奴隷売街 ~大陸と奴隷について~
―2日後… 皐月 11ノ日 木魂日 午前11時53分―
アレス達はとある食堂に居た
「『ロッテルク』までもうすぐね」
ミーシャが焼きたてのパンを食べながら呟く
「まぁ、まだまだ歩くけどな…」
シードはサラダを食べながら返事をする
「…」
アレスは目の前にあるステーキ肉を食べずに、うつむいていた
食べないと言うよりは、食べたいが食欲が無い様だ
「…? アレス? 食べないの?」
「…うん…」
アレスは気の無い返事をする
「…原因は…あれだろうな」
シードが目線を右後方のテーブルへとそらす
ミーシャがその方向を見ると、テーブルには2人の男が座って居た
着ている服は少し高そうな印象を受け、宝石を付けたネックレスや指輪を身に付けていた
注文している料理も、アレス達が食べているものよりも質や量が数段高い
だが、アレスの食欲が無くなるのはそれらでは無い
その男達が持っている鎖の先…
そこには、鎖の付いた首輪をした、人らしき人が居た
男の1人が連れているそれは、女型の犬族の獣人で、頭頂部に獣耳、腰付近には尻尾が生えている
髪は短い薄赤色だが、まるでツヤは無い
ダボダボでボロボロの布切れの服を着せられ、更に四つん這いになっている
もう1人の連れているそれは、同じく女型だが人間で、黒の短髪でありボサボサ
服も全く同じであるが、直立不動で男達の食事を眺めているみたいだった
どちらも若い幼気な少女の人らしき人だった
…何故、人らしき人と言う表現を使うのか?
それは彼女等が、最早人形と呼べる様な、生気を失った無味乾燥している目と雰囲気を出していたからだ
一目で見て分かる
彼女等が奴隷であると
なるべく目を合わせない様にして、男達の会話をミーシャは盗み聞く
「…ここの奴隷もなかなかだが、『ロッテルク』の奴隷にはやはり敵わないな!」
「全くだ! あそこは質も量も、ここの2倍は有るからな!」
男達は意気揚々と会話する
「やっぱり『ロッテルク』に行くとするか…」
「値段も2倍はする…が、こんな粗悪品よりは良いのが手に入るはずだな!」
獣人の奴隷を連れた男が料理の1つである骨付き肉を、ヒョイッと四つん這いになっている獣人の前に捨てる
床に落ちたその肉を、奴隷である獣人の少女は喰らう
おそらく、そう躾けられたのだろう
だからこそ少女は肉を喰らう
その様子を見て、男達は高らかに笑う
「ハッハッハッ! なかなか良い教育をしているではないか!」
「教育? これがこれの本能ですよ! ハハハッ!」
さらにその様子を見て、アレスは今にも、その男達に飛び掛かりそうな程怒りの表情を見せていた
『食欲が無い』事よりも、強い感情がアレスを満たす
それはミーシャも同様だった
「おい、抑えろよ? 騒ぎを起こすな」
アレスは歯軋りをして、必死に自分の体を抑える
…やがてその男達が店を出ていくと、シードが軽く溜め息をつく
「アレス、ミーシャ…お前らの気持ちは良くわかる… が、もうすぐ『ロッテルク』に着く。 あんな光景はこれまでも見てきたし、これからも見ることになる… 騒いでもどうする事も出来ない… 今は、『元締め』に会うことだけを考えろ。 この2日間、そう教えただろ?」
「「………」」
アレスとミーシャは黙りこくる
2人は「その通りだ」と、黙認しているのだ
――中央大陸小漁港『ペットル』で商人から、奴隷の売買が盛んな街『ロッテルク』の話を聞いたアレス達
ペットルから馬車を使えば1日程で到着する所にロッテルクはあるらしい
しかしその移動手段が無いため、徒歩で行くしかない
商人の馬車に乗せて貰うという方法もあったが、多くの商人が交易品や奴隷を大量に載せているため、3人も人が乗せられ無かったりアレスやミーシャが『奴隷を扱うような商人と一緒なんて嫌だ』と言って、結果的に歩いてロッテルクを目指す事になった
