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解放、そして逃走

オークションハウス内壇上に仰向けで倒れる男

そしてその男を見つめる少年

男の名はネレイボル

少年の名はアレス

2人の戦いは、少年の怒りの一撃により幕を閉じた

「…ふぅ… …終わったよ…」

アレスは壇上に座り込む少女に、優しく告げる

「……はい…」

少女を奴隷として好き放題使()()()()()男を倒したというのに、何故か浮かない顔をする

「…? どうしたんだ?」

「あぁ…多分だが…」

悩むアレスの元に、ミーシャとシードが合流した

「やったわねアレス! あいつ…すっごくボロボロじゃない… ま、当然ね!」

ミーシャは仰向けで倒れる男、ネレイボルを見て鼻をフンッと鳴らしながら呟く

「…本当は…あれだけじゃ足りない… 死んで当然なんだ…」

シードはそう言うアレスの肩に手を置き、(なだ)める様に言う

「だが、殺して無いんだろ? 偉いじゃねぇか。 ちゃんと加減してやるなんてよ」

「あんなやつの為に、殺人犯になる必要はないって言われたからな… ところでシード、『多分』なんなんだ?」

アレスはシードが先程言いかけた事を聞く

「ん? あぁ…そこの『混血』の事だ…」

シードはアレスとミーシャと共に、少女の方を見る

「あんだけウザいと思ってたネレイボルをぶっ倒したってのに、何であんな顔してるか考えたんだが… 多分、もう『仕える人』と『行き場所』が無いからだろうな」

「どうして? もう奴隷から解放されたんだから、自由でいいんじゃないかしら?」

「『仕える人』ってのは、良くも悪くもあいつを支えていたやつの事だ。 ま、言い方を変えれば、『親』がもう居なくなった…みたいなもんだろ」

アレスがムッとした表情をシードに向ける

「…あくまで『例え』だ。 んで、『行き場所』が無いってのは、良く言えば自由、悪く言えば帰る場所…家がねぇのと同じだ。 あんな小さな子供が、『親』も『家』も無くなれば、不安にだってなるだろ?」

ミーシャは暗い顔をする

「ん…確かに…そうね… それじゃ、ここを出たらまずあの子の

「なぁ、シードの話…本当か?」

アレスはもう、少女の目の前に行って質問していた

「…」

「そうなのか…?」

少女は軽くコクンッ…と頷き、話し始める

「わたしには…もう…誰もいない… わたしには…もう…居場所がない… どうすれば…いいの…?」

シードは軽く溜め息をついて答える

「…悪いが、俺達にはどうする事もできな

「な~んだ! そんな事か! なら簡単だ!」

シードの答えを(さえぎ)り、アレスは元気良く答える

「俺、『ヒーロー』を目指して世界中を旅してるんだ! 君がどこにも行く所がないなら、一緒に来ないか!? きっと楽しいぞ! それに君の力は、すごく頼りになるはずだ!」

