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サークルワールド HERO ~一期一会編~  作者: 葱原龍乃介
第三章 海族と幽霊船
27/90

『魂』を懸けた戦い

「一体何だ!? こいつは…!」

「とにかく…戦うしかなさそうね…!」

「おじさん! 下がってて!」

「頼んだぜ…! ボウズ共…!」

ゴウレンは部屋から出て扉を閉めると、貨物室は3人と巨大な化物だけの密室空間になった

その化物は、アレス達が港町『カリーチャ』で食べた魚、『トビリュオ』にそっくりだった

一般的な大きさのトビリュオをそのままかなり巨大化させ、更に凶暴性を持ち禍々しいオーラを放っていた

薄暗がりに徐々に目が慣れ、その生物の全貌が明らかになる

ヘビの様に長い胴体、鋭い目付きは虎の如く、魚のギョロ目とは程遠い

扇げば人など簡単に飛んで行ってしまうのではないかと思う程大きなヒレ

頭に生える太い角は刺されば絶命は(まぬが)れないだろう

身体中には光沢のある鱗があるが、生半可な攻撃ではおそらく傷すら付けられない様な、鎧に近い代物だった

強靭なる尾びれに叩かれれば、全身打撲では済まされない

もはや『魚』では無い…手や足が無いものの、『竜』そのものだった

その姿に驚き、恐怖に(おのの)くミーシャ

銃口を向けながらも、その手は震えていた

「…こんなの見たこと無い… 勝てる…いえ…生きて帰れるの…?」

そんなミーシャとは対照的に、シードは()()()()()だった

「落ち着けミーシャ… 冷静さを欠いたら、勝てるもんも勝てねぇぞ…」

「…あなた…どうしてそんなに冷静なの…?」

「俺の今まで一番の恐怖は、()()()だからな… あの時よりも恐怖する事はねぇよ…」

脳裏に浮かぶ3年前の光景…

アレスとシードが旅をする切っ掛けになったあの出来事を越える恐怖を、シードは知らない

「それよりミーシャ、お前はあれを見たこと無いのか?」

「…見たことは…()()あるわ」

「一応?」

ミーシャは恐怖を必死で紛らわす為、自身の記憶を思い出す

「魚のトビリュオが『エニグマ化』…って言うのかしら… トビリュオの姿に近いエニグマがいるのよ… 名前は『リュウノオトシゴ』。 …あれをあのまま小さくした感じね」

エニグマの一匹に『リュウノオトシゴ』と言う種類がいる

凶暴性は低く、戦闘能力も高い方では無い

エニグマの多くは動物や植物、物体等の形を模しているが、生息地域の周囲にある物にそれは依存する

この海域の特産品であるトビリュオに似るエニグマが居てもおかしく無い

エニグマにはまだまだ解明されていない事があるが、こういった生態系がある事は分かっている

「名前に似合わず、凶暴な顔してんな…」

シードは呆れながらも、ウェポンホルダーから槍を取り出してその化物に向ける

同様にミーシャも、震える手を抑えて2丁の銃を向ける

「よっしゃぁ! 来い! 竜みたいな姿してるだけじゃ、俺はビビらないぜ! …あ! 『リュウノツカイ』って名前で呼ぼう! よ~し! 『リュウノツカイ』! 覚悟しろ!!」

アレスが意気揚々と刀を向けながらそう言っている事に対し、シードは冷静につっこむ

「おいおい待て待て… なんだその『リュウノツカイ』って…」

「あいつの名前だ! カッコいいだろ?」

「『名前だ!』…なんて言われてもな…」

「ふふっ… いいんじゃないかしら? 私は良いと思うわよ?」

「本当か!? なら決まりだな! シード! ミーシャ! リュウノツカイを倒して、おじさん達を『救って』みせるぞ!」

…こんな生き死にの掛かった状況で談笑している場合では無いのだが、このやり取りのお陰でミーシャの顔から少し恐怖が取り除かれた

(これがアレスの良い所だな…)