町々を渡り歩きながら奴隷制度の現状、そしてロッテルクの詳細を見聞きして行くアレス達だったが、その度に何かしらの問題を起こしていく
奴隷を繋いでいる鎖を奪おうとしたり、商人に襲いかかったり、更には奴隷を買おうなんて言いかけた事もあった
アレスはそれほど、奴隷制度そのものがあってはいけないと考えているのだ
そこで中央大陸随一で奴隷売買が多いロッテルクを目指し、そこに居る『元締め』と呼ばれる奴隷売買を牛耳る人物と会おうとしているのだ
そして現在、ロッテルクに近い商人宿場町『ケール』で、昼食を取っていた
そしてシードは2人に警告する
「いいかアレス? ロッテルクに着いても、絶対に『奴隷制度をぶっ潰す』なんて考えんなよ? 俺達の様なガキにそんな大それた事は出来ねぇし、そうなると奴隷商人全員を敵にまわす事になる。 いくら『ヒーロー』を目指すからと言って、それは『無謀』ってやつだ…」
「うん…」
アレスはやる気の無い返事をする
「ミーシャもだぞ? あくまで俺達の目的は、『元締めと会って奴隷制度をどう考えてるか?』を聞くだけだ。 余計なマネをすんなよ?」
「うん…」
「ええ…」
アレスとミーシャはどんよりして返事をする
「…んで、ふざけた答えを出したら、一発殴る… それでいいな?」
シードは溜め息をついてそう言うと、アレスとミーシャは笑顔を見せて元気良く返事をする
2人は、元締めに会って聞くだけで済ませたく無かったのだろう
いわゆる、自分の中でケリをつける為に、奴隷制度に対しての1つの答えを出す為に、ロッテルクで奴隷制度の現在と未来を見定めに行くのだ
シードはそんな2人にあまり関心が無い
いくらヒーローを目指すからといっても、問題はなるべく起こすものでは無いからだ
そのシードが妥協して『一発殴ってもいい』と言う言葉を出した為に、2人はお礼の意味を込めて笑顔を見せた
「さすがシード! わかってるね!」
「…何でもいい… さ、メシ食ってさっさと行くぞ」
「…でも、どうして私達の居た大陸とこの中央大陸で、こんなに奴隷制度の違いがあるのかしら?」
「確かに… 俺の居た町で奴隷なんて全然見たことなかったからな~…」
「私もよ? 『カリーチャ』で奴隷なんて全然見たことなかったし…」
サラダを食べていたシードがその手を止めて、懐から何か紙を取り出す
「ちょうど良い… お前らに俺が知っている事と、この大陸に来てから知った事を説明してやる。 食いながらでも良いから聞いとけ」
取り出した紙を机に広げる
それはどうやら、『地図』のようだ
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「? これって…?」
「『地図』… あ…『世界地図』じゃないかしら? 私、一度見たことあるわ」
アレスとミーシャは、その地図を覗き込む
その地図を指差しながら、シードは説明を始める
「まず…俺達が居た大陸ぐらいは知ってるな?」
「もちろん! 大陸『フェリアス』! …俺、もう懐かしくなっちゃったよ…」
「私も… 確かこの地図で言うと、この左下の大陸よね?」
シードは左下の大陸を指差して頷く
「そうだ。 第四大陸『フェリアス』。 一年中豊かな気候で気温も安定、全大陸中最も住みやすい…なんて言われてもいるな。 だがフェリアスにこれといった特徴は無い…が、唯一言うなら『平和』って所ぐらいか…? あぁ…そういえば、自慢出来るものなら
「シード大丈夫だって! 俺達の大陸は俺達が一番知ってるって! それより他の大陸のことを教えてくれ!」
アレスはシードを急かし、地図の真ん中の大陸を指差す
