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サークルワールド HERO ~一期一会編~  作者: 葱原龍乃介
第六章 中央大陸英雄譚 ―騒乱―
55/90

騒乱、そして終結

 ―――皐月(さつき) 16ノ日(じゅうろくのひ) 火魂日(かそうび) 午後6時49分―――




「…ぁぁ…うそ…」

「…そんな…」

サイク・ロプスは檻の後ろの薄暗い通路の奥から現れた

同じ様に、()()はそこから来た

数にして『5()()』…()()()()()()()()()()()()5()()()()()()()()()

「…今のと全く同じのを『5回』…繰り返せるかしら? …無理ね。 満身創痍(まんしんそうい)の貴方達じゃ…ね… 諦めなさい。 後は…()()()()()()()

そう言うと、ユゥカは指をパチンッと鳴らした

その瞬間、5体のサイク・ロプスが一斉にミーシャとスイに詰め寄った

「……ッ!!」

2人は『死』を覚悟した

しかし…()()は来なかった

5体の内、2体がミーシャとスイを持ち上げた

そしてそのまま両腕伸ばし、縮こまった2人をまるでお盆を支えるかの様に掲げる

残された3体の内、2体がそれぞれミーシャとスイに近付き、両手をかざす

するとその両手から、優しいそよ風が吹く

それを浴びた2人の顔が…恐怖により(こわ)ばった顔が…たちまち柔らかくほぐされていく

「………これ…は…?」

「え…? え…? どう…どういうこと…??」

ただし『疑問』の表情も同時に生まれた

「…しばらくそこで『治療』されてなさい。 頃合いになったら、『彼ら』が運んでくれるわ」

ユゥカは頭に『?』が浮かぶ2人に背を向けながら、そう言って通路を進んでいく

その方向は、アレスとシードがレインカを探しに行った方向の通路だった

「私は先に行くわ。 大丈夫よ。 貴方達も連れて行ってあげるから。 今は…その怪我を治す事に集中しなさい。 いくら『治癒魂術(ちゆそうじゅつ)』を使っても、結局は自然治癒能力活性化に強く左右されるのだから」

コツッコツッ…っと、その歩みを止めないユゥカ

それを、声を(あら)らげて止めようとするミーシャ

「なに…何よ!? どういう事よ!? これは私達を治しているの!? どこに行くのよ!? 説明…しなさいよ!」

体は動かない

力の限り戦ったミーシャ達は、体がボロボロだった

動きたいと思っても動けない

しかし口は動く

何とかしてユゥカを言葉で止めようとする

だが逆に、()()()()()()()()()()()()()()()()

「…落ち着いてくださいミーシャさん… これは…わたし達は本当に…『治療』されているようです…」

そう言ったスイは、右腕を上に()()()

スイもミーシャと同様に体がボロボロで、動けないはずだった

しかし上げれた

そしてミーシャは気付いた

動いた腕の事…その腕にあったはずの傷が、()()()()()()()()のを

「スイちゃん…動けるの…? それに…傷が…!」

ミーシャは驚きの表情を見せる

「…はい…少しずつですが…治っています… おそらくですが…ユゥカさんの言っていたことは本当です… このそよ風は…『治癒魂術』の1つです… それも…かなり()()です… わたし達の自然治癒能力活性化と…外部からの外傷修復作用を持ち合わせた…効果の高い魂術です…」

「そ…そうなの…?」

「…はい… ミーシャさんも…自身のソウルを体の隅々まで巡らせてください… 細胞を…活性化させて…自然治癒能力を高めてください…」

言われた通りにミーシャはやってみる

「……………あ……何となく…傷が治りやすくなっている気がする…わ…?」

「…治療する…のはわかりました… が…どうしてでしょうか…?」

スイは疑問に思う

あれほど自分達と激しい戦闘を行ったにも関わらず、治療をする理由や意味が分からなかった

一歩間違えれば死んでいたのかも知れない程の戦闘だったにもだ

だがここで1つの『()()』が立てられた

それは…ユゥカを含めた者達は、『レインカを(さら)う事が目的』では無く、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』のでないか…?

