想い、そして出港
リュウノツカイを倒した3人は、体力とソウルの回復を図る
その間、アレス達はゴウレンにここまでの経緯を話した
『英雄』になるために旅をし始めたこと
『中央大陸』に行こうとしたら幽霊船のために船が出なかったこと
町を脅かす幽霊船をなんとかしようとするミーシャと出会ったこと
利害の一致したミーシャと協力して、幽霊船を撃退しようとしたこと
それを笑いながら聞くゴウレン
「悪かったな!」と全然悪びれもせず笑う
実際はリュウノツカイがこの船を根城にしたために動けなかったので、ゴウレン達は悪くないのだが
そして話題は、そのリュウノツカイの話になる
「ていうか、なんであのリュウノツカイはでかくなったんだ?」
アレスはふと疑問に思う
「リュウノツカイってなんだ?」
ゴウレンは3人に尋ねる
「さっきの大きい化物です。 アレスが勝手に名付けたんです」
「おおっ! なかなか良い名前じゃねぇか! センスあるぜ!」
「でしょ!? 良い名前だと思うんだよね~」
アレスとゴウレンは意気投合して、リュウノツカイという名前を褒める
「…名前なんて今はどうでもいい… それより、リュウノオトシゴがあそこまで大きくなった理由だが…」
シードは盛り上がる2人の会話を遮って、本題に入る
「おそらく、ここにあったっていう大量の『魂石』が原因だろうな… あれを取り込んで、あそこまで大きくなったんだろう」
「魂石って、そんな効果があるの?」
ミーシャも少し興味があるらしい
「魂石はソウルを生成する鉱石だ。 日常生活で使う魂機や術で使う魂術魂石も、ソウルを使うからな。 エニグマはソウルで出来ているから、やつらにとっては自分の成長に役に立つ代物なんだろうな」
「そうだったのか…」
シードの説明にアレスもミーシャも納得する
するとゴウレンは辺りを見渡す
「…どうやら、この部屋にあった魂石を根こそぎ食っちまったみてぇだな… 1つも残っちゃいねぇ…か…」
「…?」
シードはふと気付いた
ゴウレンが、何故か悲しい顔をしている事に
どうやらそれに、アレスも気付いたらしい
「どうしておじさん、そんな悲しい顔をしてんだ?」
「ん? あぁ…それは後で… いや…今がちょうど良いかもな… ここにあった魂石だが
「船長! 船長!」
貨物室のドアが勢い良く開いて、船員の1人が入って来る
凄く慌てた様子で息を切らしながら入って来た船員は、幽霊の為か顔からソウルの冷や汗が出ていた
「どうした? 何かあったのか?」
「船長! 船が… 1隻の船が…こちらに向かってます!」
「なんだと!?」
ゴウレンも当然焦る
何故なら、自分達にとって利益になることが無いからだ
幽霊である彼等に味方はおらず、武器も先程の戦いで幾つか折れて使い物にならない
唯一の味方であるアレス達は疲弊している
この状況で、更に不利益になる情報も追加される
「その船ですが…どうやら『カリーチャ』の方向から来てるみたいです!」
「本当か!?」
「まさか…キャプテンが…!?」
これにはミーシャも驚きを隠せない
つまり『海洋武装兵団』が、この船に向かって来ているという事だ
現在ミーシャは、ゴウトンからこの幽霊船に対して『何もするな』と言う指示を受けている
船長命令を無視し、海洋武装兵団の小型魂機船を無断で使用している
ミーシャはその勝手な判断と行動による処罰を受ける覚悟を持ちアレス達に協力をしたのだが、本当は何事も起こらずただ目的を達成出来ればそれに越したことは無い
そう思っていたが、いざその状況になると流石に焦って冷や汗をかく
「…」
「嬢ちゃん…考えてても始まらねぇぞ…? 甲板に行くとしようぜ? ボウズ達も行けるか?」
「俺は問題ないが…アレスは…」
シードはチラリとアレスの方を向く
「俺は大丈…夫… 歩けるよ…」
アレスはググッ…と体を起こし、必死で立ち上がる
そしてまともに動かないであろう体を何とか動かして歩き始める
「よし。 アレスは大丈夫そうだし、行くとするか」
「おう。 急ぐぜ」
「ええ。 行きましょう」
そうして、一同は甲板に向かって歩いて行った
まだフラフラするアレスを残して
「…ちょっと…待っ…誰か…まだ体が上手く動か
甲板へ出た3人は、既に集まっていた船員達と、この幽霊船に向かって来る船を見る
