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『鎖と牢は躾の為に』『鎖と雷は躾の為に』

「ネレイボルさんに会いたい?」

オークションハウスの裏口に着いたアレス達は、そこに居た警備員に話し掛けていた

「ああ! あの人に会っていろいろ話がしたいんだ!」

すると、警備員は渋い顔をする

「確かにこのオークションハウスに、ネレイボルさんの私室はあるんだが…悪いが会う事は出来ない。 あぁ…『ここに居ない』って意味でな」

ミーシャは丁寧な態度で尋ねる

「どこに行っているんですか?」

警備員は首を振る

「俺も良く分からない。 だが、ネレイボルさんは忙しい人だ… この街の巡回をして、商人達から話を聞いたり奴隷の様子を見たりしてるらしい… とりあえず、ここには居ないんだ。 悪いな」

アレスとミーシャはちょっと悲しそうな顔で警備員を見る

「まあ、ネレイボルさんも君達が考えを改めたって聞いたなら、喜ぶはずさ。 伝えておくから、安心しときな」

「居ないなら仕方ないわね… ありがとうございます! ネレイボルさんに伝えておいて下さい!」

「ありがとう! それじゃ!」

2人は残念そうな顔をしたが、居ないならしょうがないと割りきって警備員にお礼の伝言を頼むと、笑顔で別れを言った

「それじゃ、元気でな」

警備員も手を振って別れの言葉を言うと、シードが何かに気付いて指を指す

「…? その後ろのソレ…一体何だ?」

警備員が気になって後ろを振り向く

「『風打(かざうち)』」

突然シードは、後ろを向いた警備員の後ろ首を手刀で素早く叩いた

良く見ると、その手刀には風属性のソウルが纏っていた

その手刀を受けた警備員はカクンッと体を震わせ、地面にうつ伏せになって倒れる

「「!?」」

もちろんアレスとミーシャは驚く

いきなりそんな人を()()()()様な行動をすれば、当然驚く

シードは手慣れた様子で警備員の懐を探り、鍵を取り出す

ササッと裏口のドアの鍵を開け、警備員の体を裏口の中へと引きずりながら入れた

「シ…シード!?」

「あなた…一体何を…!?」

「お前達こそ何やってんだ? 早く入れ」

シードは2人を催促し、裏口へと招き入れる

ドアを閉めて内鍵を掛けると、警備員をドアへと座り込ませ、シードは辺りを見渡す

ミーシャはそのぐったりしている警備員に近寄り、安否を確認する

「ちょっと… 死んではない…わよね?」

「『風打』… 風属性のソウルを纏った手刀を相手の後ろ首に当てて、その衝撃と震動で脳を揺らして軽い脳震盪(のうしんとう)を起こす技だ… 死んでねぇから安心しろ」

回りを見ても、人の気配は無い

それを感覚で確認すると、改めてこの場を目で確認する

この裏口は真っ直ぐ通路が続く一本道だったが、裏口から入って直ぐの右側と突き当たりの右側に、どこかに続く通路がある

それに対して、通路の左側には幾つか扉がある

シードは少し早歩きで、突き当たりの通路まで行く

その途中、左側にある部屋に書かれている部屋名を確認していく

倉庫、待機部屋、備品室、そして()()()()()

アレスとミーシャは慌ててシードに付いていく

シードは曲がり角を右へ曲がると、その先へと進む

すると、どこかで見た光景が広がっていた

(ここは…()()か?)

