怒り喰らう狼
貴族『鎖牢家』――
『全大陸共通項目』の一つ『奴隷法』に正式に則り、正しき方法と理解で奴隷売買を行う由緒正しき貴族である
『ジェイル・チェーン・スレイブ』カンパニーを設立、代々鎖牢家の者を代表取締役として会社を経営し、以後奴隷売買業界の頂点に君臨するまさに一代企業と呼べる貴族だ
そして現在、次期代表取締役最有力候補の人物が『鎖牢ネレイボル』…その人である
そんな彼には『危機』という言葉が存在しなかった
危機的状況に陥る前に、『不安要素』と『反乱分子』を処理していたからだ
不安要素をその類いまれな頭脳で見付けては、それが肥大化する前にどんな手段を使おうとも処理し、例えそれが殺人という手段でも躊躇わず実行する
そして反乱分子は、自身の持つセンス『鎖と雷は躾の為に』により絶対服従させる
更に自分の護衛手段に『躾させられる刃』という武器も所持している
そんな彼には『危機』という言葉が存在しなかった
だが、そんなネレイボルにも『焦り』はある
それは例えば、自分が完全に支配下に置いている街とその騎士の中に、かつて自分が裏で操作して壊滅させた町を調べている者が居た時など――
調べたその先に、自分の悪事が明るみに出る可能性があったとしたら…それを放っておくだろうか?
いや、早急に対処しなければならない
当然ネレイボルもそうした
だが、焦りはミスを生む
そしてそのミスが積み重なり、そのミスを的確に突かれ、そのミスが結果自分の首を現在絞めてしまっているのだ
そこに追い討ちを掛ける様に、自分のソウルを圧縮して作り出した鎖を砕かれるという事態が発生する
その時点で、その鎖を砕いた少年に勝つことは物理的に無理なのでは?…そう思い始めてしまう
必死でそれを悟られないように虚勢を張るが、やはり実力では勝てなかった
少年より強い武器を持っているのにも関わらず、敵わなかった
魂が折れかけたその時、その目に彼女が映る
そして思う
(武器ならば…そこに居るじゃないか…)
…と―――
「…ぁ…ぅあ…」
少女は恐怖と絶望に染まった顔で後ずさりする
「さぁっ! お前の持つその剣で…コイツらを殺せぇっ!!」
ミーシャは少女に駆け寄り、怯える少女の片手を掴む
「だめよ! あの人の言うことを聞いちゃだめ!」
「ネレイボルッッ!」
アレスは腰から刀を抜き、ネレイボルへと向ける
そんなアレスに対し、ネレイボルは嘲笑う
「ハハッ…何をそんなに怒る? そこの『混血』は私の奴隷だぞ? 言わば私の『武器』そのものだ… 使って何が悪い…?」
「何だとっ…! お前は…俺と一対一で戦うんじゃなかったのかっ!?」
ネレイボルの笑いは治まらない
「ハハハッッ!! そんな事誰も言っていないでは無いかっ!! 少年っ! 私は…君達さえ処理出来ればそれで良い… プライドなぞ…君に殴られた時から既に存在しない!! さぁ…『混血』…さっさと殺せっ!!」
少女の顔色が、控えめに言って悪いと言える程悪くなる
「大丈夫よ…? アレスがあいつを倒してくれるから、言うことを聞く必要は無いのよ…?」
ミーシャが優しく少女を宥める
「…呆れて物が言えねぇ…ってのは、こう言う事なんだろうな… それでも『大人』かよ…?」
シードはその言葉通りに、正に呆れて物が言えない
「ハハハッ…『大人』だよ… 少なくとも、君達よりは…ね… さぁ…早くしろ… …ん? 私の指示に…『敵意』を持っているのかぁ…?」
「…!!」
ネレイボルのその言葉に、少女の顔はより一層悪くなる
「それ以上…もう…何も言うなぁっ!!」
アレスは刀を持っている手とは逆の左手にソウルを纏わせ、ネレイボルを殴り掛かる
