戦場の船上
午前11時10分 漁船港町『カリーチャ』沖合にて―――
「…近くで見ると…けっこう大きいわね…」
海上には、2隻の船が浮かんでいた
1つは大きいと感想を述べる少女が乗る船
もう1つは、その大きいという感想が出るほどの大きな船の2隻が浮かんでいた
「…んじゃ、作戦通りに行くぞ」
槍を持った青年は船を止め、指揮をとる
「ええ。 アレス、行くわよ!」
少女は腰に着けた2丁の銃を取り出し、大きな船に向けて構える
「よし! 行くぜ!!」
少年は腰に携えた刀を抜き、その大きな船に向けて振りかぶる―――
―――30分前―――
「作戦と言っても、単純だ」
シードは『幽霊船』攻略のための作戦を、アレスとミーシャに伝えていた
「シンプルに『壊す』。 それだけだ」
「「ええっ!?」」
シードの提案した作戦に、2人は同時に驚く
「それだけなの!? あなたが作戦って言うから、もっと複雑なのを想像してたのに…」
「シードらしくないぞ!? 『壊す』なんて…もう少し賢いやり方があったんじゃないのか!?」
シードに詰め寄る2人だが、シードは落ち着けと言わんばかりに2人をなだめる
「あくまで『壊す』のは結果だけの作戦だ… こうしてミーシャが協力する形になったからこそ、それだけでよくなったんだ」
「「??」」
2人の頭の中は?でいっぱいになる
「俺の本来の作戦を説明してやる。 …まず、『海洋武装兵団』の泊地に『小型魂機船』があるって話を食堂で聞いた後、その場所への鍵を受け取った人物…つまり、ミーシャと接触してその鍵を手に入れる計画だった。 素直に協力するならそれで良かったが、拒否された場合、一旦帰るフリをして追跡し、泊地に着いたと同時に襲ってそのまま船を強奪する予定だった。 だが、アレスのお陰でその必要は無くなったな」
「…あなた、そんなこと考えてたの…?」
ミーシャは冷や汗をかきながら、苦笑いをする
そんなミーシャに対して、シードは軽く笑いながら話を続ける
「んで、こっからが本題だ。 さっきの『壊す』だが、何も船そのものをぶっ壊す訳じゃない。 この町から見ても十分大きいと分かるあのサイズの船を、物理的に壊すのは効率が良くない。 だから、船の底をピンポイントで狙い『壊す』。 それで終わりだ」
それを聞いたアレスは、きょとんとしている
「ん? どういう意味?」
「つまり、船底に穴を空けて、水没させるのが狙いだ。 勝手に沈んでくれたら、楽で良いだろ? 戦力がたった3人しかいねぇんだ… 戦闘にでもなりゃ、苦しいのはこっちだからな」
アレス未だに?が頭の上に浮かべているが、ミーシャは納得したかの様に頷いて、椅子から立ち上がる
「作戦はそれで問題ないわ。 すぐに出発しましょう」
「そうだな… 行動は早い方がいい」
シードも同様に立ち上がり、ミーシャと共に家を出ようとする
「おおい! ちょっと待ってくれ!」
アレスは慌てて2人の後を追う
―――やがて3人は、カリーチャの町の中でも一番大きな建物へと到着した
海沿いに面したその建物は、約3階建ての石造りの建物で、大きな屋根の上にはとある『マーク』の描かれた旗が立っており、どこか『ハイトス』の町の騎士団支部に似ている雰囲気があった
だが、普通の一軒家がまるまる3軒横並びで入ってしまう程の大きさからは、やはりどちらかと言えば『海賊』っぽさがにじみ出てしまう
その大きさと雰囲気の持つ、まるで城を彷彿とさせるその佇まいに、アレスとシードは茫然としていた
「…デケェ… ここ、ミーシャの『海族』の拠点か?」
アレスはその建物を眺めながら、ミーシャに聞く
「ええ、そうよ。 ここを拠点に私達は活動をしているのよ。 そしてこの中に、海に出るための『船』があるの」
ミーシャは、その建物の扉を開けながら答える
やがてガチャリと音を出して鍵を開け、扉からその建物へと3人は入って行く
扉を開けると大きな広間が広がり、テーブルや椅子が乱雑に並べられている
所々にゴミやグラスや食器、衣服や武器も散らかって落ちている
とりあえず、清潔感はあまり無いという印象が感じられる
広間の左右には階段があり、そこから2階3階へと移動でき、更に各部屋へとつながる扉がある
各階層の中央には両開き扉が存在し、どうやら隣の建物へと通じる様だった
外観からは分からなかったが、3つの建物が並んで繋がって1つの建物となっているらしい
そんな両隣の建物へは目もくれず、広間の中心を真っ直ぐ歩きながら、正面にある扉を開ける
そこには様々な種類の船が沢山並ぶ、泊地が広がっていた
枝分かれした桟橋の先には、中型の帆船や小型の貨物船、そして正に『海賊船』と言える様な船も存在していた
ミーシャはその中でも、大人が5人ぐらいしか乗れない様な、小型の船に乗り込んだ
「これが例の『小型魂機船』ってやつか」
シードは船に乗りながら、ミーシャに尋ねる
「ええ… とりあえず出発するから、何かに掴まっていてちょうだい」
ミーシャは、その船の計器を何やらいじりながら答える
やがてドドドドド…っと船から音がし始めると、アレスは少し興奮気味にはしゃぐ
「おおっ! これ動くのか!? 俺、船っていうの始めて乗
ブゥオオォォン…!