シード達は数時間前に、このオークションハウスに来ていた

正面口から入って見た、奴隷競売が行われた壇上に繋がっていた

どうやらシード達の居る通路は、舞台袖から舞台裏へと繋がる通路らしい

(なるほど… ネレイボルがオークションの時に壇上に現れたのも、ここから来たからか…)

シードは納得すると、(きびす)を返して元居た通路に戻る

「シード!? どうしたんだ!?」

「あなた…さっきから何をしているのよ!?」

奇妙な行動ばかりするシードを、段々と心配になってくるアレスとミーシャ

シードはここまでに来る途中に見た、通路の中央にあった『元締め部屋』の扉の前へと立つ

シードは急ぎながらも慎重にそのドアのノブを回す

ガチャッ…と音がして、ドアが()()()()()()

(!? …鍵が掛かって無い…)

「…」

シードは驚いた様子を見せるも、そのまま部屋の中へと入って行く

「ええっ!? 入るのか!?」

「ちょ…シード!? だめよ勝手に!?」

2人のそんな制止を聞く耳も持たずに、部屋の中をざっと見る

中は『元締めの部屋』とは思えない程、家具もあまり無くてこざっぱりしていた

とは言え、部屋の広さは通常の一軒家のリビング程の広さがあった

部屋中央に置かれた長机、その前後に置かれたソファー…

部屋の左右壁際には、様々なファイルが収納された軽金属製の棚が並べられていた

中には半開きの棚があり、そこから幾つかファイルが無くなっていた

部屋右隅にはキレイに整頓されたベッドが置いてあり、ネレイボルがここで寝泊まりしている事が(うかが)える

部屋奥には、まるで社長が座るようなデスクが置かれ、そのデスクの上には書類が散乱されていた

おそらく半開きの棚から出されたファイルが、そこに散らばっているのであろう

シードはそのデスクへと急いで駆け寄り、散乱された書類を漁る

ガサガサと音を出して書類を漁るシードを、呆然と立ち尽くして見るアレスとミーシャ

「…これは…『報告書』か… …状況は…あまり良くは無い…か… !! 見つけた…!」

シードは何かを見付け、書類の束をめくり目を通す

そんな行動ばかりするシードに、ついにミーシャは少し大きな声を出して尋ねる

「シード! どうしたのよさっきから! あなたの目的は何なの!?」

「お前ら…本当に()()()()()()()()()()()

ミーシャは一体何の事か分からなかった

「え…? なんの事…かしら…?」

シードは書類の束から何枚かを取り出し、ミーシャ達へ差し出す

「あのネレイボルの事だ… 奴隷売買を平気で行う様なやつだぞ? 理念は立派かもしれねぇが、『()()()()()()()()()()()()()()()()んだ… それは正しいとは思えない。 それに…」

ミーシャがその書類を受け取ると、今度は半開きの棚へとシードは移動し、()()を探す

「俺は、よく知りもしない大人を信用したりしない。 それが白鷺シード()なんだよ」

「…あなたがどんな心持ちであの人を見ていたかは分かったわ… でも、人を気絶させたり勝手に人の私室に入ったりするのは良くない

「その理由を知りたいなら、今渡したその書類を見てみろ」

「?」

ミーシャは良く分からない様子でその書類を見る

アレスも、ミーシャの持っている書類を覗き込む

「え~…と… 『報告書:スレイブネーム・ブレイクマン… 熊の獣人であり、その内なる破壊衝動を抑えきれずに町を1つ壊滅したと()()()()()男… 幻覚作用のある薬品による自己暗示の実験は成功し、闘争心を残しつつ奴隷化に成功… なお、健康状態は良好で問題…無し…』 …これって…どういうこと…?」

ミーシャは次の書類に目を通す

「『報告書:スレイブネーム・ホームメイド… 権力を持ち始めたある貴族を疎ましく思った領主と協力、そこに仕えるメイドを奴隷として引き取る事を条件に屋敷を犯罪者(テロリスト)として破壊し、救助という名目で奴隷化を完了した… しかし屋敷の崩壊の勢いが予想よりも大きく、救助されたメイドは1名しかいなかった… ()()()()()()()、その1名を奴隷として出品した… 健康状態は良好…』 …そんな…」

