激昂≪撃吼≫する少年
オークションハウスの壇上で対峙する2人
奴隷売街ロッテルクの全てを牛耳り、無実の人を奴隷化させる『悪』、鎖牢ネレイボル
そんな彼に怒りを爆発させた少年、暁アレス
アレスは両指に鋭いソウルの爪を纏わせ、戦闘体勢を取る
と同時に、ネレイボルもまた『躾させられる刃』を構える
ダラァンッ…っと不気味に垂れるソウルの刃が、鞭よりも蛇を何となく想像させてしまう
2人が対峙する壇上に、3人の少年少女が駆け寄る
「アレス! 大丈夫!?」
心配そうにするミーシャ
「また派手にやったな…」
呆れた様子のシード
「…」
そして、無表情ではあるが無感情では無いのか、何かに怯える姿を見せる『混血』少女
そんな3人とは別の人物達が、オークションハウスの入口の扉を開いて入って来た
「何の騒ぎ…!! ネレイボル元締め!? 一体何が…!?」
彼らはアレス達が初めてこのオークションハウスに来た時に入口に居たスタッフ達だった
その声を聞いて、ネレイボルはアレスを見据えたまま、いつもの冷静で落ち着いて、そして怒りのこもった声で返事をする
「何も心配は要らない… ただ…私に歯向かう獣を、処理するだけだ… 気にするな…」
「し…しかし
「2度も言わせるな…」
冷静を通り越して、冷たい声で吐き捨てる様に言うネレイボルに、スタッフ達は恐れおののく
「は…ハイィッ!」
スタッフ達は急いで扉を閉める
「お前もだ…『混血』」
ビクッ!っと少女の体が小さく跳ねる
「手を出すな…そこで見ているといい… 私に逆らうとどうなるかを」
少女は体を小さく震わせ、怯えた様子を見せる
そんな少女を気の毒に思ったのか、ミーシャは少女の両肩に手を添えて、その震えを鎮めようとする
「大丈夫よ… あんな人、アレスがきっと倒しちゃうんだから…!」
それでも、少女の顔からは恐怖が拭いきれない
その様子を横目で見ていたアレスは、更に怒りを顕にする
「おい、アレス…落ち着けよ… どんなに怒りが高まっても、そいつは殺すなよ。 そんなやつごときに、お前が殺人犯になる必要は無いんだぞ…」
シードのその言葉を聞いて、ネレイボルは冷やかな目をシードに向ける
冷静なシードの言葉を聞いても、それでもアレスは自分の感情を抑えきれない
「…シード…悪いけど…それは約束できな
「ただし、半殺しぐらいなら別に問題無いだろ… 思いっきりやれ、アレス!」
「ああ!!」
ソウルと感情が高まり、より一層アレスのネレイボルに対する戦闘意欲が湧き出て来る
「…1人で私に挑んだ事を…後悔するぞ…!」
ネレイボルは『躾させられる刃』を構え、ソウルを全身に纏わせる
「私をただの奴隷商人と思わないことだな…! 『苦儡突』ッ!」
ネレイボルはナイフを左真横へと振り抜き、体を半身捻ると、体勢を戻しつつ一気にそれをアレスへと突き出した
ビュォオッッ!っと空を切る音が鳴り響き、アレス目掛けてソウルの刃が伸びて行く
刃が伸びる速度は決して遅くない
しかし、今のアレスにとっては簡単に避けられた
真っ直ぐ伸びて来たその刃を右斜め前方にしゃがんで避け、そのまま走りネレイボルとの間合いを詰める
しかしこれを予想していたのか、ネレイボルはニヤッと笑いナイフを振り上げる
すると、忽然とソウルの刃が消えて無くなり、元のナイフの姿へと戻る
「ソウルの刃を自在に消せるのか…!?」
「あんな武器、見たこと無い…!」
シードもミーシャも、ネレイボルの扱う武器の特徴に驚く
何より、ネレイボルがそれを使いこなせている所に驚きを隠せない
だが、アレスはそんな事を気にしない
ネレイボルが放つ技にも、動じなかった
「避けてみろぉ…! 『狂威裂』ッ!」
次の瞬間、再びナイフからソウルの刃が伸び、それをネレイボルは滅茶苦茶に振り回す
ビュンビュンビュンッッ!っと音が鳴り、空中と壇上の地面に傷を付ける
常人では見切る事も、ましてや避ける事は先ず出来ない
しかしアレスはそれを避ける
獣の力で強化された動体視力と反射神経で、右へ左へと刃を避けて行く
もう1つ、アレスが避けれる理由がある
それはネレイボルが、『躾させられる刃』の特徴しか使いこなせて無い事だった
ナイフから伸びるソウルの刃の伸縮自在、そして出し消しの自在…それのみ、使いこなせている
