第三大陸中立西貿易港にて
『人』が二種類の人種…『人間』と『獣人』に分かれて存在する世界…
見た目に『獣の要素』が現れる者を『獣人』と呼び、それが無かったら『人間』という、いずれにせよ『見た目』で判断される世界…
そんな世界で、人間の父と獣人の母を両親にもつ『暁アレス』は『英雄』に憧れた
両親が昔『英雄』と呼ばれた事を知ったアレスは、ヒーローになるために旅をし始めた
そんなアレスがヒーローになるのを見届けるという表の目的…『呪い』と呼ばれるものの解き方を探すという裏の目的を持つ『白鷺シード』、自分の所属していた『海洋武装兵団』…通称『海族』に居た『団長』を捜す『青原ミーシャ』、奴隷であった自分を解放してくれた恩と恋心を持ちながら自分の『過去』を探す『スイ』
その3人が旅に同行し、紆余曲折ありながらも大陸を移動しながら、アレスは『ヒーロー』を目指す
―――そして現在、アレス達は第三大陸『リーバイド』へとたどり着いた
―――皐月 25ノ日 木魂日 午前7時12分―――
「やっっっと…着いた~~~…!」
アレスは大きく背伸びをする
「ようやく着いたわね…!」
ミーシャも同じく背伸びをする
「…一日以上…船で移動していましたから…」
朝も早いせいか、スイも少し眠たそうに返事をする
「『中央大陸・第三大陸間往復魂機船』は移動の速さじゃなく、どちらかと言えば『遊覧船』に近い。 速く到着するよりも、ゆっくり海を眺めながら船に揺られるのを目的にしているからな」
シードが説明しながら船を降りる
アレス達が乗っていた魂機船…船体を白と青で塗られた大きな客船であり、そこら辺のヨット等とはもちろん比べ物にならない
しかしただ巨大過ぎる訳では無い
貨物船も兼ねている為、定員は約150人程度
乗せる人数を最小限にして、より多くの物資を運ぶ事を優先にしている
しかし乗客を楽しませる事も重視しているのか、広いデッキにはゆったりとくつろげる様なイスやテーブル、中央大陸や第三大陸を紹介する簡易的なパンフレット、海を眺める為の望遠鏡等のサービスも抜かりがない
そんな船に乗って丸一日と少し…アレス達は中央大陸から第三大陸『リーバイド』へと到着した
「ここが…え~っ…と…」
「第三大陸中立西貿易港『ダリルコート』だ。 この第三大陸に『2つ』だけ存在する貿易港の内の1つだ。 …覚えておけ」
完全に忘れていたアレスに、シードが教える
第三大陸中立西貿易港『ダリルコート』…アレス達が今まで訪れたどの港よりも、一番と言っていい程大きかった
港町全体が薄灰色の石造りで、船が停まる船着き場エリア、そこから荷物を集め保管・管理する仕分けエリア、その荷物を売買したり町の人々が暮らす住民エリア…そして、奥に微かに見える大きなトビラのあるエリア
この4つの区画でこの『ダリルコート』は構成されていた
船着き場エリアは魂機船が10隻ぐらい並んで停泊出来る様に桟橋が複数伸び、絶え間なく人が行き来し、アレス達の様に他大陸から人が来たりこの第三大陸から他大陸に行ったりと、正に船着き場だった
仕分けエリアは倉庫の様な建物が幾つか並び、その中に荷物が入った木箱やコンテナが敷き詰められ、中身が取り出されて種類ごとに分けられて受け渡しが行われていた
フォークリフトの様な自動魂車が行き交い、そこには船から荷揚げされた魚介類も同様に仕分けが行われていた
住民エリアはその名の通り、一般的な民家が建ち並び、別の言い方をすれば『居住区』…そう言える
木造の家から石造りの四角い家まで、民家と商店が並ぶ
新鮮な魚介類と豊富な食材が取り揃い、中には屋台の様な店もあって賑わっている
そして『トビラ』のあるエリア…
高さは5メートルはあろう大きな『トビラ』が2つ…石造りではなく鉄製の白いトビラは、ダリルコートの左端と右端にそびえ立っていた
そのトビラの前辺りには、人がごった返していた
馬車や荷物が点々とあり、何か順番を待っているのだろうか…と思うようなぐらい人の列が縦に並んでいた
その列の先頭には、鎧を着た屈強な男達が数人居た
頭に兜を被っており、顔までは見えない
どうやら『検問』に近い事をしているようだ
鎧を着た男達が、列に並ぶ人達の馬車や荷物の中を1つずつチェックしている
これでも『港町として』は異常だが、それ以上に、列に並ぶ人達が完全に『人間』と『獣人』に分かれている光景が異常と言える
ダリルコートの左端にあるトビラには『獣人』が、右端にあるトビラには『人間』が、それぞれ並んでいた
そこだけ、異常な雰囲気だった
『嫌悪』…単なるそれだけの感情だが、その感情がその場の空気を支配していた
しかし列に並ぶ全ての人達がその感情に呑まれている訳では無い
特にアレス達の様な、他大陸から来た身なりの人達はそうなっていない
むしろ鎧を着た男達の方が、その空気を作り出していると言っても過言ではなかった
いや…彼等には、そういう文化が根底にあるのかも知れない
「「「「………」」」」
アレス達はダリルコートを見回りながら歩いて行き、そのトビラのあるエリアにたどり着いた時に絶句した
ここまで雰囲気が悪いのかと…
『人間』と『獣人』がお互いに忌み嫌い合い、南北に分かれて生活しているこの第三大陸の現状が、ここまで悪いのかと…
「おう兄ちゃん達! 第三大陸は初めてかい?」
絶句するアレス達に話し掛けたのは、なんと熊の獣人だった
薄灰色の毛で顔が被われた身長190センチはあろう高身長の獣人が話し掛けてきたのだ
白と青の半袖半ズボンの服を着て、袖から出ている腕や足には顔と同じく、薄灰色の毛がびっしりと生えていた
年齢は若くは無いが年老いてもいない…中年だろうか?