少女はキョトンとしながらアレスの話しを聞く

「わたしが…いっしょに…? 頼りに…なる…?」

アレスはニッコリしながら、話しを続ける

「ああ! もちろん! でも、安心してくれ!」

アレスは少女の手を優しく握り、少し真面目な顔をして告げる

「例え何があったとしても…君は、俺が必ず守る! だから安心して、一緒に来てほしい…!」

「~~~!!」

少女の顔がみるみる赤くなる

思わずアレスから顔を背けてしまう

「? どうした?」

「………!」

少女は頭をブンブンとふって『何でもない』と言う仕草をする

「…アレス…あんた…」

「まぁ…狙った訳じゃないだろうな…」

ミーシャとシードは、目を細めてアレスを見る

「あっ! そういえば君の名前、聞いてなかったよね?」

アレスは唐突に思い出す

少女は『混血』と呼ばれていたり『バケモノ』とも呼ばれていた

「名前は?」

「…わたしに…名前は…ありません…」

「…名前が無いのか…なら… 『スイ』! 」

アレスの付けた名前に、ミーシャが尋ねる

「…『スイ』? なんで『スイ』なの?」

「ほら…『(みず)』って『すい』って読めるだろ? だから『スイ』!」

「だから…なんで『スイ』なのよ!」

「水みたいに、自由できれいで誰にも縛られず…流れるような剣技で見る人も敵も圧倒させる! かわいくて良い名前だと思うけど…どうかな?」

アレスがなんの臆面も無く『スイ』という名前の由来を語り、色んな思いが込められている事は分かった

だがそこでは無く、『かわいくて』という言葉をなんの臆面も無く言って、聞いているこっちの顔が赤くなる

それは女性のミーシャがそうだった

「…あんた…そういう言葉はあんまり言うものじゃないわよ…?」

「? そうか? でも『スイ』って、良い名前じゃないか? どうかな?」

アレスは少女に尋ねる

「…スイ… うれしい… わたしの…名前… ありがとうございます… ()()()()…」

座りながらも、甘える様に少し赤くなった顔でアレスを見る少女

「ご…ご主人様って… そんな

バアァンッッ!!

「「「「!?」」」」

アレス達は、突然鳴り響いた音の方を見る

それは、オークションハウスの入口のドアが勢い良く開いた音だった

「なんだ先程の音は…!! ネレイボル元締め!? まさか…お前らが…!?」

オークションハウスに入って来た男には、見覚えがあった

このロッテルクの街の騎士『衛兵隊』の支団長だった

「…説明は…お前達を捕らえてから聞くとしよう… かかれぇっ!!」

支団長は剣をビシッ!っとアレス達に向けると、支団長の後ろから数十人の騎士が一斉にアレス達に向かって行く

「まずい…! さっきの音と衝撃は、流石に気になるか…! とにかく、裏口から出るぞ!」

シードは走り出し、オークションハウス裏口へと向かう

「私達も行くわよ! アレス! …と…スイちゃん!」

「分かった! スイ! 行こう!」

「はい…うぅ…」

スイと名付けられた少女は立ち上がろうとする…が、上手く体に力が入らないようだ

おそらくエニグマの力を不安定な魂の状態で使用した為、肉体がそれに耐えられなかったようだ

「うぅ…ぅあ…」

少女は必死で立ち上がろうとする

「うおおぉぉっ!!」

そんなスイに、騎士が向かって行く

「うぅ… ぁ…!!」

「ちょ…アレス!?」

グイッとアレスが、スイを持ち上げる

ただし()()()()()()

これにはミーシャもスイも驚く

「スイ! しっかり掴まってろよ! ミーシャ、行こう!」

スイは顔を赤く染めながら、アレスの首に手を回して掴まる

そのままアレスはソウルを足に纏い、裏口へと向けて走り出した

それに続いてミーシャも移動する

「逃げるぞ! 追えっ!」

支団長の怒号が響いた



ミーシャとアレスが裏口のドアを開けると、そこには数人の地面に倒れた騎士と、槍を持って立っているシードが居た

「遅いぞアレス、何してた…いやほんとに何してたんだ?」

アレスがスイをお姫様だっこしているのを見て顔が白ける

それに反して、その姿を見られたスイはまた顔が少し赤くなる

「とにかく街を出ましょう! 急がないとまた騎士の人が

「居たぞ! 捕まえろ!」

オークションハウス裏口の方に、数人の騎士が向かって来た

入口の所に居た騎士が、先回りしてこっちに来ていたらしい

「くそっ! 面倒だな… ちょっと乱暴だが、黙ってもらお

カチャチャ…

「なっ…! ミーシャおい

ドドドドドドドドッッ!!

なんとミーシャは、自動連射小銃(サブマシンガン)を構えて撃ち出したのだ

何十発の弾丸が、騎士に向かって撃たれる

「うああっ!!」

「ぐおおっ!!」

「あぐぅっ!!」

騎士達は呻き声を上げる

「うわぁぁ! ミーシャ! 何やってんだ!?」

「おいおい! 死んじまうぞ!?」

2人は焦ってミーシャに詰め寄る

2人は銃というものを良く知らない

そしてそれを使った事があるのを見たのは、対エニグマしか無かった

その際強い銃の一撃が当たったエニグマは、穴の空いた弾痕を残して消滅してしまっていた

それを『人』に撃ったら…どうなるか予想がついてしまう

しかし、良い意味でその予想は外れる

「ぐうぅ…痛ぇ…!」

騎士は生きていた

撃たれた場所を押さえて痛みを必死にこらえている

「…あれ? 生きている…?」

「アレス! どいて!」

次にミーシャは、単発小銃(ピストル)をアレス達が出てきた裏口の方へと向ける

そこには、通路をこちらに向かって走って来る騎士が居た

その騎士達に向けて、ミーシャはピストルを撃つ

ドンッドンッドンッ!!