という仮説が立てられた

だからこそ、『戦闘』が目的だからこそ『死なせる』事はしない…そう考えるのが妥当(だとう)と言える

スイはそう思いながら、まずは自分の傷を癒す事を優先にし、それほど深くは考えなかった

ミーシャもまた、疲弊(ひへい)した体を癒す為に、己の体にソウルを巡らす事に専念した




















 ―――皐月(さつき) 16ノ日(じゅうろくのひ) 火魂日(かそうび) 午後6時55分―――




コツッ…  コツッ…  コツッ…




「……()()()であれば…彼を治せますか…?」

…ロウは、自分とシードの居る広場に入って来た人物に、そう尋ねる

「……」

「…申し訳ありません… そんな事をお聞きするのは杞憂(きゆう)でありましたね…」

返事をしなかったその人物の気持ちを汲み取り、ロウはそう言って謝罪する

そしてスッと立ち上がり、もう聞こえてはいないシードに、獣の様に低い声で言う

「…今の君の体では何も出来ない… 諦めるんだ。 後は…()()()()()()

「………」

ロウと力尽きたシードが居る広場に入ってきた人物は、()()()()()()()()()だった

「………」

「……? ユゥカ団長…?」

何も言わないユゥカに、ロウは不思議そうに尋ねる

「…聞こえているわ… ちょっと驚いただけよ…」

「…何に…ですか?」

()()よ… まさか…貴方が()()()()やられるなんて思って無かったから…」

ロウの体は随分とボロボロだった

傷は塞がっているものの、腹にまるで()が空いたかの様な傷口があり、全身にも切り傷が付けられ、体力もかなり削られているのが見て取れた

「…彼が…予想以上に強く苦戦しました… まさかここまで『強い』とは… 力もですが…『魂』が誰よりも強かったのです…」

「それは…貴方の『団長』よりも…かしら?」

ユゥカは興味津々に聞く

そしてロウは()()()()()()()首を縦に振る

「はい… 団長よりも…強かったです…」

「そう…? 意外ね…貴方は団長一筋と思ってたけど…」

予想していた答えとは違い、少し残念そうにするユゥカ

そんなユゥカに、ロウは催促(さいそく)する

「…それよりも、彼を治せますか?」

「もちろんよ。 任せなさい」

ユゥカは倒れているシードに近付く

そして仰向けにする

「…! 凄い…わね…」

流石のユゥカも驚く

シードは軽く見ても、ロウの3倍の怪我を負っていた

腹部に空いた穴から血が流れ、全身の切り傷からも血が少し出ていた

全身打撲と言っても良いほどのアザが身体中に出来ており、おそらく骨折はしていないがヒビは数ヵ所あるだろう

ユゥカが驚いたのは怪我の『度合い』では無い

この怪我で、()()()()()()()()()()()()()に驚いていた

「……」

「…治すのは…厳しいですか…?」

ロウは若干不安げに聞く

しかしユゥカはそう言われても、何も不安に感じない

「いいえ…私の『()』なら、これぐらい造作も無いわ」

そう言うとユゥカは手をシードに向け、ソウルを指先に集中させる

そして次の瞬間、ユゥカの指先から細い『糸』が飛び出した

ビシャァァッ!!っと出たそれは、白く細い蜘蛛の糸だった

ユゥカの両手の10本の指先からそれぞれ出た糸は、シードを瞬く間にぐるぐると覆い尽くし、やがて(まゆ)の様にシードの全身を包んだ

「…それでよろしいのですか…?」

流石にロウも不安になる

いくらシードが重傷だからと言って、こんな包帯でぐるぐる巻きにされたミイラの様にしなくてもと、ロウは言いたげだった

「これが一番効果的なのよ? 私のソウルを元に作られた『蜘蛛糸』…この糸はソウルを通しやすい糸だから、『治癒魂術』を流し込めば全身に隅々まで治癒効果が行き渡るわ。 普通に『治癒魂術』を使うよりも、ソウルの糸との相乗効果によって治癒効果が何倍にもなるの。 ()()()()()()()()()()()安心して。 見た目は少し悪いけど、ちゃんと呼吸穴もあるし、死にはしないわ」

