アーサーの『過去』と英雄の『業』
―――アーサー視点―――
今から20数年前…
この世界に『脅威』が降臨した
魔物『エニグマ』が今より凶暴化し…犯罪者が多く蔓延り…
世界は絶望と混乱に陥っていた
そんな時代に、私は産まれたばかりだった
とある地域…とある村…とある日…
もう思い出せない…いや、覚えていないのだ…
それほど私は幼かった
そんな私が、村をエニグマと犯罪者が襲うと言う悲劇を覚えていないのは当然だった
…『脅威』…その当時、『魔王』や『魔人』…更には『神』と呼ばれた存在…その脅威が、エニグマと人を支配し共闘させた
それにより、エニグマと犯罪者が同時に町や村を襲う…そんな事が多々あった
私の居た村も、そんな被害にあった村の1つだった
私の家族…親しかった友人…お世話になった知人…何もかもが、その一夜にして全て奪われた
だが、それすらも幼かった私は覚えておらず思い出せもしない
しかし、ただ1つだけ…おぼろげだが覚えている事がある
それは誰かが…崩れた建物の瓦礫の中から、幼かった私を抱き抱えて救い出してくれた事…それを微かに覚えている
それが誰なのか、分かったのは随分後だった
その悪夢の日から10年…私は、この中央大陸から集められた、私と同じ様な境遇を持った子供達と一緒に暮らしていた
そこは、『陸王』様のいるこの王都の孤児院だ
そんな孤児院で皆と過ごしていたある日、私は陸王様に一人呼び出された
そして陸王様の王接間にて、こう伝えられた
『君を助け出した人物に、君の面倒を見る様に頼まれた…そして君が大きくなった時、君の『意思』を聞き、その意思を尊重した対応を取って欲しい…と… 君は剣術に優れている様だな? どうだ? 『王国騎士団』に入団してみないか?』…と…
私はこう答えた
『ぜひとも入団させていただきます。 僕の父、陸王様のために』…と…
それを聞いて、陸王様は微笑みながらこう言った
『私は『君の意思を尊重する』と言ったはずだ。 『私の為に』が君の『意思』…という事か?』
もちろん私は『はい』と答えた
『なら『私の為に』で構わない。 私の意思は、この大陸の平和を願う事…君には、この大陸を守って欲しい』
『わかりました』…私には、何の迷いも無かった
もちろん陸王様は本当の父では無い
それでも私にとっては父親同然なのだ
程なくして、私は王国騎士団へと入団し、順調にその力を強めて行った
その時に、私は『天帝』の名を頂いた
『天帝アーサー』として、騎士団の団員を勤めた
しかしその日から、私は1つの疑問に悩まされた
今まで私は、私を救い出してくれた人物は陸王様だと思っていた
エニグマに破壊された…犯罪者に燃やされた…地獄の様な村から私を救い出したのは陸王様だと思っていた
だからこそ、父親として慕っていたのだ
しかしそれが違う人物だった…
助け出した人物は一体誰だったのか?
そう思うのは、当然の事だった
私はその人物を調べた
剣を振る合間に、寝る間も惜しんで、騎士団員として働きながら
その人物が分かったのは、調査し始めてからなんと1年後だった
誰なのか分かったが、何故そこまで情報が隠蔽されていたのか分からなかった
調べるのが遅かった訳では無い
ただ、情報が少なすぎるだけだった
たった10年程前の出来事の情報が、ここまで少ない事に何か意味があるのかと当初は思った
しかしそれは、私の抱いた感情に比べれば、小さい事だった
私を救い出した人物…それは『英雄』と呼ばれた存在だった
名前は『黒月トレス』…その『脅威』を排除し、『英雄』と皆から呼ばれ崇められた人だった
私は憧れた
私を救ってくれた事では無く…『英雄』と呼ばれ、人々から信頼と敬意を抱かれる、その存在を…
それは私の父、陸王様と同じく、『光り輝く存在』…そう思える程にな…
陸王様は本当の父親で無くとも、私の父親と呼べる存在だ…
だからこそ…だからこそだ
私はその『隣』に居なくてはならない
守り続ける為に…この大陸の未来を共に見る為に…世界の平和を願う為に…そして…その隣に居続ける為に…!