つまり戦闘技術そのものは決して高くは無い
故に、攻撃が単純で単調…特にこの鞭の様な武器ならば尚更である
ナイフを振った方向に刃が追従して来る
それの繰り返し
更に扱うネレイボル自身がその行動に何も変化を付けない為に、より簡単に避けられてしまう
ナイフを振るスピードも、速いとは言えない
それに気付かないネレイボルは、刃がアレスに当たらない事に少し苛立ちを覚える
「すばしっこい少年だっ…! 鬱陶しい! その『足』…削り取らせて貰うっ!」
ソウルの刃を消し、今度は腕にソウルを纏わせ、アレスの足に向けて瞬時に振り払う
「『葦殺』ッ!」
素早く伸びたソウルの刃が、アレスの足を襲う
ビュゥンッ!っとソウルの刃が空を切る
その音の示す通り、アレスはそれを真上に跳び避けた
これを予想していたらしく、ネレイボルは振り払ったナイフの刃先を真っ直ぐにアレスへと向ける
「喰らえぇっ! 『苦儡
「『ウルスラスト』ォォッ!!」
アレスは空中で、右手の爪に纏わせたソウルの斬撃を、ネレイボルへと飛ばす
突然の攻撃に、ネレイボルはナイフを横に向けて防御体勢に移る
爪先から飛び出た斬撃を受け止めるがその勢いと威力は強く、ギィャァンッ!っと鋭い音を出し、ネレイボルは後方へと仰け反る
「ぐぅっうぅ!?」
よろめきながら片膝をつく
「ハハハッ…そう簡単に死んでも面白く無い… だが…」
ネレイボルはゆっくりと立ち、そしてゆっくりとナイフを振り上げる
次の瞬間、ナイフから数本のソウルの刃が飛び出した
「「!?」」
シードもミーシャも驚く
先程アレスを襲ったソウルの刃が何本も出現したのだ
その数8本のソウルの刃が、不気味に揺らめく
ネレイボルは驚く2人と、空中から着地したアレスを見て勝ち誇る
「さぁ…これをどう避ける少年…? 獣らしく…良い声で…鳴き叫べぇっっ!!」
ネレイボルはそのナイフを振りかぶり、アレス目掛けて降り下ろす――
「『苦喰八獣衣血伐』ッッ!! その服も体もっ! 血に染めろぉっ!」
8本の不規則に揺らめ動く刃が、アレスに降り下ろされる
「「アレスっ!!」」
シードとミーシャは、同時に声を荒らげる
だがそんな2人の声に反応せず、アレスは動こうとしない
それどころか、大きく深呼吸をする
そんな理解不能な行動をすれば、当然攻撃を食らう
が、アレスはナイフの斬撃を受ける事も無く、その場に居た全員がその行動が何を意味していたのか、直ぐに分かった
「ガアアアァァァァッッッ!!!」
耳を劈く程の大声で、ネレイボルに向けて鳴き叫ぶ
それは最早、『空気砲』と化していた
アレスから発射されたその『声』は、強烈な衝撃波となってネレイボルに当たる
しかしネレイボル自身には大してダメージは無かった
むしろアレスはネレイボルではなく、ネレイボルの持つナイフに攻撃を定めていた様だった
アレスの放った衝撃により、ナイフはギィャンッ!っと音を響かせ、あさっての方向へと飛んで行く
「なにぃっ!?」
ネレイボルはナイフを持っていた右腕を押さえる
どうやら持っていたナイフが勢い良く弾かれた為、腕が痺れてしまっているようだ
「ぐぅっ…このぉっ…!」
ネレイボルは懐を探り、何かを出そうとする
スゥッ…っとアレスは両腕を上げて、爪先をネレイボルに向ける
「『ウルズガム』…」
アレスの爪先から、小さなソウルの爪が発射される
鋭い爪の弾丸が10発、ネレイボルに一斉に撃ち出される
ドドドドドッッ!!っと撃たれたその爪は、ネレイボルの体にドスドスッ!っと突き刺さる
「がっぁ…!」
ネレイボルは苦しんだ様子を見せるが、懐からその何かを必死に取り出す
それは、ナイフだった
アレスが大声を出して吹き飛ばした『躾させられる刃』だった
「…!? もう1本持っていたのか!?」
シードが驚いたと同時に、ネレイボルはそれを振り抜く
「死ねぇぁっ!!」
ビュゥオッ!っとナイフから伸びるソウルの刃が、アレスを斬る
しかし、ほんの少し前のネレイボルと同じく、自分の放った攻撃にどのような行動をするのが分かっていた様に、アレスもまたネレイボルがこういう行動をすると分かっていたかの如く、真上へと跳ぶ
そして眼下に映るネレイボルへと顔を向ける
「『ウルガブラスト』」
スゥッ…っと息を吸い、そして放つ
「ガアァッッ!!」
再び声を衝撃波として放つアレス