シードもまた、冷静さとは別の意味で落ち着きを取り戻した

()()()()は、次のリュウノツカイの行動をしっかりと見据える事が出来た…と言う意味だった

リュウノツカイと名付けられたその化物は、僅かにだがその頭を下げて前屈みになった

もちろん、3人は何らかの攻撃をしてくると思い防御体勢になる

が、気持ちを落ち着かせて視野が広がったのか、シードはリュウノツカイが頬を少し()()()()()のを見た瞬間、叫んだ

「飛べっ!!」

その声に反応し、3人は横っ飛びで左右に飛び退く

刹那、リュウノツカイの口から凄まじい勢いで水の光線が放たれた

その威力は3人が居た場所の壁に、直径3メートル程の穴を空ける強力な攻撃だった

「…!!」

予想外の行動と威力に、驚きを隠せない

避けずに防御していれば、自分の体に穴が空いていたであろう

だが驚いていてばかりではいられない

直ぐに3人は立ち上がり、再び戦闘体勢に移る

そんな3人に対し、リュウノツカイは大きな口を開けて咆哮する

「ジャアァァァァァッッ!!!」

けたたましい声を上げて威嚇され、怯む2()()

それでも1人、アレスだけは走り出していた

「うおおぉぉ! 『疾踪剣(しっそうけん)』!!」

アレスの姿が消え、気が付いたらリュウノツカイの背後に居た

一瞬にして斬り抜けたが、キイィンッ!!と言う金属音の様な音が鳴り響いて防がれてしまった

その光沢のある鎧に似た鱗は、どうやら見た目だけでは無いようだ

「硬っってぇ!」

アレスは思わず叫んでしまう

くるりと振り返って次の攻撃をしようとしたが、それほど甘くは無かった

リュウノツカイは、まるで自分の周りに(たか)るハエを(はた)くの様に、その強靭な尾びれをアレス向けて振り回した

「「アレス!!」」

自分の背丈よりも大きな尾びれがアレスを叩こうとする

シードとミーシャに呼び掛けられたその声に反応する様に、アレスは両足にソウルを纏わせて、思いっきり上へと飛び跳ねる

すると尾びれを躱すどころか、貨物室の天井近くまで飛び跳ねた

ソウルを纏わせた両足は、常人の数倍の跳躍力を可能にしたのだ

「やるなリュウノツカイ! なら…これでどうだ!?」

アレスは空中で刀を横に向けて、両足に纏わせたソウルの数十倍のソウルを、刀へと纏わせる

このリュウノツカイの体半分程の大きさ、直径にして3メートルはあろうソウルの刀を、アレスは振りかぶる

「『巨刃剣(きょじんけん)』!!」

そして横薙ぎで、()()をリュウノツカイへと振り払う

ドゥグオォォッッ!!

強烈なる一撃が、鈍器で殴られた様な音を出しながらリュウノツカイを襲う

「ジャアァァッッ!!」

いかにも苦しみを感じさせるその声を響かせながら、リュウノツカイは前のめりになり倒れかける

「どうだ!!」

アレスは刀のソウルを解除しながら、空中でガッツポーズをする

だが、そのまま自由落下するアレスをただ単に眺めているはずがなかった

リュウノツカイはギロッと鋭いその目をアレス向けると、怒りに満ちた表情で口を開こうとする

つまり、()()()()()しているのだ

「い゛っ!?」

(やべぇ! 喰われる!?)

