序章 ~自由の海へ~
海上を進む1隻の船
『幽霊船』と呼ばれているその船は、荒れ果ててしまって今にも朽ちて崩れそうな風貌だった
その船に、少年と青年と少女、そして幽霊が乗船している
半透明な彼等は元海賊であり、なんの因果か肉体をソウルと化して魂の存在として生きている
そんな不思議な彼等と共に居る少年少女は、至って普通の人間である
少年の名は暁アレス
世界中を旅して『ヒーロー』という、守りたいものを守れる強い人物になるのを目指す、明るく元気な少年だ
その傍らに居るのが青年、白鷺シード
ヒーローを目指すアレスを見守る為に、そしてとある『呪い』を解く方法を見付ける為に旅をする、大人びた冷静な青年だ
そしてもう一人、長く青い髪をポニーテールにする少女が居る
少女の名前は青原ミーシャ
漁船港町『カリーチャ』からアレス達と共に旅をし始めたその少女は、自身の大切な人を捜すために、そしてこの広い世界を見て回る為に、少女はあらゆる『想い』を胸に秘めて旅をする
そんな少年達の旅路は、自分達が住んでいた大陸を飛び出し、この世界最大の大きさを誇る大陸へと向かっていた
ただ、この幽霊船は帆船であるため速度を調節出来ない
今日中に別の大陸に着く為には少し時間がかかりすぎる
そこで、カリーチャを含めた港町に常駐する『海洋武装兵団』から、船底に付けて船の移動速度を上げる『推進羽根魂機』という物を取り付けてもらった
小型魂機船というモーターボートの様な物と同じく、この魂機も船に取り付ける事で羽根の推進力を使って、帆船であっても高速で移動する事が可能である
ただそれを使ってでも、到着するまでそこそこ時間がかかる
よって、船上はこの上なく暇であった
「あ~~… いいてんき…」
「ちょっとアレス! のんびりするのは良いけど、『中央大陸』に着いたらどうするか考えないといけないのよ!」
アレスはだら~~っと甲板に寝そべる
ミーシャはそんなアレスを叱るが、ミーシャ自身も何処と無くあまり『覇気』が感じられない
天気は快晴、気温も温かく、ポカポカ陽気でつい気を抜いてしまう
アレスもミーシャも、海賊船員も例外ではない
一方シードは、海賊の一人が持っていた『情報伝紙』を譲り受け、一通り目を通す
いわゆる新聞のような物だが、各町で起きた出来事を商人や専用の伝達人を通じて、町から町へ伝えて行く為の物である
1枚の大きな紙に様々な情報が書いてある
シードはそこで『ハイトス』で起きた出来事を知る
騎士の支団長が解雇、山賊の殲滅、そしてそれとは別に、もうすぐ『中央大陸』で大規模な演説があるという情報が書かれていた
それを見たシードは、アレス達の元へと行く
「とにかく! あんたは『ヒーロー』になるんでしょ? なら、これから世界中を回るだけじゃないわ! 回る先々で、自分の行動が自分の『価値』を決めるのよ? 少しは自覚を持っておきなさい!」
ミーシャはガミガミとアレスを叱る
「わかってるよ… でも…これからどこに行けばいいか分からないし… 『中央大陸』に何があるか知らないし… ミーシャは俺たちがこれからどこに行けばいいかわかる?」
確かにアレスは自分の町すらもろくに出たことが無いために、『中央大陸』に何があるか分からない
だからこそこれからどこに行けば良いか分からない
それは、『カリーチャ』にずっと居たミーシャも同様だった
「わ…私も分からないわよ… だからどうするか考えましょ!?」
「ミーシャも分からないなら、考えたってしょうがないだろ? だったら今は、『中央大陸』に着くまでゆっくりしようよ…」
「う…まあ…それは…」
ミーシャは反論出来ない
現状、中央大陸に何があるかも分からなく、それを知る手立ても無い
考えた所でどうしようもないのだ
そこにシードが来る
「1つ提案がある」
「シード?」
「提案? 何かしら?」
「中央大陸に着いたら、俺達は『王都』を目指すぞ。 そこに居る『聖騎士』に会って、ヒーローとしてのイロハを教えてもらうのが第一目標… 第二目標として、中央大陸を回れる移動手段の確保… あとはミーシャの捜すジョイスの情報とかも得られれば良いぐらいだな」
アレスとミーシャは?を浮かべる
「『王都』? 『聖騎士』? 何だそれ?」
「それは私も分かるけど、聖騎士にどうやって会うのかしら? 移動手段って、『自動魂車』でも買うの? 1台100万マル以上はかかるわよ?」