「そこが私達の居る大陸ね? え~…と…みんな『中央大陸』って呼んでいるから、あんまり覚えてないわ…」
シードは小さくふぅ…と溜め息をつく
「お前ら、少しは勉強したらどうだ…? アレスは学校行って無かったからまだ理由が付くが、ミーシャお前は…」
シードは少し冷ややかな目でミーシャを見る
ミーシャは顔を赤らめ、早口になってテンパる
「べっ…べべ別に…たまたま知らなかっただけよ!? ち…中央大陸に行くことなんてなかったし…みんな『中央大陸』って言ってるから…!」
「わかったわかった… んじゃ、その『中央大陸』を説明してやるよ。 つっても、学校で得た知識とこの大陸に来て知った知識を合わせただけだがな」
机に広げた地図の中央を指でトントンと叩きながら、シードは説明を始める
「この世界の真ん中、そんで全大陸中一番大きな大陸…それがこの『セントレイン』だ。 別名『中央大陸』…ま、こっちの方が多く呼ばれているがな。 この大陸は『四季』って言って、春夏秋冬の気候や気温が違う時期がある。 他の大陸にも四季はあるが、この大陸が一番ハッキリしているらしいな。 特徴は何と言っても『広さ』だ。 フェリアスの3倍近くあるからな。 だから色んな文化や種族、高度な技術も多くの町も存在する。 その中でも、この大陸での俺達の最終目的地、『王都』が一番栄えているらしいな。 どんな所かは知らねぇがな。 そんでもって、『奴隷制度』も盛んなのも特徴の1つだな。 …だが、この大陸に居るやつらが口を揃えて言う特徴ってのがある。 広さや王都や奴隷よりも中央大陸と言えば、王族『天帝』が有名だ…ってな」
「「『天帝』??」」
アレスとミーシャは、口を揃えて聞く
「王族『天帝家』… この天帝家がこの大陸を統べているらしい。 俺もそう習ったからな。 このセントレインは、王都に住む天帝の王を筆頭に、各地域に天帝家の人がそれぞれ支配して、独自の政治を築いているらしい。 例えば技術特化の地域、例えば農業特化の地域… 例えば、奴隷制度特化の地域…とかな」
それを聞いて、アレスとミーシャは一瞬険しい顔になる
「この『ケール』も含めた、ロッテルク周辺の地域はその『奴隷制度特化』の政治を主とする天帝家の人が支配しているらしい… つまり、この中央大陸全てが奴隷を良しとしている訳じゃ無いってことだな」
ミーシャはホッと胸を撫で下ろす
「良かった… この中央大陸全部がこうだったら、王都に行くのもイヤだったわ…」
シードはやれやれ…と言う表情を見せて、次の大陸の説明をする
「…残念だが、この大陸よりも『過激』な大陸がある… それこそお前がイヤって言う奴隷よりも酷い大陸がな…」
シードは地図の右下の大陸を指差す
「それがここ、『リーバイド』だ。 第三大陸とも呼ばれているな。 この大陸の特徴はただ1つ… それは『人間』と『獣人』が完全に分かれている事だ…」
「それって… つまり、人間と獣人で戦争してるってことか!?」
シードは少し悩む顔をする
「それは間違って無いが… 要するに人間と獣人が分かれて住んでいるみたいだな。 人間と獣人の争いもあるらしいが、なるべくそうならないように、住む地域を分けているらしい。 なんでそうなったかは分からないが、それが今も続いているってのは事実だ」
「んじゃ、その争いをなくせば! 『ヒーロー』間違いないな!」
そのアレスの言葉を聞いて、ミーシャは小さく声を荒らげる
「何言ってるのよ!? そんなの王様でも出来ないわ! そんな所に団長も絶対に居ないし、危ない所なら行く理由もないわ!」
シードも同意して頷く
「確かにそうだ。 だが、アレスにとっては良い情報もあるぞ?」
「? どんな情報なんだ?」
「ここには人間側を統治する人の1人に、『元英雄』が居るらしい… 約23年前のな…」
『英雄』…