大きな帆船には、最早海賊旗かの様に帆に大きく『海族』のマークが書かれていた
その船を見て、ミーシャは再び焦る
「っ…!」
「やっぱり『海族』か… ミーシャ、どうする?」
「…」
シードが尋ねるも、ミーシャから返事は無い
するとゴウレンが1つ提案をする
「兄ちゃん、嬢ちゃん、俺達がアイツらを少し足止めする… その隙に、この船の反対方向から逃げな…」
「!?」
そう言うと、ゴウレンは船員の2~3人に指示を出し始めた
指示を出し終えると、今度はシードとミーシャに指示を出す
「今アイツらに、兄ちゃん達が乗ってきた船に乗って反対側に移動してこいと言った… 海族の船が来る前に兄ちゃん達の船に乗り込んで、ここで戦闘が始まったら急いで港町まで帰りな… 俺達ゃ何をされても、兄ちゃん達がここに来たことは言わねぇからよ」
確かに現状、一番得策と言える方法だ
ミーシャがここにいる事を海族に知られたら、どの様な処罰を受けるか分からない
海族の目を盗みカリーチャにさえ戻れれば、例えば小型魂機船の試運転で海を移動していた、例えば幽霊船を監視していた等、理由は後付けで何とかなる
そう、見つかりさえしなければ…
「せ…船長! 大変です! 船が…船がありません!」
「何ぃ!? どういう事だ!?」
ドンッ
不意にゴウレンの後ろから、何か甲板へと降り立った音がした
振り返ると、そこにはゴウレンと良く似た男が立っていた
「…兄貴… あんた…生きてたのか… いや…生きてんのかどうかも、それじゃ分からねぇか…」
特徴的な野太い声を出し、その男は幽霊船へと乗船した
「よう… 随分久しぶりじゃねぇか? ゴウトン…」
「キャプテン…」
彼は海洋武装兵団現キャプテンであり、海賊ゴウレンの弟にしてミーシャに『何もするな』と命令した張本人、荒波ゴウトンである
ゴウトンはその背に魚人型エニグマが持っていた様なサーベルを持っており、戦闘体勢を整えていた
「…」
静まり返る船上…
波の音が響く中、ゴウトンの後ろの縄梯子から次々と海洋武装兵団の団員が船に乗り込んで来る
「お…おいおい…! 誰だ縄梯子を下ろしたやつぁ…! ドンドン乗ってくるじゃねぇか!」
「せ…船長ッス! 俺達が甲板であの魚人のエニグマに襲われている時、『梯子下ろしとけゃ誰か来るだろ』って言って下ろしたッス…」
「…俺か…」
脱力する一同
そんな海賊を余所に、海族のゴウトンが一言呟く
「ミーシャ…」
ビクッと体が跳ね、不安しかない表情を見せるミーシャ
「…」
そんな事お構い無しにゴウトンは話を続ける
「船長命令を無視して勝手な真似をするとは… 何も『脅威』を取り除く事だけが、平和を守るという事では無いぞ…?」
「…キャプテン…でも私は
「一度だけ聞こう」
答えようとするミーシャの言葉を遮り、ゴウトンは力強く言う
「もし、カリーチャに海賊が攻め込んで来ようとして町から船が見えたが、今回と同じく待機命令を出した時に… お前は、単独で海賊船に乗り込むのか?」
ゴウレンは怒るでもなく、叱るでもない…ただ、冷たい目をしていた
「その身勝手な行動で結果お前が捕まり、人質にとられ、俺や『団長』…つまりジョイスさえも、命を落とす事になったとしても、お前の『正義』の行動は正しいと言えるのか?」
…もしも、この幽霊船に居たのがゴウレン達では無く本当の野蛮な海賊で、アレスやシード、ミーシャの3人が捕らえられて何かの交渉材料として利用されていたら…
その結果、ゴウトンの言う誰か別の人の命を失う結果になってしまっていたら…
決してそれは、『正しい行動』とは言えなかっただろう
組織のトップに立つ者は、安易な判断や指示、行動で組織そのものを危険に曝してはいけない
ゴウトンはそれを理解しているからこそ、ミーシャに何もさせなかったのだ
然るべき戦闘準備、敵勢力の把握、海の状態等…それら全てが揃って初めて動く事が出来る
ミーシャも同じ海族であれば、それぐらいは分かるはず
そして、分かった上で…どうなるか覚悟した上で…その質問に答えた
「私は…それでも私は…! 同じ事をするわ…! きっと…きっと『団長』ならそうするから… 『じゃあ待つ事も、絶対正しいのか』って、言うはずよ! 何をやっても正しくないと言われるなら、私自身が『正しい』と思う行動をする!!」