だが、そのまま喰らおうとするリュウノツカイをただ単に眺めているはずがなかった

シードとミーシャは、アレスが『巨刃剣』で攻撃した直後に、既に攻撃体勢に入っていた

()()()を喰らっとけ。 『嵐激(らんげき)』」

シードは槍の切っ先に風属性のソウルを纏わせ、それをリュウノツカイの顔に向けて放出した

刺砲(しほう)』とは違い、小さな斬撃を飛ばすのでは無く、風の渦を纏った大きめの弾の様なものを放出した

斬属性は無いが、放出された()()は『刺砲』のおよそ2倍程の速度で飛ぶ

リュウノツカイは魚と同じ視野の広さがあり、当然シードも見えていた

が、それでも避けきれ無かった

『嵐激』は、リュウノツカイの左頬に勢い良く当たった

ドゥガァッッ!!と鈍い音がし、リュウノツカイはよろける

間髪をいれずに、ミーシャのサブマシンガンが()()()()

「『雷小散連射(ラスプラピッド)』!!」

銃口から放たれた弾は、通常の弾丸とは2()()違う所があった

1つは雷属性のソウルを持つこと

もう1つはサブマシンガンの銃弾が、通常のおよそ1/2程の大きさしかない事だ

だがそれによって、銃弾の量が通常のおよそ2倍の量も撃ち出されていた

良く見ると、ミーシャの手元には雷属性のソウルが僅かに流れている

その雷で銃の機構を無理矢理いじり、銃弾を小さくして発射、銃口から出る一発の弾を二発にして撃ち、雷属性の弾丸を大量に出せるようにしたのだ

その弾丸が全部当たる訳では無かったが、広範囲に多く撃ち出された弾がリュウノツカイに避けられる訳がなく、弾が当たった場所からバチバチバチッッ!!と音と稲光が(ほとばし)