そんなアレスの背後上空から、少女は両手に持った剣を降り下ろす
「えっ!?」
アレスは背中に目でもあるのか、あるいは少女から発せられる『殺気』のこもったソウルを感じたのか、思いっきり壇上を蹴ってバックステップを行い、飛び掛かってきた少女の後ろへと回避する
「うっ…くぅぅ…!」
アレスは体勢を崩しながらも、立ち上がりながら剣を構える
「…どうして…だめよ! なんで…なんでその人を守るのよ!?」
自分の制止を振り切ってネレイボルを守りに行った少女に対し、疑問に満ち満ちた顔でミーシャは尋ねる
「………」
少女は何も言わなかった
ただ、身体中が震えている事だけは分かった
何かに恐れ、何か起きない様に、ただこういう行動を取った…そんな感じだった
「よぉし…いいぞぉ…良くやった…! そうだ…コイツらを処理し終わったら、ちゃんとした服を買ってやる… どうだ…楽しみだろう…?」
まるで投げたフリスビーを上手にキャッチ出来た犬を褒める様な声で、ネレイボルは少女に語り掛ける
「…ぁ……はい……」
少女の顔が少し綻び、恐怖が少しだけだが無くなってしまった
「ちょっと…なんで…笑っちゃっているのよ…! あんなの…嘘に決まっているじゃない…!」
「お前っ…! どんな教育を…どんな躾をしているんだっ!!」
ミーシャもアレスも、怒りを顕にする
「なるほどね…」
しかし一人だけ、シードは冷静だった
「あいつはああやって、躾してるんだろ… あの『混血』にもう鎖は繋がってねぇが、『魂』はまだあいつの鎖に繋がれたままなんだ… 体と魂に、誰も癒せねぇ電撃が深く刻み込まれているんだ… ネレイボルに逆らうと電撃が来る、ネレイボルに『敵意』を持ったら電撃が来る、ネレイボルを守らないと電撃が来る… 鎖で繋がれて無い今なら電撃なんて来ないのにも関わらずにな… もう、『躾』よりも『呪い』…そう言った方が良いかもな」
チャキッ…
剣と剣が擦れる音がした
3人はバッ!っとその音のした方を見る
少女が、両手に持つ両刃剣を胸の前で交差させていた
無表情で、『殺意』という感情を纏い、アレスを見ていた
「だ…だめだ! 君とは…戦えない…! 君は何もしなくていいんだっ…!」
アレスは躊躇する
戦う事を…少女が戦う事を…
「どきなアレス… お前が戦わねぇなら俺がやる…」
槍を持とうとするシードを、ミーシャが止める
「だめよ! あの子を傷つけちゃだめよっ!」
「離せっ…ミーシャ! やらねえとやられるだけだぞ!?」
自分の腕を掴むミーシャを、シードは必死で引き剥がそうとする
そんなシード達を、少女が放っておく訳がなかった
一呼吸置き、グッ…っと足を溜めると、壇上を強く蹴ってシード達に向かって行った
(速いっ…!?)
シードがそう思った時には、少女の剣はもうシードに降り下ろされていた
キイィンッッ!!っと金属音が鳴り響く
それはアレスが、刀で少女の攻撃を防いだ際の音だった
「わ…悪ぃアレス…! 助かっ
「シード! ミーシャ! 下がっててくれ! この子は俺が止めるっ!」
アレスは刀を押して少女の剣を弾くと、刀にソウルを纏わした
「『無刃剣』!! 大丈夫だ…君に当てるつもりはないから…!」
刀の刀身に薄くソウルを纏わせて刀をコーティングする
斬れないようにする技『無刃剣』だが、それでも体に当たれば痛い
当てるつもりは無いがもしもの為、だろう
少女はそんな優しさを見せるアレスに罪悪感があるのか、申し訳無さそうな顔をする
それでも、『斬る』という行為を止めようとはしない
シードとミーシャが後ろへと下がり、巻き添えを食らわないようにする頃、アレスも少女も身体中にソウルを纏わせる
そして――
忽然と姿を消す
ギィイインッッ!!!