かつて、世界を襲った脅威を振り払った人物達…
アレスの父、黒月トレスを筆頭に、世界の危機を救った者達が居た
その中の1人が、その『リーバイド』に居るらしい
アレスの目がキラキラする
「それは絶対に行かなきゃ! よし! この大陸の後はそこに行こう!」
「ちょっと何言ってるの! だからそんな危ない所行かないって
「諦めろってミーシャ… こうなったアレスは止められねぇよ… ほら、次の大陸の説明するぞ。 静かにしろ」
はしゃぐアレスを止め、シードはリーバイドの上の大陸、地図の右上の大陸を指差す
「この大陸はリーバイドと似てる大陸だ。 気候や風土じゃねぇ… 人間と獣人が分かれているって所が似てる。 この第二大陸『サンズバルトル』は、3つの勢力が争っているんだ。 勢力…よりは、『権力者』達の方が正しいかもな」
「権力者… さっきの『天帝』みたいなものかしら?」
「まあそうだ。 人民と正義と重んじる獣人王族『レオンライト』族、力を主権として圧制を行う獣人皇帝『ベアルランテ』族、自然を狩り自然を尊重する人間将軍『狩獲猟』家… この3つの権力者達が、この大陸で火花を散らしてる。 争いなんて日常茶飯事だ」
と、ここでミーシャがシードに疑問を投げ掛ける
「…なんでそんな争いばっかり起こっている大陸に住んでいるのかしら…? この中央大陸やフェリアスの方が、よっぽど平和なのに…」
シードは「確かにな」と呟きながら、ミーシャの問いに答える
「だが全員が全員、平和を願ってる訳じゃ無い。 例えばだが、武器商人の場合はどうだ? 平和すぎるフェリアスで、剣や銃が大量に売れると思うか? サンズバルトルのベアルランテ族領地では、自己防衛の意味も含めた武具が大量に取り引きされる。 その他にも、レオンライト族領地じゃ人民の為にって、医療機関や教育施設といった類いが他の大陸に比べてかなり安い。 狩獲猟家領地じゃ森林地帯が多く存在するから、そういった自然を住み処にする人間や獣人にとってはどこよりも住みやすいんだろうな」
ミーシャはそれを聞いて、納得した様なしない様な顔をする
「まあ…感じ方は人それぞれよね… とにかく、そういう大陸があるってのは分かったわ」
「色んな『需要』ってもんがあんのさ。 …さ、最後の大陸だ」
シードは地図の左上の、小さな大陸を指差す
「これが第五大陸『ヒノクニ』だ… だが、俺はこの大陸の事を良く知らないからな… 何が特徴か分からん」
「? どうしてシード知らないんだ? 他の大陸はあんなに知ってたのに…?」
シードは少し困った顔をする
「知らない…と言うよりは、知ることが出来ない…の方が正しいな。 この大陸の特徴は、『鎖国』ってのを行っている。 完全な『鎖国』じゃ無く、『ヒノクニ』に来陸するのを拒み、出陸するのを良しとする『鎖国』らしい… 要するに『他の大陸に行っても良いがヒノクニに来るのはダメ』って事だな」
「…ていうか、『鎖国』って?」
アレスがキョトン顔で聞く
「今言った通り、他の大陸との外交を拒絶する制度の事だ。 そのせいで、ヒノクニの内情は分からなくなっている。 ヒノクニからこっちの大陸に来た人も、鎖国の文化が根付いてヒノクニについて何も喋らないらしいしな」
それを聞き、ミーシャは少し思い出した顔をした
「そういえばキャプテンが言ってたわ… 『俺はヒノクニ以外は行ったことある』って… じゃあ、ヒノクニは今回の旅じゃ寄らなさそうね。 団長も居なさそうだし」
「えぇ~… 行ってみたいな…」
「行かないわよ。 …ところでシード、第三大陸とか第五大陸とかって、もしかして大陸の大きさ順の事かしら?」
シードは頷いて答える
「ああそうだ。 大陸の面積の大きさ順に第一から第五までの略称が付いているんだ。 ま、セントレインはこの世界の中央に大陸があるから、中央大陸って呼ばれているがな」