っっっだぁ!?」
急に発進した船の勢いに体を持っていかれ、アレスは船の上に背中を叩き付けられる
海上を疾走する中、ミーシャは呆れた様子でアレスに言う
「だから何かに掴まってって言ったのに…」
「こいつが人の言うことをまともに聞くわけねぇよ…」
シードも同じく、呆れた声で言う
そんな事気にもせず、アレスは船の揺れで倒れた体を起こし、再び興奮気味にミーシャに聞く
「こ…これが『小型魂機船』ってやつか!? ど…どんな仕組みで動いてるんだ!?」
「『魂機』…は知っているわね? ソウルを元に動く機械の事だけど、この船も同じように、ソウルを利用してスクリュープロペラを回して、その推進力で船を動かしているの。 もっと大型や高価な物になれば、ソウルを噴出して動かす…なんて船もあるみたいね」
「へぇぇ~…」
アレスは分かった様な、分からない様な曖昧な返事をする
それは、周りを見渡すと、まだ港町からそう離れてはいないものの、辺り一面真っ青な海が広がる光景に、アレスは目を奪われていたからだ
「…船は発進した… あとは、アレに向かうだけだな…」
シードは冷静に、目標である『幽霊船』を遠くに見据えつつ、静かに船に腰を落としていた
ミーシャもまた、幽霊船を見ながら深呼吸をし、『覚悟』を決めていた
自分のしている事が、船長命令を無視した行動であること…それが良い意味でも悪い意味でも『正しく無い事』であるかも…
しかしそれをしてまでも、平和を守るために行動することに対して『覚悟』は十分にしていた
「うおおぉ~~! 海って聞いてた通りしょっぱいんだなっ! すげ~! どうなってんだ!?」
そんなミーシャとは対照的に、初めての海にはしゃぐアレスを見て、シードとミーシャは一気に力が抜けてしまうのだった
―――そして時間は物語冒頭へと戻り、ミーシャは銃を、アレスは刀を幽霊船へと向け、攻撃体勢へと移る
2人が武器を向ける幽霊船は、全体をおどろおどろしい雰囲気をもった、大型の帆船だった
大型と言ってもおそらく50人程度しか乗船出来ない、船の中でも比較的中型に近い大型の船だった
それでも、アレス達が乗っている船に比べたら十分大きい
広く一般的な木製の船なのだが、やはり『幽霊船』と言われるだけあるように、所々木が腐っている様に見える
船の帆も既にボロボロで、何か戦闘が起こったのか、自然劣化で傷んだ様子では無かった
同様に船体にも、何かとの戦闘の痕が残されていた
そんな船の様子を見つつ、シードは周囲を警戒しながら槍を持っていた
船への攻撃を2人に任せ、周囲からの攻撃に備える為だ
これほど大きな船を守る為に、敵が居てもおかしくない
ましてや『破壊』しようとしている自分達を、迎撃しない訳がない
(来るとしたら…今しかないな…)
シードは周囲の索敵を怠らない
「よし! 行くぜ!!」
アレスは刀と体にソウルを纏わせ、刀を振りかぶる
「『斬翔
「うわああぁぁっっ!」
「「「!!?」」」
突然上がった叫び声に、3人は驚きを隠せない
驚きながら、どこからか聞こえたその声の主を探す
だが探すなんて事をしなくとも、その声がした所は1つしか無かった
「船の上か!?」
アレスはバッと見上げて、甲板を見ようとする
同じくミーシャも、甲板見ようと見上げる
「誰かいるのかしら!?」
「おそらく誰かいるだろうな… だが、そんなこと関係ない… さっさと船を沈めるぞ」
アレスはシードの方に一瞬で顔を向ける
「なに言ってるんだシード! 誰かが危険な目にあっているんだぞ!? 助けなきゃ!」
シードは冷静に首を振る
「お前こそ何言ってるんだアレス… こんな幽霊船にいるやつなんて、普通じゃない… むしろ、それ自体が『罠』の可能性がある… 助けを求める声につられて船に乗ったやつを襲う…その可能性だってあるんだぞ? 第一、助けに行こうにも甲板まで上がる手段が
「2人共、見て!」
ミーシャが2人に呼び掛けながら上方向を指差す
その方向を見ると、甲板から縄梯子が下りてきた