ミーシャは書類を次々に見ていく

それらの書類は、今日このオークションハウスで見ていた、奴隷達の詳細情報が細かく記載されている報告書であり、先程の2人と同じ様な内容が続いていた

ミーシャの顔は、段々と青ざめていく

だが、渡された書類の最後の紙を見て、その顔は困惑へと染まる

「『奴隷情報:真絞(まじめ)トーベス… とある領主が土地開発の為に、山賊や商人と提携し小さな町を壊滅させた。 その際に捕まえた値打ちの低い奴隷。 基本価格:1000マル』…」

ミーシャはその書類を読み終えると、予想もしなかった内容に力が抜けてしまったのか、書類を床に落としてしまう

「シード…まさか… 今日私達が見ていたあの奴隷の人達って…全員、()()()()()()()()人達ってこと!? それに最後のって…トーベスさんの情報!? なんでこんな所に…!?」

「おそらく今日だけじゃねぇ… 今までもずっと、そうやって奴隷に出来る様な理由を()()()()()()()んだ… つまり、何の罪もない人を強制的に奴隷化させる、異常な手段を使ってるんだ。 トーベスはオークションで競売されてなかったからな… 『報告書』じゃなくて、ただの情報としてまとめられてるんだろうな」

「強制的に奴隷化…それって犯罪なんじゃないの!?」

「当然だ… 騎士にバレてそんな証拠を見つけられた日には、監獄行きは間違いねぇだろうな… !! これだ…」

シードはとあるファイルを取り出す

そのファイルには、『JCS会社概要』と書かれていた

パラパラとそれをめくる

「『ジェイル・チェーン・スレイブ』カンパニー…通称『JCS』は、大手奴隷商売企業である。 『鎖と牢は躾の為に』を家訓とする、貴族『鎖牢(さろう)家』を筆頭に急成長を遂げた会社であり、その規模は全大陸に及ぶ。 奴隷売買以外にも、奴隷を拘束する手枷や、奴隷の首に着けて任意に電流を流したり衝撃を与えたりする事が出来る魂機(そうき)躾させられる魂機(ペット・マシン)』等を開発し、奴隷を制する手段においても功績を上げている…なるほど? ロッテルクで売っていた奴隷達の首に着いていたのはこいつか…」

シードはファイルのページをめくりながら思い出していた

奴隷売街ロッテルクの奴隷商人が、奴隷達の首輪から伸びた鎖を何かしらの魂機に繋いでいたのを思い出していた

それが『躾させられる魂機(ペット・マシン)』と呼ばれる物だったと分かった

「………おっ…こいつだ…!」

何かを見付けたシードは、そのファイルの1ページを広げて、ミーシャ達に見せる

そこには見た事のある顔が写っているプロフィール書類だった

「これって… ネレイボルさんのプロフィール?」

「そうだ… 注目する所はここの…やつの才能(センス)だ…」

才能(センス)』…人間や獣人の長所や特技や特徴、いわゆる才能と呼ばれる物が『ソウル』によって強化され、『能力』として発現した()()である

アレスもセンス『獣心化(ドライブビースト)』を所持している

「あのネレイボルの右手のひらから出てる『鎖』… あれは間違いなく『センス』だ… ()()()()にも、これは知っておく必要がある… ちゃんと覚えろよ?」

ミーシャはシードの『今後の為』と言う言葉が気になったが、シードの伸ばした指先を見る

鎖牢(さろう)ネレイボル… センス『鎖と雷は躾の為に(エレキディスプリンド)』。 右手のひらから出される鎖を対象者の肉体に接合、その鎖を通して電撃を流し込む事が可能。 電撃の威力は調節する事も出来る。 更にこのセンスには『感情を識別する力』があり、鎖に繋がれた者が鎖を繋いだ者(ネレイボル本人)に何か『敵意』を持つと、自然に電撃が流れる能力がある。 例えば『殺意』、例えば『嫌悪感』等、反抗する様な感情と敵意を持つと発動される。 また、鎖が何か別の物質に干渉して引っ掛かる等が起こり得ないように、ソウルを纏った物や状態でないと鎖に触れられないという性質も持ち合わせている。 正に『躾』を体現したセンスである」