ミーシャはそう胸を張って言い切る
そんなミーシャの頭にゴウレンは手を置いてゴウトンに啖呵を切る
「って事らしいぜ? ゴウトン… お前が思ってる程、嬢ちゃんはガキじゃねぇって事だ… いい加減、お前も保護者面は止めたらどうだ?」
ゴウレンはニヤニヤと笑いながら挑発する
それに対し、ゴウトンは相も変わらず冷たい目をしている
そして小さく溜め息をつくと、諦めたような口調で話し始めた
「…分かった… なら、ここまでだな… 今、ここで宣言しよう… 船長命令だ。 『海族』を辞めろ」
「「「!!?」」」
突然の言葉に、ミーシャ達は文字どおり言葉を失う
「な…なん…」
「お前の身勝手な行動には愛想が尽きた… そんな組織の和を乱す様なやつを、海洋武装兵団に居させる訳にはいかねぇ… 団長でも捜しに行きな…」
この言葉を流石に予想して無かったのか、普段は冷静なシードも焦る
「お…おい…あんた… いくらなんでも
「うるせぇぞガキ… これは俺達の問題だ… 他人の、しかもガキが口出しすんじゃねぇ…」
最早ゴウトンの目に、冷たさは無かった
何も無かった
無感情、無表情、無関心…
子供に向ける目では無かった
「おいゴウトン! お前流石に冷たすぎじゃねぇか? 嬢ちゃんはまだ子供
「兄貴にも関係無い… 幽霊がしゃしゃり出る事じゃねぇぞ」
「…!!」
兄に対してもこの態度…
もうゴウトンに、説得の余地は無かった
それを悟ったミーシャは、もうそれ以上、何も言わなかった
ただただ、呆然と立ち尽くす
目は生気を失い、今にも膝から崩れ落ちそうなくらい、全身から力という力が無くなっていた
「…一時間やろう… 今から一時間経ったら、お前の部屋を全て片付ける… 何も残らないと思え… お前ら、戻るぞ」
そう言って、縄梯子の方へと歩き出す
――ミーシャの心の中に、5年前の光景が蘇る
(あんなに…あんなに団長とおばあちゃん…そして私に優しかった…キャプテンが…なんで…なんで… 私は…そんなに『罪』な事をしたの…? 守りたいって…ただ、守りたいって…思っただけなのに…)
そして、ミーシャの目から、涙が頬を伝う
「なんでウソをつくんだ?」
ここに居た誰の声でもない、誰かの声が、静寂の冷たさに覆われた船上に響いた
その声に、ピタッと足を止めるゴウトン
「アレ…ス…?」
ミーシャも生気を失った目でアレスを見て、意識を無くした声で呼ぶ
「そこの剣を背負ったおじさん、なんでウソつくの?」
ゆっくりと顔をアレスの方へと向けるゴウトン
「ウソ…だと?」
「そう! おじさん、ウソついてるでしょ? 俺、ウソは良くないと思うな~」
ゴウトンはアレスを睨む
その目には、怒りが込められている様だった
「俺の何がウソだってんだ…? 小僧…」
「わかんねぇ」
再び静まり返る船上
「『わかんねぇ』…だと?」
「うん。 でもなんかウソついてる感じがする…」
「適当な事言ってんじゃねぇぞ…」
「適当じゃないよ。 おじさんの『魂』が、ウソついてる感じがする」
ここに居る全員が?で頭が埋め尽くされる
『魂』がウソをつく…
良く分からない表現方法だ
「…あ! 分かった! 全部だ! おじさんの言うこと全部、ウソなんでしょ?」
「なんだと…?」
先程まで冷静よりも冷静だったゴウトンが、何故か焦り始める
「おじさん、ミーシャに『今日みたいになったらどうするか』って聞いたでしょ? おじさんも、ミーシャのやることが『正しい』って思ってるんでしょ?」
「…そんな訳無いだろう… 俺は
「あ! そうか! 自分も同じ様に、『攻め込んでくる船に乗り込む』っていう行動をするから、ミーシャの言うことが正しいって思うんだな!? だって『待つ』ってことは、相手の準備も待つことになるってことだもんな!」
「…!」
ゴウトンはこの日、初めて驚いた顔を見せた
この反応はつまり、図星という事なのだろう
「あ、ミーシャを辞めさせるってのもウソだな? だっておじさん、ミーシャに『辞めろ』って言った時、なんか一番悲しそうな魂をしたもん」
「おい…うるせぇぞガキ…」
やがてゴウトンから、冷や汗が流れる
「お前に何が
