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サークルワールド HERO ~一期一会編~  作者: 葱原龍乃介
第八章 森に棲む『悪魔』
64/90

霧に包まれた森



 ―――皐月(さつき) 25ノ日(にじゅうごのひ) 木魂日(もくそうび) 午前8時58分―――








―――深き霧と静寂に包まれた森…




「だから言ったでしょ!?」

…1人の少女の怒号が、その森に響き渡る

「いや…だって

「『だって』じゃない! あんたが何の考えもなしに森に入ったせいで…!」

「大丈夫だって

「何も大丈夫じゃない! おかげで…おかげでこんな森から…()()()()()()()()()()()じゃない!!」

ミーシャの叫びが森に木霊(こだま)する

だが、そう叫びたくなるのも必然である

『入ったら一週間迷って死んでしまう森』に入っているのだから…

そしてそこで迷ってしまっているのだから…

それが()()()()続いているのだから…

「あ・ん・た・が! 何も考えないで行動して! 人間側の『トビラ』を無理やり! 通って! 森に突撃す・る・か・ら・よっ!」

「ぁわぁわぁわわ…!」

ミーシャは怒りのあまり、アレスの首をつかんで前後に激しく揺らす

アレスはもうあわあわ言うしかなかった

「…ミーシャさん…落ちついて下さい…」

そんな様子を見せられて止めない訳にもいかない

スイがミーシャを(なだ)める

「スイちゃん! スイちゃんもアレスを止めないからこんな事になっているのよ!? ちょっとは反省しなさい!」

「…すいません…」

ミーシャの威圧感に気圧(けお)され、つい反射的に謝ってしまう

「おいおい…ちょっと暴れすぎだぞミーシャ

「うるさいわ! ていうかあなたも少しは危機感持ちなさいよ! 私達…ここで死んじゃうかもしれないのよ!?」

シードがスイと同じ様に宥めようとするも、鋭く切り返される

逆ギレ…ではなく、正当なる反論であるが故に何も言い返せない

「…ミーシャ、俺が何も考え無しにここに来ていると思っているのか? 帰れる方法も、()()()()()()も考えてある…だから『暴れすぎ』だと言っているんだ」

…しかしそれでも、平気に物申すのがシードである

「…あなたがそう言うならそうかもしれないわ… でもね…だったら何でもっと早く言わないのよ!? 迷ってから言う事じゃないでしょ!?」

実に正論である

対してシードは、『やれやれ…』と言わんばかりの態度をとる

「そこの目回しているアレス(バカ)が俺達の忠告を素直に聞くと思っているのか? 今までだって無かっただろ? こういう単細胞は一旦好きな様にやらせて、それからその過ちを指摘すればこっちの言うことを聞く… 今度、アレスの『取り扱い説明書』を渡してやるよ」

シードはそこで素早く2()()()()()()()()

ミーシャが何か『正当な反論』を言う前に、とにかく自分の考えを言うつもりなのだろう

「俺がこの森にわざわざ入ったのは確認したかった事が『2つ』あったからだ… 一つ、『ウィークエンドの森(この森)』の『()()』を確認するために… 二つ、()()()()()()()()()()()()()()()()を確認するために… そのために、俺はここまで何も言わなかった」

シードは立て続けに話す

「この森が『一週間迷って死んでしまう』なんて言われているのは、『高々と生えた木々』と『濃い霧』…俺はそう聞いた。 それが実際どんなものなのか…周りを見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ」

ミーシャは改めて自分達の周囲を見回す

自分の4倍はあろう木が、高く高く上へと伸びている

それが(いた)る所に生えているのだ

本気で数えれば視界に入る分は数えきれるだろう

しかしそれを『濃い霧』が不可能にしている

5メートル先も見えない程の密度の濃い霧が、眼前を(おお)っている

限りなく白に近い『色』が、前を見通す事を出来なくしてしまっている

しかし不思議な事に()()()()()()()()()

このような霧が出てる時は普通は肌寒いものだ

それはシードも気付いていた

「この森の性質なのか…はたまた別の要因なのか分からないが…これだけ霧が濃かったら、真っ直ぐに歩いているつもりでも平気で平衡感覚(へいこうかんかく)を失う。 だがこの霧は()()()()()()()()だ。 思い出してみろミーシャ…俺達がこの森に入った直後どころか、ここに来るまで()()()()()()。 どこかのタイミングでいきなりこの霧が立ち込め始めた…それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…そういう事になる」