シードは落ち着けと言わんばかりに両手を出して2人をなだめる
「まずアレスの質問は面倒だから答えねぇ。 聖騎士に会う方法だが、近々中央大陸で王族の『演説』があるらしい。 その演説に先駆けて、急遽臨時『攻戦隊』を募集しているらしい… 要するに、王族を狙う犯罪者が多くいるかもしれねぇから、『雇われ兵』として募集してるらしいな。 それに入隊して、上手いこと聖騎士に会って話を聞くとしよう。 …上手く行けばだが」
「…上手く行くかしら…?」
「さぁな… 移動手段だが、出来れば『馬』で良いと思っている。 移動も速いし、荷物も背負えるし、値段も比較的安いはずだ。 馬車や自動魂車を丸ごと買うよりかはずっとな」
シードは不安ぎみにそう言う
「シード… なんかシードらしくないな? 自分の提案にあんまり自信がないのか?」
アレスはキョトンとしながらシードに尋ねる
するとシードは、不安…というより、何か気になる事があるらしく、不安と心配と悩みが入り交じった顔をする
「…まあ…不安は不安だな… 上手くいく保証もねぇし、第一中央大陸なんて行った事もねぇしな… そりゃ不安にもなるさ…」
ミーシャも気になる
シードの提案した案が上手くいくかではなく、それ以上にシードの表情が曇っている事が気になる
「私も同感だわ… あなたの言う不安もそうだし、アレスの言う『あなたらしくない』って事もね」
「…」
シードはその曇った表情をミーシャとアレスに向けて、少し決心した雰囲気を出して口を開く
「ああ… 中央大陸に対しての不安もだが、それ以上に気になってな… お前ら、覚悟しとけよ…?」
「「??」」
アレスとミーシャは何の事か分からなかった
それをシードから聞き出す前に、船の上に声が響く
「おぉいっ! ボウズ達! 中央大陸にそろそろ着くぞっ!」
そうアレス達に叫んだ男は、頭に船長帽を被った幽霊船の船長、荒波ゴウレンだった
3年前、この船が異形のエニグマに襲われて全滅し、船員と共に幽霊になった男である
カリーチャに居る『海洋武装兵団』の団長、荒波ゴウトンの兄である
ゴウレンはアレス達の近くまで行き、笑いながら話し掛ける
「ずいぶん暇そうだったな! 仕方ねぇさ! 『海』ってのはそう言うもんだ! だが、『自由』でいいだろ? 自由こそ海、海こそ自由なのさ! んじゃ、そろそろ船を降りる準備をしな!」
アレスは寝そべっている状態から立ち上がり、大きく背伸びをする
ミーシャも甲板に置いた自分の荷物を持って、船から降りる準備をする
「あれが中央大陸か~! 俺、違う大陸に行くの初めてだ!」
「あら、私もよ? 海に出た事はあっても、大陸に行くのは初めてよ。 …私の旅が遂に始まったって、感じがするわね…」
「他の大陸の食い物も楽しみだなぁ! お腹も減ったし、早く食べたいな! カリーチャで食べたトビリュオの丸焼きもおいしかったしな~…」
「私もあれは好きよ! でもトビリュオは丸焼き以外にも、刺身も美味しいのよ?」
「本当か!? どんな味なんだ!?」
アレスとミーシャがグルメ雑談に花を咲かせる中、シードは船内に戻ろうとするゴウレンに駆け寄る
そして小さな声で喋りかける
「ゴウレン…あんた、あの事を
「その時は来る… それまで、何も言うなよ…?」
「…わかった… あんたがそれでいいなら、何も言わねぇさ」
シードは静かに、船内に戻るゴウレンを見送った
そんなゴウレンの顔は、少し寂しそうな顔をしていた
「シード! 荷物持って降りる準備するぞー!」
「あぁ… わかった」
シードはゆっくりと、下船の準備をし始めた
―――皐月 9ノ日 火魂日 午前10時48分―――
やがて幽霊船は中央大陸小漁港『ペットル』に到着した
通常の帆船であれば半日を越える時間が掛かるものが、約4時間程で到着出来た
『ペットル』の人達は、いきなり現れたボロボロの、しかも船員が半透明という幽霊船に驚いた
しかしゴウレンがカリーチャから持ってきた、弟ゴウトンが書いた紹介の書状を見せると、直ぐに警戒心は解かなかったものの受け入れられた
「あ~着いた~… 腹へった~…」
アレスは出発前に持ってきた食料も食べたが、まだ空腹を抑える事が出来ないらしい
「とりあえず、このまま『王都』を目指しましょ? 軽く食事を済ませてからね」