シードは、ミーシャがそれを読み終えると、ササッとそのファイルを元の棚に戻す

そして急いで、荒らした棚の中を整理する

「知りたい情報は手に入れた… さっさと片付けて、ここに来たのがバレないように全部元に戻すぞ! その書類も拾っておけよ!」

棚を元に戻したシードは、ミーシャが拾い上げた書類をバッと取り、デスクの上に戻す

「ちょ…ちょっとちょっと! ここに来たのは、あのネレイボルさんのセンスを知るためだけなの!? あなたのやりたい事…やってる事が全然分からないわよ…」

「分からなくて大丈夫だ… ここから出て、移動している最中にでも説明してやる! とにかく急いで

「何処に行くつもりかな…?」

冷静で、落ち着いた声が、部屋の中へと響き渡る

「「!!」」

シードとミーシャは部屋の入口を勢い良く見る

そこには、神父服を着込んだネレイボルが立っていた

その脇には、例の『混血少女』も居た

もちろん彼女のうなじからは鎖が出ており、ネレイボルの右手のひらへと繋がっている

ネレイボルは1歩部屋へと踏み入り、シードに尋ねる

「もう一度聞こうか… 何処に行くつもりかな?」

「…」

目を少し細め、まるで取り調べでもするかの様に語るネレイボルに、シードは言葉を出さなかった

だがそれでも、今のシードに疑問を持つのは()()1()()居る

「…私も…あなたの目的や考え、これからどこに行こうとしているか…教えてほしいわ…」

ミーシャにこう言われてしまったら、説明せざるを得ない

小さくふぅ…と溜め息をつく

そしてゆっくりと話し始める

「…俺は最初からネレイボル、あんたの事を信用なんかしていない… 信用したフリをして、アレスとミーシャの2人と街を見て回った… 目的はただ1つ、あんたの化けの皮を剥がす…それだけだった。 だが、それはあくまで()()目的だ… 2人が奴隷に対しての考えを変えれば、別にこの街を直ぐに立ち去っても良かった。 案の定、あのトーベスと会って2人は考えを改めた。 それで良かったし、それで終わりだった…が、最後の最後に、あんたを()()()()チャンスが来た… 当然俺は、裏口の警備員を気絶させてあんたの私室に入った」

「…」

ネレイボルは黙ってシードの話を聞いていた

()()()()を浮かべて

「あんたがここに居ないという状況…私室にも関わらず鍵が掛かっていない…デスクの上に乱雑に散らばった書類…棚から何かを取り出したままの形跡… 推測は簡単だった。 ここであんたは、()()()()()()んだ… しかも、JCSとやらの会社に送る報告書をまとめている最中に、棚から別の資料を取り出してそのまま半開きにし、鍵を掛け忘れて出ていく程の()()()()を聞いたって事だ…」

「??」

シードの言っている事が良く分からず、ミーシャは頭の上に?が浮かぶ

「その聞いた方法は、この部屋のこの状況を見て直ぐに分かった… あの『衛兵隊』の支団長がトーベスに渡した『小型繋魂機(けいそうき)』… あれはいわゆる『盗聴機』として、あんたが支団長に渡したんだろ? 繋魂機は内部構造をいじれば、盗聴機にも出来るからな。 それを俺達を案内する騎士の1人に渡して、俺達の会話を盗聴し、特にアレスが『奴隷制度に対する考えを改める』かどうかを聞いていたわけだ… あんたのしてきた事がバレなかったのは、このロッテルクだけじゃなくて、ここに居る騎士も牛耳ってるようだからな。 で、アレスが考えを改めたからあんたの悩みの種が解決してホッとした…が、そこで新たな問題が発生した…」

