかっただろうな… あんたがこの大陸に居る『英雄の話』をしてくれるには、その『理由』をあんたに伝える必要がある… 『アレスが英雄になろうとしている』…理由としてはそれで十分か?」
「………」
ハロノラはまだ答えない
だが、いつまでも黙っている訳にはいかない
ようやく口を開く
「…私が話す『英雄の話』が…あんた達の求める『英雄』とは何の関係も無い…そう考えないのかい?」
「考えないな。 この会話の前に…俺は『英雄の話には実際の英雄がモデルになっている』と確信している。 それに…『英雄の話』に英雄が関係ないならハッキリと『関係ない』と言い切ればいい…それをしないという事は、認めているという事だ」
シードは即答した
英雄が存在してその正体をハロノラが知っていると断言している
ハロノラはシードの言っている事が図星なのだろう…何も言い返さない
逆に…こう尋ねた
「…私が知っているとして…それを言わないと…答えないと…どうするんだい…?」
「その時は…
この教会に居る子供を全員殺す。」
「なぁっ!?」
「………」
アレスは当然驚く
シードがそんな事を言い出したら当然である
しかしハロノラは違った
顔が険しくなり、シードを睨むように目を細くする
「なっ…なに言ってるんだシード!? そんな事して
「『英雄の情報』を話さなかったらこの教会に居る子供…ロロイ、キナ、ヘストル、チー… あんたを拘束した状態で、そいつらの首をあんたの前に並べてやる。 …ついでに、イェロンと…おそらくここに居るだろうジンビスとエラットの首も並べてやろう。 それであんたの口から情報を聞き出してやる。 それでも言わねぇなら…言った方が楽と思わせる程の苦痛を与えてやる。 それが嫌なら今すぐ言え。 断れば実行する。 …もちろん、俺もそんな事は出来るならしたくはないがな」
…シードの目が、本気だと訴えていた
冷静沈着で残忍無比の『脅迫』
間違いない…シードはやる気だ
ここで何も言わなければ、この教会で殺人が行われる
それはハロノラが一番理解していた
「っ…!!」
アレスもそれを感じていた
シードから溢れる殺気…
アレスはそれに気圧され、何も言えなかった
「………ふぅ……」
しかしハロノラは言った
ため息混じりに言葉を出す
「…流石だね… ここまで…私を脅すなんてね…」
「脅し…? 違うな…確かに俺はあんたを従わせようとしているが、あんたは恐怖していない… 従わないが余裕がある…そういう態度だ… 俺が『殺人』を実行しないとでも…?」
「違うね… 私は『英雄の情報』をあんた達に伝えるからさ…」
「……」
ハロノラが現時点で『英雄の情報』をシード達に言えば、何も起こらずにすむ
シードはそれをどうしても聞き出したいからこそ『脅迫』をする必要があった
だからこそアレスの『情報』を言い、それを聞いたからこそただでは済まさない状況を作り、殺人すらも実行すると『脅迫』をした
逆に言えば、シードはそこまで追い込まれていた
そうでもしないと聞き出せないのもあるが、何より自分達が無事に帰れる保証が何処にも無かった
『森の中に教会がある』『教会に子供が居る』『子供達が人間と獣人で一緒に住んでいる』
そんな事が外に漏れれば、教会は近い将来いつかは見付かってしまう
それを聞いた自分達を、無事に森から出してくれるだろうか…?