顔に伝わる衝撃と、身体中に流れる電撃で、リュウノツカイは苦悶の表情を見せる

2人の攻撃の最中、無事に地面へと着地出来たアレスは2人の元へと駆け寄る

「ありがとうな! 助かったぜ!」

にこやかな顔で礼を言うアレス

「当たり前だ… こんな所で死なす訳にはいかねぇだろ? それより、一気に畳み掛けるぞ!」

「おうっ!」

「ええ!」

3人はふらつくリュウノツカイに向けて、それぞれ攻撃を放つ

アレスは瞬時にリュウノツカイに近付き、腹に向けて刀を振り抜く

「『裂爪剣(れっそうけん)』!!」

刀を振った時、普通斬撃は1つなのだが、アレスの振った刀からは上中下に斬撃が3つ発生した、まるで爪で引っ掻いた様な攻撃を繰り出した

刀に纏わしたソウルを3方向へと分けて放つ事で、多段攻撃を与える事が出来る

惜しくも鱗に威力を抑えられてしまうものの、リュウノツカイに傷を負わせるのには十分だった

「『風嵐激刃槍(ふうらんげきじんそう)』!!」

シードは槍先に風の渦を纏わした槍を両手で持ち、両手両足に力を込める

そして体勢を低くして軽く息を吸う

グッと槍を握り地面に足を踏みしめ呼吸を一瞬止めると、次の瞬間にはもうリュウノツカイの胴体に、槍が当たっていた

その槍が触れた場所に、風の爆発が轟く

だがそれは、ただの爆発では無かった

拡散する様な爆発では無く、当たった物体の()へと衝撃が伝わる様な爆発だった

槍の鋭い突きと風の相性は良く、まるで風の槍が突き抜ける形でリュウノツカイを貫く

「ギジャアァァッッ!!」

痛みを訴える叫び声を、辺り一帯に響かせる

ダメージが蓄積されている証拠だ

すかさずミーシャも追撃する

「『ストーンアロゥ』!!」

銃を持ったまま腕を胸の前で交差し、魂術(そうじゅつ)を発動させる

交差させた腕の前の空中から、石が5個生成される

大きな岩が砕け矢尻の形になり拳3個分程の大きさになった様な石が、リュウノツカイに向けて発射される

そんな攻撃を意に介さず、長い胴体を伸ばしてリュウノツカイは大きな尾びれでミーシャを石()()叩く

「!!」

ミーシャは精一杯のソウルを纏ってガードするが、無残にもそのまま叩かれて壁に向かって吹き飛ばされる

ドゴォッッ!!と音がし、壁にズルズルと背中を擦らせ、やがてぐったりとした様子で床に座り込む

「「ミーシャ!!」」

2人は叫び、ミーシャの所へと駆け寄る

この状況をチャンスと見たのか、リュウノツカイはその頬を再び膨らませて、先程壁に大穴を空けた技を2人に向けて放とうとする

その刹那、リュウノツカイの頬を高速で殴る()()が居た

思いっきり殴られたリュウノツカイは、よろめいてそのまま床にズウゥン…と倒れる

スタッと着地したその獣人は、獣耳を生やして目付きが変わった狼の様な姿をしたアレスだった

「『獣心化(ドライブビースト)』…!!」

アレスは瞬時にセンスを発動し、リュウノツカイを殴ったのだ

獣心化(ドライブビースト)』は狼の様な獣の力を宿す才能(センス)であり、今のように高速で移動したり筋力も向上する

だが…

「アレス、2日連続でそれを使って大丈夫か!?」

昨日、山賊ボアボス戦で使用しているせいか、全快時の状態とは違いソウルの量と迫力が小さい

つまり、()()()ではあまり無い

シードはそんなアレスを心配する

「だ…大丈夫…! 俺はやれる…!」

アレスは明らかに無理をしている様に見えたが、意地と根性で耐える

「よし、なら大丈夫だな。 俺はミーシャを少し治療する。 どうやら気絶しているらしいが、気絶は『治癒魂術(ちゆそうじゅつ)』じゃ治せない… だが、やらないよりはマシなはずだ… それまであいつを食い止めろ… 出来るか?」

アレスはくるりとリュウノツカイの方を向き、ありったけのソウルを纏わせて答える

「もちろん…!」

そして1人、アレスはリュウノツカイに向かって行った

その間、シードはミーシャの治療を試みる

シードの体から薄くソウルが立ち上る

槍を持つ反対の手を出し、掌にソウルを集めていく

すると、掌に小さなソウルの()が生成された

「『エストキュア』」

その玉がフワッと掌から離れてミーシャに当たる

玉が当たると、ミーシャの体全体に淡い光が纏う

(『エストキュア』… こんな下位魂術じゃ、ミーシャの自然治癒能力を上げてかすり傷程度しか治せねぇが…)