剣と剣がぶつかる音
それが何度も鳴る
ギィンキンッガキィキンキンキィィンキキイッン!!
少女の剣撃を、アレスは必死で防ぐ
縦、横、斜め、突き…四方八方から繰り出される剣を、防いで避けて防いで避けてと繰り返す
「ぐ…がぅっ! うおぉっ! ふぅっ…!」
剣自体の威力は決して高くない
しかし、手数が多い
双剣の利点を生かし、アレスを防戦一方にさせる
刀一本のアレスは反撃出来ない
元から反撃するつもりも無いが、このまま防ぎ続ければ必ず『隙』が生まれる
少女はそれを狙っている
――少女が右手で縦に剣を振る
アレスはそれを刀を横にして防ぐ
しかし少女の左手の剣がアレスを突く
アレスは防いだ剣を横へと弾き、両足で壇上を蹴って突きをジャンプで回避する
回避した勢いで、少女の真上を飛び越して行く
少女は弾かれた剣をそのまま弾かれた方向へと勢い良く振り抜く
そしてそのまま壇上を弾く様に斬る
少女の華奢な体は、その勢いに乗って上空へと浮く
それは、必然的に少女を飛び越したアレスと正面を向く形になる
少女は両手の剣を同時にアレスに向けて、一気に振り抜く
ギャイィンッッ!!
「ぐぅぁあっ!!」
アレスは刀でこれを防いだものの、更に上空へと吹き飛ばされる
だが、不思議にも少女は何もしてこない
アレスはその時気付いた
自分を狙う人物が、もう一人居た事を
ビュウォッッ!っとアレスに向けて、鎖が飛んで来る
「うぉぁあっ!?」
アレスは上手く空中で体を捻り、辛うじて鎖を回避する
「惜しいなぁ… もう一度だ…『混血』…」
少女がコクッ…っと頷く
自由落下してくるアレスを、少女は剣を構えて狙う
「まずい…!」
アレスは頭を下に向け、足を天井へと向ける
そのまま刀を足の向いている方の斜め上方向へと向ける
その状態で刀にソウルを更に纏わせる
「さぁっ…もう一度打ち上げろっ…!」
少女が剣を交差させて構える
ネレイボルも右手を構える
アレスが少女とぶつかるまであとほんの僅かに迫った時――
「『絶吼剣』!!」
刀からソウルの爆発が発生する
その爆発の勢いでアレスの体は斜めの方向へと飛んでいく
少女が剣を構える場所から逸れて、アレスは体を壇上に擦りながら着地する
「うおぉぉっ! …っと…! よし…避けれた…!」
直ぐに起き上がり体勢を立て直す
少女は着地したアレスを見て、再び剣を交差して構える
「…」
やはりアレスを斬る事を戸惑っているのか…少女はどこか不安げな面持ちだった
アレスは少女の攻撃を警戒して同じく刀を構える
少女の不安げな剣撃を防ぐのには問題ない
あとは不意をついて、どうやってネレイボルを攻撃するか…そう考えていた時だった
「おい…『混血』… 使え…」
ネレイボルの意味不明な言葉に少女だけが反応する
それを聞いた少女は、より一層震える
「何を…? 使うって…?」
アレスはそれが何を意味しているかは分からなかった
だが、一つだけ分かった事がある
少女は、この事を言われるのが不安だったのだ
そうで無ければ、ここまで恐怖に顔が染まる事は無いだろう
「さぁ…使え… 少年を…お前の力で殺すのだっ! 使えっ! バケモノォッ!!」
少女は震えながらも、剣を交差させて軽く呼吸を整える
そしてソウルを身体中から放出する
が、そのソウルが普通とは違った
オオォォォッッ…っと放出されるソウルは、半透明の白いソウルだった
通常のソウルは薄い青色である
色の濃淡だったり魂術によって色の違いに個人差があったりするのだが、半透明の白いソウルは見た事が無い
おそらくそれが彼女の力なのだろう
そう…エニグマの力なのだ
「こ…この感じ…」
「エニグマ…か… 本当に人間とエニグマのハーフなのか…」
少女の髪や瞳の色、そしてソウルの色…それらがエニグマの力の影響である事が分かる
ミーシャもシードも、エニグマが持つ独特の感じ…それを感じ取った様だ