ちょうど3人のいる船の所まで下りてきたそのはしごは、全体的に船同様ボロボロで、3~4人同時に登ったらそのまま切れてしまいそうな程の縄梯子だった
「はしごが… これって誰が…」
「…『登って来い』ってか? おいおい…怪しすぎるだろ…」
このはしごと、はしごを下ろしてくる幽霊船に対して警戒する2人
だがそんな2人とは対照的に、アレスはもうはしごに手を伸ばそうとしている
「お…おいアレス!? こんなの絶対罠だぞ!? ひとまず様子を見た方がいいぞ…」
「シードの言う通りよ… いくら悲鳴が聞こえたからって『助けを求めている』とは限らないわ…」
「それでも俺は行く!」
慎重な2人に反発し、アレスは振り返り言い放つ
「誰かが助けを求めてる『かもしれない』なら俺は助けに行く! それで助けられ『なかった』なんて事になりたくない! 守りたいものを守り、救いたい人を救う! それが俺の目指す『ヒーロー』だから! 今ここで助けに行かなきゃ、俺は二度と『ヒーロー』になれない!」
そう言い放つと、アレスは勢い良くはしごを登り始めた
「~~~っ! ああ言うとこうなるっていうあいつの性格は分かっていたんだが… おいミーシャ! 早くあいつを追いかけるぞ!」
「…」
「…おい? ミーシャ?」
ミーシャは茫然とした様子でアレスを眺めていた
シードは声を掛けるも、どうやら何か別の事を考えているらしく、声が聞こえていない様だった
「おいミーシャ! 聞いてんのか!?」
「えっ!? あ…ええ…」
ようやく返事をするも、心ここにあらず…といった感じだった
「何考えてんのか知らねぇが、さっさとあいつを追いかけるぞ! 今は、この幽霊船をなんとかする事に集中しろ!」
「そ…そうね… その通りね… わかったわ!」
ミーシャは深く頷き、気持ちを切り替えると、2人はそのボロボロなはしごを登り始めた
はしごを勢い良く登って行ったアレスは、船の甲板へと降り立った
やはり甲板も、戦闘があったせいなのか所々ボロボロで、大きな衝撃でも与えてしまえば床が崩れてしまうのではないかと思う程朽ちていた
アレスの降り立った床も、ギシィッ…とあまり良い音を出しはしなかった
甲板は殺風景で武器や衣服の布切れが散らかっている以外は、特に何も無かった
船を動かす為の舵輪や帆柱等が有る以外は普通の船だった
化物の形をした魚のエニグマがいる以外は、普通の船だった
「!? こいつが…誰か襲ってたのか!?」
アレスは周りを見渡すが、先程の悲鳴の主は見当たらない
おそらくその魚のエニグマの後ろにある、扉の中にいるのであろう
そのエニグマは、頭は魚、首から下は人間の体をしていた
人間と言っても、その素肌は青く濡れており、魚そのものであるかの様な鱗が生えていた
手や足にはヒレがあり、やはり魚寄りの存在であると言える
服装はアレスやシードが着ている服と同じ、まるで『海賊』の様な服装をしている
だがその服も古びた状態であり、この幽霊船にいた船員から剥ぎ取ったのではないか?と思えてしまう
正に『魚人』…もしくは『獣人』…そう断言できる姿だった
アレスはそれを見て警戒を怠らない
その生命体が異形だからでは無い
その鱗の生えた腕が持つ、人の胴体を軽く切断できる程の大きさの剣を持っていたからだ
少し年月が経っているのか少し錆びていているものの、刃渡りがアレスの指先から肩ほどまで、刃の太さは握り拳2つ分もある大きな剣を持ち、今にもアレスに斬りかかって来そうな雰囲気を出すそのエニグマは、魚特有のギョロ目で睨んでいた
警戒しつつもそんな事を気にもせず、強く啖呵を切るアレス
「そんな剣を持っているだけで、俺を倒せると思ってるのか!? 一匹だけなら大したことないぜ!」
直後、バタンッ!とエニグマの背後の扉が勢い良く開き、中から全く同じエニグマが3匹出てきた
4匹共同じ剣を持ち、4匹共同じギョロ目でアレスを見ると、ゆっくりと歩いてアレスに近付く