シードには、そんな焦りがあった
「…私がそれを伝えれば…あんたは何もしないだろう…?」
「もちろんだ…約束する」
「私には選択肢が1つしか無いなら…そうするしかないだろうね… ただ…」
「……」
「あんた…大体分かっているんだろう…?」
「……」
ハロノラは脇に置いたノートを自身の前に持ってくる
「このノートを見せた時…あんたの雰囲気が変わったのを感じたんだよ… 『予想』…出来ているんだろう?」
「………あんたも中々だな…」
「???」
アレスにはこの2人の会話が全然分からなかった
シードはため息をついて、そんなアレスに説明する
「…いいかアレス…? 俺達は『英雄の情報』がほしい…だからこの人を『脅迫』している。 だがこの人はそれを教えない…そして俺達を『タダ』では帰さない。 だからこそ『情報の等価交換』だ。 『アレスが英雄の息子』という情報と、『この大陸に居る英雄』の情報を交換する。 お互いの秘密…『アレスが英雄の息子』である事と『この森の中に教会がある』という秘密をお互いに他所にもらさないために…『情報の人質』を取っているんだよ…」
「…私がこの場で『情報』を言えば…何も起こらない… 知りたい情報と教えられた情報の釣り合いが取れてるからね… それでもあんたが何かすれば…流石に『人として』…どうかと思うね… そこまで『悪』じゃないだろうよ…」
「…そうなのか…?」
「そういうもんさ… だが…あんたはそんなにその『情報』を知られたく無いのかい…?」
「…もちろんだ… それは俺に…『俺達』にとって…誰にも知られたくない事だ…」
シードは暗い顔をした
…『この教会に居る子供を全員殺す』と言った時よりも…暗く冷たい表情で…
アレスはその『理由』を知っていた
――3年前に起きた…あの『事件』を…
『恐怖』
アレスの親が英雄である事を知り、アレスが英雄の息子である事を知っていた…とある『男』が、アレスとシード…そしてアレスの妹『アリア』を巻き込んだ誘拐事件…
アレスに…シードにとって、脳髄の奥深くまで『恐怖』を染み込ませた存在…その『男』が、シードの倫理観と思考回路を歪めて正しくした事は間違いない
だからこそシードは恐れている
『英雄』という…この現代において廃れた称号が再び根付く事を…
そしてそれが、『アレスが英雄の息子である』とどこかで広まり、やがて同じ様な『事件』を引き起こされる事を…
アレスもシードも身に染みている
それがあるからこそ、シードは恐れている
その『情報』を知られる事を
「………」
「…そうかい…なら…もう1つ聞かせてもらおうかね…?」
「…何…?」
「そこのアレス…だっけかい? 一体誰の息子なんだい…? おっと…隠さないでおくれよ…? 別に減るもんじゃ無いだろう…?」
シードは少しだけ考える
教えても良いものなのか…?
だが無駄に断っても意味が無い
むしろそれで事がスムーズに行くならそれでもいい
「…アレスは『黒月トレス』の息子だ」
「『黒月』…!? あの『ヤンチャ坊主』かい…! そうかいそうかい…! それじゃ…相手は誰なんだい…!?」
ハロノラは今日、アレス達に会って初めてと言っても過言では無い程に表情が豊かになった
驚きと喜びに似た、興味津々で目を見開いて食い付く
シードは少したじろぐ
「あ…あぁ… 『アリス・レッドテイル』だ…」
「あの『アリス』かい!?」
ハロノラは声を上ずらせて表情が一気に明るくなる
「あの『じゃじゃ馬娘』があの『ヤンチャ坊主』とかい…! 良いことを知ったねぇ…! 長生きはするもんさね…こんな面白いニュースを聞けるなんてね…!」
ハロノラはヒャッヒャッヒャッ…っと、笑い声を出す
「「……??」」
アレスとシードは訳が分からなかった
そんなにおかしな事なのか…?