「……」

ミーシャは黙って聞いていた

それでも何も解決しない

「…だから何だっていうのよ…? 私は今…この森を一刻も早く抜け出したいのよ…!?」

ミーシャはわなわなと震える

今にもシードに飛び掛かって来そうな雰囲気である

「落ち着け…落ち着いて冷静に思い返してみろミーシャ… あの『ウィークエンドの悪魔』と呼ばれていたジンビスと、獣人の子供…エラットと言ったか…? あの2人の会話を、もう一度思い返してみろ」

そう言われて、ミーシャは思い出す




『わりーわりー… 別にお前が『英雄になる』事を笑ったわけじゃねーぞ? ただ…俺んとこに居るヤツらと同じで『英雄になりたい』『英雄になりたい』なんて…小せー子供と同じ事を言ってんのがおかしくてよ… しかし子供ってのは、『英雄の話』を聞くと『英雄になりたい』って言うんだ? ばあちゃんの言う『英雄物語』なんて、信じて憧れるもんじゃねーだろ…』



『…? どうしたエラット?』

『ジンビスおにいちゃん…ごめんなさい…』



『謝る必要なんかねーよ…町に来たかったんだろ? エラットはまだ来た事なかったからな… でも1人はあぶねーって事が分かっただろ? 今度は一緒に行くぞ』

『…うん…!』



『んじゃ、『教会』に戻るぞ』

『うん…!』




「…その話を聞いて、アレスはその『ばあちゃん』って人に会いに行こうとしたんでしょ? 『英雄の話』が、もしかしたら自分が捜している『英雄』かもしれないって思ったんでしょ? それで2人を追いかけたんでしょ? でも会えなかったんでしょ!? ていうか迷っているんでしょ!?」

思い出すのは失敗だったかもしれない

ミーシャは自分自身の置かれている状況を再度理解し、『なんで私がこんな目に…!』という怒りを蓄積させていく

それでもシードは慌てない

冷静に、淡々(たんたん)と説明する

「ここで注目する点は、『小せー子供と同じ事』『ジンビスおにいちゃん』『町に来たかった』『教会』の単語だ」

シードはしっかりとミーシャの目を見て話す

「俺はさっきの熊の獣人にこう聞いた…『この町に教会はあるか』と… そしたら『無い』と答えた…つまり、あの子供は港町『ダリルコート』以外の所から来たと推測出来る。 そしてあの状況から、『()()()()()()()()()()()()()()()()()』…ここまではいいか?」

ミーシャは顔をしかめながら(うなず)

「だがあの港町から一番近い町でも相当距離がある。 それこそ馬車でも使わないといけない程にな。 よってその『教会』は、()()()()()()()()()()()()()()()()…そう考えるのが妥当だ。 …だからあの子供は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という事になる。 そうなると

「ちょっと待ちなさい…?」

ミーシャがシードの話に割って入る

「なんで『この森に教会がある』事になるのかしら? 別の町からなんとかここまでやって来たかもしれないじゃない? それよりもさっさとこの森を抜ける方法を教えなさい?」

少しは落ち着いたかもしれないが、それでも怒りむき出しでシードに突っ掛かる

「物事には順番がある…ちょっと待て…」

再び(なだ)める様にそう言う

「それを完全に否定する訳じゃないが、その可能性は限りなく低い。 第一に、さっきも言った様にあの港町から別の町までかなり距離がある。 とても子供一人じゃここまで来るのは無理だ。 仮に商人の馬車に隠れて乗って来れたとしても、そんな不確定で無鉄砲な方法を取る必要も意味も無い。 第二に、エラットはジンビスの事を親しみを込めて『ジンビスおにいちゃん』と呼んでいる。 考えてみろ…『悪魔』と呼ばれているあいつをそんな風に呼ぶんだぞ? どこかから来て、森であいつに会うぐらいじゃそうはならない。 毎週…いや、毎日ぐらい会ってないとあそこまで親しくならない。 だから『()()()()()()()()()』と自然に考える。 そしてジンビスは『小せー子供と同じ事』と言った…それこそが、あのエラットとジンビスが一緒に居る…()()()()()()()()証拠だ」