「…って言うと…大体こうなるって、シードがよく言ってたっけ… フラグ…?って言ってたかな…?」
直後、4匹のエニグマが走り出してアレスに襲い掛かった
「来な! 何匹来ようが相手してやるぜ!」
アレスは刀を抜き、斜め左後方へと切っ先を向け、向かってくるエニグマへと走り出した
このままだと正面衝突するが、それは起こらなかった
「『疾踪剣』!!」
フッ…とアレスの姿が消えたかと思ったら、エニグマ達の背後へとアレスが現れた
瞬間移動でもしたのではないかと思うほど速く、4匹のエニグマ達の間を通り抜けて行ったのだ
いや、通り抜けて行ったのでは無く、斬り抜けて行った
4匹の内、一番後ろに居たエニグマの胴体が真っ二つになり、断面から何やら血液の様なものが飛び散る
通常エニグマは、肉体が100%ソウルで出来ており、肉体構造が人と全く異なる
故に血液がそもそも存在しない
体液も無いために、傷口からは煙状のソウルが立ち上る
エニグマが絶命するとその肉体は徐々に気化するため、この事からも血液が無い事を容易に判断する事が出来る
にも関わらず、このエニグマは血液の様なものを飛び散らしている
普通なら異常と言える事だが、そんな事を全く気にせずに、アレスは振り返りもう一度刀を構える
気にしている暇が無いのか…はたまた、ただ単に気が付かなかったのか…
…おそらく後者である
「まだまだぁ!」
残る3匹のエニグマも、斬り抜けたアレスを振り返ってギョロ目で見据える
大きな剣を振りかぶり、今にも斬りかかって来そうなエニグマに対し、アレスは腕と刀にソウルを纏って振りかぶる
「『斬翔剣』!!」
一気に振り下ろした刀から斬撃が飛び出す
やはり人と姿が似ている為か、高い知能も備えているらしく、アレスが放った斬撃を避けるでもなく防ぐでもなく、3匹で剣を使い受け止めた
「…!?」
アレスが驚くのも無理はない
普通のエニグマなら横移動やしゃがんで避けたり、手に持つ武器や防具で防いだりするはずだが、攻撃を受けたらどうなるか瞬時に理解した上で、更に1匹だけで防げないということを感じ取り連携して剣で受け止めた事は、アレスにとっても初めてで困惑する
だが、そんなことを気にしている場合では無い…と言わんばかりに直ぐに次の攻撃体勢へと移る
「やるな…んじゃ、これならどう
「「アレス!!」」
2つの男女の声がアレスを呼ぶ
その声のした方向を見ると、シードとミーシャがはしごを登り終え甲板へと到着していた
「アレス! 大丈…うわっ何だアレ…?」
得体の知れない生物に、シードはアレスの心配をする前に注目してしまう
「シード! ミーシャ! こいつは敵だ!」
「でしょうね… 少なくても、味方には見えないわ…」
3匹のエニグマは、シード達の方へグルンと頭を回す
そして、その手に持つ大きな剣をちらつかせて走り出した
仲間の一人…いや、1匹を軽く葬りさったアレスより、人数が多くとも女がいるシード達を相手にした方が勝機がある…そう判断したのだろう
シードとミーシャもそれを感じ取ったのか、少し怒りを顕にした
「チッ…あいつらなめてんな…」
「…女だからってなめないでちょうだい… 私の…『海族』の強さってやつを見せつけてあげるわ…! シード、あなたは手を出さないで…」
シードはコクンと頷くと、腕を組んで様子を見守る事にした
ミーシャは腰に着けたガンホルダーから2丁の銃を取り出し、向かって来るエニグマに対して撃ち出した
「私の愛銃、『マーク11』と『カーズ52』を存分に喰らいなさい!」
右手から撃ち出されるドドドドドドドドドッッ!!と言う自動連射小銃と、左手で引き金を引きドンッドンッドンッ!!と言う単発小銃が撃ち放たれる音が周囲に響く
しかしエニグマも、それをただ単に喰らう訳では無い
大きな剣を盾の様に横にして構え、弾丸を防いでいる
完全には防ぎきれていないものの、攻撃をもろに喰らうよりかは遥かにダメージが減少してしまう
しかし、向かってくるエニグマの足を止めるには十分だった