「いいぞ… そのまま…殺せっ…!」
少女の体にソウルが纏う
ネレイボルが言う事も実を言うと間違っていない
そう思ってしまう程少女から発せられる威圧感が強く、正に『バケモノ』…その言葉が似合ってしまう
「ちっ… アレス、これはこっちも殺す気じゃないとやられ
「やめろぉっ!!」
突然、アレスが声を荒らげる
「やめろ! やめるんだ! それ以上は…!」
アレスは少女を見ながら、この場に居る誰よりも焦った様子でいた
「お…おい… どうしたアレス…?」
シードが訳が分からないと言う感じで質問する
「ぅ…うぅ…ぁあ…」
確かに少女は苦しそうな様子を見せてはいるものの、アレスがそこまでして止める理由は見当たらない
「それ以上はやめるんだっ! そんな…そんな不安定な魂でそんな力を使ったら…! 君は…君の体は壊れるぞ!」
「ぁ…ああっ…!」
アレスの警告を聞きながらも、少女は両手の剣の切っ先をアレスに向ける
どうやら、そのまま突っ込んでアレスを串刺しにしようとしているらしい
「…!! …くそっ…! なんでそこまで…!」
「わ…わたしの…」
「!?」
「わたしの全てはご主人様のもの… ご主人様のためなら…わたしは…自分を犠牲にできる…!」
アレスはシードの言葉を思い出していた
『『躾』よりも『呪い』… そう言った方が良いかもな』
少女はネレイボルに全てを捧げているのだ
自分の『命』でさえも
「いいぞ…そのまま突き殺せ…! 私に…お前の力を見せてみろっ!」
ネレイボルは興奮した様子で少女を焚き付ける
そして少女は両手で構えた剣をアレスへと突き刺す為、足腰にグッと力を入れる
「アレス! 逃げるか防御しろ! 食らったら怪我だけじゃ済まないぞ!」
「アレス! 刀で防いで耐えるのよ!」
シードとミーシャはアレスへと声を掛けて注意を促す
しかし、アレスはそんな2人の言葉に反して予想外の行動をする
「…」
チャキッ…
「「!?」」
なんと、刀を収めたのだ
これにはシードもミーシャも驚いた
そして、両手を首の前で軽く交差し、足を左右に開いて構え、まるで突き刺してくれと言わんばかりの体勢を取る
だが何かを狙っている
そうで無ければ、目付きを鋭くして全身に薄くではあるが密度の濃いソウルを纏ってはいない
少女はそんなアレスに、苦しみながらも切っ先を向け続ける
一瞬、間を置いて静寂――
瞬きをした時には、もうそこには居なかった
音も無く、アレスに剣を突き刺す
その瞬間、アレスは両腕を広げる
ただし、突き刺して来る剣に向けて
高速で向かって来た少女と少女の剣…その剣が自分に突き刺さる直前、アレスは剣の刀身を両手の甲で殴って横に弾いた
アレスの両脇に剣が広がり、少女の攻撃は当たらなかった
結果、少女は両手を横に広げてアレスと向かい合うという形になった
そしてアレスは、そうなる為にそんな行動をしたようだ
アレスは自分に向かって来る少女を、そのまま抱きしめた
「「「!!?」」」
これにはシードとミーシャどころか、ネレイボルすらも驚く
背中にまで手を回して、ギュッ…っと強く抱きしめる
そして力強く、アレスは少女に語り掛ける
「しっかりするんだ! 落ち着いて! 落ち着いて深呼吸するんだ! 大丈夫! 心を…『魂』を強く持つんだ! エニグマの力に負けるとかじゃなく…自分自身に負けちゃだめなんだ! 魂を強く持って…落ち着くんだ…!」
「うぅぅ…ぁあ…」
少女はエニグマの力を使い始めた時から苦しみ始めていた
それが何でそうなったのか…アレスには分かっていた
「君が…何に怖がっているか分かってる…! 君が自分の意思でこんなことをしてる訳じゃないって事も知ってる…! あんなやつに鎖で繋がれて…奴隷として無理矢理働かされて…! そんな歪みきった『魂』で…エニグマなんていう異形の力を使えば…制御できないで体がおかしくなるのは…それで苦しくなるのは当たり前だ…! 君の『魂』を見ればそんなのすぐに分かる…! だから…! 大丈夫…落ち着いて…」