シードは魂術を発動し終えると、手をミーシャの肩に置いて揺さぶる

「おい! ミーシャ! 起きろ! ミーシャ!!」

シードはミーシャの名を呼び意識を取り戻そうとするが、反対にミーシャの意識は深く落ちていた―――



―――5年前―――


とある赤い屋根の家…

その家の前で、3人の男女が何か話をしている

「『団長』! 今日は何をするの?」

明るい笑顔を見せる少女

黒くて長い髪を揺らしながら、若い男性に向けて質問を投げ掛ける

「今日は…よし! じゃあ『銃』を撃つ練習でもするか!」

若い男性は、短い黒髪で背丈は少女よりも頭2つ分程大きい

優しい目をしており、物腰の柔らかそうな印象を受ける

服はどこかで見たような、『海賊』っぽい服装をしている

「おい『団長』! ミーシャに銃はまだ早ぇんじゃねぇか?」

そんな若い男性に意見する、少し歳を取っている中年男性が1人

野太い声を出し、手には酒瓶を持っている

頭には海賊の船長が被る様な船長帽を被っていた

「ゴウトンさん…こういう若い時にこそ、色んな体験をしといた方がいいと思いますよ」

「ま~だ『銃』は早ぇって! まずは船の()()()の方が先だろ!?」

「ゴウトンさん! 船は乗っていればそのうち覚えていくから大丈夫! それより『団長』! 早く銃を教えて教えて!」

若い男性の腕を引っ張りながら、銃を教わるのを急かす少女

「ミーシャ落ち着いて… それよりゴウトンさん、自分が本当にこの『海族(かいぞく)』の船長で良いんですか…?」

少女…ミーシャを(なだ)めながら、1つの疑問をゴウトンに聞く

するとゴウトンは、笑いながら答える

「おいおい! 今更何言ってんだ!? お前が昔からこの『海洋武装兵団』の船長になりたいって言ってたじゃねぇか? お前も言ってただろ? 『若い時に体験した方が良い』ってな! だからお前を船長にしたんだぜ? 大体、自分の事を『団長』だの海洋武装兵団を『海族』だの、そう言った呼び方で呼べって言い出したのはお前だろ? 今更遅ぇっての!」

若い男性は少し困った顔をする

「しかし…」

「お前が『団長』になったとか、ミーシャも『海族』になったとか、色んなやつにもう言いふらしてんだ… 後戻りは出来ねぇぞ! 俺の兄にも、『中央大陸』の海洋武装兵団を通じて手紙で教えてんだ… アイツもきっと、喜んでるぜ?」

ゴウトンは腕を組み、意地悪そうな笑顔を見せる

それを見て、若い男性は更に困った顔をする

「確か…『ゴウレン』さん…ですか… あの人にも伝えているんですか… 少し…荷が重いですね…」

ゴウトンは手を若い男性の肩に置き、諭す様に話し掛ける

「…お前が昔から、町の皆に『団長になる!』なんて言ってたんだろ? 胸を張れ! 夢が叶う事は素晴らし事じゃねぇか! 荷が重ぇなら、自分の力で軽くしろ! お前なら出来るぜ? ()()()()!」

「そうそう! 団長ならできるって! 私もがんばるから、団長もがんばろ? ね? ()()()()さん!」

2人から励まされたジョイスは、先程の困った顔から段々と顔が変わり、決意を固めた様な真剣な顔をする

「そう…ですね… その通りですね…! 念願の『団長』になったんです… 胸を張って、気合いを入れて、やりきらなければなりませんね! ありがとうございます…ゴウトンさん…! ミーシャも、ありがとうな…」

そう言うと、ミーシャの頭を撫でるジョイス

ミーシャは顔が真っ赤になって照れる

「えへへ…」

「ミーシャ、約束してほしい」

顔が真っ赤になったミーシャに、ジョイスは頭に手を置きながら目線を合わせる

「俺は一生懸命に、この町の『海族』の『団長』として責任を果たす… だからミーシャも、俺と同じ(こころざし)を持っていてほしい… 何があっても、何をしても、この町を守り続ける… いや…『守りたいものを守り続ける』と…! 俺のこの『魂』… ミーシャも受け継いでくれるか?」