「あら、意外とやるわね…! なら!」
ミーシャはピストルの発射を止め、腰に着けたガンホルダーとは別の、何やらマガジンと同じ様な大きさの『箱』みたいな物が2つ並んで付けられたホルダーへとピストルを近付けた
その箱みたいな物の1つに、ピストルの底のマガジンを出し入れする部分を宛行うと、カシャンッと音がして、ピストルからマガジンが抜き取られた
そして直ぐに、隣の箱みたいな物に同じくピストルの底を宛行うと、再びカシャンッと音がし、今度はマガジンがピストルに挿入された
(なるほどな… あれが出航前に言っていた『リロードホルダー』ってやつか? 瞬時にああしてマガジンの交換が出来て、ホルダーに入れている間に空マガジンにソウルを補充できるってわけか)
シードは自身の知らないその技術に対し、関心を寄せる
ミーシャはそのリロード作業を流れるような動きで行い、その間撃ち続けていたサブマシンガンを撃ち止め、ピストルの銃口をエニグマに向ける
「これならどう!? 『強撃弾丸』!!」
次の瞬間、通常よりも遥かに大きな弾丸が、ピストルからエニグマに向けて放たれた
本来撃つ事の出来る弾丸の6倍程の大きさの弾丸を、3匹のエニグマの内の1匹が剣で受け止めたとは言えまともに喰らってしまう
大きく吹き飛ばされて甲板へと叩き付けられる
残りの2匹のエニグマはそんな事気にもせずに、攻撃の手が緩んだ隙を逃さずに再びミーシャへと向かって行く
もちろんミーシャもそれに気付き、次の攻撃を開始する
「一気にたたみかけるわよ!」
今度はサブマシンガンの銃口を向け、引き金を引く
「『強撃連射』!!」
先程のピストルで撃った弾ほど大きくはないが、それでも通常サブマシンガンで放たれる弾よりは3倍程大きな弾丸が、連続で銃口から発射された
しかし、それらが当たる前に2匹のエニグマは左右に別れて弾丸を避ける
それほど、受け止めるのは危険だと感づかれたのだろう
事実、1発でも受けてしまえば他の弾を回避する事は難しかったはずだ
ミーシャは左右に別れたエニグマの内、左に避けた方に狙いを定めた
「1匹ずつ行くわよ…!」
すると突然、サブマシンガンを上空に向けて撃ち始めた
ドドドドドドッ!と撃ち終えた途端、狙いを定めた方のエニグマへと走り出した
獲物が自ら接近して来ている…そんなチャンスを見逃す訳がない
無論それは、このエニグマでも例外では無い
剣を振りかぶり、ミーシャ目掛けて振り下ろす
――が、ミーシャはそれを見切り、僅かに体をずらしただけのギリギリの回避で済ませる
そうして最小限の動きだけで避け、見事にエニグマの懐へと潜り込み、ピストルをその腹へと当てる
「『重衝弾丸』!!」
撃ち出されたのは『弾』では無く、もはや『衝撃』そのものと言っても過言では無かった
ドオォンッ!!と大きな音と共に、銃口から小さな爆発の様な衝撃が放出され、それをまともに喰らったエニグマは吹き飛ばされてしまった
『強撃弾丸』を受けた時の軽く2倍の距離を飛び、その勢いは幽霊船の甲板から海へと飛んでいってしまう程の威力だった
「あと1匹―――」
ミーシャが振り返った時には、残る1匹のエニグマは剣を振り上げ、あと3歩でミーシャを斬る事が出来る程の距離まで近付いていた
だが、ミーシャを斬る事は叶わなかった
その時、何処からともなく飛んで来た弾丸がエニグマを襲ったのだ
上から――横から――後ろから――
あらゆる方向から飛んで来た弾丸を撃ち込まれるエニグマ自身、何が起きたのか良く分からなかった
「『風選導連射』… 知性があっても、さすがに分からなかったようね… 弾丸の軌道を設定して撃ち出すこの技が、私は一番得意なのよ?」
少し自慢気にそう言うと、なんと武器を腰のガンホルダーへと納めた
「本当は銃を持ちながらでも出来るんだけど、こっちの方が『集中』出来るの… ちょうど良いから、あなた達に『魂術』を見せてあげるわ!」
ミーシャは両手を重ねて前に出し、目を閉じて呼吸を整える