「おじさん…ウソっていうか… 何か隠してるんじゃないの?」
「…!?」
いよいよ核心を突いたようだ
ゴウトンの表現が歪む
「なんか…隠したい事があるから、それでウソをついてるって感じかな?」
「………」
「おいおいアレス… お前さっきから適当なこと言ってるんじゃねぇだろうな?」
そろそろシードも、逆にアレスが嘘を言っているのではないかと思い始める
「適当じゃないよ! だって『魂』がウソをついてる感じがするんだ!」
「だから『魂』がって…どういう意味だよ… つーか、何を隠すんだ? ミーシャにウソをついたって得する事ねぇだろ? それこそ………まさか…」
その時、シードとゴウレンは閃いた
「おいゴウトン… お前…まさか…」
「それ以上…言うな…」
ゴウトンは冷や汗が止まらない
シードとゴウレンがたどり着いた『答え』に…
ゴウトンが隠す『何か』を、ある人物に知られたく無いが故に…
「あんた…知ってるんだな? 本当の理由を…」
「やめろ…」
「アイツが… ジョイスが居なくなった本当の理由を…お前は知ってるんだな?」
もう、隠し通す事は不可能だった
ゴウトン自身が、何も言わなくなったからである
否定も肯定もしない…ただ、黙秘している
黙秘とはつまり、『言えない』のだ
言えないという事は、『知っている』と言う事
それが事実であるというのはもう誰でもわかる事だった
「ほんとう…なの…?」
ミーシャも必死に振り絞って、言葉を口に出す
「…」
ゴウトンはうつむき、言葉を出す事を恐れていた
が、思い立った様に、真実を話し始める
「限界…だな…」
ゴウトンは軽く息を吸って吐く
「ジョイスは…自分の不治の病が、俺達にうつる事を恐れた訳じゃねぇ… アイツは逃げたんだ… 『団長』という責務から…自分の力が足りなくてこの団をまとめられねぇから…理想と現実との違いに絶望して、アイツは逃げ出したんだ… いつ逃げ出すか思案している時に、アイツは病にかかったんだ… そしてそれを丁度いい理由として、アイツは利用したんだ…!」
ゴウトンは今まで隠し通してきた真実を話すが、やはり後悔をしているらしい
まるで胃がねじれて痛み苦しむ様な顔をし、顔をミーシャから逸らす
「…ミーシャ…お前にこの事を伝えるのが…俺は怖かった… お前が…あれほど慕っていたジョイスが…そんな理由で居なくなった事をお前が知れば…お前の中の団長が…お前の想い続けて来た団長が、死んじまうと思ったら… 俺は…どうしても伝える事が出来なかった…!」
「…」
ミーシャはその話を真剣に聞いていた
顔には僅かに生気が戻り、真実を聞くことに集中していた
ゴウトンは更に、後悔に塗り固められた顔で話を続ける
「トルフィンさんが亡くなった理由は…覚えているな…? トルフィンさんは、団長と同じ病で亡くなったんだ… 団長は4年前に、もう不治の病にかかっていたんだよ… それがトルフィンさんにうつって、体の弱いトルフィンさんが先に亡くなった… それはお前も知っていただろう… だから俺も、団長はこれ以上誰にも感染させたくねぇから自ら居なくなったんだと、団長から真実を聞くまでそう思ってた… 団長から、『もう自分は海族を率いる事は出来ません』なんて聞くまでな…」
話をしているゴウトンも、それを聞くミーシャも、悲しみに染まっていく
「だから俺は、アイツが居なくなった時から自分で自分を変える決断をした… あの頃の様な生温い団じゃ、いつか必ずミーシャもああなる… 自分にも他人にも厳しく…そして自分を殺し、『海洋武装兵団』を強くする事だけを考えてきた… キャプテンだけに全てを任せてしまう弱い団から、個々で強く生きて行ける団にならないと…団長をまた殺してしまう…」
ゴウトンは一通り話し終えると、自分のしてきた事は間違いだったのかと言わんばかりの後悔に苛まれる
その話に割って入る様に、ゴウレンが問い掛ける
「ちょっと待て… お前が嬢ちゃんの為に、ジョイスの失踪の秘密を隠していた理由と、お前の態度が昔と変わった理由は分かった… だが、それと嬢ちゃんが海洋武装兵団を辞めるのと、繋がらねぇんじゃねぇか?」
確かにその通りだ
ゴウトンは、ミーシャが慕うジョイスがただの『逃げ』でここから居なくなった事と、そんなジョイスをそこまで追い詰めてしまった弱い団を強くするために、厳しく団を躾けてきたと言う事は理解できた