とにかくアレス達に陽気に話し掛けてきた
「ビックリするだろう! このダリルコートは第三大陸でもそうとうデケェ港町だからな! それにモノも大量に取引される! ホレッ! 今日入ったばかりの『ウィークアップル』だ! 兄ちゃんにやるよ! カネは要らねぇさ…なんたって、今日は上物が入る予定だからな! サービスしてやるよ!」
そう言うと、ヒョイッとリンゴを1つアレスに下手投げで渡した
「あ…ありがとう…」
投げられたリンゴを受け取ると、アレスは苦笑いしながら礼を言った
「…? リンゴ嫌いなのか?」
熊の獣人が不思議そうに尋ねる
「あ~……」
アレスの代わりに、シードが申し訳なさそうに答える
「すいません…自分達が聞いていた情報と少し違う所がありまして… それで彼は少し戸惑っているんです」
((!?))
そう説明したシードの方を、驚いた顔で見るミーシャとスイ
「違う所……あぁ! 『人間』と『獣人』が仲良くねぇって所だろ? 大陸の中ならそうだが、この中立港なら話は別だ… と言っても、『ここに住んでるやつなら』…って話だけどな」
熊の獣人は意味深にそう言う
「…どういう事でしょうか?」
シードはこの言葉について言及する
そんなシードの後ろで、ミーシャとスイはヒソヒソと話す
(…普段のシードとは全然態度が違うんだけど…?)
(…シードさんは…もともと礼儀正しい方です…が、急に口調が変わるとやっぱり違和感がありますね…)
(話す人が友好的だとああなるのかしら…?)
(…そう…みたいですね…)
シードの普段の態度からの変わりっぷりに動揺する2人
そんな2人の会話など気にもせず、シードは熊の獣人の話を聞く
「この中立港はその名の通り『中立』なんだ。 だからここで産まれて育った連中はみ~んな『外』へ行かねぇのさ…当然だろ?」
「…ここが…一番安全だから…ですか?」
「そうさ! この大陸で一番安全なのはこのダリルコートと、ここと真反対の大陸の端にある2つ目の同じ『中立港』だけさ! 『人間と獣人で争わない』! 中立港のルールはこれだけさ…」
「ですが何故…同じ第三大陸であるにも関わらず、この中立港だけそうなっているのでしょうか…?」
「他の大陸と取引出来るのは中立港だけだからな…貿易港がそんなヤベェ所だったら、他の大陸からなんも貿易出来なくなる… よその家の玄関が汚れてたら普通は入りたくねぇだろ? そんな感じだ」
「…この中立港以外での貿易は行わないのですか…? いや…行えない…のですね?」
「その通りさ… 中立港以外の港は全部、人間と獣人のどっちかしか居ねぇからな… 貿易商人からしたら、どっちかしか売れねぇ物を持って行ってもしょうがねぇし、第一『全大陸共通項目』とやらで決まってるからな」
「…なるほど… 他大陸にとっても両種族に売れる様な物を取引するのは当然… それに中立港以外での貿易を行うと、どちらかの種族に加担したと思われて、もう片方の種族がその種族との貿易船を落とす可能性もある… だから中立港以外で貿易しない…出来ない様にしている…のか…」
「兄ちゃん頭いいじゃねぇか! 兄ちゃん達は人間だから、右の方のトビラに行きな! 第三大陸は危ねぇから気を付けてな!」
「色々ありがとうございました… 失礼します」
シードは軽く会釈をすると、リンゴを持ったアレスと動揺しているミーシャとスイを連れて、右の人間が並ぶトビラへと向かった
だが、その足は止まってしまう
4人は見てしまった
中立では見られない…『見ていられない』光景を
「あれって…!?」
ミーシャが思わず声をあげる
そこには、小さな獣人の男の子が大人の人間に囲まれている光景があった
「…!!」
年齢はおそらく2桁にもいかないぐらいだろう
小さな獣人の男の子は『虎』の獣人で、黄色と茶色の縞模様でもふもふの可愛らしい姿をしている
