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裏、そして疾走

「流石だな…アレス」

右腕を高く上げるアレスに、木の陰からシードが出てきて近づく

すると、アレスの体がフラッと揺れて後ろへ倒れる

「お…おい!」

その体を、シードは倒れる直前に両手で支える

支えながら良く見ると、アレスの頭の獣耳がソウルの獣耳に変わっていっているのがわかった

「ふぅ… さすがに疲れた…」

「あんだけ大量にソウルを使ったんだ…当然だろ。 センスも、維持できなくなってるしな」

獣耳だけでなく、目付きや牙等の狼らしさが無くなっていた

「『獣心化(ドライブビースト)』は…沢山ソウルを使うからね… よし…もう大丈夫、町に戻ろう」

「おいおい…もう少し休んだ方が

「お前…ただのガキじゃないな…」

突然、アレスでもシードでも無い声が聞こえた

その声に反応し、アレスはよろめきながらも素早く体を起こして、刀の柄に手をかける

シードも背中から槍を取り出す

声のした方向を見ると、崩壊した建物の瓦礫の上に、山賊のギノが立っていた

その後ろに、ゲノが崩れた建物からボアボスを引っ張り上げているのが見えた

「まだやるか? こっちも怪我してるが、お前らに負けるつもりはねぇぞ?」

シードは槍を見せびらかす様に、ギノに突きつける

ギノはふぅっ…と溜め息をつく

「俺達が勝てなかった親分を倒したお前達と、戦うつもりはねぇよ… それに、怪我はこっちもしてんだ…余計に戦う気なんかねぇよ」

するとゲノが、ガラガラと音をたてて、ボアボスを引っ張り出した

「お、親分も無事…じゃねぇか… まぁ、死んじゃいねぇなら大丈夫か」

そしてクルっと回りアレス達に背を向けると、そのままどこかに行こうとして歩き出した

「!? どこに行く!?」

シードはギノに向かって叫ぶ

その声に反応し、顔だけをアレス達に向ける

「こんな所じゃ親分を治療出来ねぇだろ? 近くにもう1つ、この建物ほど立派じゃねぇが、小屋がある。 そこでしばらく、大人しくしておくさ」

「っ! またお前達は町の人に迷惑をかけるつもりか!?」

アレスは若干ふらつきながらも、怒りの言葉をギノにぶつける

すると、ギノはゆっくりと口を開いた

「あぁ…そうだ… 俺達はそれが仕事…いや、『ビジネス』だからな… 今は無理でも、いつかまた始めるさ… じゃあな」

シードは槍にソウルを纏わせ、突き出そうとする

「くそっ! 待ちやが

「ああそうだ…」

ピタッと足を止め、シードの言葉を遮る様に声を出す

「俺達山賊をボコボコにした褒美に、少し良いことを教えてやる」

ギノはアレス達の方に体を向けて言葉を続ける

「俺達が何の意味もなく略奪行為をしてる訳じゃねぇ… ましてや、『生きる』だけだったらそこら辺で働いて金を稼げばいい… 俺達は、()()()()()()()()()()()のさ… 毎日自由に楽しく生活するのに、この『山賊』はうってつけだ…」