私には、『力』が必要だった
そしてもう1つ…『名誉』が必要だった
陸王様という…偉大なる存在の隣に居ても問題無い程の…圧倒的な『名誉』が…
だから憧れたのだ…『英雄という存在』が…
『英雄』と呼ばれれば…陸王様の隣に居続ける事が出来る…!
『英雄』という存在が居れば…私の存在が『正義』となり、『悪』を討ち取る事が出来る…!
『英雄』になれば…陸王様の…私の父の為に平和を守る事が出来る…!
『英雄』となる事が…私の目標になった…!
そしていつか…黒月トレスの様に…誰かの目指す目標として…私はなりたい…!
そう思った
…まずは…『王国騎士団団長』…そして…『聖騎士』になる…それを私の『第一目標』とした
だが私は…残念ながら『才能』と呼ばれる物も…『センス』と呼ばれる物も無かった…
力を求めるが故に、剣のみを振り続けた
今まで以上に、更に多く、長く、激しく…誰よりも…
剣を振り続け…幾度と無く任務をこなし…『悪』を斬り捨てて来た私は…いつの間にか、『王国騎士団特殊殲滅隊団長』にまで上り詰めた
『努力』により『千光の一閃』を発現し…その力でそこまで上り詰めた
やがて…求めていた『名誉』を、私は手に入れた
称賛…栄光…名声…
あらゆる『声』が、私の地位を確立した
そう…『聖騎士』と言う『英雄』の一歩手前の存在に
まだ私は20才という若さであった
それでも私は誇りを持った
私の努力が実を結んだのだ…と
しかしそれが…必ずしも『正しくても』『良い事』であるとは限らない
陸王様は純粋に私の『力』と『努力』を認めて、『特殊殲滅隊団長』と『聖騎士』と言う地位を私に下さった
しかし…それに賛同する者は決して多く無かった
『若い』『経験が少ない』『年下』『羨ましい』『自分の方が』『嫉妬』『批判』『僻み』『軽蔑』『差別』
ありとあらゆる誹謗中傷を、私は受けた
だがそれを私は気にしている暇は無かった
私が目指すべきは『英雄』
そこまで手を既に伸ばしている
あとは掴むだけ…ただそれだけだった
それだけだったはずなのに…
『努力』は誰よりもしてきた…『結果』は誰よりも出してきた…
だが…『認める者が居なければ』意味が無い…
『それを望む者が居なければ』意味が無い…
人々が…大陸が…そして世界が…そうなっているのだ…!
特に…私の様に、若くしてそこまでの『力』を持つ者は、その『業』を背負い…その『意味』を考えて行動しなくてはならないのだ
…私がとある任務である村に訪れた時の事だ…
村の近くに山賊が屯している…と報告があった
衛兵隊では手に余る存在らしい
当時の私は19才…まだ特殊殲滅隊団員だった私は、同じ殲滅隊数名と共に、攻戦隊の19番隊に交じり任務を達成する為に向かった
『殲滅隊は有能部隊』…そんな『僻み』がもう既にあったのだろう…
その19番隊の指揮は私に任せられた
私はいくら山賊と言えど、危険因子である事には変わり無い
そう思い、歩く足を速めた
しかし攻戦隊団員達は、私の思いとは裏腹にまるで『気』が無かった
『山賊なんてどうでもいい』…そんな雰囲気が彼らを包み込んでいた
もちろん私は催促するように言った
…が、それを聞くような者達では無かった
『若さ』と『力を持つ事』による『僻み』と『嫉妬』
私の言葉は誰にも響かなかった
するとその場に居た殲滅隊の一人が吐き捨てる様に言った
『妬みや僻みで言うことを聞きたく無いなら聞かなくていい。 そこで黙って座ってろ。 任務は俺達で完了させ、お前達の行動は全て報告しておくだけだ』
そしてその人物は、殲滅隊を引き連れて村へと向かった
そして彼はこう私に言った
『自分が正しいならそれを曲げるな』…と