が、それは先程宣告した、ミーシャを団から追放する事とは関係が無い
ゴウトンは今度は、その理由を話し始める
「そうだ… それは俺の『罪』だ… 初めからミーシャに伝えておけば、ミーシャはもしかしたらここまで『絶望』する事は無かったかもしれねぇ… それとは別に、もうひとつ『罪』がある… それが…団長の『罪』だ…」
ミーシャはその言葉に反応する
「団長の…『罪』…?」
「あぁ… お前もこれを持っているだろ?」
ゴウトンはポケットからペンダントを取り出した
そのペンダントには写真が付いていた
「その写真は…」
「そうだ…あの時の写真だ… あの時、お前は団長から『魂』を『受け継いだ』だろう… それが『罪』だ… お前の大切なもの…この町を守り続けると… お前がそれを純粋に受け継いだせいで、お前をこの町に縛り続ける事になった… 俺は…お前を『中央大陸』に連れて行ったり、年相応の生活をさせたかった… 憧れた海洋武装兵団に入るまではいい…だが、団長がお前をここに縛りつけた… 守り続ける『魂』を受け継いだ事で、この町から出れなくなったお前を、俺はなんとしても解放させてやりたい… だから考えた…こうするしかない…とな…」
そのゴウトンの言葉に、ゴウトンと共に来た団員もミーシャから目線を逸らす
「…! まさか…みんな…」
「グルだったってのか? …そうか…だから何もしなかったのか…」
シードもミーシャも、ゴウトンの考えた策にようやく気付いたようだ
「??? どういうこと?」
アレスはまだ理解してないらしい
「つまり、ミーシャにわざと命令違反させて海洋武装兵団から辞めさせる理由を、わざと作ったって事だ… あの町の近くに現れた幽霊船に『何もするな』と言っても、ミーシャなら絶対行くと確信してたんだろう… そして今の状況みたいに、直接命令違反した所を指摘すりゃ、なんの問題もなく退団させる事が出来るって訳か」
「キャプテン…でもなんで… 私はそれで良いのに… この町にずっと居て、ずっと守り続ける…ずっとずっと、待ち続ける覚悟はあるのに…」
そうミーシャが言うと、ゴウトンは首を振る
「お前はもう…あの町で守るものが居ないだろう…? お前の好きだった、トルフィンさんもジョイスも、あの町にはもう居ない… だからこそだ… お前はもう、あの町居る理由も、守る理由も無い… 他にやることが、お前にはあるはずだろ…?」
「やること…?」
するとゴウレンは、ミーシャの肩に手を置く
「あぁ… ゴウトンの言う通りだ… 嬢ちゃん…嬢ちゃんはあの町に居るべきじゃねぇだろ? 捜しに行きな… この世界居るはずの、ジョイスの野郎を…!」
ミーシャはハッとする
「私は…」
「回りくどいやり方だったかも知れねぇ… だが、お前はこうでもしねぇと納得しないだろう… だからこそ、ここまで俺達は計画していた… 俺達はお前に世界を知って欲しかった… そしてこの世界に居る、ジョイスを捜して欲しかった… もう、ここではっきり言おう… 『カリーチャ』の平和は俺達が守る…アイツが帰って来る場所は俺達が守る…だからミーシャ、お前は…お前が一番帰ってきて欲しいやつを、連れて帰ってきてくれ…!」
ゴウトンと団員は頭を下げる
「んじゃ、俺達と一緒に捜さないか?」
唐突にアレスが提案する
「え…?」
「人探しだって立派な『ヒーロー』の役目だぜ! 俺達と一緒に行けば、もしかしたら会えるかもしれないぞ?」
ミーシャは呆気に取られる
今日会ったばっかりの少年に、一緒に旅に行こうと言われても戸惑うだけである
「どうするかはお前自身で決めろ。 そもそも、お前が本当にあの町を守り続けたいなら、無理に旅に出る必要もねぇ… だが俺は少なくとも、確かにあの町に居続ける必要は無いと思うぜ?」
「…」
ミーシャはどうするか悩む
自分の命を救ってくれた海洋武装兵団に憧れてこの町に住み続けた
一緒に住む優しい家族の様な人達
海洋武装兵団になった後、自分の尊敬する『団長』と一緒にこの町を守り続ける事を決めた
だが、もうその家族は居ない
海洋武装兵団として、町と海を守る事はこれからも出来るだろう
しかし、それでいいのだろうか?