ミーシャもジョイスと目線を離さず、真剣な顔で首を縦に振る

「うん…! 私も、団長の『魂』を受け継ぐよ! 私も、この町が好きだから…!」

ゴウトンも腕を組み、うんうんと頷いて2人の様子を見守っていた

するとガチャリと音がして、3人の後ろの赤い屋根の家から1人の老人が出てきた

「ふふふっ… みんな、元気ねぇ…」

穏やかな顔と目をしている女性の老人が、優しい声で語りかけてきた

背丈はミーシャより少し上、白髪の中にも黒髪が幾つか残っており、まだ暖かい気候にも関わらず、毛糸のカーディガンを羽織っている

おそらく歳も60より上だと思われるが、とてもそうは見えない程若く見えた

そんな美しさと気品を持ち合わせた老婆は、再び優しい声で語りかける

「ミーシャ…ジョイス…暗くなる前に帰ってくるのよ… ゴウトンさん…2人をよろしくお願いしますね…?」

ゴウトンは酒瓶を地面にサッと置き、老婆に向けて敬礼をする

「お任せ下さい、トルフィンさん! このゴウトン、命に代えても守りますぜ!」

「ありがとうね…頼もしいわ…」

にっこりと微笑む老婆、トルフィン

そんな彼女にミーシャは手を振る

「じゃあね! おばあちゃん! 行ってきまーす!」

「おばあちゃん、ちゃんと夜前には帰って来るよ。 …あ、そうだ… ミーシャ、ゴウトンさん、それにおばあちゃんも… ちょっとお願いがあるんだけど…」

――若くとも海洋武装兵団のリーダーであるジョイス、そんな彼に憧れる少女ミーシャ、2人を支える温厚な男ゴウトン、そして彼等を見守る優しい老婆トルフィン…

誰にも変えられるはずが無かった、何気ないこの日常の1シーン…

ミーシャの落ちていく意識は、()()光景を見ていた

(そうだ… 私… 『受け継いだ』んだった… 守るって… 守り続けるって… この町を… 団長が居なくなったとしても… 守り…続けるって…!)

ミーシャは()()()()()()()()()()()()

――上がらなくてはならない

――落ちて行き続けるこの意識を

――(目覚めなきゃ… 何も…出来ない…!)



「ミーシャ! おい! ミーシャ! ミー

ガバッと座り込んでいたミーシャが突然立ち上がる

「おおっ… 目が覚めたか!?」

ミーシャは両手に持った銃を前に向けて構える

「寝ている場合じゃないわ…」

「…?」

「私達があいつを倒さなきゃ、あいつはきっと、町の方も襲い始めるわ… いいえ、それよりも…」

もうミーシャの顔には迷いは無かった

ゴウレンが海賊だと知った時の、忌み嫌う複雑な表情はもはや微塵も無かった

「この船にいる『みんな』が殺されちゃうわ…! それだけは絶対にさせない… 『海賊』でも関係無い! 幽霊船(ここ)に居る『魂』を守る… 私には、団長から受け継いだ『守りたいものを守り続ける()』があるから!!」

シードもスッと立ち上がり、槍を構える

そしてミーシャに対して意地悪く笑う

「さっきまで『絶望』しきってたやつが、急にやる気になったな?」

ミーシャ小さくムッとした顔になるが、不敵にも笑う

「『絶望』…? 私はこれまで、沢山『絶望』してきたわ… 船が嵐で転覆しそうになったり、海賊を捕まえようとして逆に襲われたり… でも私は、いつでも()()を乗り越えてきた…! ()()()()に…私は溺れない!」

シードは小さくフッと笑う

「なら、期待してるぜ? ()()()()よ?」

そう言うと、シードはリュウノツカイに向けて走り出した

アレスと戦っているリュウノツカイの前をそのまま走りながら横切る

そしてアレスに向けて大声で話す

「アレス! 止めを刺すぞ! 全力で喰らわせろ!」

シードは走るのを止め、リュウノツカイの正面で槍を構える

アレスは息を切らしながらも、リュウノツカイの背後へと陣取る

「ぜ…全力で…行くぞぉ!」

もはや『獣心化(ドライブビースト)』は解けてしまった

残りの全ソウルを刀へと凝縮させていく

「俺の爪は! 全てを()()()()!!」

アレスは体をねじり、まるでバットを振る様に構える

ただし、刀は上ではなくアレスの後方へと真っ直ぐ向いている

ソウルを纏った刀が軽く()()()