「しかし傷口が…」

「…ちょっとちょっと! どこまで連れて行くのよ!?」

ロウは突然聞こえた声の方向を見る

後ろを振り向くと、そこにはサイク・ロプス5体とその内2体にお盆を持つかの様に支えられたミーシャとスイが居た

ミーシャは広場に入るやいなや、ユゥカを見付けると怒鳴り声を上げる

「あっ! ちょっと! 私達もう歩けるわよ!? 早く降ろしなさい! ていうかどこまで連れて行くの…ちょっと…それ…まさかシード!?」

ミーシャの上げた怒鳴り声も、蜘蛛糸でぐるぐる巻きになった異様な姿のシードを見た瞬間、静かになってしまう

「…シードさん…もしかして…!」

スイは青ざめた表情を見せる

それをロウは見つけると、直ぐに訂正する

「ま…待つんだ! 別に死んだ訳では無い…! あくまで治療だ…! 誤解だ…」

「早とちりもいい所ね… もっと冷静に考えないと

「友人がこんな姿になっていたら誰でも勘違いしますよ!」

ユゥカに鋭くつっこむロウ

「…生きている…のですね…?」

「あ…あぁ…安心してくれ…とりあえず生きてはいる… こんな姿になってはいるが…」

スイはホッ…と胸を撫で下ろす

しかしそこでミーシャが気付く

「…? というか…なんでロウさんがここに…? そもそも…2人は知り合いなの…?」

今更そこに疑問を持ってくる

「…貴方達には説明しなくてはならないわね。 …とりあえず、この先に行きましょう…彼の治療も進めながらね」

ユゥカは再び指をパチンッと鳴らす

すると5体目のサイク・ロプスがシードの所に近付き、シードをミーシャやスイと同様に持ち上げる

そして持ち上げたサイク・ロプスの両手から淡い『光』が出る

「ユゥカ団長…これは…?」

「触れた対象を治療する『治癒魂術』よ。 2人を治療したものより強力な術ね。 …貴方との戦闘は過激になると思って()()しといて良かったわ。 …さ、行きましょう」

ユゥカはまたコツッコツッ…っと、歩き始めた

「ちょっ…! ちょっとちょっと! いいから私達を降ろす様に命令しなさい! もう大丈夫…歩けるから!」

「駄目よ。 ちゃんと完治するまでは絶対安静よ。 そのまま大人しくしておきなさい。 ロウ、行きましょう」

ミーシャが騒いでも気にも止めないユゥカ

3体のサイク・ロプスに抱えられたミーシャとスイとシード

残り2体はミーシャ達に『治癒魂術』のそよ風を与え続けている

そしてロウとユゥカは、そのまま5体のサイク・ロプスを連れて通路を歩いて行った

アレスが進んだ通路を





















 ―――皐月(さつき) 16ノ日(じゅうろくのひ) 火魂日(かそうび) 午後7時02分―――




「事の発端は『陸王(りくおう)』様の言った一言だ。 『『()()()()()()()()()()』…そう陸王様は言った。 そこから『準備』が始まった。 まずは『協力者』…つまり、俺や団長…そしてユゥカ団長が必要だった」

「貴方達と面識のあるアーサー君やロウ君は必要不可欠…私は実験で創り上げたサイク・ロプスの試運転の為に…と言っても、既に実験段階では動作に問題は無かったから、後は対人戦のデータが欲しかったからそのついでに2人と協力する事にしたの…元々は怪我を負ったらそれを治療する為に協力して欲しいと言われたんだけど…」

「よって今回の騒動は俺達しか知らない。 他の騎士団員は関係が無いのだ」

サイク・ロプスに抱えられたミーシャとスイに、ロウとユゥカは説明する

「次に『場所』…この王都(おうと)『サニーライン』内である程度の戦闘が行える場所を探す必要があった」

「候補…と言うより、私達の知る限りその『場所』は()()しか無かったわ」

「今俺達が居るこの地下通路…通称『アンダーライン』と呼ばれる地下迷宮だ」

「『地下迷宮』…? 『アンダーライン』…?」

ミーシャがサイク・ロプスに抱えられながら尋ねる

「元々この王都はこの『地下迷宮』の()に建てられたのだ。 地下迷宮がいつの時代で何の目的で造られたのかは分からない。 が、おそらく永い時間を経て地下迷宮の上に土砂が積もり、その土地に目を付けた者がこの王都を建設…そして今の王都が出来上がったと思われる」