…やはり、あのトレスとアリスの2人には何か『過去』がある
しかも、ハロノラが『ヤンチャ坊主』や『じゃじゃ馬娘』と言わしめる程の過去が…
それを深く言及する必要は無かった
「…あの2人については…あんた達が自分で調べな… それがあんた達の『目的』…でもあるんじゃないないのかい…?」
「…まあな…」
『自分達で探して調べろ』という事だった
「…さて…良いものを聞かせてもらったし…そろそろ本題に入ろうかね… あんたの『予想』通り…あのノートの中に、その『英雄』は居るよ」
「…やっぱりか…」
「? シード…全然わかんないんだけど…?」
「さっきのミーシャが言っていた言葉…覚えているか?」
アレスは思い出す
「ちょっ…ちょっと待ちなさいシード! わ…私はあります! この…この『教会』はなんでここにあるんですか!? こんな森の中に教会がある理由が分かりません! それに…この森を設備だらけにする理由も…! どうして…あなたがここに居る理由も知りたいです…! それにここは『人間』と『獣人』が一緒に居ます…この教会に居る…この子達は…どこからどうやってここに来たんですか…!?」
「…なんか…言ってたような…」
「その中にいくつか質問があった…そのほとんどの答えを俺達は聞いたが、1つだけ答えてない質問があった。 『この森を設備だらけにする理由』だ… おそらくその答えは…直接『英雄』に繋がっているからこそ答えなかった…そうじゃないか?」
「……」
ハロノラは再び口をつぐむ
「正直な話…なんでこの教会に『管理人』がいて、なんでこの教会を黙認しているのか分からなかった…」
「…?」
「考えてみろ…こんな森の中で、しかも人間と獣人が一緒に暮らしている状況を、なんで黙認しているんだ? ハッキリ言ってメリットはまるで無い…こんな事が誰かにバレれば、いくら『管理人』ですら無事では済まされないだろうな…」
「…たしかに…そうかも…?」
「なら答えは1つ… その『管理人』は、『この教会に恩がある』からだ」
「…『恩』…?」
「そうだ。 その『管理人』はこの教会におそらく大きな『恩』がある。 教会なのかハロノラさんか…もしくはどちらもだな…だからこそ、黙認している。 『管理人』は教会を守るため…この森を隠すように設備を大量に設置している。 更に教会を援助するために、直接的だと金の動きがバレる可能性があるから間接的に『果樹園の作物の売買を請け負う』事で、金銭面を援助した。 …だが…やはりなぜそこまでするか…だな… その『恩』が…もしかしたら『ただの恩』じゃなく…『育ての恩』なら話は繋がる… それがハロノラさんの『ノートを見せる』で分かった」
「???」
「『管理人』はここで育てられた…それはつまり、『管理人』も捨てられた人物だった…そしてここで育てられた…それが『恩』… だから『管理人』はそこまでする… だがそれじゃ、『英雄』とは繋がらない… そんな『英雄』をハロノラさんが知る訳がない… だが逆に…どうすれば知れるか…? これも答えは1つ…『管理人』=『英雄』…それならば全てが成立する。 この教会で育てられた『英雄』がこの教会やハロノラさんに恩があり、この教会を守ろうとしているなら…ハロノラさんが英雄の事を知っていて、それを元に『英雄の話』をしていても当然だ。 だが…なぜだか知らないが、英雄という存在が薄れている現代だからこそ、『英雄』は『管理人』としてこの教会を守ろうとした… 違いますか…ハロノラさん…?」
シードはハロノラを見る
静かに、ハロノラは頷いた
「あんたはノートを見せて、俺達の…いや、俺の反応をうかがった… あんたは俺のここまでの予想を見抜いていた…ノートを見せて、俺が反応をすればそこまで当たっている…とでも思っていたんだろう…? 俺よりも厄介な人だぜ…あんたは…」
「…あんたには負けるさね… その通りだよ…この教会の『管理人』が…あんた達の捜している『英雄』だよ… …名前は『紫村リト』…聞いた事ないかい…?」
「…『紫村リト』…!?」
突然言われた…探し求めていた『英雄の情報』…しかもその『英雄の名前』を言われて、一瞬思考回路が止まる
シードは聞いた事があった
何かの雑誌…何かの紙媒体で見た事もあった
「………もしかして…あの『バイオレット社』の…!?」
「…? 『バイオレット社』…って何だっけ?」
シードは懐から小さなタバコの箱ぐらいの魂機を取り出した
『ルテイク』
アレスでもそれは知っていた
「『ルテイク』…えっと…それで?」
「前に説明しただろ!? この『ルテイク』を始めとした様々な魂機を開発・研究している会社だ…! そしてその『紫村リト』は…そのバイオレット社の『創設者』にして『社長』だ…! …そうか…そうなのか…! 20年程前に創設されたバイオレット社は…『英雄』が創設したのか…! 時期的にもちょうど重なる…まさか…彼がそうだったのか…! だからか…だからこの大陸に居るのか…バイオレット社はこの大陸に本社を置いている… これで…全てが繋がった…!」
シードは納得した
―――『英雄』を捜しに第三大陸『リーバイド』へとアレス達は来た
港でもめてなんやかんやで森へと入り、やがて森の中にひっそりと建つ『教会』へとたどり着く
そこでは『英雄の話』を子供達にする老婆が居るらしい
その『英雄の話』が、アレス達が捜す『英雄』へと繋がっているのではないか?