今度はナイフでは無く、ネレイボルの左腕を狙って放つ
案の定左腕へと直撃して、バドギィャッ!っと腕から変な音が鳴る
「ぐあぁぁっっ!!?」
ネレイボルはあまりの痛みに背中から床に倒れ込む
大人の意地なのか、必死に痛みをこらえてアレスを睨み付ける
それでも痛みが治まる訳では無く、顔から冷や汗が流れる
倒れた自分の体を起こし、座り込みながらもまだ戦闘体勢を解こうとはしない
その様子を見て、ミーシャは喜びの声を上げる
「さすがねアレス! そのまま倒しちゃいなさい!」
「…」
そんなミーシャとは対称的に、シードは何やら悩んだ顔をしていた
「…? どうしたのシード?」
「…あいつ…なんでだ…?」
「??」
「…まさか…」
「「!!」」
何か閃いたシードだが、それを見た2人はハッとする
何故なら、ネレイボルが右手を上げて、アレスへと向けているからだ
それはつまり、センス『鎖と雷は躾の為に』を使おうとしているという事だからだ
「アレス! それを受けるな! お前の考えている事は危険だ!」
そんなシードの心配を余所に、アレスはネレイボルへ言い放つ
「来い…受けてやる…」
「……何ぃっ?」
「それで俺を…躾てみろ…!」
「…」
この行動は、完全に悪手だった
ネレイボルのセンスは、人体に接合する鎖を右手のひらから出し、接合後手のひらから電撃を繰り出す事が出来る
これを食らえば、まともに立つことすら出来なくなってしまう
アレスはそれを自ら食らおうとしているのだ
だが逆に、これに耐えうる事が出来ればネレイボルに勝ち目は無くなって、事実上アレスの勝利となる
『ハイリスク・ハイリターン』の構図となる
しかし前述の通り、この行動は『悪手』である
それはそうする以外にも、勝利を納める事が出来るからである
例えばこのまま高速でネレイボルに近付き、ただ殴るだけで倒せる事が出来る
あるいはアレスの身体能力であれば、発射された鎖を避けて同じく殴る…やり方はいくらでもあるのだ
結果、『ノーリスク・ハイリターン』の式が出来上がってしまう
もちろんそんな『賭け』をする必要は無い
「ちょっとアレス!? なに言ってるの!?」
当たり前の様にミーシャは止める
「あいつ…こうする為に、わざとネレイボルを倒さずに傷付けただけだったのか… 武器を弾いて動きを止めて、右腕じゃなくて左腕のみを動けなくしたってのか…? 一体何の為に…?」
困惑するミーシャとシード
右手のひらをアレスへと狙い定めたネレイボル
そんな3人に語り掛ける様に、アレスは怒りの感情がこもった声で言う
「ただ『勝つ』だけじゃダメだ…! お前の武器も…技も…肉体も魂も才能も…! 全てを喰らい尽くして…お前が二度と奴隷売買をしなくなるほどの『負け』を認めさせないと…勝った事にならない…!」
アレスはネレイボルの全てを打ち負かす
その為に武器を無くさせ、立てない程の傷を負わせ、センスの使える右手のみを残し、そして…そのセンスすら破ろうとしているのだ
「ハハハッ…! ではお望み通り…躾てやろうっ…!」
ネレイボルは右手にソウルを纏わせる
手のひらの中心部分が少し光る
「おいアレス! 避けろ!」
「そんな事する必要はないのよ!?」
「…だめ…」
シードとミーシャが、同時にその声のした方向を見る
その小さな声は、『混血』少女が発した声だった
「…だめ… それだけは…だめ…!」
少女の声は年相応の可愛らしい声だった
しかしその声には、『恐怖』を含めた『感情』がこもっていた
これまで少女は喋らなかった
そして感情を表に出さなかった
単純にネレイボルの鎖に繋がれていた事もあったが、それでも常に無表情で無感情だった
それがこの場で初めて、しかもアレスを心配して警告をした
それほど『危険』であることを告げているのだ
そんな少女の言葉に、アレスは前を向きながら返事をする
「大丈夫…俺は負けないから… あいつの薄汚れた魂なんかに…俺は負けない…!」
少女の警告を受けてもなお、ネレイボルのセンスを受ける事を止めない
ネレイボルは意地悪くニヤァッ…と笑う
「さぁ…躾の時間だっ…! 『鎖と雷は躾の為に』ォォォッ!!」
ネレイボルの手のひらから鎖が飛び出る
そのままアレスの腹部へと接合される
そして――
バリバリバリバリッッッ!!!