シードは説明をようやく終えたようで、傍らにあったコップの水を飲みきり、地図を仕舞おうとする
「よし、大陸の説明も終わったし、さっさとロッテルクを目指すぞ」
すると、椅子を立ち上がろうとするシードをアレスが止める
「シード… えっと… まとめてもう一回説明して…?」
シードが生温かい目でアレスを見る
どうやら覚える内容が多く、覚えきれ無かったようだ
すると、ミーシャが意外にもアレスをフォローする
「ま、アレスが五大陸も覚えきれると思えないし、仕方ないからまとめてあげたら?」
シードは薄々感づいていた
(まさかミーシャも覚えきれ無かったのか…)
「しょうがねぇな… お前らの為にまとめてやる」
ミーシャはギクリッと顔を歪ませる
「だが詳しくは言わねぇ。 サラッと言うぞ」
シードは仕舞った地図を再び広げ、大陸を次々指差しながらサクサクと説明をする
「全大陸中一番広くて多文化、天帝家が治める中央大陸『セントレイン』。 3つの権力者達が別れて治める、抗争の続く第二大陸『サンズバルトル』。 人間と獣人が分断されて住む、種族間紛争が起こる第三大陸『リーバイド』。 俺達の故郷、平和が咲き誇る第四大陸『フェリアス』。 来陸を拒み出陸を許す、鎖国制度の第五大陸『ヒノクニ』。 …どうだ? 分かりやすかっただろ? そんじゃ行くぞ」
シードはそそくさと移動する準備をし、店を出る
それを慌てて追い掛けるアレス
「あ! 待って待って! 俺そんなに理解出来てないよ!?」
ミーシャも店から出る用意をし、シード達に続いて店を後にする
その時、ミーシャは思った
(『カリーチャ』を出てから色んな発見と知識、そして思うことがいっぱいだわ… やっぱり私、カリーチャから旅に出て良かった…)
そしてアレス達は、『ケール』の町から『ロッテルク』を目指し出発したのだった
―――2時間後―――
アレス達は街道を徒歩で通り、ようやく『ロッテルク』に辿り着いた
途中エニグマにも襲われた事もあって、3人の体力はかなり消耗していた
「ふうぅ~~… ようやく着いた~…」
体力は人並み以上あるアレスも、流石に疲れてしまったようだ
「私も… 早く宿に泊まりたいわ…」
ミーシャも、今にも座り込んでしまうかと思うほど疲れきっている
一方シードはロッテルクの街並みを眺めていた
正確には、街の外壁を見ていた
「おいおい… いくらなんでも、街をこんなに壁で囲むか?」
「そこの少年達、このロッテルクに何か用か?」
ロッテルクの入口に立つ門番に話し掛けられる
「あ! 俺達は
「このロッテルクに住んでいる祖父に会いに来たんです。 孫の顔が見たいって手紙が来て、両親に内緒でここまで来ました」
シードは何か問題発言をするかもしれないアレスの口を押さえて、丁寧な口調で答える
「そうか! それは大変だったな! ロッテルクに来たのは初めてかな? 驚いただろう? この『壁』と『門』には」
ロッテルクは高さ6~7メートルはある高い壁に、街全体が囲まれていた
壁は『退魔魂石』を主とした石造りで、城壁を連想させる様な佇まいだった
外からのエニグマの侵入を防ぐと共に、中からの奴隷の逃走を防ぐ役割もあるらしい
ロッテルクに2ヶ所ある出入口には高さ4メートル程の木製の門が壁に埋め込まれており、大きな荷物を搬入出来る様になっている
普段は人の出入りが多い為、その門の下中央が開閉出来る様な仕組みになっているので、そこから出入りする
門の中に門がある様なイメージだ
その門にも、所々『退魔魂石』が埋め込まれており、エニグマは容易には近付く事は出来ない
そしてこの街は奴隷の売買がどこよりも盛んである