するとギノは、ポケットからコインを1枚取り出した

そしてそのコインを人差し指と親指でつまみ、表と裏を交互に見せつけた

「物事には必ず()()()がある… そして俺達はその()だ… 表があるから裏がある… 表と裏は繋がっている…『表裏一体』なんだ… このコインみたいにな…」

アレスは質問する

「…? どういう事だ?」

だが、ギノはその質問に答えを出さずに背を向ける

「俺が言えんのはこれだけだ…じゃあな」

そしてギノとゲノは、ボアボスの肩を担ぎ、どこかへと歩いて行った

その姿を、アレスはボーっと見ていた

「?? 結局どういう意味だったんだシード?」

「…」

「シード?」

「…さぁな。 それより、町に戻るぞ」

「えぇ?」

シードは何やら考え込んでいたが、町の方へと歩き出したため、アレスはそれについて聞くのを止めて追いかけた


町へ戻る道中も、シードは()()()()()()考えていた

アレスはそれが何かを何回か聞いたが、『何でもない』と言って流されてしまった

「…」

考え込むシードの表情は、不安と疑問が入り交じった様な感情を顕にしていた

アレスは難しい事を考えるのが苦手なため、シードの様子を気にしつつも特に追求したりはしなかった

そうこうしている内に、町の入口付近に到着する

もう日は傾き始めており、空は紅く染まり、夕暮れ時となっていた

「ようやく町に着いたぁ~… シード、早く宿屋で休もう…」

体力が人並み外れたアレスでも、さすがに体力の限界だった

アレス達の住んでいた村から、ここ『ハイトス』の町に歩いて行き、途中エニグマと戦い、山での山賊戦、更にはその親分のボアボスとの激戦…体力がいくらあっても足りない程だった

そんなアレスに、シードは手を差し出す

「? シード?」

良く見ると、差し出した手のひらの上に何か乗っている

「噛まずに飲んどけ… なるべく()()()()()()()()…」

シードはアレスの方を見ずに、真っ直ぐ町の方を見ながら喋る

その顔は苦い顔をし、声は静かで冷たかった

「??」

アレスはシードの渡した何かを2つ受け取った

それはどこかで見たことある、()()()()()()()だった

(これって…たしか『充魂薬(じゅうそうやく)』と『治癒魂薬(ちゆそうやく)』…だっけ?)

不味い事で有名なこの薬を、アレスはもちろん噛まずに飲む

飲んだ後、シードがずっと見ている方に顔を向けた

すると、町の中からゾロゾロと人が出てきた

良く見なくてもわかる…その青い服を一目見れば、誰でも『騎士』であるとわかる

その騎士の波の先頭に、このハイトスの町に常駐する騎士達の支団長、ニーズが歩いていた

やがて、騎士達がアレス達を取り囲む様に広がり、ニーズはアレスとシードの正面へと立ち塞がる

「やぁ少年達… ご苦労様だったな」

少し低い声でニーズは語りかける

「まさかあの()()()を壊滅させるとは…恐れいったよ」

ニーズはそう言うと、右手を差し出して握手を求める

「是非とも礼がしたい… 我々の騎士団支部に来てほしい… 暖かい寝床と豪華な食事を用意しよう…」

アレスは、どこか()()()()()笑みを浮かべるニーズを警戒するも、『寝床』と『食事』と言う言葉にその警戒心も薄れてしまった

「わかった! その場所に連れてって

「ちょっと待て」

その握手に応じようとするアレスを、シードが止める

「あんた…()()()()()()()()()んだ?」

「?」

真面目な顔をして問い掛けるシードと、何の事かわからない顔をするアレス

そして、とても静かではあるが、その目に『()()』を宿しているニーズ

「…何の事かね?」

「あんた今、『山賊達を壊滅させるとは…』と言ったが…どうして知っているんだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺達のような…()()()()()()()()()()()って、なんで知っているんだ?」