「…」

ネレイボルの浮かべる薄ら笑いが、()()()()()に近付く

「それはトーベスだ… トーベスが俺達の案内役になった事がじゃ無い… トーベスが独自に、()()()()()()()()()調()()()()()事だ…」

「…どういうこと…?」

「考えてみろミーシャ… もしトーベスが自分の身に起きた事件の真相を突き止めたとしたら…必ず裏でネレイボルが繋がっていたと分かるだろう… それがこの街以外の騎士に知られたら、ネレイボルは間違いなく監獄行きだ。 今まで様々な証拠を消してきたからこそ、そんな些細な事で犯罪が明るみに出る…それだけは避けたい… だからこそ、早急に対処する必要があった。 棚からトーベスの奴隷情報を引き出し、報告書をほったらかして、私室に鍵も掛けずに出ていった… あんたは俺達がここに来る事を知っていたが、自分がここに居ない事が分かれば、裏口に立たした警備員に伝言を残して、街を出ていくと予想したんだろうな。 …それより、()()()()()()()()()()()

ミーシャはそれを聞くと、辺りをキョロキョロと見渡す

「え!? トーベスさん、ここに居るの!?」

「おそらくな… あんたがここに居るって事は、もうトーベスに会って捕まえたんだろ? トーベスを人質に取って、無抵抗で俺達を捕まえる為に…な」

「…」

ネレイボルは少し(うつむ)

その姿から、何か考え事をしている様にも見えた

「シードの言ってる事が本当なら、早くトーベスさんを

「本当…なのか…?」

その言葉は、アレスの口から発せられたものだった

長いこと沈黙を貫いて来たアレスが、ミーシャの言葉を遮り、2歩程前に歩み出て、今ようやく喋り始めた

「シードの言ってた事…! 全部…全部本当なのか!? 俺は奴隷なんて無くなればいいって思ってた… でも…そうじゃないって! 奴隷が必要な人もいるって…悪いことじゃなくて、良いことで…必要な人も必要とされる人も… 理想の奴隷…『自由』な奴隷もいるんだって! ようやく分かったのに…! 全部…ウソだったのか…?」

その声と顔には、不安と疑問…そして、全て嘘であって欲しいという()()の感情が感じられた

「………」

俯いたまま、ネレイボルの体が小刻みに震える

「…………くくっ…」

3人は分かってしまった

何かを考えているから俯いていたのでは無い

「…………ははっ…! ハハハハハハッッ!!!」

必死にただ、()()()()()()()()()()()()()()()なのだと

「素晴らしいっ! シード君…と言ったかな!? 君の洞察力、推理力、行動力っ!! 私の秘書として雇いたいぐらいだっ! 全く素晴らしいぞっ! そして…少年! 君はとても純粋だな… いや…少年ならではの純粋さ…私は嫌いでは無い… だがっ! 純粋過ぎて物事の『裏』を見れて無いぞっ! 少しはシード君の様に、『疑う』事も覚えると良いだろうっ! 少女…君もだぞ…? 私の様に、『表』も『裏』も持ち合わせる…『嘘』とそれを隠す『技術』を持つ者が! 『大人』と呼ばれるのだよっ!!」

その()()の言葉を聞き、アレスは1歩、後ずさりしてしまう

「そんな…そんな…」

自分の願いが無惨にも砕かれたしまったアレスの肩に、シードは優しく手を置く

「諦めろアレス… 否定しないって事は、事実って事だ… あいつはそういうやつだったんだろ… とにかく、戦う準備をしろ」

そのままシードはアレスの前へと歩き、背中に携えた槍に手を添える

「ここにトーベスが居ねぇなら、どっかに捕らえてるって事か… なら、あんたを無理矢理にでも退かしてもらうぞ…!」

「ハハハハッ…! シード君、『鎖牢家』の家訓『鎖と牢は躾の為に』と言う言葉が有るのを知っているかな…? だが私はこの家訓は嫌いなのだ… 何故なら、私のセンス『鎖と雷は躾の為に(エレキディスプリンド)』は牢では無く雷と言う字を使うからだ… 牢は捕らえる事しか出来ないが、雷は痛みを与える事が出来るっ! 雷は、私に逆らう様な者達を従えられる力なのだ…!」