体の周りを、薄いソウルが漂い始める
自身の体の中で、創り出すソウルの性質を決め、どの様な形状にして放出するか…これが『練魂』である
ミーシャは練魂を行える特殊な『細胞』が無いため、腕に身に付けている黒い革製の『練魂籠手』を使用して練魂を行う
そして5秒程目を閉じたのち、ゆっくりと目を開き軽く笑みを浮かべる
「『サンダーロブ』!!」
重ねた両手から、電撃が撃ち出される
放射状にでは無く一直線に電撃が迸り、エニグマへと直撃する
当たった瞬間エニグマの全身に電撃が流れ、バリバリバリッッ!と大きな音が鳴り、エニグマは苦痛の表情を浮かべる
そして電撃が治まると、全身の至る所を焦がして、ゆっくりと前向きに倒れる
アレスはその様子を見て感激する
初めて本格的な魂術を目の当たりにし、まるで子供がヒーローアニメを見てはしゃぐかの様なテンションになる
シードは魂術を習った際に見ているのか、少し驚いた顔はするもののそれほど大きな反応はしなかった
「ふぅ~… どう? 私も案外やるでしょ?」
ミーシャは腰に手を当てて、自分の実力を自慢する
「すごい! それが魂術か! 俺も使ってみてぇ!」
「けっこう練魂は難しいのよ? あんたも出来るか分からないわよ?」
アレスとミーシャがわいわい喋っている最中、シードは急に真剣な眼差しでバッとある方向を見る
「…お喋りは後の方がいいぞ」
シードはそう言うと、槍に手を伸ばす
アレスとミーシャはシードの向いている、先程3匹のエニグマが出てきたドアの方を見る
すると、魚人型のエニグマが数にして10匹以上ゾロゾロと出てきた
「んぉ!? めちゃくちゃ出てきた!」
「あれだけじゃ無かったのね…!」
3人はそれぞれ武器を手に取り、戦闘体勢をとる
「よし…やるか…!」
やがて3人VS魚人型エニグマの集団との戦闘が始まった
―――数分後―――
甲板に出てきたエニグマを掃討し、静けさが辺り一帯を包み込む
「ふぅ… ようやく終わったか」
シードは一息つく
「いい準備運動になったな!」
アレスは意気揚々と笑う
「あんた…まだそんなに元気なの? 私は少し疲れたわ…」
ミーシャはくたびれた様子で充魂薬を飲む
「船長! 船長! あいつらですよ! あの魚野郎をブッ倒したのは!」
突然聞こえた声に対して、3人はその声がした方向を振り向く
すると再びゾロゾロと、人らしき存在がドアから出てきた
「「「!?」」」
3人が驚くのも無理は無い
何故ならその人物達は、うっすら透けていたのだから
正に幽霊…と言った存在だが、足はある
それにドアを開けて甲板へと出てきたので、物体を透過する事は出来ないらしい
そんな見たことの無い生命体らしき人物に、驚かない方がおかしい
すぐさま3人は戦闘体勢をとるが、そんな3人をなだめる様にその人物達は両手を軽く上げて、戦意が無い事を伝える
「んまぁ、驚くのも無理はねぇか! 俺達も、自分達が何者か分からねぇからな…」
人だかりの奥からのっそり、頭に海賊の船長がかぶる様な船長帽を乗せた、小太りの身長高めの男が現れた
「武器をしまってくれやボウズ共… 俺達ゃ怪しいし悪い奴らだが…敵じゃねぇぞ?」
そう言っても、シードとミーシャは武装解除はせず、武器を構えたままだった
…が、アレスは素直に武器をしまう
「!? おいアレス!? 武器をしまうなよ!」
「敵じゃないなんて、信じられないわよ!?」
警戒を解かない2人の方を向き、アレスは断言する
「大丈夫大丈夫! このオジサンはウソを言ってないよ!」
そう言ってアレスは歩いてその人達の所へと向かう
「おおっ! ボウズ、話が分かるじゃねぇか! んじゃ、俺達の頼みを聞いてくれねぇか?」
「頼み? まかせてよ! なんたって、俺は『ヒーロー』になるんだからね!」
そうアレスは胸を張ると、突然男達は頭を下げる
男達の予期せぬ行動に、アレスも流石に驚く
そしてその船長帽をかぶる男は、震えた声で言い放つ
「頼む…! 俺達を…救ってくれ…!」