その場を沈黙が包む

更にシードが言葉を続ける

「俺達が山からボロボロになって帰って来ているこの状態を見たら、山賊に()()()()()()()()って考えるのが普通だ」

シードはスゥッと右腕を、背中の槍に添える

「それにあの場に居たって言い訳も理由にはならねぇ… 普通なら俺達を助けるし、逃げようとするアイツらを()()()()()()だからな」

そして槍をウェポンホルダーからバッと取り出し、ニーズに槍先を突き付ける

「そして最も決定的なのは、なぜ『()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「………フッ」

ニーズは小さく笑う

シードはその反応を見て、自分の言った事が正論であると悟った

その正論は、ある1つの事実を物語っていた

「どうして山賊をぶっ潰した事を知っているかなんて今さらどうでもいい… だが、それを知っているってことは…」

「まさか…」

いくらアレスでも、ようやく()()に気が付いた

「あぁ… こいつらと山賊は『()()』なんだよ… 繋がっているんだ… 表と裏… あいつが言ってた『表裏一体』ってのはこれの事だ…」

「でも…なんで…」

「さぁな… 山賊行為が『裏』で、こいつらの騎士としての仕事が『表』… そう考えれば全部納得でき

「逆だよ…」

突然、ニーズが声を出す

「逆なのだよ… 彼ら山賊が『表』… 我々が『裏』なのだよ… まさか、そこまで気が付くとは、末恐ろしい少年達だ…」

それは、シードの語る内容が全て事実であることを認める言葉だった

ニーズは右手で、腰にぶら下げた剣の柄を握る

「町の人々はこの事実を知らない… 君達2人を()()すれば…何も問題は無くなる」

アレスは、混乱した様子でニーズに問い掛ける

「なんで…なんで騎士が、山賊と仲間なんだ!? あんた達は『正義の味方』だろ!?」

ニーズは再びフッと笑う

「『正義』か… 君はまだ幼いから知らぬのかもしれないが…正しさだけでは、『生き』る事は出来ても『楽』には『生き』られないのだよ…」

「『楽』に…?」

ゆっくりと、確実に、鞘から剣を抜いていく

「なるほど…だから『ビジネス』ってか…」

ボソッとシードが呟く

「シード…?」

「山賊達が()()()奪っているって所が気になっていた… 山賊には無用の物だからな… ってことは、それを手に入れて()()()()必要がある… それが、コイツらって事か…」

シャキィンッと鞘から剣が抜かれる音が響くと、ニーズは声高らかに喋る

「そうだとも! 商人や町人から、()()()()()()()()金や宝石を我々が独自のルートで売り捌き、管理する! その金は、我々に『幸福』を与えてくれた!」

その剣の切っ先をアレス達に向け、大きく叫ぶ

「この町に商人はおろか町人すらも寄り付かなくならぬよう、山賊共の出現範囲と頻度を調節しながら、繰り返すこと1()0()()! ボアボスが目覚めれば、再びこの『()()()()』は始められる! その為にはまず…君達を『始末』する! かかれぇぇっ!!」

ニーズがそう啖呵を切ると、回りにいた騎士達も一斉に剣を抜き、アレス達に突撃する

そんな状況でも、シードは冷静にアレスに尋ねる

「そろそろ、効いてきたか?」

「あぁ… 大丈夫、行けるよ」

アレスはコクンとうなずく

その直後、2人はニーズのいる前方へと走り出した

「突っ切るぞ!!」

シードは槍を前に構えたまま、身体中にソウルを纏う

アレスは刀は構えなかったが、同じくソウルを纏う

「!? 我々の包囲網を突き破るつもりか!?」

ニーズも動揺はしたが、直ぐに冷静さを保ち、剣にソウルを纏わせる

「フッ…その首、切り落としてやろうっ!」

ニーズが剣を振り回そうとした瞬間、2人の姿が見えなくなった

「なっ…!」

どこだ?と声を出す間もなく、ニーズの視界の下から上にかけて()()が通り過ぎた

その通り過ぎた物を目で追うと、アレスとシードが空を高く跳び、ニーズの頭上を飛び越えていた

そして町のゲートをくぐり抜け、そのまま町のメインストリートを走って行く

(っ!? 一瞬でしゃがみ、一瞬であんな高く跳んだのか!?)

「お…追え! 追うのだ! 絶対に逃がすな!!」

その掛け声で、アレス達を囲んでいた騎士全員が、ニーズと共にアレス達を追いかけて町の中へと入る

疾走するアレスとシードは、町を横断するように真っ直ぐ走って、出口を目指す

「このまま突っ走るぞ!」

「えぇ!? 荷物は!?」

「んなもん取りに行けるか! 走り続けるぞ!」

足を怪我しているはずのシードだが、痛みを気にしないのか…はたまた痛みを()()()()()()()のかわからないが、アレスと並走して出口のゲートを越え、町の外へと走り続けたまま出て行った