「わかった! おじさん、ありがとう!」
「ゴウレンさん、ありがとう! キャプテンにもよろしくお願いします!」
「…」
アレスとミーシャは、感謝を込めて手を振る
だがシードは何も言わなかった
いや、言えなかった
「おう! じゃあな! ボウズ達、旅を頑張れよ!」
ゴウレンはにこやかに親指を立てて別れを言う
「ボウズ、ヒーローを諦めんじゃねぇぞ! 嬢ちゃん、ジョイスの野郎を絶対見付けろよ! 兄ちゃん、2人を頼むぜ!」
ゴウレンに続いて、幽霊船よ船員達も別れを惜しむ
「気を付けろよ!」
「ありがとうな!」
「元気でな!」
港町の一角が騒がしいと言える程別れの言葉を受けるアレス達
「俺達を救ってくれてありがとうな! お前らの事、忘れねぇぞ!」
ゴウレンは若干ばかし早口になる
「死ぬんじゃねぇぞ! 俺達みてぇに幽霊になる訳じゃねぇからな!」
言葉に更に力がこもる
「それから…それから…」
「おじさん、大丈夫だよ! またおじさん達に会いに行くから! その時は、立派な『ヒーロー』になってるからね!」
「そういえば、ゴウレンさんはこの後どうするの?」
ゴウレンは一瞬間を空ける
そして何か、諦めた顔をしてフッ…と笑う
「どっちも無理さ… もう会えねぇし、この後どうなるか分からねぇからな…」
突然、ゴウレンの体から穏やかに煙が立ち上る
それを皮切りに、船員達からも同様に煙が出る
「「!?」」
2人は当然驚く
煙が出た事では無い
出てきた煙が、エニグマから出る煙そのものだったからだ
魔物であるエニグマは、肉体全てが生命エネルギーであるソウルで出来ている
エニグマが傷付いたりすると、傷口からソウルの煙が立ち上る
それは、エニグマが死する時も同様である
「お…おじさん!?」
「ゴウレンさん!? それって…」
「もう…時間がねぇ… お別れだ… 永遠のな…」
幽霊船船員が、互い互いに自分達の過去を語り合い、最後の思い出を共有する
ゴウレンはアレス達3人に向かって、今生の別れの言葉を伝える
「ボウズ達が俺達を救ってくれなきゃ、俺達には未練しか残らなかった… あの化物を倒したからこそ、俺達ぁようやく、元に戻れる…」
すると、今の今まで乗っていた幽霊船が、突如としてガラガラバキバキッッ!!と大きな音を立てて崩れて行く
良く見ると、船からもソウルの煙が立ち上っていた
船から剥がれ落ちた木が、海へと沈んでいく
「俺達と同じで、あの船もソウルで補強してたのさ… 流石にあんなボロボロで、航海すんのも限界があるからな…」
ゴウレンの左腕が、消えて行く
「そんじゃ、『旅』…頑張れよ? 良いことだけじゃねぇ…悪ぃことも含めて旅なんだぜ? やりてぇ事やって、自分が後悔しねぇ選択をしろよ? そうすりゃ
「おじさん!! どうして!? どうしてそんな煙が出てるの!?」
「これじゃ…まるで
「そうだ… エニグマと同じく、死んで消滅する」
シードは冷静かつハッキリとした口調で言い切る
アレスとミーシャは、シードを見る
「もう助からねぇぞ? エニグマで例えれば、生命の源の『核』が破壊された様なもんだ… こうなる運命なんだよ」
アレスとミーシャは、シードを疑問と怒りの混じった顔で見る
「どうしておじさんは死んじゃうんだ!? 何もやって無いのに!」
「どうしてあなたはそんなに冷静なの!? 目の前で人が死んでいくって言うのに!?」
シードは声を荒らげる2人に対して、落ち着いた声で答える
「何もやって無いからこそだ… お前ら、あの化物…『リュウノツカイ』が喰った大量の『魂石』を覚えてるか? この人達は、その魂石を使って延命措置を行っていたんだ… 『核』が無くても、『魂』はある… その魂とは別に、肉体を構成するために必要なソウルが別にいる。 それがあのリュウノツカイのせいで無くなった… だからもう、肉体を維持出来なくなった…それだけだ… こうなる事は、その話を聞いた時から分かっていた…そりゃ冷静にもなる…」
2人は驚いて何か言いたそうな顔で、シードからゴウレンを見る
「ボウズ達が言いてぇ事は分かるぜ… 『なんで教えてくれなかった』…だろ? これが俺達の選んだ道だからだ… 今さらこれ以上生きたって、もう普通じゃいられねぇ… ちょうどいいさ… 自由にこの海を航海した…俺達の船が守られた…弟に会えた…そして、ボウズ達と会ってこの大陸まで送り届けれた… もうこの世に、生きてる『理由』も『未練』もねぇさ…」