「ただ、耐震構造と対衝撃構造がしっかりと出来てる上で、かつ地上への影響もほとんど無い事を踏まえると、私達はここが一番その『場所』として最適だと思って決定したの」

「この地下迷宮…『アンダーライン』は現在、騎士団の戦闘訓練や王都の各地区への移動手段として利用されている。 アンダーラインは広大でなおかつ王都全域まで張り巡らされている。 本格的な模擬戦や、王都に侵入した犯罪者(テロリスト)を地上と地下から移動して挟み撃ちの形にする事も可能だからな」

ロウとユゥカは淡々と説明する

「そして最も重要な『()()』だ。 陸王様は何か考えがあって今回の計画を立案したに違いない。 その計画が、『()()』『勇気と試練を与えたい』のか…それは他ならぬ『陸姫(りくひめ)』様にだった」

「『()()()()()』があって気持ちの整理がつかないのも、大きな責任を感じているのも、強い恐怖心を植え付けられたのも、全て『克服』しなくちゃならないわ…『陸姫として』当然の事よ」

「酷な事だが、それは乗り越えなければならない。 その為に、陸姫様には『勇気』が必要だった。 誰かが強大な『悪』に立ち向かう『勇姿』を見せて陸姫様を勇気づける…そんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ」

そこでミーシャとスイは初めて気付く

()()()()()()()()()()()()

「…ちょっと待って…えっと…つまり…」

「私達はあくまで、その『台本』通りに動いていたのよ。 ここまでは全て()()。 陸姫様の誘拐…貴方達の追跡…私達との遭遇…そして戦闘… 全て用意された台本通りに進んで『物語』を(つむ)いでいたの」

「…ここまで…全て…()()()()()()…」

「そうだ…ここまで全て



コオオォォォ………!!



「「「「!!!??」」」」

突如、4人が進む通路が明るい『光』で照らされた

そして鳴り響く轟音…

それらは、何か大きな『力』と『力』がぶつかった様な光景を想像させた

その『力』に、ロウは身に覚えがあった

「これは…! 団長…!? それと…まさかアレスか…!?」

「凄まじいソウル同士のぶつかり合いね…! アーサー君と戦う…アレス君がここまでの力を出せるなんて…!」

流石のロウとユゥカも驚く

あのアレスが、()()()()()()と拮抗した力を出している…それにも驚いたが、何よりアーサーに()()()()()()()()使()()()()事に驚いた

『王国騎士団特殊殲滅隊(とくしゅせんめつたい)団長』であるアーサーが、まるで『()()()()』を倒す様な力を使う…そんな状況になって()()()()()()のだ

『何が起きているのか…?』…そう思わざるを得ない

「…ご主人様…!」

スイがそんなアレスを心配し、サイク・ロプスに抱えられた手からバッ!っと飛び降りる

「あっ…! ちょっとスイちゃん…!」

スイを追い掛ける様にして、ミーシャもサイク・ロプスの手から飛び降りる

そして2人は今はもう治まった『光』が発せられた方へと駆け出して行った





















 ―――皐月(さつき) 16ノ日(じゅうろくのひ) 火魂日(かそうび) 午後7時07分―――




「アレスさん! もうお止め下さい! 大丈夫です! ()()()()()()()()()()()()()()()!!」

間違いなかった

間違いなく、()()()()()()()()()

アーサーに刺されたはずのレインカが何故生きているのか…?

それをアレスは聞く事は出来なかった

「レイ……ンカ……? どう……し…て………」







                ドサッ………





「!! アレスさんっ!」

意識を失って倒れたアレスに、レインカが叫ぶ

「安心して下さい…気を失っただけです…」

そう(さと)す様に言うアーサー

「…アレスさん…わたくしは…」

レインカは申し訳なさそうな表情と心配する表情とが入り交じった複雑な表情を見せる

「陸姫様が気に病む事はありません…これは…この『結果』は、彼が()()()()()()()からこその『結果』なのです… 誰よりも陸姫様を救いたいという気持ちと…『英雄』を目指すその魂が誰よりも『強く』、そして激しく沸き上がる感情を抑える事が出来なかった事と…彼自身がまだまだ『弱い』からこそ、今の彼は『敗北』したのです… 私に…そして『自分自身』に… ですが…私は彼よりもむしろ