しかしその顔の目には、今にも涙がこぼれそうになっている
白いTシャツ、黒い短パンの実にシンプルな服装である
シンプルだからこそ、今の状況と相まって余計に小さく見えてしまう
そんな男の子の回りに、取り囲む様に3人の人間の男の大人が立っていた
格好からして『港』の人間だろう
ラフな服装で武器とかは特に持っていない
にも関わらず、男の子をすごい剣幕で睨んでいる
何があったのか…それを知るには簡単だった
男達が男の子に向かって怒鳴りつけている
「おい…謝る事も出来ねぇのか…おい?」
「ボウズは俺達にぶつかっただけだ… 謝るのなんか簡単だろ?」
「悪い事をしたのはボウズだろ? 俺達ゃ立っていただけなんだからよ…そこにボウズがぶつかって来た…悪いのはどっちだ?」
とにかく威圧感が半端ではない
『立っていた男達に男の子がぶつかって来た』らしい…
だが、それだけでそこまで凄むだろうか?
そして港町に住む人ならば、『中立の立場』であるはず…
そんな疑問を持ちながらアレス達がその光景を見ていると、先程の熊の獣人がアレス達に言い放つ
「兄ちゃん達…悪い事は言わねぇ… アレに関わるなよ」
「「「!!?」」」
「…どういう事ですか?」
驚くアレス達とは対称的に、シードが冷静に尋ねる
「ここは中立港… 町の住人だけじゃなく、ここに居る以上はどっちの味方にもなっちゃいけねぇのさ」
「つまり…あのようなもめ事があっても助けてはいけない…そういう事ですか…?」
「その通りさ… 『人間と獣人で争わない』がここのルールだが…全員が全員、そのルールを守りきる訳じゃねぇ… ここで産まれ育っても、『この大陸の血』…とでも言うのかね…? 俺達の血には、『人間と獣人を嫌い合う血』が流れているのさ… だから中立港でも、ああいった事はときどきある… だから俺達は関わらない」
しかしそこで、シードが若干食いぎみで質問する
「…中立港である事とあの状況を助けない事は繋がらないと思うのですが…?」
「違うぜ兄ちゃん…何も俺が非情って訳じゃねぇぞ? ここが中立港だからこそ、問題は中立の立場のヤツが解決するのさ」
「…それは『騎士』…ですか?」
「やっぱり兄ちゃんは鋭いねぇ… ここには他の町と同様に、町を守る『守備衛兵隊』が居る… あくまで『中立の騎士』だから、人間も獣人も一緒にああいう問題を解決するのさ。 だから『どちらの味方にもならない』…それがこのダリルコートの『暗黙のルール』なのさ」
「……」
あまり納得のいかない顔をするシード
だが行動には起こさない
しかし彼女はそれに反論する
「でも…! でもそれでも…! 『何もしない』なんて考えられな
「それ以上何も言うなミーシャ…」
それを制止するシード
それに対し、疑問と制止した事に対する怒りの混じった顔をシードに向けるミーシャ
「いいかミーシャ… ここがそういう『ルール』なら、俺達はそれに従うだけだ」
「だからって
「『ルールは従うもの』だ… 『人』が『人』を守るために、『人』が『人』である環境を作るために、ルールは絶対に従う。 『人』なら、それを割りきれ」
「…!……」
ミーシャは苦虫を噛み潰した様な顔をする
シードの言う事は正しい
正論だからこそ、納得出来ないのである
『何もしない』という選択肢しか選べない事に、納得がいかない
しかし割り切るしかない
「…ミーシャさん…」
スイはミーシャを心配する
ミーシャの思う事は十分に理解できる
スイはシードの言う通りに納得するしかないのならそうすると割り切ったが、ミーシャの気持ちも十分に理解できる
だからこそ心配する
そしてだからこそ、あの状況を見過ごすしかないのだ
シードは2人を連れてトビラへと向かう
「よし…行くぞ…」
……………ん? 2人…?