「……ぁ……」
段々と、少女の顔から苦しみが抜けていく
実際には苦痛の緩和はされていない
しかしアレスの言葉によって心を落ち着かせる事により、不安定過ぎた魂が自然と安定し、エニグマの力との釣り合いが取れ、少女の体からあらゆる『苦しみ』が取り除かれた
嵐の海の様に荒れていた魂が、波1つ無い海の様に穏やかになり、彼女の魂は『エニグマの力』という異質の力すらも受け入れる程平穏に包まれた
少女は自然と両手の力が抜ける
スルルッ…っと、2本の剣が手元から離れそうになる
こんな状況に、ネレイボルが黙って見ている訳が無かった
バッ!っと右手を上げて、ソウルを纏わせていく
「何をしているっ…! このっ
「『刺砲』」
ドシュッ!
「ぐぁぁっ!」
ネレイボルの右腕に矢尻の様なソウルが突き刺さり、思わず唸り声を上げる
ネレイボルはそのソウルが飛んで来た方向を見ると、シードが槍を突き出していた
その槍から、『刺砲』というソウルの技が放たれたようだ
「おいおい…野暮な事はすんなよ… 俺はアレスみたいに甘くはねぇぞ? その頭を刺されたく無かったら黙って見てな」
「ぐっ…!」
ネレイボルはアレスとシードによって両腕が動かせなくなり、焦燥にかられた顔を見せながら、アレス達の様子をただ見る事しか出来なくなってしまった
「大丈夫…大丈夫だ… しっかり…落ち着いて…」
カシャシャンッ…っと、少女の両手から2本の剣が壇上へと落ちる
「………」
少女の顔も、体も、そして『魂』も、安らぎに満たされていく
「…君を助けてみせる… 君を守ってみせる… 俺は…なんたって俺は、『ヒーロー』になるんだからな!」
「ヒー…ロー…」
少女は身体中から力が抜け、壇上へと崩れる様に座り込む
もう少女に『苦しみ』は無かった
安堵の表情を浮かべる少女を確認したアレスは、ゆっくりとネレイボルの方を向く
ネレイボルはビクッ!っと体が少し跳ね、身構える
と言っても、両腕がまともに動かせない以上どうする事も出来ない
そんなネレイボルに、アレスは静かに語り掛ける
「俺は…奴隷制度を認めたくなかった… 人が人を…まるで『物』みたいに扱う事が許せなかった…! でも…この街を見ていく内に…その考えが変わっていって…奴隷を『必要とする人』もいるって分かった…」
アレスはそう言いながら、段々とネレイボルに、ゆっくりと歩いて行く
「だから…奴隷制度は…このままでいい… けど…!」
アレスの握る拳に力が入る
「お前は…! お前はこのままにしておけない…!! 許す事が出来ない…!!」
ネレイボルは傷付いた体でもササッと立ち上がり、アレスに啖呵を切る
「少年っ! 君は間違っている! 奴隷制度は…今のままでは『進化』しないのだっ!! 『犯罪者』や『奴隷を職とする者』だけでは…いずれ奴隷を必要とする者達が飢えるのだ! もっと良質な…もっと優良な…あらゆる種類と性能を持った奴隷がいなければ…! いつか必ず客は飽き…奴隷の需要は減るっ! そうなら無い為にっ! 私は…ここまでの事をしているのだっっ!! 私は…『人の為に』やってるのだ!」
そう語るネレイボルに、徐々にではあるが確実に近付くアレス
そして、冷たく吐き捨てる様に、小さな声で言い放つ
「もう…お前の言葉は聞きたくない…! もう…お前の顔は見たくない…!!」
そんなアレスに恐怖を感じたのか、ネレイボルは若干早口になって言い訳じみた言葉を話す
「た…確かに…少年! 君の怒りの通り、ただそれだけの理由で無実の者を奴隷化させるのは正しくは無いだろう…! だが! だがしかし! あの『混血』の様に居場所の無い者に新しく居場所と仕事を与えているのもまた事実であっ
ドンッッッ!!