いや、そう()()()程ひどく不安定にソウルが纏っている

アレスの体力が低下してソウルのコントロールが定まって無いと言う訳ではない

意図的に不安定にさせているようだ

ソウルを上手くコントロールさせて丁寧に纏わせると、切れ味向上やソウルの無駄を抑える事が出来る

その分、攻撃範囲が狭まる

両立させる事も出来るが、細く切れ味抜群か、太く衝撃を与えるかのどちらかが基本である

アレスは後者の攻撃を繰り出そうとし、思いっきり刀を振り抜く

逆に、シードは前者である

構えた槍に風を纏わす

だが、槍先だけでなく、槍そのものと体全体に風を纏わせる

まるで風の鎧を着けているかの様になったシードは、その手に持つ槍を頭の上で回し始める

「避けねぇと…死ぬぜ?」

その槍の回転を止め、勢いを殺さずに前方に槍を突き出す

ミーシャは両手に持つ銃にソウルを集めていく

銃はソウルを纏わせても、弾種を変えたりすることは基本出来ない

常に一定量のソウルの弾丸を撃てるのが銃の強みと言えるからだ

しかしミーシャは、自らのソウルを流し込む事で弾種を変えて撃ち出せる様に銃にオプションパーツを付け、自身のソウルコントロールも使ってこれを実現している

ミーシャは両銃にソウルを流し、リュウノツカイへと照準を合わせる

銃が爆発しそうなのを感じるかの如く震える

そして引き金を引く

リュウノツカイはここに居る3人が同時に攻撃をしてくる事を予感していた

実際それは正しく、まもなく攻撃が放たれる

だからこそリュウノツカイのチャンスだと思った

これを防ぎきれば、この3人はソウルを使いきってマトモに攻撃出来なくなると

そしてそれも正しく、3人はほぼ全力で技を繰り出すため、この後はおそらく立てるかどうかさえも分からない

よってリュウノツカイは、全身全霊を込めた()()()()()()()()()()を行った

しかし、この判断は()()()()()()()

リュウノツカイが防御体勢に移ったと同時に、3人の攻撃も同時に繰り出される

「『冥狼剣(めいろうけん)絶爪(ぜっそう)』!!!」

「『白槍(はくそう)風穿ノ刃(かぜうがちのやいば)』!!!」

「『超強砲撃(イレイザーシェリング)』!!!」

刀から3つの高密度ソウルの斬撃が爪の様に発生し、槍から風のレーザーの様な高風圧斬撃が真っ直ぐ飛び、2つの銃口から出た弾が空中で交わり1つの砲弾となって、リュウノツカイを襲う

アレスの斬撃は、少し前に繰り出した『裂爪剣(れっそうけん)』の上位互換の様な技だ

ただし『切り裂く』よりかは『削り取る』の方が正しいかもしれない

斬撃の波が押し寄せるかの如く、リュウノツカイの鱗に覆われた体を『削り取って』いく

シードの高風圧斬撃は、シードの技『風刃(ふうじん)』を更に強力にし、槍や自身に纏わせた風で周囲の空気を取り込み、風属性のソウルを限界まで圧縮して放つ、かなりソウルのコントロールを必要とする技だった

放出された斬撃は、斬撃よりも槍そのものを投げる様に、一直線に風のレーザーかの如く飛んで行く

リュウノツカイの固い鱗ごと肉体を貫き、正に風穴を空けた

ミーシャの砲弾は、甲板で撃った『強撃弾丸(レイザーバレット)』と『強撃連射(レイザーラピッド)』を同時に撃ち出す技だが、それに加えて風属性ソウルと風と相性の良い火属性ソウルを纏わせた強力な技である

ピストルから撃つ『強撃弾丸(レイザーバレット)』に風属性ソウルを纏わせ、サブマシンガンから照射される『強撃連射(レイザーラピッド)』に火属性ソウルを纏わせる

同時に撃つと弾速の速いサブマシンガンの弾丸が先になるが、ピストルの弾丸に纏わせた風属性ソウルが渦状に回転し、ピストルの弾丸の回りをサブマシンガンの弾丸が飛ぶ様になり、風で火より強く燃え上がり、最終的には2つの弾丸が1つになり、巨大な砲弾となって飛んで行く