2人を追いかけてニーズ達も町の外へと出る

しばらくアレス達を追いかけていたが、アレス達とニーズ達の距離がハイトスの町の半分程の距離ぐらい離れていた

「し…支団長! 追いつけません! 見失います!」

騎士の1人がニーズに向けて叫ぶ

「さ…流石はあの山賊共を潰した奴等だ… た…体力も…ソウルも普通の少年とは…違うようだな…」

ニーズは息を切らしながら呟く

そしてとうとう大きな声で騎士達に叫ぶ

「つ…追跡を中断する! 全隊止まれっ!!」

アレス達がかなり遠くにしか見えなくなった頃、騎士達の走る音が止み、息を切らす声しか聞こえなくなった

「ハァッ…ハァッ…こ…これ以上の追跡は…ふ…不可能だっ…! ゼェッ… 一度…退却…ハァッ… ……フゥ… 一度退却して、態勢を立て直すぞ…」

ニーズは息を整えた後、騎士全員にそう告げる

「支部に戻るのですか!?」

「このまま追いかけませんか!?」

「追跡は必要ありません!」

「疲れているのですか?」

騎士からの質問が飛び交う

「えぇい! 静かにせんか! いいか!? 支部に戻れば馬がある! 『自動魂車(じどうそうしゃ)』程ではないが、奴等に追い付くには十分だ! 退却するぞ!」

ニーズは(きびす)を返し、町へと戻る

だが、そんなニーズに対し、騎士団員が詰め寄る

「御言葉ですが支団長! 支部に着いても、追跡は必要ありません! 彼らはこの先の港町に行ったと思われます!」

「そうだとも… 奴等がそのまま『中央大陸』に行き、()()()()()()()()()()されれば、更に状況は悪化する! それだけは避けなければならない!」

「尚更大丈夫です! 彼らはヒーローになるために旅に出たのですから、ここに戻ってくる事はしばらくありません!」

「その通りです! それに町の人達は、この事を知っています! ですから、その心配はありません!」

「そんな事言われなくてもわかっ……… ()()()()()()()()()

ニーズは、ただ自分が聞き間違えただけだったのか、もう一度尋ねる

「?」

「自分達が…何か?」

その発言をした2人の騎士団員は、まるで自分達が何も間違った事を言っていないかのように、首をかしげる

()()()()()()()()()()…? ()()()()()()()()()()…? なぜ奴等の目的を知っている? なぜ我々のビジネスを町人が知っている!?」

ニーズは様々な疑問にさいなまれた表情をし、その2人を睨む

そんなニーズとは打って変わって、2人は冷静な顔をしている

ニーズは指をビシッと2人に向けて突き出し、震えた声で叫ぶ

「お前達は…一体何者だ!? 名乗れ!」

すると2人は、お互いの顔を見合って微かに笑う

「名乗る程でもありませんが…」

「名乗らないのも失礼ですね…」

「いい加減()()も脱ぎてぇし…」

「この言葉遣いも疲れました()…」

そう言った直後、突然2人を炎が包んだ

ゴオォォォッッ……っと大きく燃え盛る炎に、騎士全員が驚いて後退りする

「なんだなんだ!?」

「いきなりどうした!?」

「熱っ…熱いっ!」

「近付くなよ! 火傷するぞ!」

騒ぎ立てる騎士団員達…

ニーズも、この現状に理解が追い付かない様子で驚く

「な…なんだ!? なぜ…燃えた!? 自殺…か!?」

もちろん、自殺ではない

なぜなら、その炎の中から()が聞こえたからだ

しかも、苦悶の声ではなく何やら笑い声に近いものだった

「おぉっ! 全然熱くねぇ! 相変わらずスゲェな!」

「ふふっ…♪ でも久しぶりだから、火傷したらごめんなさいね?」

「おいおい… 勘弁してくれよ…?」

その炎は僅か30秒程しか燃えていなかったが、2人が()()を解くのには十分な時間だった

その時間が経過した後、炎の中心から竜巻の様な風が吹き荒れ、炎が消え去った

するとそこには、見覚えのある()()()2()()、立っていた

男は、黒い服と黒いツンツン髪…

女は、頭頂部と腰に耳と尻尾を生やしている

恐らくあの炎に包まれている最中に脱いだのか、変装に使用したカツラと青い隊服が足元近くに落ちており、それが燃えていた

「誰だアレ?」

「女だったのか?」

「あの炎、あいつらが…?」

騎士団員は思い思いに疑問をぶつけるが、ニーズだけはその2人を知っていた…知っていたからこそ、恐れ(おのの)いていた

「…支団長? どうしたんですか?」

騎士団員はそんなニーズに対して、『何にそんなに恐れているのか?』と言わんばかりに質問する

「なぜ…」

「え?」

「なぜ… ()()()()()()()()()()()()