「…ご主人様…!」

アーサーとレインカの居る広場に入って来たのはスイだった

スイは床にうつ伏せで倒れているアレスを見ると、急いで駆け寄る

「…ご主人…様…」

直ぐに呼吸の有無を確認する

…僅かではあるが、息はしている

そんなアレスに、スイはホッ…と胸を撫で下ろす

「スイちゃん!」

次いで、ミーシャが広場に入って来る

「スイちゃ…って…アレス!? 何でこんなにボロボロなの…!?」

ミーシャもアレスの様子が気になって仕方がない

「…詳しい事は後で話す… だが…想像以上に彼が強かった…からこそ、此方も少々本気を出さざるを得なかった…そんな状態にしてしまって済まない…」

アーサーは2人に詫びを入れる

「団長!」

そこにロウとユゥカ、そして5体のサイク・ロプスが入って来る

「ロウ…ユゥカさんも来…その後ろの生物は一体…?」

「な…なんですか…それは…!?」

見た事も無い生物であるサイク・ロプスに、アーサーとレインカは驚く

「説明は後回し…それより、アレス君を治療するわ。 2人共…良いかしら?」

ユゥカはその手に再び『糸』を作り出す準備をして、アレスに駆け寄ったミーシャとスイに離れるように促す



――5分後…



アレスの簡易的な治療が終わり、ようやく状況が落ち着く

治療と言っても、シードと同じで糸をグルグル巻きにしただけの治療だった

5分もかかった理由は別にあった

アレスの体を見たユゥカはその()()()()()()

()()()()()()()()()()()』のだ

アーサーとの激しい戦闘があったにも関わらず、足に重大な傷を与えられたにも関わらず、傷痕があれど『傷自体』がほとんど無かったのだ

それはつまり、『治った』という事

ソウルの自然治癒能力活性化により、傷が()()で治った…そう推理せざるを得なかった

アレスは体力の限界で倒れてしまったのだが、少なくとも出血多量や痛みによる気絶では無いことは確かだった

この事から、アレスの体は『大量のソウルによる自然治癒能力活性化状態に()()()()()』のが分かる

もちろんソウルを大量に使えば誰でも自然治癒能力活性化になれる訳では無い

何故アレスはそうなっていたのか?

それを解明しようと、ユゥカは(ふところ)からおもむろにメスやら注射器やらの道具を取り出して、まるで手術でもするかの様に準備していた為、ミーシャやスイにものすごい勢いで止められて時間が掛かってしまっていた

ユゥカは医者では無いが科学者(サイエンティスト)である

『知らない』なら『調べる』のが彼女の常識

しかし止められた

ユゥカは渋々『糸』で治療した

「…とりあえず応急措置はしたわ。 でも外傷はほとんど無かったから、今のシード君みたいに『傷の治癒魂術』じゃなく、『疲労回復の治癒魂術』で治療するわ」

そしてシードと同じく、糸でグルグル巻きにされたアレスをサイク・ロプスが拾い上げる

その両手が光り、爽やかな風がアレスに吹き付けられる

…それを見届けると、ミーシャが切り出す

「そろそろ…教えて欲しいわ… ()()()()()()()()()()()()… 『理由』と『意味』を教えて欲しいわね…?」

正直、ミーシャもスイも純粋なる『命のやり取り』である戦闘を行ったのだ

それなりの理由が無いと納得出来ない

ミーシャが半ば詰め寄る様にアーサーに問い掛ける

「…そうだな…知る必要はもちろんある… 今回の

「今回の出来事は全て『()』が提案した物だ」

突然、広場に少し低めの威厳(いげん)を感じる声が響き渡った

「「!!?」」

ミーシャとスイはその声のした方向を見る

するとそこには、一人の男性がこちらに向かって歩いていた

「…!! この様な所まで…」

「御足労頂き、感謝します」

ロウとユゥカは、その男性に向かって(ひざまず)き、敬意を払う

「いやはや…私だけ何もしない訳にはいかないからな… 当然だよ」

男性は笑いながら言葉を返す

「…誰…かしら…?」

「…わかりません…が…」

スイはこの男性が誰か分からなかった…が、この男性が()()()()()は大体予想がついた

王国騎士団()()()のロウと()()のユゥカが跪く様な人物…それは片手で数えられる程しか存在しない

「アーサー、私から説明してもいいかね?」

「…もちろんで御座います…」

アーサーは男性の言葉に対し、深々と頭を下げる

そんな様子を『誰なんだ』と見るミーシャも、次のレインカの言葉でこの男性が誰かが分かった

()()()…! どうしてここに…?」

「えっ!? 『お父様』…!?」

――そう…この男性はレインカの父親…つまり、

「レインカ、私は勿論『()()』をしに来たんだ。 この『物語』の説明を… さて、自己紹介から先にしてしまおう。 ミーシャ君、スイ君、私がレインカの父『天帝(あまみかど)バレーノ』だ。 俗に言う『()()()()()()()()()()さ。 まぁ宜しく頼むよ」

