激情
「うぅっ…ぐぁ…っ…!!」
「…だ…大丈夫ですか…ロウさん…!」
「…あぁ…気にするな… お前と…勝負しようと言ったのは俺だからな…心配する必要は無い… やはり…アーサー…お前は強い… 陸王様が…お前を『殲滅隊団長』に任命した事に…これで俺は何も文句は無い… 他のやつらは…なんと言うかは分からんがな…」
「…ロウさん…私は…」
「実力は俺以上…潜在能力もまだ秘めている… そして…危ういが…誰よりも真っ直ぐに進もうとするその『意思』… 俺はそんなお前に期待を込めて…喜んで『団長』を推薦するとしよう…!」
「しかし…私よりもロウさんの方が…団長として適任かと思います…!」
「なら…お前が適任だと思う俺が、お前が適任だと言っているんだ… 何も問題は無い…だろ?」
「…分かりました… ロウさんがそう言うのであれば…」
「当然だ… 只今を持って、『王国騎士団特殊殲滅隊団長 ロウ・パサード』は、団長の称号を『天帝アーサー』に引き渡す。 …頑張れよ、アーサー」
「…精進します…ロウさん…」
「だが…『3つ』だけ、頼みがある」
「…?」
「1つ…俺はお前とこれから『敬語』で接する。 お前が『団長』だからでは無く、お前の目指す『未来』と『力』に『敬意』を評してだ。 1つ…お前も俺に対しての『敬語』を止めろ。 年上だからと言って遠慮する事も無い。 何故なら立場をハッキリさせる為に、それは必要だからだ。 お前が『団長』、俺が『副団長』。 それをしっかりと表す必要がある。そして最後の1つ…」
「……」
「何があっても自分を信じて突き進め」
「……それは…」
「絶対的に正しいやつは存在しない。 受け止め方1つで『正』にも『悪』にもなるのが世の中だ。 ならば1つ…『己を信じ続けて進むしかない』。 曲がっても、折れても良い。 ただ、『信じて』『進め』。 それだけだ」
「…分かりま……いや…分かった。 ロウ」
「…頼みましたよ…団長…」
(これが…これらが正しいがどうかは分からない… だが…私は信じている… この先に…『光り輝く未来』があると…!)
「…やはり…英雄を諦めないか…」
「あたり…まえだ…! 諦めないんじゃない…! 諦めれないんだよ…! 必ず…『ヒーロー』に…なる!!」
アーサーは疑問を感じていた
自分がここまでしてアレスを止めようとしているのにも関わらず、それら全てを聞かずに自分の『意思』を貫こうとするアレスが、不思議で仕方がなかった
自分と同じ『英雄』という大きな目標を持つ少年
だが先に英雄を目指し、そして先に英雄を諦めたアーサー
それは受けた『傷』が深すぎるからだ
深く負った『傷』は、やがて『化膿』し、もう元には戻らない『傷痕』とトラウマという『膿』を残す
そしてそれらは、『魂』をも傷付けてしまう
体に付けられた傷は時間をかければいつかは治る
例え痕が残ったとしても、『治った』と言える
しかし『魂』に付いた傷は一生かかっても治らない
その傷の『痛さ』を、アーサーは誰よりも知っている
知っているからこそ、目の前にいる純真無垢な少年に、同じ思い、同じ傷を受けて欲しくない
英雄を目指すという事は、自分に向かって来る傷を、言葉を、痛みを、風を、そういったあらゆる『もの』を受けながらも進む事が出来る、強靭な『精神力』を持っていなければならない
人生の経験が浅いアーサーやアレスは、それを持っていない
アーサーは、アレスを止める
自分と同じ様な『傷』を負って欲しくないから
止めた上で尋ねる
「何故…そこまで『英雄』に固執する…!? 教えてくれ…君の『覚悟』と『意思』を… どんな『決意』で…『英雄』を志しているのだ…!?」
…そう聞かずにはいられなかった
「…? どういう意味だ…?」
アレスはキョトン顔で聞き返す
「英雄になる事に…そこまで『こだわり』を持つ必要は無いのではないか!? 諦めて…私と同じ様に…! 騎士や団長…そして『聖騎士』を目指す事でも良いはずだ…! 私の言葉を聞いて…英雄を諦めても良いはずだ…! 何故…諦めない…!?」
「…?」
アレスはそれを聞いても、理解出来ていない様子だった
それは、アーサーの言っている意味が分からない訳では無く…
「『ヒーロー』って…誰かに言われて諦めることなのか?」
『諦める』という事が分からなかった
「!? なに…を…?」
アーサーは、先程のアレスの様にキョトン顔になる
そんなアーサーに、アレスは語り続ける
「俺は『ヒーロー』になりたいからなる。 それを誰に何を言われても変えるつもりはない… たとえ…『ヒーロー』を目指していたやつに、『諦めろ』って言われてもな…! 簡単な理由だ…憧れてんだから…! 『ヒーロー』になることを…!」
アレスは、幼い少年が抱く夢を語る様にキラキラした表情で、『ヒーローになる』と宣言する
しかしアーサーはそうでは無い
「…それを…誰も望んでいないとしても…か…?」
「望むやつならいるだろ? 俺自身が」
「!!」
アーサーは不意を突かれる
アレスが急に真顔になってそう言い放ち、アーサーはそれを聞いて驚く
「誰かに望まれる『ヒーロー』も俺は目指している…けど、誰よりも何よりも、俺自身が『ヒーロー』になることを望んでいる。 みんなの『ヒーロー』なんて、今の俺には難しいけど…誰かの『ヒーロー』になれれば…俺はそれでいい。 だからこそ、『ヒーロー』になることを、俺自身が望んでいる…誰かの『ヒーロー』になりたいから… それに…憧れたんだ…! 『強さ』と『優しさ』を持っている『ヒーロー』に…! だから…『ヒーロー』になることを…俺は諦めない…!!」
すぅっ…っと息を吸い、そして吐く
アレスは呼吸を整える
「…そこをどけ…! レインカを…俺は助けるんだ…! 俺はレインカの『ヒーロー』に…なってみせる…!」
アレスのその目は未だに死んでいなかった
身体中を傷付けられ、立つ事すらままならない状態であっても、それでも諦めない
刀を強く握り、乱れた息を整え、アーサーを真っ直ぐ見据える
そして一歩、足を前へ出した
――その瞬間、アーサーは覚悟を決めた
(…私は…これが正しいと信じる… 例えそれが…どんな結果になったとしても…)
スゥ…っと、アーサーは剣を自分の前へ掲げる
すると突然、眩い閃光が辺りを包んだ
ピカアァァッッ……!!