かつての『団長』と同じく、いつか責任や現実に押し潰されてしまうかも知れない
そんな時、自分を支えてくれる人は居るのだろうか?
そして、大切な人が居ないと言う虚無感に、自分は耐えられるのだろうか?
ミーシャは悩む
このまま町を守り続けるか…
はたまた、その大切な人を捜しに行くか…
その答えは…
「おっし! 話はひとまず終わりだ! とりあえず、このまま帰るとしようぜ! こんな所で考えてても仕方ねぇだろ?」
ゴウレンが話を切り上げる
「兄貴… いや、兄貴の言う通りだ… ミーシャ、このままここで考えても仕方がない… 明日、答えを聞かせてくれ… どんな選択を選んでも、俺はお前の選んだ道を全力で支えよう」
「アレス、俺達も宿で休むぞ。 どうせ船も出ねぇんだ… 明日どうするか考えるぞ」
「わかった! 俺も…ちょっと休みたい…」
「…私…」
――こうして一同は、カリーチャへと戻るのだった
カリーチャに戻ると、流石に幽霊船とそこに居る幽霊は町の住人に驚かれたが、特に害は無いために直ぐに受け入れられた
ゴウトンとゴウレンは、随分久しぶりの再開に改めて感激し、団員と船員と共に飲み明かした
無論、幽霊である彼らは飲み物は飲め無かったが
アレスとシードは宿屋に泊まり、疲れきった体を休ませた
そしてミーシャは、海族の拠点の自室で一人悩んでいた
(…どっちが正しいの… 私は…どうすれば…)
―――翌日 皐月 9ノ日 火魂日 午前6時27分―――
カリーチャの船着き場に集まったアレス達とゴウトン達、そしてゴウレン達幽霊船員も集合していた
「こ…これは…!」
「あぁっ! 俺の荷物!」
アレスとシードは驚きと感動に、表情を煌めかせる
「ああ… 昨日の夜に海洋武装兵団宛に届いたんだ。 『ハイトス』からちょうどこの町に来る予定だった商人が、その荷物とこの手紙をお前達に渡してくれって頼まれたらしい…」
ゴウトンは荷物と手紙をアレス達に手渡す
ハイトスに居た騎士から逃げてきたアレス達は、ハイトスに荷物を置いてきてしまっていた
お金や衣服、旅の必需品が入った荷物を取り戻してホッと一安心する
そしてアレスはもうひとつ手渡された、一通の手紙を見てみた
すると短い文章でこう書かれていた
『世話がかかるなアレス… シード、君も大変だな』
「…アレス…これって…」
「父さんだ… 父さん、ハイトスに居たのか…?」
アレスの父、トレスがこの荷物を取り戻してくれたらしい
…後で知った事だが、ハイトスの近くに群がっていた『山賊』が壊滅、更にハイトスの騎士ニーズ支団長が、この山賊と繋がって長年犯罪行為をしていた事が露見し、騎士を辞職させられたらしい
おそらくそれが、トレスとその妻アリスのした事だと言う事に、アレス達は気付かないだろう
「…とにかく荷物はお前達に渡した… 後は出港するだけだな」
「ゴウトン、予定通りこのボウズ達は、俺達の船で運ぶ…それで問題ねぇな?」
「兄貴、それで大丈夫だ。 俺の紹介の書状を渡しておく。 これを『中央大陸』の海洋武装兵団に見せれば…幽霊船でも大丈夫だろう」
ゴウトンはゴウレンに書状を手渡す
ゴウレンはそれを受け取ると、礼を言って幽霊船に乗り込む
出港の準備を始めたようだ
「お前達は中央大陸に行くらしいな。 よく分からんが、旅をするらしいな… 頑張って来いよ」
「ああ! おじさん、じゃあね!」
「あんたも少しは『やわらかく』なりな」
「へっ…生意気だな… 途中でくたばんじゃねぇぞ?」
「あっ… そういえばミーシャは?」
アレスはキョロキョロと辺りを見渡す
するとゴウトンの後ろの方から、まるで旅行に行くかの様な荷物を背負っているミーシャが歩いて来た