「あぐぅっ!!」

「ぐおおっ!!」

「うああっ!!」

弾丸は騎士に当たるが、やはり血など出ずに痛みで唸り声を上げるだけだった

「なんだ…? 銃ってのは、傷を付けるだけなのか…?」

「知らなかったの? 『銃』っていうのはソウルを固めて弾丸にしているから、『エニグマ』には威力が強かったら風穴を空けたりするけど『人』には当たっても傷やアザを付けるだけよ? 当たり所が悪くても、せいぜい気絶させるくらいだわ。 まあ、弾丸の形状が鋭く尖っていたり威力がもっと強かったら、人を簡単に殺せるらしいけどね…」

アレスとシードは銃の詳細を聞いて納得する

しかしそんな落ち着いている暇は無かった

ミーシャの銃を撃たれて悶絶していた騎士達が、起き上がってくる

「!! あんまりゆっくりしている暇は無いな… アレス、ミーシャ! 二手に別れて逃げるぞ! ミーシャはアレスと一緒に行け! 俺は別方向から行く! 後で合流するぞ!」

そう言って、シードは何処かに行ってしまった

「シード!? …仕方ないわね… アレス! 行くわよ!」

「おう! スイ! もう少し掴まってろよ!」

「…! はい…!」

ミーシャ達は、シードとは反対方向に街へと駆け出して行った

街を走り、街の出口を目指す

途中色んな人がアレス達を見るが、オークションハウスでの出来事を知らぬ為、興味本意で見るが特に気にする事は無かった

だが、()()()()人がアレス達にやがて追い付いた

「逃がさんぞ…少年…!」

支団長がアレス達の背後に迫る

「くそ…! 速い! 追い付かれる! ミーシャ! 撃ってくれ!」

「だめよ! 走りながら撃ったら命中率が下がって流れ弾が誰かに当たっちゃうわ! 街の出口までもうすぐよ…! 耐えて走って…!」

アレスとミーシャは全力で走る

無論、ソウルを纏って走るが、子供と大人では馬力が違う

過去に同じ様な目にあったが、あの時はアレスとシードの2人でもちろん誰も抱えておらずにいた

今回はスイを抱えている上に、あの時以上にソウルの消耗が激しい

更にミーシャはそんなアレスに追従している為、全速力では無い

必然的に、遅くなるのは当然だった

「ぐっ…! やばい…!」

「…」

と、突然スイが、アレスの腕の中からピョンッと飛び出した

「!?」

スイは空中に舞い上がると、両腕を胸の前で交差させる

すると一瞬で両手に、2本の剣が出現する

そしてそれを思いっきり、追って来る支団長に向けて地面に着地しながら降り下ろした

「ぬぅっ…!」

支団長はその攻撃を後方へと飛び退き避ける

スイは着地すると、支団長と向き合う

支団長は剣を構えるスイを見て、自身も腰に付けた鞘から剣を引き抜く

そして静かに、スイに語り掛ける

「…お前は…ネレイボル元締めに()()()()()()奴隷か… 『混血』…自分の飼い主が傷付けられたと言うのに、その主犯者と行動しているとは…何をしている?」

「…」

スイは何も言わない

「フンッ…まあいい… 少年、この『混血』を連れて行くつもりか? エニグマの力を持つこの女が、ここ以外に行って受け入れられるとは思えんぞ? お前達は必ず『邪魔』と、そう思うはずだ… それでも連れて行くのか…?」

それを聞いて、アレスはムッとした表情で反論する

「なに言ってんだ! 俺達はスイを邪魔だなんて思わな

「わたしは…」

アレスの言葉を遮って、スイは言葉を喋る

「わたしは…自分が『誰か』わかりませんでした… それは…今もそうです… でも…そんなわたしに…『スイ』という名前の『誰か』を与えてくれた… 奴隷としてではなく…エニグマとしてでもなく…『()』として…!」

スイの言葉に感情がこもると共に、体からうっすらと()()()()()()()()()が出てくる

「誰かに受け入れられたいわけではありません… 誰にも受け入れられなくてもかまいません…! それでも…ご主人様は…ご主人様だけは…わたしを必要としてくれた… だからわたしは…ご主人様のために…」