彼が『ロウ・パサード』であるのは、後程知った
そしてようやく村にたどり着き、山賊を討ち取った後、若い女性の村人が一人、私の元へと駆け寄って来た
『なんでもっと早く来てくれなかったの!? わたしの…わたしの子供を…失わずにすんだのに…!!』
私の目の前で、今にも泣き崩れてしまいないそうな姿で、そう言われてしまったら何も言い返せない
声が出なかった
私がもっと早くここに来れば…山賊達が村人を攫い『奴隷商人』に売りさばく…と言う事を防げたかも知れないと考えれば、反論する事は当然出来なかった
返答に困り、その女性に詰め寄られている私の姿を見て、ロウはまたしても吐き捨てる様に言った
『悪いのは俺達じゃなく、行動を引き起こした『山賊』だろう。 怒りと悲しみの矛先を向ける相手を履き違えるな。 更に言えば、その山賊を討ち取ったのは俺達だ。 『早い』『遅い』は関係あっても、『言われる』事では無い。 もっと言えば、そもそも山賊ごときから村1つすら守れない『衛兵隊』に問題がある。 俺達は『正しく』て『間違っていない』。 間違っているのはそっちの『認識』だ』
…そのロウの言葉を受けた女性は、ただうつむきながら地面に膝を付いた
その後、村を後にして帰路についている途中、ロウは私にこう言った
『気にする必要は無い。 俺達は何も悪く無いのだからな』
ロウは私の事を気にかけてくれた…のだが、やはり私には相当揺さぶられてしまった
私はそれほど強く無い
全てを柔軟に受け止められる程の器を持っていない
『力』はあっても使い方を知らない
どこまでも弱い『人』なのだ
そんな私が、自らの行動を悔い改めるのに、そう時間は必要無かった
やがて『特殊殲滅隊団長』になった時…『英雄』に向けて伸ばしていたはずの手を…開いていたはずの手のひらを…私はそっと戻した
そして今なら…『理解』出来る…
何故『英雄』に関しての情報が少なかったのか?
何故『英雄』の存在が、あそこまで調べなければ分からなかったのか?
何故今でも『英雄』の存在はごく一部の者しか知らないのか?
それを『理解』出来た
『英雄』と呼ばれれば、必ず誰もがこの『業』を背負うのだ
だからこそ…英雄は誰もが目指しても『ならない』のだ
その重圧に押し潰され、英雄である自分が死んでしまうのを恐れるからだ
だからこそ…英雄を伝承する文化そのものが無くなってしまったのだ
自分の行い1つで、『大陸の生き方』が変わる…それが『業』であり、『カルマ』なのだ
『英雄の名』が繁栄されれば、誰もが『英雄』を尊敬し、称え、祭り上げる
そして、『英雄を期待する』
そこに存在するのは、あらゆる『期待』と『責任』を押し付けられたたった一人の『人』だというのに
逆に『英雄の名』が衰退すれば、誰もが『英雄』を渇望し、信じ、祭り上げる
そして、『英雄の出現を期待する』
そこに存在するのは、ありもしない『虚像』と『願望』を押し固められた空っぽの『人』だというのに
分かるか?
『英雄』が居れば、人々はそれにすがり、それを求める
どんな窮地に立たされても、きっと英雄が助けてくれる…誰もがそう信じてしまうのだ
そして英雄が現れなかったら…どうして遅くなったのか…どうして助けてくれなかったのか…期待を裏切ったかの様な扱いを受け、英雄という存在価値そのものを壊してしまう
『英雄』が居なければ、人々はそれにすがり、それを求める
どんな窮地に立たされても、英雄が居ればこんな事には…誰もがそう思ってしまうのだ
そして英雄が現れなかったら…どうして英雄が居ないのか…どうして自分がこんな目に…怒りの矛先は陸王や騎士に向けられ、大陸という存在そのものを壊してしまう
分かるか?