「…何が言いたいんだ…!?」

ネレイボルは、込み上げる笑いを徐々に抑えていく

「ハハッ…! つまりだ…牢を使い、捕らえるだけでは甘いのだ… 自分の存在を脅かす様な者には、雷という『苦痛』を与えなければならないのだよ… 分かるかね…?」

「……」

シードは黙っていた

ネレイボルの言う事が分からなかった為、その言葉の意味を必死に理解しようと考えているのだ

そんなシードの様子にニヤニヤしながら、ネレイボルは右手を少しグイッと動かす

それに反応するかの様に、脇に居た少女は両腕を胸の前で交差させる

すると突然、少女の両手に剣がいきなり出現する

それは、少女がネレイボルに群がる記者を脅したり、オークションハウスで奴隷の2人を()()()()にした時に使用していた、立派な両刃剣だった

「「!!」」

シードは手に添えた槍を強く握り、ミーシャは両腰に着けた2丁の銃に手を掛ける

一方アレスは、ショックのあまりに動けなかった

そんな3人に、ネレイボルは少し残念そうで()()()()()話す

「私の秘密を知った君達を()()しなくてはならないのだが…実は感謝しているのだよ… 君達があのトーベス君に会わなかったら、彼が間接的ではあるが私の事を調べているという事を、私は知る事が出来なかっただろう… そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

ネレイボルは神父服のポケットから何かを取り出して床に放り投げる


()()は、何処かで見た事のある、2つの指輪だった


赤と青の宝石がそれぞれ付けられた指輪だった


真っ赤な()がうっすらと付いた、トーベスとヤナエの指輪だった


それらを見た瞬間、シードやミーシャはおろかアレスでさえも、()()が何を意味しているのか理解()()()()()()()

「…うそ…」

「おいおい…マジかよ…」

ミーシャは手を掛けた銃から手を離し、両手で口を覆う

冷静で頭脳明晰なシードでも流石に予想して無かったのか、冷や汗を流す

ネレイボルは勝ち誇ったかの様に、自らの笑いを見せ付けながら語り掛ける

「ハハハッ!! シード君! 君の推理はただ1つだけ間違っている! そう…もうこの世(ここ)には居ないのだ… トーベス君も、その雇い主の老婆も! そして…その反応っ…! やはり君達の様な子供のその反応は…人の死を感じたその反応は…何度見ても面白いっ…! 絶望っ…恐怖っ…哀しみっ…! 奴隷商人冥利に尽きる…! その感情に染まった者は、なんとも殺しやすいものだ… さぁ…『混血』、殺せ」

少女は軽く頷き、生気の無い目でシード達を見据える

そして前傾姿勢となり、剣を持つ両腕を交差したまま突撃する構えをとる

が、次の瞬間、その姿勢を解いて()()方向を見てしまう

その少女だけでは無い

その場に居た全員が見てしまう

それも、そんな大声で叫んだら見ずにはいられない

「『獣心化(ドライブビースト)』オォォォッッ!!!」

圧倒的な『怒り』に身を任せてセンスを発現させるアレスを、その場に居る全員が見る

全身から、デスクの上にあった書類が部屋の中に舞い散る程の勢いでソウルが溢れ出て、空気が震える

ビリビリッ!っと肌が痛む感覚を覚える

黒毛の獣耳、ソウルで作り伸びた爪、小さくても鋭い犬歯、狩人の様な狼の目…

獣の力を宿す『獣心化(ドライブビースト)』だが、怒りで染まったアレスは最早、獣と一言で言い表せない程狂暴性が顕になっていた

その目は真っ直ぐネレイボルを睨み付け、今にも飛び掛かって()()()()()様な勢いだった

その溢れ出るソウルと怒りに、シードもミーシャも、そして『混血』の少女もたじろぐ

しかし1人だけ、ネレイボルは喜びの表情で興奮していた

「おおっ…! これは…少年! 君は獣人だった…いやっ! 人間なのに獣人の力を持っている…なるほど! それが君のセンスなのかっ! 素晴らしい! おい『混血』! 予定変更だ… あの少年だけは生け捕りにしろ! ただし…殺す気でやるんだ…行けっ!」