スイの体から、より多くのソウルが放出される

『威圧感』が周囲を覆う

「わたしの全てはご主人様のもの… ご主人様のためなら…わたしは…あなたを殺すことをためらわない…!」

ゴオオォォッ…っと、『殺意』がスイを満たす

そのソウルと殺意に気圧され、支団長は少し後ずさる

自然と、冷や汗が止まらない

それでも騎士としての意地なのか、剣を構えて自分を鼓舞する

「っ…! 私は…この街の支団長だ…! この街を守る事が私の役目…! お前達をネレイボル元締めへの暴行容疑で逮捕

「うぉらああぁぁっっ!!」

突然、支団長の後ろからシードが突撃して来た

しかも()に乗って

「ぐおぉぉっっ!?」

馬は支団長を蹴り飛ばして、明後日の方向へと飛ばしてしまった

シードは馬をスイの少し前で止める

「お前ら無事か!? ほら! 早く乗れ!」

いきなり現れていきなりの出来事に、アレス達は驚き戸惑う

「の…乗るって…

「兄ちゃん! そいつらが兄ちゃんのツレか!?」

シードの後ろから、2頭の馬が現れた

その馬達には、ボロボロの布の服を着た奴隷が2人乗っていた

「ああ! ここまで連れて来てすまない! あとは自由にしてくれ!」

その馬から奴隷達は降りて、シードに向けて手を振る

「こっちこそありがとうよ! これで俺達は自由だ!」

「まだ街の中にも仲間が居るぞ! そいつらを解放してから行くぞ!」

「おう!」

そう言うと、奴隷達は街の中に戻って行った

「シード…今のはだれ

「いいから馬に乗れ! 移動しながら説明してやる!」

シードがそう催促すると、アレス達は慌てて馬に乗る

馬は茶色の毛並みが2頭、シードの乗る少し黒っぽい茶色の毛並みの馬が1頭だった

体長はアレスの1.5倍程、中型の馬で肉付きは良い

筋肉質な体であるため、人2人どころかちょっとした荷物なら(くら)に乗せられる

アレスとミーシャはそれぞれ馬に乗り、スイはアレスの後ろに一緒に乗る

ふと鞍を見ると、アレス達の荷物が置いてあった

「あっ! これは…宿屋に置いていた俺達の荷物! どうして

「行くぞ!!」

シードは馬の手綱を握って馬を走らせる

シードの乗る馬に続いて、アレス達の乗る馬も走り出す

そのまま一気に街の外まで出ていった

――街から少し離れた場所で、シードが語り始める

「お前らと別れた後、俺は宿屋に行って俺達の荷物を回収した。 騎士共に追われて大変だったがな… んで、近くの奴隷商人が売っている奴隷を解放してやった。 そしてその奴隷がまた違う奴隷を解放していって…その繰り返しだ。 ついでに、馬を数頭奪って奴隷の2人に、ここまで連れて来てもらったってとこだ」