ニーズは自身の震えで、剣を落としてしまった

「お前達…この方達を知らないのか!? この方達は

「まあまあまあ…知らねぇやつらが多いんなら、自己紹介ぐらいさせてくれ…」

男はそう言うと、ニーズの方へと歩いて行った

それに続いて女も一緒に歩いて行く

ニーズはビクッと驚き、後退りする

そしてニーズが落とした剣を男が拾うと、声高らかに笑いながら男が叫ぶ

「はじめまして! 王国騎士団特殊殲滅隊()()、黒月トレスと申します! 王国騎士団『守備衛兵』隊ハイトス支部の皆様、どうぞ宜しくお願いします!」

「そしてその妻、()王国騎士団特殊殲滅隊隊員、アリス・レッドテイルです! 宜しくお願い致します!」

黒月トレスとアリス・レッドテイル…

2人はアレスの両親であり、かつて大いなる『脅威』から世界を救った『英雄』と呼ばれる父トレスと、そんな英雄の妻で獣人の母アリス…

2人はいつの間にか、アレス達のいた村からこの町ハイトスへと既に居たのだ

声高らかに自己紹介した2人は笑っていたが、それを聞いた騎士団員は全員、ニーズと同じく『恐怖』と『驚き』で顔がひきつっていた

「せ…『殲滅隊』のあなた方が…なぜここに…!?」

「おいおい… お前さんが言ってたじゃねぇか? 『()()()()()()()()()()()()()』ってな」

「馬鹿な!? そんなこ…」

ニーズは急に、口を両手で塞ぐ

その様子はまるで…

「ん? なんだ急に? まるで『そんな事はしていないハズ』… とでも言いたそうじゃねぇか?」

物の見事に自分の考えが当てられたニーズは、口を塞ぐどころか、最早驚く様子も見せなくなった

そして、じぃっ…とトレス達を見据えると、その目に焦燥にも似た鋭い眼光が宿った

「…あなた方がなぜここに居るのかはもう聞きません… だが、あなた方がここに居ると都合が悪いのです… 消えて頂きましょう… 全隊! 構え!」

そう掛け声を言い放ちながら右手を上にあげ、動揺している騎士団員に指示を出す

騎士団員はそのニーズの掛け声に合わせ、剣を抜き一斉にトレス達に向けて構える

「おいおい()()()か…? 町に常駐する守備衛兵の『衛兵隊』と違って、戦闘専門な特殊殲滅隊の『殲滅隊』に、敵うと思ってんのか?」

余裕綽々のトレスに対して、ニーズは歯ぎしりをしながら冷や汗をかく

「あなた方の戦闘能力を侮っている訳でも、見くびっている訳でもありません…! ですが、ここで『始末』しなければ、我々の『ビジネス』は全て崩壊する! ()()()()()()()()()()のですよ! 全隊!」