「ミーシャ!」
「ミーシャ… その荷物は…」
ミーシャはゴウトンの前まで来ると、背負っていた荷物を下ろし、真っ直ぐゴウトンの目を見て話す
「私は…この町に来て、海洋武装兵団の生きざまに憧れていたわ… だから私も、海洋武装兵団になるって決めてこの町に住み始めたの… お世話になった団長やおばあちゃんのために、ずっとずっとこの町を守り続けるって決めたのは、今も変わらない…そう思っていたわ…」
ミーシャの目に、力強さが宿る
「でも団長が居なくなった理由を聞いて、私は私自身を否定したわ… 団長が…あの団長が、そんな理由で居なくなる訳がないって…! それで納得してしまった私を…私自身が違うと言い切りたい! だから…だから私、団長を捜す旅に出るわ… いつか必ず…団長を見つけて…ここに帰って来る… 私の憧れた『海族』には団長が居たから… 団長は弱くなかったって証明したいから… もう一度、団長に会いたいから…! だから…行って来ます…!」
『決意』と『覚悟』に満たされた眼差しでゴウトンを見ると、再び荷物を持って幽霊船へと歩こうとするミーシャ
「ミーシャ」
そのミーシャを呼び止めるゴウトン
「何?」と声を出す前に、ゴウトンは膝をつき、ミーシャを強く抱き締めた
「きゃ…キャプテン!?」
思わずミーシャは声を裏返して驚く
「今まで…本当にすまない…」
ゴウトンは突然謝る
その声は僅かに震え、ミーシャには見えなかったが、その目には涙が流れていた
「悪かった… 騙すつもりも…悲しませるつもりも…無かった… それでも…それでも…ジョイスを…お前が信じているジョイスを…裏切らせる訳にはいかなかったんだ… もう…俺は…隠すしか無かった… 隠して…自分を変えるしか無かった… 自分を変えて…この『海族』そのものを強くして…ジョイスみたいに…責任に押し潰されるヤツが居なくなる様に…心を…『魂』を鬼にしていった… 結果それで…お前が苦しむ事になっても構わないと思った…」
ゴウトンの体が震える
ミーシャを抱き締める力が少し強くなる
「だが…! だが… あの船でお前に…『海族を辞めろ』と言った時…! あの時見せた…お前の『絶望』しきった顔を見た時…! 俺は後悔した…! お前に嘘とはいえ…憧れの存在を辞めろだなんて言ってしまった事を… あんな想いをさせてまで…隠す必要があったのかと… 済まなかった…本当に済まなかった…!」
ゴウトンの声からは、罪の意識に苛まれた感情が伝わる
嘘でも偽りでも無い
彼は本当に、心の底から悔いた
自分の行いを…考えを…『想い』を…
だが、全て間違っていた訳では無い
逆にそれが全て正しかった訳でも、全て間違っていた訳でも無い
ただ、ミーシャの事を『想って』いただけなのだと
そしてそれは、ミーシャにも伝わっていた
ミーシャは震えるゴウトンをなだめる様に、背に手を回してポンポンと軽く叩く
「…大丈夫キャプテン… 分かっているから… キャプテンも…あの時の写真を持っていたのを見た時、キャプテンも…昔みたいに戻れたらって思っているのが分かったから… 私…必ず団長を見つけてくるわ…! キャプテンの『想い』を背負って…行って来ます…!」
「ミーシャ…」
スッ…とゴウトンは離れると軽く頷く
ミーシャも軽く頷き、荷物を持って幽霊船へと歩く
「そういうわけだから、あなた達よろしくね!」
「よろしくミーシャ!」
「これから騒がしくなるな…」
アレスとシードはミーシャに続いて幽霊船に乗り込み、それを確認したゴウレンは高らかに声を上げる
「出港ぉぉーーっっ!!」