『陸王』…この世界の中心にある中央大陸『セントレイン』…そこで一番の権力者が『彼』なのだ

しかしもっと厳格ある人かと思えば、存外そうでも無い

まるでちょっとした頼み事の様に話すその口調からは、『威厳』はあっても『尊厳(そんげん)』が無い

「陸王…様…?」

「…あなたが…」

ミーシャとスイはどちらかと言えば『困惑』していた

この人が陸王であってもそうは見えない

髪はレインカと同じく金髪で、短めのオールバックに近い髪形だった

顔はまるで幾つもの修羅場をくぐり抜けて来た様な面持ちで、やわらかそうな目でも瞳の奥には『鋭さ』が宿っていた

服装はやはり『陸王』の名に恥じない程の立派な服装で、黒と赤を基調としたどこかトルコの王族衣装の様な雰囲気をかもし出す、長袖の凛々しい姿をしていた

マント等は無く、王冠も無い

しかし身長が高かった

おそらくロウと同じぐらい、アレスよりも15~20センチは高い

もしかしたらもう少し高いかも知れない…それぐらい高かった

そんな陸王…バレーノは少し低めの威厳を感じる声で2人に話す

「今回の出来事は…もう聞いたかも知れないが、『勇気』…そして『試練』を与えたかったが故に行った事だ。 『勇気』はレインカに、『試練』を君達にだ。 …と言っても…『試練』はどちらかと言えばアレス君に向けて、だったのだが…君達にも良い経験になったかな?」

あっけらかんとそう言うバレーノに対し、若干怒り気味で反論するミーシャ

「い…良い経験だなんて…私達死にかけたんですよ!? どうしてこんなになるまでやったんですか!?」

「…シードさんとご主人様は無事ですが…すこし…やりすぎだと思います…」

2人の言う事は正論である

「いやいや…それは申し訳無い… 騎士団の者達は少々()()()()()所があってね…」

チラッとロウやユゥカ、アーサーを見る

「だがこれから進む道の上で、彼等の様な『強者』と戦う事が必ずあるはずだ…その時の『()()』…『強者と戦う事の経験』を得るのと得ないのとでは、雲泥の差がある。 それが私の与えたかった『試練』の1つでもある」

バレーノは小さく咳払いをする

「後日しっかり説明するが…『試練』とは『()()』である。 『体』と『魂』に、その『経験』を刻み込む事で、より強く成長する。 『剣を見た』だけでは意味はあっても経験にはならない。 『剣を触った』だけでは感覚はあっても経験にはならない。 『剣を振る』だけでは経験はあっても()()は出来ない。 つまり、『剣で戦う』その『経験』こそが、『人』として成長した事に繋がる。 その経験があれば、守りたい者をいざという時に守る事が出来るのだ。 私は、君達にその『経験』をして欲しかったのだ。 彼等…騎士と戦う事でな」

バレーノは腕を組み、頷いて喋る

「君達は正しい『正義の(こころ)』を持っていて、私は()()()()よ… 圧倒的なる強者と戦う事に『恐怖』を感じながらも、『レインカを救いだす』…そのたった1つの目標に向けてひた走るその姿…結果論だが、私はこの『試練』を与えて良かったと思っている」

「「……」」

ミーシャとスイは黙ってそれを聞いていた

自分達に与えられた『試練』…強い者と戦う『経験』を受け、この先に戦う事があるであろう『悪』との戦い方…その『経験』を持って欲しかったと言うバレーノの気持ちに、ある程度の納得はした

納得はした…しかし分からない事があった

「そしてレインカにも、無事に『勇気』を与えられたのだからな」

バレーノの言う『勇気』…これが分からなかった

「レインカちゃんに勇気って…どういう事ですか?」

するとそれを聞いたバレーノは笑った

「ハッハッハッ! 今のレインカを見てみるんだ!」

視線がレインカに集まる

「先程まで強大な『悪』に気圧されていたその姿は、今は微塵も感じられない! それは何故か? 君達が『自分(レインカ)の為に戦っている』というその勇姿を、レインカに見せ付けた為だ!」