その言葉を皮切りに、少女は再び前傾姿勢となり、アレスへと突撃した

暴走するアレスに気を取られていたシードとミーシャは、その少女の行動に対して一歩反応が遅れた

シードは全身にソウルを素早く纏わせて、アレスを守ろうと盾になる為に飛び出そうとする

だが、少女が突撃した先に居たその人物、シードが盾になろうとしたその人物は、既にそこには居なかった

「「!?」」

少女もシードも、突然居なくなった()()()に驚く

その驚いたのも束の間、アレスは直ぐに現れた

少女とネレイボルの間に

そしてそのまま、ソウルを纏った爪を付けた左手で、床を思いっきり引き裂いた

ギュアアィィンッッ!!

ネレイボルの右手から少女のうなじに繋がっていた鎖を、耳が痛くなるほどの金属音を響かせて裂き砕く

砕かれた鎖の破片が周囲に飛び散る

「私の鎖がっ…!?」

先程まで喜びに興奮していたネレイボルも、この事態は想像していなかったらしく驚きの表情を浮かべる

後ろで鎖を砕かれた少女は、突然の出来事につまずいて剣を落とし、両手を付き転んでしまう

ネレイボルは驚いた表情から苦い顔になり、アレスをキッと睨む

「よくも鎖を

「ネレイボルゥゥァアアッッ!!!」

怒りを爆発させてネレイボルの名を叫び、左手のソウルの爪を消して拳を握り、全体重を乗せて1歩踏み出し、ネレイボルの腹部を力一杯殴り付ける

ドゥグアァッッ!!っと鈍い音を出し、ネレイボルはその一撃をまともに受けてしまう

「うぐぅあぁぁっっ!!?」

ネレイボルの体はその威力を示すかの様に、部屋の入口から吹き飛んで行く

そのままその部屋の反対側の壁、シードが警備員を気絶させて入って来た通路の右側の壁に激突する

それでもアレスの放った攻撃の勢いは凄まじく、壁を砕き割ってしまう

壁を貫通して壁の向こう側…つまり、オークションを行った演壇の後ろの壁を突き破り、ネレイボルが飛び出て来た

壇上へズザザァァッ!っと体を滑らせて止まる

「ぐうっ…ぅおお…!」

ネレイボルは痛みのあまりに倒れたまま呻き声を上げる

そんなネレイボルを追撃しようと、ネレイボルの空けた穴からアレスが飛び掛かって来る

「ぐっ…調子に乗るなよっ…!!」

ネレイボルは懐からナイフを取り出した

だが直ぐにそれは、ただのナイフでは無い事が分かった

ナイフの刃からソウルが伸びていき、まるで鞭の様に長くなる

ネレイボルはそれをアレスに向けて振り抜く

ビュオォンッ!っと空を切る音が鳴り、鞭の様なソウルの刃がアレスを襲う

が、アレスはバックステップでそれを回避する

アレスは倒れているネレイボルと距離を取る

そしてゆっくりとネレイボルは立ち上がる

「これは…『躾』では無い…! 私に従わない無能な奴隷を…少年、君の様に暴れ回る有害な獣を…『処理』する為に…! この『躾させられる刃(ペット・ナイフ)』はあるのだっ! …最早、あの『混血』に君を処理させるつもりは無い… 私自信の手で…君を処理してやろうっっ!!」

「お前を1発…思いっきり殴りたかった…! 次は殴らない…噛みちぎってやる…! 俺が『処理』してやる…やってみろ…! 今の俺は…人間でも獣人でもない…獣だ…! お前に処理される程…俺は大人しくなんか無いぞ!!」

アレスは、怒りと哀しみの入り混じった()を浮かべながら、殺意にその魂を染めていった



次回 『激昂(げきこう)撃吼(げきこう)≫する少年』

アニメとか映画とかの予告って上手く出来てますよね

自分はこれが精一杯です

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