そんな大きく強力な弾丸が当たれば、いくらミーシャよりも大きく強力なリュウノツカイと言えど、簡単に吹き飛ばされる

――鱗と肉を削ぎとられ、腹に穴を空けられて、貨物室の壁面へと吹っ飛ばされたリュウノツカイは、『防御』と言う安易な選択をした事を後悔した

エニグマは体内のどこかにある『(コア)』を壊されなければ余程の重傷で無い限りは死なない

しかし3人の攻撃は、その()()()()()を与えるのには十分だった

壁に寄り添いぐったりするリュウノツカイは、重傷を与えられた事に後悔をした()()()()()

アレス達の攻撃により、リュウノツカイ自身も分からなかった、自分の『核』が露出した事に後悔をした

リュウノツカイがここまで大きくなったのは2日前…

エニグマは個体によって『核』の位置が異なる場合がある

多くが同じ、もしくはあまり変わらない位置だが、リュウノオトシゴという個体から(アレスが命名したが)リュウノツカイと言う大きな個体になった事で、『核』の位置も変化していた

その場所が、アレス達が攻撃した『腹部』にあった

裂かれ、貫き、撃たれたリュウノツカイは、腹部が削り取られて『核』が出た事をここに居る全員が認識していた

だがリュウノツカイを含め、アレス達3人も動けなかった

「『核』だ…! くそっ… あの技は使ったらしばらく体が上手く動かせねぇ…! アレス…」

シードはアレスの方を向くが、シード以上にアレスの状態は深刻だった

床にうつ伏せで倒れ、指1つでさえまともに動かせない様だった

「む…むり… もう…うごけない…」

「ならミーシャ… 『核』目掛けて撃てるか?」

シードは今度はミーシャの方を見る

「ええ… リロードすれば大丈夫よ」

超強砲撃(イレイザーシェリング)』は両銃の残りソウルを全て使用する

よって、ミーシャはピストルのリロードを行う

が、リュウノツカイは頬を膨らませ、ミーシャに向けて水流光線を放とうとする

「!!」

ミーシャは当然避けようとする

「投げろぉぉっ!!」

その時、貨物室内に響き渡る声と、ドアを勢い良くバァンッ!と開ける音が聞こえた

ヒュンヒュンッと槍やら剣やらがリュウノツカイに投げられて行く

突然攻撃されザクザクと突き刺さる武器に驚き、あさっての方向を向いて水流光線を放ってしまう

「効いてるぞ!」

「ドンドン投げろ!」

「狙え狙え!」

海賊の船員が古びた武器を投げつけてアレス達の援護をする

すると1人、甲板に居た魚人型のエニグマが持っていた剣を持ち、リュウノツカイへと走る人物がいた

その人物はリュウノツカイの『核』に狙いを定め、思いっきり剣を突き刺す

ガギャァン!!と、『核』が割れる音が鳴り響く

「ジャアァァァァァッッ………!!」

リュウノツカイの断末魔が耳を(つんざ)

やがて悲鳴も上げず力尽き、ピクリとも動かなくなった

「…ありがとよボウズ共… お前さん達は、間違いなく俺達の『ヒーロー』だぜ…!」

ミーシャは、その『核』を破壊した人物の名前を呼ぶ

「ゴウレンさん…ありがとうございます…!」

「…おいしい所…あんたに取られちまったな…」

シードは方膝を立てて座りながら、一息つく

「礼なんざいらねぇさ… 俺達の方こそ、礼を言うべきだぜ嬢ちゃん… 兄ちゃん、最後ぐれぇ俺達の手でケジメつけさせてくれや…」

そしてゴウレンは、アレスの元へとずんずんと歩いて行き、アレスをかつぎ上げる

「大丈夫かボウズ? 俺達のために、こうなるまで戦ってくれるなんてな… 何から何まで済まねぇな…」

アレスはかつぎ上げられながら、苦しい顔を押し殺してにっこりと笑う

「俺は『ヒーロー』になるからね…! おじさん達も、町の平和も、みんな守ってみせる…!」

アレスは必死に片手を上げ、雄叫びを上げる

「俺の…俺達の『勝ち』だっっ!!」

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