「だからって…!」
「おじさん! まだ生きて…俺のヒーローになった姿を見てよ!」
「おいおい! 俺達みてぇな、目の前で死んでっちまうヤツはこれからメチャクチャいるんだぜ? そんなヤツらに、ボウズ達は生きろってこれからも言いまくるのは、ちょいとお人好しすぎるんじゃねぇか? だが…そいつは間違ってるぜ?」
ニカッと笑顔を見せて、明るく振る舞う
それが2人を悲しませない為の笑顔であることは、2人の胸に痛く響いてしまう
そんな2人に、ゴウレンは最後の言葉を伝える
「それが『旅』だ… 別れってのは、突然やって来るもんだ… だが同時に、新たな出会いもある… 『一期一会』…ってやつ、知ってるか? 俺達との出会いだけじゃねぇ… この先の、誰かとの1回の出会いを大切にしろ…何も悔いが無いようにな… そして、『自由』に生きろ…だから自分の『正しい』と思う事をしな… ボウズ達のその手は、メシ食ったり荷物持ったりする様な、自分だけに向けるもんじゃねぇだろ? 今の俺みてぇに、『誰か』にも、そうやって向けな… その優しさが…ボウズ達の良いところさ…」
そう言うと、ゴウレンと船員は全員、アレス達に向けてとびきりの笑顔を見せる
「俺達は海に還る!! 俺達の生き方こそが!! 最高の自由だ!!」
そして――彼等の魂と船は、自由の海へと還って行った
「…おい? ちゃんと食べねぇと、この先歩いて行くんだからもたないぞ?」
シード達は少し早めの昼食を、『ペットル』の食堂で取る
あれだけ空腹だったのにも関わらず、アレスとミーシャは食事が喉を通らないようだ
「だって…だって…」
「ゴウレンさん…どうして…」
それほど、ゴウレンとの別れが悲しかったのだと伝わる
「…あの人達は、そういう生き方を選んだんだ… カリーチャやどっかの町で魂石を貰って命をつなぐってやり方もあった… それこそ、3年間も海を放浪なんてせずに、誰かに助けを求めれば良かった… が、そうとはせずに、あくまで『あの時に死んだ』って事を受け入れた上で『自由』に過ごした… 無駄に抗って生きずに自由にな… そしてここがちょうどいいと、未練も後悔もなくなってこの世から去った。 それがあの人達の選んだ『道』なんだ。 …ほら、食え」
「………これが…おじさん達が自分で選んだ道なら…おじさんがこれで良かったなら…」
「…そうね…ゴウレンさんも…本当の意味でようやく『自由』になれたのよね…」
2人はそう自分達に言い聞かせて、あまり進まない食事を取り始める
…すると、静かになったテーブルにある会話が聞こえてきた
「お前はこれからどうするんだ?」
「商品の仕入れに、『ロッテルク』まで行くさ」
それは商人同士の会話だった
盗み聞きするつもりは無かったが、ゴウレンの死を想い沈黙していたアレス達に、その会話は鮮明に聞こえてきた
「『ロッテルク』? あそこはアレ以外、なんにもねぇだろ? …お前、その仕入れる商品ってのは…」
「ああ、そうだ。 『王都』じゃ、活きの良い『奴隷』はまだ需要があるからな」
「そのまま『王都』に行くのかよ? 大変だねぇ…」
その会話を聞いて、ミーシャはシードに小声で尋ねる
「ねぇ…『奴隷』って…?」
「読んで字のごとく、売買されて強制労働させられる、自由を奪われた人達だな… この大陸じゃ、『奴隷制度』が普通にあるらしいな… 俺達の町にも奴隷を連れて来た旅人を見たことがあるが、あの時はアレスが『奴隷なんて許さない!』なんて騒いでいたな… なあアレス?」
2人が向いた先に、もうアレスは居なかった
シードとミーシャは辺りを見渡すなんて事はしなかった
2人同時に、先程奴隷の事を話していた商人の方を見る
そこにアレスは居た
「…ん? どうしたボウズ?」
「俺達に何か用か?」
商人達はいきなり現れた少年に不思議そうに聞く
アレスは思い出していた
ゴウレンの『最高の言葉』を――
シードとミーシャが止める間もなく、アレスは机を両手でバンッ!と叩き一言、力強く言う
「その話、詳しく教えてくれ!」
今回から後書きをちょこちょこと入れたり入れなかったりします
予備知識みたいな独り言なのでスルーしても大丈夫です