シードは一気に冷や汗が出る
そうだった…
ルールに従わないヤツがいた事を…
選択肢が1つしかなくても、強引にもう1つ選択肢を増やすヤツがいた事を…
そんな簡単に、割り切る事をしないヤツがいた事を…
「しまった…! まさか…」
シードはバッ!…っと、あの光景を見る
やっぱりそこに居た
アレスが、大人3人の前に立ちはだかっていた
「…なんだ…? ボウズ?」
大人の内の1人が、アレスに尋ねる
「その子は確かにお前達にぶつかった…けど…! それだけでそんなに言うことないじゃないだろ…!」
アレスが怒った顔で言い放つ
「…おいおい…悪いのはこっちのボウズだぜ…? 謝るのは当然
「違う! 大人なら…! それぐらい許せるはずだろ!? なんでそんな簡単な事が出来ないんだ!? お前達は『器』じゃなくて…『魂』が小さいのか…!?」
ピクッ…っと、眉を動かす3人
アレスに対する『苛立ち』の感情が、彼等を満たし始めた
「…うるせぇガキだな… 大人はな…キッチリしねぇと割り切れねぇんだよ… 謝る事ぐらい…このボウズでも出来るって言ってんだよ…」
「こんなに怖がっているのに…それでも謝らせるのか!? 」
「ウゼェぞこの…!!」
不意に1人が、アレスをぶん殴った
「クソ
ガキャッッ!!
ッッッァアアアッ!!??」
「「!!?」」
何が起きたのか分からなかった
いや…分かっているからこそ分からなかった
アレスの額に目掛けて殴った男は、自分の拳に伝わる強烈な痛みに悶え苦しんだ
まるで自分の拳を石壁にでも当てたかの様な程、地面に背中から倒れ込んでジタバタしている
何故そんなに痛みを訴えているのか…?
他の2人には分からなかった
しかし当然アレスは理解している
なにせ『ガキャッッ!!』…っという音の正体は、『自分がソウルを纏った体』に『生身の拳を思いっきりぶつけた』時の音なのだから
『魂』を元に細胞が造り出す生命エネルギー…『ソウル』に対し、そのまま何も纏わない状態で攻撃すればどうなるか…一目瞭然である
「お前らが『大人』なのは知っている…俺が『子供』なのも知っている…! 子供がなんでもかんでもやっていい訳じゃないのは俺でも分かる…けど! なら大人だったらなんでも許される訳じゃないだろ…! そうやって気に入らないやつを殴るのが…大人なのか…!? この大陸の大人は…みんなそうなのか…!? それは分からないけど…でも…」
アレスは倒れ込んでいる大人と、ただ立ち尽くすだけの2人に向かって怒りの表情を顕にする
「お前達が俺を殴るなら…!! 俺もお前達を…思いっきり殴ってやるっ…!!」
アレスは3人に向かって拳を振りかぶる
そんなアレスを止めようとしたシードが駆け寄るも、間に合わなかった
ズゴォッッッ!!!
「「「!!!??」」」
これには立っていた大人2人は流石に驚いた
当然アレスも驚いた
何故なら、立っていた大人の内の1人に、何か大きな棒状の物が直撃したからである
「ぅぐぉぉっっ……!!?」
大人の1人の左わき腹に、後方からの棒状の様な物による直撃を受けると、小さくうめき声を上げて右方向へと勢い付いて吹っ飛んで行った
ザザザァッッ!!…っと、地面に肉体が擦り付けられる
「なっ…!?」
残った大人がその直撃を喰らわした人物を見る
「…だれ…だ!?」
アレスもそれが誰か見る
「ぁ……あ…」
すると倒れていた大人が小さく呟く
「ぁ……『悪魔』…!!」
そこには、上にしっかり伸びた黒い短髪を生やし、白いTシャツと黒い短パン…そして黒いジャンパーを羽織った、身長170センチ後半の青年が、十字架の下部分の先が柄になっているハンマーの様な武器を大人の男に直撃させて立っていた
Q.『セントレイン』を『中央大陸』とか『リーバイド』を『第三大陸』とか、なんで大陸の名前でみんな呼ばないの?
『日本』を『日本列島』って呼んでるようなもんじゃない?
これには裏設定があります
後書きとか本編で少し触れましたが、昔は各大陸に『国』が複数存在し、大陸そのものを統括する者は居ませんでした
しかし、中央大陸ならば『天帝家』がそうであるように、『大陸そのものを統括する者達』が各大陸に現れました
それまで『大陸』ではなく『国』に視点を置いていた為、大陸自体に名前が決まってませんでした
現在と同じく、『~~大陸』という呼び方で呼ばれていました
国が全大陸で廃止になった時、各大陸に名前が付けられて人々に親しまれるようになりました
しかし、この世界には昔の文化を大切にしていく一種の文化があります
『王国騎士団』がその最たる例です
よって昔からある『~~大陸』という呼び方の方が、人々に親しまれて呼ばれているのです
ですが、全員が全員そう呼ぶ訳ではありません
特に大陸を統治した者達…例えば『天帝』なら大陸の名前を呼びます
…呼ばない事もありますか
よって中央大陸以外の統治者達も、今後大陸を名前で呼びます
…たぶん