シードは今一度しっかりとミーシャの目を見る

「それまでの前後の会話で『子供』は『一人』では無い…それは分かる。 もしも誰か一人だけが常に居るなら、あの場合はその人物の名前を言うはずだ。 『子供』と言った事に、複数人数の意味が込められている。 あのエラットが一人であいつと住んでいる訳が無い。 複数人数の子供と一緒に居るに違いない… 事実、『エラットは()()来た事なかったから』と言っている…それはエラット以外にも誰か居る事を示している。 …『子供は複数人数』『ジンビスと親しい』『ダリルコート以外から来た』『教会はダリルコートに無い』…これらから言える事がただ一つ…『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』…俺は、そう推理した」

「……」

『だから何なのよ?』とでも言わんばかりに(にら)むミーシャ

シードが考えに考えた推理を、最早どうでもいいと一蹴(いっしゅう)する

ミーシャはとにかくこの森から出たいのだ

そんなミーシャの思いとは裏腹に、シードは今度は周りを見ながら話す

「だがこの霧だ…俺達ですら迷うこの森を、どうやって子供一人で抜けられる…? はっきり言って不可能だ。 考えられるのは2つ… この森を抜けられる『道具』…例えば町の方向を指し示した方位磁石の様な物があって、それを使用している… もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()か…誰かが意図的に『()()()()()』を作っていたとしたら…『森に入った人物を感知して自動的に生成する霧発生装置』…なんて物があれば霧の濃い森を作れる…それならば、()()()()()()()()には作用しないだろうしな。 …あるいは、その両方か… どちらにせよ、それで子供一人でも町に行く事は出来る… んで、だ…」

そろそろミーシャが『早く森から出る方法を教えろ』と言い出しそうだったので、シードはアレスに人差し指を突き付けて言う

「アレス、『獣心化(ドライブビースト)』しろ」

「「「!?」」」

突然そんな事を言われて、アレスも含めてミーシャもスイも驚く

「いいか? いくらこの森に居ると推測しても、所詮は子供…移動出来る範囲や距離も限られて来る… その『教会』から町まではそこまで遠くないはず…せいぜい子供の足で30分程度だろうな。 そこでアレスの『獣心化(ドライブビースト)』の出番だ」

シードは、良く意味が分からないという雰囲気を出すアレスに説明する

「お前の『獣心化(ドライブビースト)』は獣の力…つまり『狼の力をその身に宿す才能(センス)』だ。 『狼の獣人』じゃない…『()()()』だ。 身体能力は狼の獣人とは比べ物にならないぐらいに向上する。 もちろん、『嗅覚(きゅうかく)』もだ。 人間の何十倍…いや何万倍にも強化された嗅覚なら、町に居る人の匂いをかぎ分けられるはずだ。 『獣心化(ドライブビースト)』を使ってダリルコートの居場所を突き止め町に戻る。 その後、町から出た子供の匂いを辿って行く…そうやってあいつらに追い付くぞ。 …それに教会へ行く方法はおそらくもう1つある…それを探すのにも町に戻りたい… ここから直接追ってもいいが、まずはミーシャを落ち着かせよう」

「……ああ! とりあえず分かった!」

「…絶対分かってねぇ…」



才能(センス)