帆をなびかせて、幽霊船はカリーチャを出港する
その様子を港から見送る海洋武装兵団達
そしてゴウトンも、高らかに声を上げる
「海洋武装兵団ミーシャに! 敬礼っっ!!」
ザザッ!と団員全員で敬礼をし、ミーシャを見送る
幽霊船上でミーシャ達は手を振り、ゴウトン達との別れを惜しむ
…やがて、幽霊船が遠くの方に見える様になった頃、ゴウトンはポケットからペンダントを取り出して、そこに付いている写真を見る
(団長…ミーシャが今、お前を迎えに行くぞ… きっと…この日の様な時が…いつかきっと来るはずだ…)
―――「おばあちゃん、ちゃんと夜前には帰って来るよ。 …あ、そうだ… ミーシャ、ゴウトンさん、それにおばあちゃんも… ちょっとお願いがあるんだけど…」
「んん? なんだそりゃ?」
「それって…『写真魂機』? 確か…『カメラ』って言うものだったような…」
「あぁ… このレンズ越しに見た風景を、このボタンを押して写真にする事が出来るんだ。 専用の紙を入れればその場で写真を出せるし、専用の魂機を使えば何枚でも写真を出せるんだ」
「へぇ~! そんな魂機があるんだ!」
「便利な物があるのねぇ…」
「んで? それで写真を撮ろうってか?」
「はい… 今のこの光景を…この雰囲気を…ずっと忘れない様に、ずっと守り続ける為に、『想い出』として…残しておきたいんです」
「うん! 私も賛成! 撮ろう撮ろう!」
「い~い写真が撮れたら俺にもくれよな!」
「ほらおばあちゃん! こっち来て!」
「家の前に並んで…そうだ、ポーズは…」
「んなら、『敬礼』ってのはどうだ? 俺は誰かに向けて『敬礼っっ!!』って言うのがカッコイイと思うんだよなぁ!」
「え~ゴウトンさん、おばあちゃんが敬礼する姿はあんまり似合わないよ~」
「そうか… んじゃぁ…」
「ふふっ… 私は自由で良いと思うの… その方が、『想い出』らしいと思うわ…」
「トルフィンさんがそう言うならそうするか! …よっと…」
「ゴウトンさん? その座った格好で良いんですか?」
「良いじゃねぇか! ほれ! ミーシャ、ジョイスの横に立ちな!」
「えぇっ!? ま…待って待って! やっぱり団長の横はおばあちゃんよ! おばあちゃん! 団長の横に! 私は前でいいから!」
「…よし、それじゃカメラを構えよう…」
「んん? 誰がそのカメラで撮るんだ?」
「自分の『才能』で撮ります。 よっ…と…」
「えっ!? カ…カメラが浮いてる…!?」
「ジョイスのその不思議な力… 久しぶりに見るわね…」
「何でもいい! ちゃちゃっと撮ってくれ!」
「いきますよ! せーの!」
カシャッ―――
―――潮風が心地よく吹く船の上
過ぎ去りし日の『想い出』に浸りながら、ミーシャは夢見る
いつか必ず…あの日の様に、笑い会える日が来る事を
大好きだった祖母は、もう取り戻せない
だが、自分が動き出せばまだ取り戻せる物がある
少女はその足で世界を見に行く
…そう、これは始まりであり終わりである
世界を旅する少年少女の新たなる船出の始まりであり――
小さな港町に自分を圧し殺していた事の終わりであり――
そして…1つの物語の始まりと終わりの風が、彼等の船を進めるのであった
サークルワールド HERO ~一期一会編~ ―第三章
―――だが、謎が残る
幽霊船になる前…ゴウレン達の船を襲った、異形のエニグマは一体何だったのか?
幽霊船に居た…魚人型のエニグマは一体何処からやって来たのか?
そして…ゴウトン達海賊は、何故…どうやって…幽霊になったのか?
それを知る術も、知る理由も、知る必要も…今の彼等には
―――何一つ、無い
完―