「それじゃ…今頃ロッテルクは…?」

「まあ…『大騒ぎ』ってところか…」



「ぐうぅ…」

シードの乗る馬に飛ばされた支団長は、痛みを堪えつつ立ち上がっていた

突然の出来事に、ソウルで身を守る事すらも出来ず強い衝撃をもろに受けた

頭を押さえて気をしっかり保つ

眼前には、もうアレス達は居ない

「ぐっ…! くそっ…逃がさん…! 直ぐに追い付いて

「支団長! 支団長! 大変です!」

支団長に騎士の1人が騒いで呼ぶ

「どうした…?」

「ま…街中の奴隷達が解放されて暴れています! このままでは…被害が拡大する一方です!」

「…あの少年達が…! ………」

「支団長! どうしますか!?」

支団長は悩む

ネレイボル元締めを倒したアレス達を追い掛けるか…

街の騒ぎを治めるか…

答えは明白だった

「…全騎士に告げろ… 街を騒がせる奴隷共を鎮圧しろ… 場合によっては…殺しても構わん…!」

「…ハッ!」

そして支団長と騎士は、ロッテルクの奴隷から解放された者達の鎮圧に取り掛かった



「俺達が『逃走』する時間は稼げるだろ… とにかく、これからどうするか…」

「とりあえず、このまま進んで行きましょ? もっと街から離れないと…」

「わかった! でも…もう暗くなってきたぞ…?」

時刻は現在午後6時06分…

辺りは暗闇に包まれ始めていた

「…今日はどこかで野宿だな… ()()()ちゃんと荷物もある… 大丈夫だ…」

3人は馬に乗りながら、奴隷売街ロッテルクを後にした

アレスの背に、新しい4人目の仲間『スイ』を共にして―――



サークルワールド HERO ~一期一会編~

                 ―第四章











――皐月(さつき) 12ノ日(じゅうにのひ) 金魂日(きんそうび) 午前4時28分――

「うぅ… うぁぁ… あぁぁ…ぁぁ…」

「…いつまで泣いている…こんな時間まで…」

1人の獣人の女と、1人の人間の男が、明け方のまだ日が上りきっていない街灯の点いた街の中に居た

「支団長! 報告します!」

その男は支団長と呼ばれ、自分を呼んだ者の方を向く

「どうした?」

「はい! …え~…と…」

何かを報告しに来た男が口ごもる

「あぁ…この女か…気にするな」

「どうして…」

愛想の無い態度を取る支団長に対し、女の方は泣きじゃくって言葉を振り絞る

「どうして…どうして…()()()()()()()()()()()()()()()()()()…! どうしてっ…!!」

良く見ると顔は赤く腫れ上がり、一晩中泣いていたというのが見てとれる

「うぅぅ…ああぁ…ぁぁ… トーベスさん…ぅぅ…」

「支団長…」

報告しに来た騎士の男も、流石に哀れに感じてしまう

「気にするなと言ったはずだ… 行くぞ」

「支団長!?」

そう言って、泣いている女に背を向けて歩き出す

「支団長! 彼女は一体…?」

歩きながら、支団長へと問い掛ける

山野(やまの)チェル… 昨日の夕方、ネレイボル元締めに依頼され、『()()()()()()』をしただろう…? その内、若い男の方と深く面識があったそうだ… だが、それも我々の仕事…いちいち気にしてはいられん…」

そう言いながら、歩くスピードを上げる

「支団長! 先程の

「報告内容は言わなくていい… 大体見当は付いている…」

――そして、とある大きな建物に辿り着いた

建物の外観には、大きく『オークションハウス』と書いてあった

支団長は入口のドアを開ける

中は何か()()でもあったのか、楕円形(だえんけい)に並べられた椅子の大部分が破壊されている

更に天井に付けられた光魂石(こうそうせき)の照明も大半が壊れてしまっている

そんな建物内はかなり大きな構造になっているにも関わらず、その建物中に男の怒号が鳴り響いていた

「追えぇッッ!! ナゼ私の命令が聞けないのだッッ!!?」

その人は、オークションハウス内の奴隷を見せる壇上に居た

全身傷だらけで、着ている服もボロボロだった

彼の名は鎖牢(さろう)ネレイボル

この奴隷売街ロッテルクの元締めだ

そんな彼は、回りに居る騎士に喚き散らす

「あのッ…! あのガキ共を…捕まえろおォォッ…!!」

普段の冷静で落ち着いた声も、神父服も、今の彼には全く似合わない

ネレイボルはここでの戦闘に巻き込まれたらしい

それか、()()()なのかもしれない

「早くッ…早くッ…! 支団長ォ…さっさとあのガキを捕まえに…全部隊を連れて行けェッ…!」

ネレイボルは支団長を見つけると、興奮と狂気に染まった顔で支団長を睨み付ける

だが、支団長は首を軽く横に振る

「…お言葉ですが、彼らがこの街を出てから随分経ちます。 もう追い付く事は難しいかと… それに街で起きた奴隷の反乱を鎮圧するのに、ここまで時間が掛かりました… 皆、一睡もせずに疲労も溜まっているはずです。 彼らの事は諦めましょう」

ネレイボルはその支団長の言葉を聞き、ゆらり…っと立ち上がる

「ふざけるなぁ… あのガキが…私の…私の人生を…私の奴隷をォォ…」

「…今回の騒動で奴隷数十人が脱走、馬や馬車といった商売道具も盗難に会い、更に負傷者も多く出ています。 先ずは、ネレイボル元締め自身の言葉で謝罪をするべきかと」

ネレイボルはわなわなと体が震える

「謝罪だと…? 私の街を滅茶苦茶にし…私にこんな目に会わせたアイツらが…『正義』だとでも言うのかッ!? 違うッ!! この私が…この鎖牢ネレイボルは決してッ! 『悪』では無いッッ!! 早くあのガキ共を