奴隷の『売買』、そして奴隷の『街』である事を合わせ、いつしか人々はこのロッテルクを『奴隷売街』…そう呼ぶようになったらしい
…そんな話を門番から軽く聞いたアレス達は、奴隷の街『ロッテルク』へと足を踏み入れた
――街の雰囲気は、やはり良いものでは無かった
空気が淀み、常人であればこの街に長く居たいとは思わないだろう
だがここは、常人は多く居ない
商人や奴隷を所有する事をステータスとする貴族が多く居る
彼等は少なくとも、常人では無い
アレス達はそんな人達のひしめく道を通り、街の奥へと進んで行く
街灯の整備や道の舗装はあまりされておらず、建物を含めた街全体が少し荒んでいた
奴隷が度々逃げようと暴れているのか、道にはヒビや穴、街灯は曲がったままの物もあった
点在する奴隷の店の数々を見ると、奴隷を売買する施設が多い為か、建物は2階建てのものが多い
1階に店、2階に奴隷を捕らえて置く場所として利用する商人が多数居る
店を覗くと地下への入口も有るため、2階を居住用とするのも少なくは無いようだ
シードも遠目で店の品揃えを見る
商人宿場町『ケール』で見掛けた様な人間と獣人の奴隷が並んでいた
犬や猿の獣人を始め、若い男の人間、更には11才程の小さな少年すらも売られていた
そして全員、目には生気が無かった
首に付けられた首輪の後ろから鎖が伸び、商人の横にある怪しげな魂機に繋がっている
更に両手には手枷を付けており、当然ながら逃げられなくなっている
彼等の前には値札が飾られ、身体能力等を考慮した妥当な値段が付けられている
数千マルから高いのは10万マル程する
奴隷の相場は大体2000マル以上からだ
奴隷を売った後は、その買い手の自己責任となる為、比較的安価で取り引きされている
それ以外にも、仕入れやすさもこれに関係している
極端な話、どこかで戦争が起きてその敗者を捕まえて拘束、そのまま有無を言わさず奴隷化させてしまう事も可能だったり、残酷な方法ならどこかの民家を襲って丸ごと奴隷とさせる…そんなやり方もあってしまうらしい
だが普通は、犯罪者や難民、悪徳商人に捕まってしまった様な人達が奴隷となる
アレス達がその奴隷事情を聞くのはまだ先の話だが、シードは奴隷の値段を見て呟く
「安いな… 1人買って荷物持ちとして働いてもらうか…」
その直後、アレスとミーシャはシードをギロッと睨む
「…冗談だ冗談… 荷物持ちはお前らだけで十分だ」
「自分で持ちなさい!」
そんな冗談を言っていると、街の奥に人だかりが出来ているのが見えた
近付いてみると、聞き覚えのある名が聞こえて来た
「ネレイボル元締め! その『少女』が噂の…!」
手にメモ帳を持った記者の様な男がその『元締め』に尋ねる
「ネレイボル元締め! 今日の『オークション』の目玉商品は一体何ですか!?」
「ネレイボル氏! 何か一言お願いします!」
「ネレイボルさん!」
その『ネレイボル元締め』と言う人物に寄る記者達に対し、小さく左手を上げて一言言い放つ
「静かにしてくれたまえ… 『彼女』が君達を斬り捨てるやもしれんぞ?」
その声には、シードの様な冗談の欠片も無かった
ただ冷徹に『事実』を伝えていた
それを感じ取ったのか、記者達は一斉に黙りこくる
冷静で落ち着いた声の主、ネレイボル元締めは右手を記者達に見せ付ける
その右手の手のひらから、何故か鎖が出ていた
その先は、ネレイボルの傍らに居た少女のうなじに直接繋がっている
その様子を見せ、ネレイボルは記者達に告げる
「この奴隷少女が、今回の『オークション』の目玉商品である。 詳細は『オークションハウス』で伝えるとしよう」
地図の作成がすごくめんどくさかったです
でも言葉で説明するには限度がありましたし、しょうがないですね
それよりも、用語集がまた増えるのがちょっと…