バレーノは指を天井へと軽く向ける

「この地下迷宮は無数の『監視カメラ』が設置してある。 その赤い扉の奥にはそのカメラの映像が映し出されている。 私はその映像を見ているんだとアーサー伝いにレインカに指示した。 誘拐された自分の為に、命を掛けて救いだそうとする君達のその勇姿に、レインカは徐々にではあるが確実に勇気付けられた筈だ。 『陸姫にならなければ良かった』と責任を感じる自分を心配し、『側に居なくては』『今だからこそ』『ヒーローとして』『助ける』…そんな強くて優しき想いを秘めた彼等の姿を見て、勇気付けられない訳が無い! …そして最も重要なのは…()()()()()()()()()()()()だ」

天井に向けてた指を、今度は赤い扉へと向ける

「私はアーサーに、『この部屋に絶対居るように』とレインカにそう言ってくれと頼んだ。 そしてレインカもその通りに、その部屋に居た。 しかし扉の前で戦っているアレス君の姿を見て…そしてアレス君がボロボロになってでも自分を助けようとする姿を見て…そんな姿になってもまだアーサーに立ち向かおうとする姿を見て…誰も言っていないのにも関わらず、『()()()()()()』扉を開けたのだ。 戦いを止めようと、アレス君を救う為に。 …それが…その扉を開けた事を、『()()()()()()()()()()()? 恐怖を打ち破って体を動かしたその行動は、『勇気』によるものだと言い切れる。 …私は、それをレインカに与えたかった」

そしてニカッ!っとバレーノは大きく笑う

「アーサーやロウやユゥカが『犯罪者(テロリスト)』としてレインカを誘拐した事にし、それを君達が追い掛ける! そして強者である彼等と戦う! そしてレインカを救出する! 素晴らしい物語だ! 私は、『勇気』と『試練』を与える事に成功した! …反感や怒りは全て聞こう…私はこの行動に『悔い』は無い。 それで『成長』するのであれば、何も問題は無い」

バレーノは手を広げ、促す様に大きな声を上げる

「さあっ! この地下から出て地上へと戻ろうではないか! 1つの物語はここで終わり…新たな物語が始まる…そんな祝杯をあげるのに、こんな狭くて暗い場所は似合わない! では戻るとしよう!」

…そして、バレーノを筆頭に、アーサーやミーシャ達は地下迷宮の通路を辿って、王城『スカイヘイム』へと戻るのだった


















―――現時刻より数時間前

     皐月さつき 16ノ日(じゅうろくのひ) 火魂日(かそうび) 午後5時53分―――





「………」

レインカは静かに目を閉じる

…コンコンッ

しかし閉じた目は唐突に開けられる

レインカの私室のドアがノックされる音で

「…どなたですか…? 今は…誰とも…お会いしたくは…」

コンコンッ…コンッ…

「…?」

「―――陸姫様… 貴女様に…『勇気』を授けに参りました」



ガチャッ…








 サークルワールド HERO ~一期一会編~ 第六章



    中央大陸英雄(たん) ―騒乱―  最終話






        騒乱、そして終結







           完






~今回の後書きは本編の補足の物語です~



「…アーサーさん…? 『勇気』…とは…?」

「大丈夫です。 陸姫様は私に付いて来て下さい。 これから、陸姫様を『誘拐した事』にします」

「!?」

「ご安心を…そういう『物語』です。 陸姫様を誘拐した事にし、それを『彼ら』が救出する…そんな『物語』を、陸王様がお考えになっております」

「…!? お父様…が…?」

「その通りです。 私と共にここから目的地まで進めば、陸姫様は他に何もしないで大丈夫です」

「……」

「突然こんな事を言われても混乱してしまうでしょう… しかし、陸王様は陸姫様を心配して

「わかりました」

「!?」

「行きましょうアーサーさん。 正直…『勇気』が何かはわかりませんが…わたくし自身が…とにかく動かなければ始まりません… 恐い…ですが、お父様のことですから、何か考えがあるかもしれません…行きましょう」

「…では、参りましょう」

(陸王様…この時点で…勇気が陸姫様には少し宿っている様です…!)




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