「貴方が…『鎖牢ネレイボル元締め』…ですか?」

暴れ狂うネレイボルは、突然声を掛けられてその声の主を見る

「そうだ…が…! な…あ…」

ネレイボル急に大人しくなる

しかも、口を半開きにして()()()()()()様にわなわなと震えている

「!!? な…なぜ…()()()がここに!?」

同時に、支団長も騎士も、その場に居る全員がその人物に恐れを抱く

オークションハウスの入口から入って来たその人は、オークションハウス内の照明が幾つか壊れているせいか、顔が影で良く見えない

身長はおおよそ170センチ後半、髪は金髪で、体に獣の要素が無いために人間である事が(うかが)える

体そのものは大きく無いものの、騎士のマークが印字された鉄の少し薄目の鎧を着込んでいる為、細身の体でも大きく見える

腰には立派な剣を携えている

腰から下にも鎧を着けているが、動きにくいなんて事は無い程薄いが丈夫そうに見える

「この街中を探しましたが…ここにいらっしゃるとは… 少し、お話を伺っても宜しいですか…?」

その男は清らかな声と丁寧な口調でネレイボルに話し掛ける

「っ……!!」

ネレイボルは戸惑い、焦った様子で、その質問に答えなかった

答える事が、自らの不利になると感じ取ったのであろうか…?

「…あぁ…申し訳ありません… 何故私がここに居るか、でしたね… 少し別件でこの近くまで来てまして…奴隷売街と呼ばれるロッテルクの様子を見に来たのです。 まあ…こんな時間ですし宿を取ろうと思っていましたが、何やら騒がしかったので元締めである貴方に事情を聞きたいと思い、捜していました。 …そしたら、()()()()を見つけまして…」

その男は、懐から何か()を取り出した

「ぁっ…! それは…!」

その紙には、『報告書』と書かれていた

「これはどうやら『ジェイル・チェーン・スレイブ』カンパニー宛に書かれた、『奴隷の詳細が記入された報告書』らしいですね… これには、()()()()()()()()()()()()()()()も載っていました… あぁ、これは貴方を捜していたときに、貴方の私室で見付けた物です」

ネレイボルは冷や汗が止まらない

自らが犯した『罪』…知らない訳が無かった

「この街のみならず、奴隷売買に精通する貴方であれば、『奴隷法』の内容は熟知しているはず… 貴方の行動は、『奴隷法』に違反している…それも理解していますね…?」

男の声に、清らかさよりも静けさがこもる

ネレイボルは焦りまくった様子で言葉を出す

「わ…私は…私は正しい事を

チャキッ…

「!!」

男は腰に着けた剣と鞘に手を掛ける

そして、ゆっくりと…鞘から剣を抜いていく

「私は常に『光』と共にある… 私は『奴隷法』は好きでは無い…むしろ嫌悪する… だが、『陸王(りくおう)』様がお決めになった事であれば、私はそれに従うのみ… 私にとって、『光』とは『陸王』様自身なのだ…」

男はただただ剣を抜きながら、静かに語りつつ、ネレイボルへと近付いて行った

「ひっ…」

ネレイボルは顔面蒼白になりながら、全身を震わせる

「ぁ…ぅあ…」

回りの騎士も支団長も、ネレイボルを守ろうとはしない

ネレイボルを守らないのではなく、守()ないのだ

その男には敵わないのか…もしくは恐怖によって動けないのか…

あるいは両方なのか…

どちらにせよ、ネレイボルも含めた彼ら全員に、男が抜いた剣が何を意味するのかハッキリと理解()()()()()()()

『死』という、罪を裁く絶対的な『正義』が

そして鞘から完全に剣を抜き、高々と上げて冷徹に告げる

「王国騎士団()()()()()()()天帝(あまみかど)アーサー』の名において…『奴隷法』違反の罪により、貴方を粛清する」

ヒュッ…



           …ザシュッ 




                     完―

ようやく第四章が終わりました

まだまだ続きますよ

完全なモブキャラだったはずの支団長が結構出てきてしまって、名前出しとけば良かったなと思いました

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