人の持つ長所・特技・特徴などがソウルによって強化…『センス』と呼ばれる能力として発現した力の事である

アレスの両親は『人間』と『獣人』…アレスは外見に獣人の要素は無いので『人間』

にも関わらず自分の中に眠る獣人の力を自由に使える

その『才能』がソウルにより進化し、『狼の力をその身に宿す才能』をアレスは持ち得たのだ

そのセンスを発現すると――

「『獣心化(ドライブビースト)』!!」

――アレスの外見に変化が起こる

体外に放出された多量のソウルと共に現れたのは、実物の獣耳を頭頂部から生やしたアレスだった

アレスの黒髪と同じ黒色のもふもふした毛をした獣耳を付け、口からは犬の様な牙が伸びており、目付きが鋭くなったアレスがそこに居た

今のアレスは立派な『獣人』である

しかし中身は立派な『獣』である

狼の力を持つ今のアレスは、早速己の嗅覚を研ぎ澄ませた

「…町の匂いは分かんないけど…とにかくご飯の匂いがする方向を調べればいいんだな?」

「…まあ…あながち間違っちゃないが

「ッッ!!?」

その瞬間、アレスは反射的に後方へと飛び退いた

それを見て、シードやミーシャやスイも身構える

「どうしたアレス!?」

「町がどっちか分かったの!?」

「…ご主人様…?」

全員がアレスを見る

アレスは()()()()をしていた

驚いた顔…と言ってもいいかもしれない

冷や汗が頬を伝い、鋭い目付きが(けわ)しくなっている

低く、(うな)っているようにも見える

何故そんな風になっているのか、アレスが教えてくれた

「そこに…!」

「?」

「そこに誰か…! ()()…!!」

アレスが指差したのは何の変哲もないただの木だった

恐らく、その木の裏に誰か『居る』

アレスの嗅覚が、その目に見えない誰かを嗅ぎ取ったのだ

少なくとも『()()()()()()

それを悟ったミーシャとスイは武器を取り出す

ミーシャは自分の腰に付けたガンホルダーから、右に自動連射小銃(サブマシンガン)『マーク11(イレブン)』を、左に単発小銃(ピストル)『カーズ52(フィフティーツー)』を持ち、銃口を前方へと向ける

スイは両腕に付けた腕輪『ティールテイク』に設定した、『両腕を胸の前で交差させるという体勢を取る事で自由に武器を出し入れ出来る』体勢を取り、立派な両刃剣二本をその両手に持ち、その体勢のまま前方を真っ直ぐ見据(みす)えた

「そこに誰か居るのね!? 出て来なさい! 早く出て来ないと、その辺りを撃ち抜くわよ!」

「…逃がしません…姿を見せないなら…こちらからいきます…!」

2人は敵意を剥き出しにし、木の裏に居る人物に警告をする

正体不明ならば当然の事である

「……」

一方シードは()()()()()()()()()()

2人と違い、敵意はまるで無かった

それでも『警戒』はした

しかしそれすら無駄だと理解する

「…ミーシャ…スイ…アレス…武器をしまえ… ソウルを出すな…敵意を無くせ」

「!? な…何言ってるのよ!?」

「いいからそうしろ…」

そう言うと、シードはその誰かが居る木に向かって数歩向かって行った

そして両手を少しだけ上にあげる

「俺達に戦闘の意思は無い。 あんたと純粋に話がしたい。 俺達の目的は、この森のどこかにある教会に行き、そこに居る人物に会って話を聞きたいだけだ。 敵意や思惑(おもわく)も無い。 信じて欲しい… アレス、『獣心化(ドライブビースト)』を解け」

シードの『誰か』への説得が続く中、自分に対してそう静かに言われたら従うしかない

そもそもシードの指示は的確であり、間違っている事の方が少ない

こういう時のシードは()()()()()

アレスはそれを理解し、 『獣心化(ドライブビースト)』を解除する

獣耳や牙が自然に消滅し、目付きも普通に戻る

荒々しさはもう微塵も無かった

「…ミーシャもスイも武器をしまえ」

「…大丈夫…なんでしょうね…?」

半信半疑で、2人は武器をしまう

それを目で確認すると、シードは改めて声をその『誰か』に向ける

「…どうだ…? これでも姿を見せてくれないか?」

「「「………」」」

張り詰めた空気がその場を満たす

冷静さをシードは保ち続け、緊張感が3人を襲う

「……分かりました…お話を(うかが)いましょう…」

突然聞こえた声は、やはりアレスが指し示した木の裏から聞こえた

こちらも向こうも敵意が無いと分かっていても、つい反射的に身構えてしまう

だがその行為は無駄だった

目の前に現れた人物は手に武器らしい武器を持っていなかった

強いて言えば、まるで携帯の様なサイズで四角いディスプレイとボタンとダイヤルが数個付いた魂機(そうき)を持っていた

だがそんな事は些細(ささい)な事

それよりももっと目を引くのは、()()()()である

紺色の修道女の服を着た若い女性で、黄色の長い髪を修道服の中へと入れている

まるでその美しい髪の毛を誰にも見せないかの様にしながら、穏やかな表情をしてシード達を見ている

身長は低めの大体150センチ後半

笑顔を向けて、お互いに敵意が無い事を象徴している

「「……」」

「初めまして。 私は…今は『シスター』と呼んで下さい…」

優しい声でそう語る『シスター』

彼女に応える様にシードも挨拶をする

「分かった…『シスター』と呼ばせてもらう。 俺はシード。 ここに来るまでの経緯や俺達が誰なのかとか、細かい所はこの際省かせてもらう。 見た所…あんたは『教会』と無関係って感じじゃ無さそうだ…それなら話は早い。 あんたの所に居る『ばあちゃん』って人物に…いや、『教会』とやらに連れて行ってくれないか?」