他にも手掛かりが無い以上、それが英雄へと繋がる可能性は高い
しかし話を聞こうにも、見ず知らずのアレス達に『英雄の話』はしない
何故なら『英雄の話』は作り話ではなく、本当の『英雄』をモデルとして創作話を作りあげたからだ
老婆…ハロノラは、『英雄』を知られる事を良しとしない
何かしらの理由があった
それはその英雄が、第三大陸『リーバイド』に本社を置く大企業『バイオレット社』の『創設者』で『社長』…そして教会と、教会のある『ウィークエンドの森』を管理する『管理人』であるからだ
そんな大物の正体をおいそれと明かす訳にはいかない
ハロノラが何も言わなかった理由もうなずける
…しかしここまで知ってしまった以上、ハロノラの語りは止まらない
むしろ語りたくてしょうがない感じがした
「あの子はね…30年ぐらい前だったかね…この教会にやって来た子なのさ… 他の子達よりも体は丈夫じゃ無かったし…力や体力も無かったんだよ…でもね…誰よりも『観』る事に長けていたんだよ… 周りで怪我したり体調が悪くなったりする変化を…誰よりも早く見抜いていたんだよ… それだけじゃない…気になる事や疑問に思った事は何よりも観察して追究してね…答えを導き出していたし…あの子は本当に…誰よりも観る事が凄かったんだよ…!」
ハロノラは少し食い気味で話す
まるで自分の『思い出』を語るかのように…
「そして20年ぐらい前だったかね… ある日…『あの子達』がこの教会にやって来たんだよ…後に『英雄』だなんて呼ばれる『あの子達』がね… あんたの両親も来たのさ… もちろんあの子…リトは警戒したよ… あの子にとってここは自分の『家』で…私達は『家族』なんだからね…何されるか分かったもんじゃないさ… だけども…あんたの父親はこう言ったのさ…」
「…アレスの父…『トレス』さんですか…?」
「そうさ…たった一言だよ…? たった一言…『俺達と来い!』…だなんて言ったのさ… リトは…あの子は…あの子達に付いて行ったんだよ…何でだと思う…?」
「…分からない…」
「わかった!」
アレスが急に声を荒らげる
「父さんは、『ヒーロー』になるから力を貸してほしいって言ったんだ!」
「…おいおい…そんなバカな…」
「その通りさ…」
「!?」
シードが目を見開いて驚く
「ただし…あんたの父親が『ヒーロー』になる為だからじゃないさ… 自分が『ヒーロー』になる為に付いて行ったのさ…」
「…『英雄』になるために…?」
「当時…あの子にはとっても『大切な人』が居たんだよ… この教会に…あの子が好意を持つ『女の子』が居たのさ… その子を守る為…その子を守れる『力』を手に入れる為に…あの子は旅に同行したのさ… 知恵や探究心…『観察眼』があっても、力が無かった…それをあの子は渇望してたんだよ… あの子が持っていた…とっても小さな『勇気』を振り絞って…この教会を飛び出したのさ…」
「……」
「…まぁ結局…その『女の子』も一緒に付いて行ったんだけどね…」
「!?」
「それじゃ…もう一人『ヒーロー』がいたってこと!?」
アレスが先程のハロノラと同じく、食い気味で尋ねる
ハロノラはヒャッヒャッヒャッ…っと笑う
「居たよ…居るんだよ…! 『もう一人』ね…! …でも…今のあんた達には関係無いさね…この大陸には居ないんだからね…」
この大陸…リーバイドには、『紫村リト』とは他にもう一人居たらしい…
アレス達の追い求める『英雄』が…
「あぁ…『居ない』ってのは…『死んだ』…ってことじゃ無いよ… 生きてはいるさ…安心しな…また何処かで会えるさ… それより…」
ハロノラはノートを持って立ち上がり、後ろの本棚へと向かいそれをしまう
そして今度は何かのファイルを取り出した
再び椅子へと座り、それを広げてファイルから紙を一枚取り出した
そこにサラサラと何かを書き始めた
その紙を、アレスとシードに見せ付ける様に方向を変える
「「??」」
アレスとシードはその紙を覗き込む
「…『照会状』…? これは…?」
「あんたは気にならなかったかい…? この教会には…『子供達』しか居ない事を…」