ニーズはあげた右手をトレス達に向けて降り下ろして叫ぶ

「突撃ぃっ!!」

「うおおぉぉぉっ!!!」

騎士団員全員が、剣を持ってトレス達に襲いかかる

「ま、当然の反応だな… だが、後悔すんなよ? アリス!」

「えぇ… お願いね?」

トレスが呼び掛けると、その真後ろ辺りにまで移動するアリス

そしてそれを確認したトレスは、剣を片手でクルクルと振り回し、膝を曲げて体勢を低くして、両手で持ったそれを地面へと突き立てる

「『冥光剣(めいこうけん)塵壊(じんかい)』」

ソウルが両手から放たれ、剣の柄を通り地面へと突き刺さった刀身に流れる

その剣を中心に放射状にソウルが地面を伝い、ニーズを含めた騎士団員全員の足元を越えて流れていった

その一連の動作が一瞬で行われた直後、トレスとアリスを取り囲む様にソウルの風が吹き、ドオオオゥッッッ!!!っと、大きな轟音を響かせ爆発した

大きな球体状のソウルの爆発が起こり、その爆発に巻き込まれた騎士団員全員が、声をあげる暇もなく吹き飛ばされる

―――やがて、静寂が訪れた

「あぁ… やっぱり安もんの剣じゃダメだな… 根元から折れちまってら…」

「そうね… アレスにあげた刀ぐらいじゃないと、()()()()()()()()ならないわね…」

「そうだな… 剣自体にも負荷がかかっちまうから、剣も折れて威力も下がるんだよな~… ま、今はこれで十分か?」

トレスは、刀身と柄の境目がポッキリと折れてしまった剣の柄を、後ろへと投げ捨てて辺りを見渡す

トレスとアリスのいる足元の地面だけがそのままの状態で、その周囲の地面はその爆発に()()()()()()()様な円形の跡をつけ、軽く煙が上がっていた

更にその回りには吹き飛ばされた騎士団員が寝転んでおり、恐らく全員気絶していた

「うぅ…ぐぅぁ…」

ただ1人、ニーズだけが小さく呻いていた

それを確認したトレスとアリスは、爆発でえぐられた地面の上を歩き、ニーズの元へと歩いて行った

「やは…り… 敵うハズ…無かった… あなた…方に…は…」

ニーズは片手をトレスに上げながら、今にも消え入りそうな声で話しかける

トレスはニーズを見下ろしながら、笑いの混じった声で答える

「まぁしょうがねえな! お前らのやっていた『ビジネス』ってのは、騎士として『正しい行為』じゃねぇからな。 当然の結果だ。 んじゃ、俺達は()()()もやらねぇといけねぇから、そこで大人しく寝てな」

そう言うと、トレスは山の方をチラッと見た

「まさ…か… 山賊共を…」

トレスはニヤッと笑うと、アリスと一緒に歩いて行った

「あ、そうそう… あんたに1つ、礼を言っとかねぇとな」

不意にピタッと止まるトレス

クルリとニーズに顔を向け、意地悪い顔でお礼を言う

宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それだけ言うとまた正面を向き、トレスとアリスは山へ向かって歩いて行った

(宿屋に居た…()()2()()()()()が…あの方達だったのか…! 宿屋では知らないフリではなく…本当に知らなかったのか…! いや待て… つまり…あの少年達がこの町に来る前に…()()()()()()()()()()()()()()()()…ということか…? やはり…敵わない………)

やがてニーズは、意識を失った


「あの山に向かうのかしら?」

アリスがトレスに質問する

「あぁ… とりあえず、あそこにいる山賊をまず潰しに行くぞ。 あそこから来た『ラレッタ』とか言う山賊からこの町の事を全部聞いたからな。 ちょっと強引にだが…」

「騎士に変装していて良かったわね…」

「なにせ向こうから近付いて来たからな」

「そういえば武器はどうするの?」

「ヤツらから奪うとするか…」

「その後は?」

「町に戻って、『やるべき事』をやるとするか」

「ふふっ… 町の人達に事情の説明と…」

「あぁ… ()()()もやらねぇとな?」

「…アレスとシード君… このまま、走り続けてくれるかしら?」

「もちろん走り続けるさ… なんたって『英雄(ヒーロー)』を目指してるんだからな」

「そうね… ()()の息子だものね?」

「シード君が大変かもしれねぇが… まあなんとかなるか…」

「走り続けてねアレス… きっと大丈夫…」

「足を止めんなよ… ただ前に、進めば大丈夫だ…」

2人はどこか懐かしげな目をし、アレス達の無事を心から願って、山の方へと歩き続けた



「止まんなよ! アレス!」

呼吸を乱し走りながら、シードは叫ぶ

「ま…まだ追ってきてんのか!?」

同じく呼吸を乱し走るアレス

日もどっぷりと暮れた頃、港町へ行くために森の中を突っ走る2人

「わかんねぇ! だが戦うなよ!? 体力もソウルも限界に近い俺達が、今戦っても勝ち目は薄い!」

「わ…わかった! 走る…今はただ走り続ける…」

2人は森の中を疾走しながら、ただ走ること…走り続けることだけを考えていた

(ただ前を向いて…ひたすら真っ直ぐに…この道を…俺の進むと決めたこの道を…走り続けるんだ!)

少年達はひたすら真っ直ぐ、道なき道を走り続けて行った


サークルワールド HERO ~一期一会編~ ―第ニ章 完―

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