ひっ…!!」
その音は、アレスが壇上を力の限り踏みつけた音だった
大きなひび割れを作り出した衝撃と音で、ネレイボルは自分に対して激しい怒りを覚えているのだと、当然分かる
「俺は…もう…!! お前が何をやっても!! 絶対に許さねぇぇぇっっっ!!!」
まるで『怒り』そのものが具現化したかの様に、アレスの体からソウルが迸る
アレスの身長の約3倍は優にあるソウルが、アレスの周りを覆っていく
「お前のその腐った『魂』ごとッッ!! 俺が喰い殺してやるッッッ!!!」
アレスを覆うソウルが徐々に形作られていく
それと同時に、アレスの体に変化が見られる
無意識の内に『獣心化』を発動させたのか、アレスに獣耳やソウルの爪が生えていた
しかしいつもと違う所が2つあった
1つは、かつて『獣心化』を怒りに身を任せて発現させた時の様に、獣耳が生えている訳では無くソウルで形どられた獣耳が生えていた事
そしてもう1つは、こちらもソウルで作られた物だったが、なんと尻尾が生えていた
少し長めの尻尾…それは、狼のそれとなんら変わり無かった
…湧き出る怒りとソウル…それが1つとなり、アレスの体を中心として巨大な狼の頭が生成された
実物ではもちろん無い
あくまでソウルで作られた、人一人なんて簡単に喰らう事の出来る、ソウルの狼の頭
今、正にそれが、ネレイボルに噛み殺そうとしている
「う…ぅああ…」
ネレイボルは腰が抜けて動けない
「これで…終わりだッ…!」
アレスは自身の周りを覆うソウルを操作するように、両腕を狼の上顎と下顎をイメージしたかの様に上下にし、ネレイボルを真っ直ぐ見据えた
そして――
「『グァーミーヅウルフェリオン』ッッッ!!!!」
一気に踏み込み、ネレイボルとの距離を詰め、両腕を前方で合わせる
それに対応するように、巨大なソウルの狼の上下の顎が閉じる
その両顎の間に、ネレイボルを挟んで
まるで『喰い殺す』様に
ドォンッッッッ………
低い、しかし大きな轟音と…強く、しかし狭い衝撃が、街全体に響き渡った
それが起きた場所はもちろん『オークションハウス』
そしてそれを起こしたのはもちろん『アレス』
オークションハウスに居るアレスの周囲は、鳴り響いた轟音と衝撃に相反して静寂に包まれていた
アレスは怒りを込めた一撃を放った後、怒りを現した狼の力とソウルは、きれいさっぱり無くなっていた
大きな疲労と――
「俺の…俺の『勝ち』だっっ…!!」
――勝利の余韻を残して
今さらですが、ソウルの色が出てきました
そういえば出して無かったです
魂って…なんか青っぽい色してませんかね?
それをイメージして下さい