シードは口早に用件を伝える

シードは『直感』した

ここでの会話が長引けば、おそらく『()()』か『()()』されてしまうと

見ず知らずの人物との会話は通常、長ければ長いほど『不信感』や『嫌悪感』を抱いてしまうもの

会話が長引く程、段々と『聞いている人物』と『聞かせようとする人物』の構図から『()()()()()()()()()()』と『聞かせようとする人物』の構図へと変わっていってしまうのだ

それは()()()()()では無い上、人の心が持つ『他人に侵入されたくない領域』という『()()()()』と、『他人を簡単には信用出来ない』という『猜疑心(さいぎしん)が押し上げられた状態』が産み出した、『()()()()()()()()()()()()』がそうさせているのである

シード達の今の現状、彼女が前者に当たりシードが後者に当たる

だからこそ会話が長くて得は無い

自分達という存在が怪しまれている以上、用件のみを的確に伝えなければならない

「…なるほど…皆さんが『教会』に行きたいという事は理解しました… ですが…残念ながら()()()()です」

「「……」」

「…!!」

シードの悪い予想が当たってしまった

続けてシスターは語る

「皆さんがどうしても…何かどうしても教会に行きたい理由があるのはとても伝わって来ます。 理由を尋ねる事も出来ます…が、それを言わないのにも『理由』があるのですね? でしたら…この場合、私には逆に『断る理由』はありません。 教会へとお連れするのも問題はありません。 ですが…それならば、()()()()()()()()()()()()()。 皆さんが何か困っているのであれば…お助けします…しかし、町へ戻る方法も思い付かれている今、私が教会へと連れていく理由はありません。 …教会へ行く方法も考えていらっしゃるのであれば尚更…です」

シードは実際、この交渉は『失敗』する事前提だった

何故ならシスター…彼女には、何のメリットも無いからだ

先に言った通り教会へ向かう方法も町へ戻る方法もある

だからシード達が困っている訳でも無い

よって『理由』が無い

結果『メリット』も無い

この提案を受け入れる訳が無いのだ

シードは失敗する上で交渉した

いや…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

シードが失敗したと思った理由は、町へ戻る方法と教会へ行く方法が知られてしまったからである

シードも流石に、こんな近くに彼女が居るなんて思わなかった

もしもミーシャとシードの会話を聞かれていなかったら…ある程度の交渉の余地はあったかもしれない

例えば『町に戻る体力が無いから近くで休める所は無いか?』等、いくらでも応用が効く

だがアレスが彼女の存在を見付けた事でそれはもう通用しない

その場に居たのだから

「「……」」

(…おい…お前らもなんか言って説得させろよ…)

「「……」」

シードが小さな声でミーシャとスイに話し掛ける

しかし2人は反応しない

2人はシスターを直視して呆然としている

だが正確に言えば、シスターの()をガン見している

シスターは修道服を着ているため、細身であっても少し大きめに見える

それに若い

つまりスタイルが良い

しかし、彼女の胸はそれに見合わない

修道女(シスター)』よりも『聖母(マリア)』の()()である

(…『F』…いや…『G』ぐらいはあるんじゃないかしら…)

(…形も整っていて…うらやましい…です…)

(((わたし)にも…あれぐらいあれば…))

ミーシャとスイがそう思う程である

最早シードの話なんて聞く耳持たない

「…ハァ…」

シードは諦めた

2人の説得助力は諦めたが、シスターに対しての説得は諦め無かった

(…ここで交渉決裂すれば…警戒が厳しくなる… おそらくあの手に持つ『魂機(そうき)』でこの『霧』を操作…更にこの森に出入りする人を確認出来るはずだ… でなければ俺達がここに居る事が分からなかったはず… ここで逃がす訳にはいかない…! 霧をもっと濃くされて…何か別の方法で今度は『視覚』だけじゃなく『嗅覚』も阻害(そがい)されたりしたら…もうたどり着けない! なんとかして…交渉成功させないと…)

「なあシード? 俺…シードが悩んでる理由がよく分からないんだけど…?」

アレスがキョトンとした表情でシードに話し掛けてくる

「…簡単に言えば、シスターは俺達を教会に連れて行く理由が無いって言ってるんだ… 逆にそれさえあれば教会に行けるってわけだ…」

「そうか! 分かった!」

アレスは理解して元気良く返事をすると、()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



ザシュッッ!!