『英雄』とは…政治そのものであり、大陸そのものであり、『希望』と『秩序』そのものなのだ
「…私が…『ニセモノ』…そう呼ばれた事を覚えているか…?」
アレスは思い出していた
少なくとも、その時のアレスは『平常』では無かった為、記憶の片隅程度しか思い出していなかったが
『ウルセェな『ニセモノ』がぁ… デケェ面してんじゃねぇぞ…!』
その言葉は、数日前に王都『サニーライン』を襲撃した張本人、『灰島ヴェル』がアーサーに言い放った言葉だった
「私は同じ事を何度も言われた…私が…『天帝』の人間では無いからだ… 団長になっても…聖騎士になっても…いつまでも言われ続けた…」
アーサーはわなわなと震える
体と同じく、声も震えていた
「英雄を目指しても…例え英雄になったとしても…! 『天帝の人間ではない』という理由だけで…人々から『英雄ではない』と蔑さまれる…!」
そして、そこで声が大きくなる
「『英雄』とは…! 人々の『期待』も『不安』も『罪』も『意思』も…! 何もかもを背負う『業』を持たされた存在なのだ! 英雄の行動が全ての意思を決定し…その意思を生かすも殺すも英雄次第なのだ! 英雄は『見本』ではなく…『基本』であり! 『規律』ではなく『法律』なのだ! …少年…理解しただろう…!? 私達の様な『存在』が…英雄に憧れても『なれない』もの…『なってはいけない』ものだと…理解しただろう!? 君を見ていると…昔の私を思い出す…! 無垢で無知で無謀な…あの頃の私を…君と重ねてしまう…! だからこそ『憎い』のだ…だからこそ! 私と同じ君だからこそ…『英雄』を『諦めない事』が『憎い』のだ!!」
アーサーは荒れた息を整え、再び冷静に語る
「…私が君に言いたい事の『3つ』… 1つは私の『センス』、1つは私が『英雄を目指していた事』、そして最後の1つは私の『過去』と英雄の『業』… 結果として…私が君に伝えたかった事はただ1つ…『君を止めたい』…それだけだ」
今度は冷静さの中に、穏やかさを込めた口調で話し掛ける
「私がこうして君に伝えているのは『君を止めたい』からだ… 私の様に…英雄を目指しても、英雄になりきれないまま、『魂』が折れてしまう…そうなって欲しくは無いからだ… 私は心底望み、後悔した。 あの時…誰かが私を止めてくれていたら…あの時…英雄の『業』を知っていたら…あの時…英雄を目指さなかったら…こんな事にはならなかった… 君も…私の言いたい事は分かるだろう… 全て…君の為なのだ…」
そしてアーサーは、ふぅ…っと、ため息をつく
そして懇願する様に、アレスに尋ねる
「…さぁ…答えてくれ… いや…言って欲しい…『英雄は目指さない』…と…」
「絶対言わねぇよ…!」
「!!?」
アーサーはやはり苦い顔をした
予想していた半分、期待していた半分…と言った表情だった
アレスは怪我を負ってガクガクと震える足を必死で抑え、ゆっくりと立ち上がる
痛みを堪えた顔を見せながら、アーサーに鋭く言い放つ
「俺は…『ヒーロー』になる…!! 誰に…何を言われてもだ…!!」
Q.なんで『王国騎士団』なの?
『大陸騎士団』じゃないの?
「…どうしてですか? ご主人様…ミーシャさん…?」
「「さぁ…?」」
「やっぱりな… ちなみに俺も分からん」
「なら、俺が説明しよう」
「…ロウさん…よろしくお願いします…」
「現在の世界では、『国』という言葉はあれど『国という領事形体』は無い。 つまり、『国』が存在しないのだ。 『大陸』と総称する事になっている。 もしくは『地域』『領土』『領域』等で表される。 …なら、何故『王国騎士団』と呼ぶのか…? それは、昔に『国』という存在があった為、それの名残なのだ」
「名残…つまりただの変わってねぇだけってことか?」
「そうだ。 昔、1つの大陸に幾つかの領土とそれを治める領主…つまり、『国』と『国王』が存在していた。 そして各『国』に属する武装組織があった。 それが『王国騎士団』だ。 騎士団は今とほぼ変わらない組織で、国を守る事を主としていた。 しかし時代は『奪い奪われる戦争時代』…領土を拡大する事を目的とした国同士の争いが絶えず、あらゆる人々が争いを望んでいなかった。 そんな中、この争いを止めるべく立ち上がったのが今の『天帝』の先祖達だ。 その政治手腕は驚くもので、なんと『国』という存在を無くすという大胆なものだった。 『国同士が争いをするならば、国そのものを無くせばいい』…そんな考えだったようだ。 だが実際、それは正しい方向へと向かっていった。 天帝家の人々は
「あ、今回はこれまでっぽいな」
「…そうみたいですね…」
「何っ!? まだ半分程しか話していないぞ!?」
「まぁ諦めな… あまり喋りすぎると強制退場されるぞ?」
「続きはまた次回!」