この教会には『子供』しか居ない
それはシードも分かっていた
「…確かに、あなたがここに何年居るかは分かりませんが…少なくとも先程の話から、あなたはここに『30年』は居る事になります… 30年程前に『紫村リト』が来たと言ってますからね… 30年もあれば…ここに居た子供はもちろん『大人』になっているはず… 俺は大人になった人は隣の『中央大陸』に移り住んでいると思ってたんだが…」
「勿論そうするも子もいるさ…でも全員が全員そうじゃないさ… この大陸に居たい…って子も中にはいる…仮にも産まれ育った大陸だからね… それに…この教会で育ったからこそ、この教会を見守り続けたいって子もいるのさ… だからそんな子達を…あの子は…リトは自分の会社に雇わせているのさ… 勿論…ちゃんと『人間』と『獣人』に分けて…人間のいる『本社』と獣人のいる『支部』に分けてね… この教会に『作物』を回収に来る『業者』も…元はこの教会で育った子達だったりするんだよ…」
「……」
シードの考えてた以上に、この大陸にいる英雄は存在が大きいらしい…
だがそれは巧妙に隠されている
この大陸に住む人々は、大企業の社長が『元英雄』である事を知らないだろう…
『英雄』という概念が失われている現代において…彼がその『英雄』だったと知られても、特段何かが変わる訳ではおそらく無い
…もしやそれが…『英雄』という概念が消え失せた理由と…何か関係しているのだろうか…?
それを深く考える前に、アレスが騒ぎ出す
「それでそれで!? それがあれば『ヒーロー』に会えるのか!?」
「…これは…そんな子達があの子に会うために作った『照会状』… これを『バイオレット社』に持って行けば…直ぐにあの子に会う事が出来るのさ…」
「じゃあじゃあ! それを俺に
「ただし…」
ハロノラはアレスの言葉を遮り、紙をファイルへとしまう
アレスは残念そうな顔をする
それを見て…ハロノラは意地悪く笑う
「そんな物を…タダで渡すと思うかい…? 仮にも…あんた達はこの森の秘密と…教会の存在を知っちまったんだ… そう簡単に帰す訳にはいかないねぇ…」
ハロノラはヒャッヒャッヒャッ…っと笑いながら立ち上がった
「…ってことは…ここで何をするか…分かっているね…?」
―――それから…3日が過ぎた…
Q.『機械』と『魂機』の違いは?
「大雑把に分けると…『機械』は歯車やらで出来た鉄の塊を意味して、『魂機』はその機械を『ソウル』で動かす物を言うんだ。 つまり、ソウルを使用する機械全てを『魂機』…それ以外を『機械』と呼ぶんだ」
「………??」
「アレスには分かりづらいか? んじゃ…『ルテイク』はどっちだ?」
「そりゃ…『魂機』でしょ?」
「そうだ。 あれは構造から原理までソウルで出来ている。 あれは『魂機』で間違いない。 なら…ミーシャの持つ『銃』…あれはどうだ?」
「…えっ…もしかして…あれは『機械』…?」
「いいやあれは『魂機』だ」
「ええっ!?」
「あれもソウルを使っているからな。 『魂機』に分類される。 なら…『船』はどうだ?」
「『船』…? あれも『魂機』じゃないのか?」
「正解だ」
「正解なの!? さっきから『機械』がまったく出てきてないんだけど…」
「そうだ。 むしろ『機械』はまるで無い。 この世界あるほとんどの『機械』はソウルで動かされている。 そうなると、『機械』はその時点で『魂機』に変わる。 だからもう、機械はほぼ存在しない」
「そうなんだ…」
「だが逆に…『ソウルで動かさなければそれは機械』…つまり、部分部分は『機械』と呼ぶ事はある。 例えば…さっきの『ルテイク』なら、ルテイクそのものは『魂機』、だがルテイクを作り上げている部品とかを『機械』と呼ぶだろうな」
「なるほど…」
「他にも人力で動かす部品の塊…いわゆるギア駆動の物は『機械』と呼ぶな。 だから『ソウルで動かす物・動く物は魂機』で覚えとけば問題ないな」
「了解!」
「ミーシャとスイの出番は無かったが、今回はこれで終わりだ。 また次回な」
「…次回こそは…何としても出てやるわ…!」
「…そうですね…」