「がああああぁぁぁっっ!!」
オークションハウス内に響き渡る雷撃音と叫び声
「「アレス!!」」
シードとミーシャが声を上げて、アレスの名を叫ぶ
バリバリバリバリッッッ!!!
「ハハハハハッッ! どうだっ!? まだまだ威力を上げるぞぉっ!!」
ネレイボルは勝ち誇った様子で雷撃を与え続ける
「がああっ…! あああああぁっっ!!」
アレスはもがき苦しむ
バリバリバリバリッッッ!!!
「…だめ… それ以上は…死んじゃう…!」
少女はその顔を恐怖と絶望に染めて、アレスを見つめる
「うぐぉぉおおっっ…! うあぁぁあああっっ!!」
アレスは自分に繋がっている鎖を両手で掴む
バリバリバリバリッッッ!!!
「さぁっ! 少年っ! もっとだ…! もっと鳴き叫べっっ!!」
ネレイボルは高笑いを上げる
「う…おおおおぉぉっっ!! あああああっ…!!」
アレスの鎖を握る手が強くなる
バリバリバリバリッッッ!!!
「ぐおぉぉぉああああああっっっ!!?!」
叫び声が木霊する
だが、それはネレイボルが上げた叫び声だった
何故だか分からないが、アレスに与えられていた電撃が、ネレイボル自身に電撃が流れたのだった
「うぐぅぉっ…!? なん…だ…? 何が…ぁぁっ!?」
ネレイボルは全身が痺れ、まともに動けなかった
なにより電撃を発した右腕が、もう伸ばしたまま動かす事が出来ずにいた
「うぉぉ…! うおおおぉぉぉぁぁぁぁっっ!!」
アレスは鎖を握った両手を更に強くし、そして――
バキャャァッ!!っと鎖が握り砕かれる音が周囲に響く
「何っっ!?」
ばらばらに砕け散った鎖が、床へと落ちていく
すると、徐々に鎖からソウルの煙が立ち上ぼり、段々と消滅していく
「はぁっ…! はぁっ…! はぁっ…!」
アレスは息を切らしながら、自分に繋がれた鎖が消えて行くのを眺める
いつの間にかなのか、当然と言うべきなのか、獣耳やソウルの爪が無くなり『獣心化』は解けていた
「あがぁっ…!? わ…わたし…の…鎖…がぁぁ…!?」
ネレイボルは全身痺れながら、自分の放った鎖が砕かれるのとそれが消滅していく様子を眺めさせられる
この事から、ネレイボルの敗北が決定したのも同然だった
「アレスが…勝ったのかしら…?」
「あぁ…そうだな… だが…」
何故アレスに与えていたはずのネレイボルの電撃が、逆流して自分自身に食らう事になったのか…?
詳細は分からない
シードは思考を巡らせる
「なんでもいいわ! とにかくこれで…」
「お前の負けだネレイボル… もう悪さ出来ないように…『半殺し』にさせてもらうぞ…!」
そんな重要だが些細な事を気にせず、ミーシャもシードもアレスも、考える事をせずにネレイボルを睨む
「う…うぉあ…あぁぁ…」
ネレイボルは怯えきった表情で、痺れて上手く動かない体を必死で動かしながら、尻餅を付きながら後ずさりする
反抗出来ない自分をこれから『半殺し』するという少年が目の前に居るのだ
恐れない訳がない
アレスは両手にソウルを纏わせて、未だに消えない『怒り』を、ネレイボルにぶつけようとする
「はぁっ…ぁあっ…うぅ…!!」
後ずさりするネレイボルが突然、何かを見付けた顔をする
「………」
そして再び、意地悪く笑う
「何をしている…? 今こそお前の『役割』を果たす時だろう…?」
「「「??」」」
3人は何を言っているのか分からなかった
「さぁっ…! 殺せっ…! 『混血』ぅぅ…!」
自分のスレイブネームを呼ばれ、少女はビクッ!っと小さく跳ねる
「さぁ殺れ! 皆殺しにしろぉっ! バケモノがぁぁっっ!!」
3人は何を言っているのか分からなかった
――それらの言葉を聞くまで
また技が大量に…
技・センス集が…