「うぐぅっ…!」
あまりの眩しさに、アレスは目を開けていられなかった
片手で目を覆い、光を直視しないようにする
…数秒後、光は治まった
「なん…だ…? いったい…!!」
そこには、なんとレインカが居た
アーサーの目の前の床に、うつ伏せになって倒れこんでいるレインカが居た
「レインカっ!!」
しかし反応しない
目は閉じ、アレスの呼び声に返事もせず、まるで人形の様に静かに倒れている
アレスは『レインカを助ける』事しか考えなかった
どうしていきなりレインカが目の前に現れたのか…とか、どうしてアーサーは光の中で自分に攻撃しなかったのか…とか、どうしてレインカは起き上がらないのか…とか…
そんな事を一切考えもせず、ただ目の前のレインカを助け出す…
アレスはそれしか考えていなかった
レインカを助ける為に、アレスはもう一歩足を前に出す
…が、アーサーが剣を構える方が早かった
「なっ…!? なにして…!?」
アレスは目を見開く
それもそのはず
アーサーは剣を、剣先をレインカの首に向けて構えているのだから
その状況を一言で表すなら、『殺そうとしている』のだ
「…私は感心して…そして『羨ましい』と感じている… 私も君の様に…『英雄を目指す事』を…そうやって考えれる事が出来たら… 今頃…こうなっていなかったかもしれん…」
スッ…っと、剣をその状態のまま少し上げる
「だが…やはり、『英雄』は諦めてもらう必要がある… まだ君には知ってもらう必要がある… 『望む者が居ない英雄』という…『空虚感』を…」
更に剣が少し上がる
「や…やめっ…ろ…!!」
アレスは必死で前へと進む
しかし元々傷付いた体…特に、足に受けた傷の影響が大きく、歩くのが精一杯の状態では、思うように前に進めない
そんなアレスを尻目に、アーサーは剣を上げるのを止める
そして…こう言い放った
「君が『正義』で構わない。 私が『悪』で問題無い。 ならば…『悪』を止めるのも…『正義』の努めであり…『英雄』の背負う『業』の1つだ… 君に…『守れなかった』と言う『罪』と『後悔』を背負い…『英雄』で居られるか…?」
ヒュッ……
ザシュッ
「うぁ…!! うわああぁああぁぁあぁぁっっっ!!!」
アーサーの剣がレインカの首に突き刺さった時
アレスの中で、何かが弾けた
この時…アレスは沸き上がる圧倒的なる『怒り』により、反射的に発現した『獣心化』が異形の姿へと変貌する
それを見たアーサーは…後にその姿をこう呼んだ
『獣心化』 ≪電光閃火≫―――と…
前回の続き
詳しくは前回の後書きを見て下さい
「…天帝家の人々は、この中央大陸に数ある『国』を廃止し、『1つの大陸』として管理する様にした。 そして大陸を幾つかの地域に分割し、その際、天帝家の人々がそれぞれの地域を管理する体制を取った。 もちろん反発もあった…が、これに賛同する者の方が多かった。 それは他ならぬ、『国民達』だった。 更に争いを強制的にやらされてた『騎士団』の者も、それに追従した。 人々は天帝家の方法に賛同し、各国の国王に反発する様になった。 …結果、国は廃止。 『国王』は『陸王』…『国』は『大陸』に… そして現在の様に、『大陸に1つの王都、一人の陸王、そして各地域を治める権力者達』…という政治形体になったのだ」
「それが『王国騎士団』と何か関係あんのか?」
「『王国騎士団』は、その時の名残…変える必要が無かったと取れるが、おそらく…『大陸騎士団』にしてしまうと、騎士団の管理が難しくなるのだと予想したのだろう。 よって敢えて変えていない…のかもしれん」
「…つまり…変えたのは『政治形体だけ』…ということでしょうか…?」
「なるほど…天帝の人達は『国』を変えたいだけだった訳ね… 他を変えてもしょうがなかった…のかもしれないわね…」
「俺が思うに、『戒め』なのかもしれねぇな。 昔あった…『国』があった時代の…『奪い合う国同士』があった時を忘れない様に…それが風化しない為に、わざと『王国』を名乗って忘れない様にしてる…のかもしれねぇな」
「あぁ…そうかもしれんな… 捉え方は自由…しかし、天帝家の人々が変えなかった理由は必ずある。 …シードの考えが一番合っているかもしれんな」
「…ちょっぴりしんみりしちゃったわね… また次回、会いましょう…!」