「「「「!!!?」」」」

突然の出来事に、ミーシャやスイですら振り向いて驚く

「アレスっ!? お前…何してんだっ!!」

「「アレス!?(…ご主人様…!?)」」

「っ……!?」

シスターはその様子を見て流石に驚く

目の前で何の躊躇(ちゅうちょ)も無く自分の足を斬るだろうか…?

何故そんな事をするのか…?

シスターが聞く前に、シードがアレスに駆け寄った

「アレス何やってんだ!? いきなり何を

「っ…ホラ! 俺さ…今ケガをしてるんだ! たぶん長く歩けないから…町まで歩けないから…近くに休める所ない…!?」

アレスは痛みを必死に耐えている表情をする

流石に痛い

刀で自分の足を斬ったのだ

当然の結果である

赤い血液が、その切り口から溢れている

ミーシャが直ぐに駆け寄る

「ちょっ…! そのままじっとしててアレス! すぐに治療すムグゴッ…!?」

その口をシードがサッと塞ぐ

「あいにく、俺達は『治癒魂術(ちゆそうじゅつ)』が使えない… 今は包帯で傷口を縛るぐらいの応急手当ぐらいしか出来ない… ()()()()()、傷薬か痛み止めやらがあったりするだろ? そこまで案内してくれないか?」

シードは()()が勝機とばかりに、シスターを攻める

虚偽(きょぎ)の情報をつぎ込み、一気に交渉を進める

『ここ』しかない

アレスのこの、『()()()()()()()()()()()』で引き起こされた…この状況こそ、彼女を崩す唯一のチャンスなのだ

…だが、()()で十分だった

彼女が納得するには、それで十分だった

彼女が納得する()()は、それで十分だった

「………仕方ありせんね… ()()()()()()()()()、私達の住む教会にお連れする必要があります。 そこでなら治療も行えます」

シスターはアレスの()()に動揺はしながらも、それを態度に表す事は無かった

あくまで冷静かつ、そして修道女らしい落ち着いた態度で接した

ミーシャは素早く(ふところ)から包帯を取り出し、アレスの足へと巻き付ける

手際よく包帯を巻き付けた後、シードはアレスをおんぶする

「助かる… ここからはそう遠くはないのか?」

「はい…数分で到着します。 私に付いて来て下さい」

「分かった……」

…シードは説得がうまくいった事に対して『疑問』を持っていた

その疑問とは、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』…という疑問である

いくらアレスの行動が『英雄の話を聞きたいからこその行動』だったとしても、それを受け入れるとは限らない

むしろ逆に、より拒否する可能性も高い

『何か別の思惑があるのか…?』と、シードが思うのは当然である

しかしそれは『否定』される

もちろんシード自身が尋ねた訳では無い

「どうして連れてってくれるんだ? やっぱりケガしてたからか?」

シードにおぶられているアレスが尋ねた

するとシスターは、クスッと笑って答えてくれた

「もちろんそれもあります…ですが…一番の理由は、()()()()()()()()()()()…ですね」

「…? 『出たかった』ってどういう意味?」

「…ふふっ…忘れて下さい… とにかく、早めに怪我を処置しなければなりません。 行きましょう」

シスターは手に持つ魂機を何やらいじる

すると、シスターの周りの霧が薄くなっていく

そして進むべき方向の霧が段々と晴れていく

「こちらです…」

アレス達に背を向け歩き始めたシスター

ミーシャやスイはシスターに付いて行く

アレスを背負ったシードも、もちろん後を付いて行く

(…やっぱり、あの『魂機』でこの霧を操作してたのか… それより…『出たかった』…か… 『()()()』…だろうな…? 教会…? この森…? それとも…『()()()()()』から…? …いずれにせよ、俺には関係ない事…か)

シードはそう思いながら、シスターの後を付いて行った









   …森の霧はまだ、全て晴れていなかった




Q.結構前の第六章『激情』に出てきたレインカって、一体なんだったの?





これは実はわざとその正体を出していません

もう少ししたらその正体を出す予定です

アレスのその時の過去を展開する時、その正体が分かるはずです

楽しみに待っていて下さい



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