才能≪センス≫
アレスは飛び掛かって刀を振り上げる
それを、サーカスのテントの様な建物から出てきた山賊達の親分…ボアボス・ブルブに向けて一気に振り下ろす
が、結果的にアレスは吹き飛ばされる
それは、ボアボスが放った2枚目のコインを喰らったからだ
シードと同じく、コインは常人が下手投げでは決して出せない速度で、アレスに飛んで来る
飛び掛かったアレスはコインをまともに喰らい、空中へと舞い上がる
やがて失速し、地面に打ち付けられる
「ぐぅっ……!」
アレスは痛みに悶える
それを見て、ボアボスは低い声で高らかに笑う
「グッフッフ… どうだ…? お前達を屈服させるのに…たった1枚のコインだけで十分だ… だが…殺すなら…これでやらなければな…」
ボアボスは右手で持った斧を見せびらかす様に、高く上げる
その斧に、ソウルを纏うのが見えた
そして、大きく振りかぶり、アレスに向けて一気に振り下ろす
その瞬間、刃先から大きな斬撃が放出される
「!!」
アレスは、痛みをこらえながら急いで立ち上がり、右へと飛び退く
「っぁあ…!」
斬撃を避けれたアレスは、地面に衝突した斬撃跡を見てゾッとする
アレス自身がスッポリ入ってしまうぐらいの大きなえぐられた地面が、そこにはあった
(なんて威力だ…!)
「それは…驚く事でもない…だろ?」
ボアボスは、小さい声で語りかける
アレスは次の攻撃に備え、刀を強く握ってボアボスを見る
すると、ボアボスは何やらしゃがんで、そこら辺に落ちている小さな小石を拾っていた
2~3個の小石をじゃらじゃらと左手で持って動かしていると、グイッと腕を大きく横に振り上げた
「こっちの方が…驚くだろ?」
ブゥンッと腕を振り抜くと、先程持っていた小石が、物凄いスピードでアレス目掛けて飛んで行った
「っ…!?」
咄嗟に後方へと回避する
だが、回避するよりも速く、小石が当たる
たかが小石とは言え、その速度が異常である為に、威力がまるでおもいっきり右ストレートで殴られた様な衝撃がアレスを襲う
「ぅうあっ!」
アレスは呼吸すら困難になる
「グッフッフ… 痛そうだな…」
「アレス!! テメェ…」
シードは走りながら、槍にソウルを纏わせる
距離がまだ離れている状態であるが、ボアボスに向けておもいっきり槍を突き出す
「『刺砲』!!」
槍先から細いソウルの斬撃が放出される
矢尻そのものが飛んで行った様な感じで、それがボアボスへと向かっていく
「フン…」
ボアボスが鼻で笑うと、斧にソウルを纏わせ再び振り下ろす
放出された斬撃は、シードの放った斬撃を軽々と消し飛ばし、そのままシードへと一直線に向かっていく
「クソッ! 火力が違ぇっ!」
防ぎきれないと直感したシードは、横っ飛びでそれを回避する
回避した方向には、倒れたアレスがいた
シードは直ぐに駆け寄る
「アレス! おい! 大丈夫か!?」
「うぐぅぅ… 痛ぇ…」
小石が当たった場所をさすりながらゆっくりと立ち上がる
「まだ大丈夫そうだな…」
シードは安堵の表情を浮かべる
「んん…? なかなか丈夫だな… ソイツはたった一発で気絶したんだがな…」
先程建物から飛び出して来た山賊にクイッと顔を向けて、吐き捨てる様に言う
「お前…! 自分の部下だろ…!」
アレスは静かに怒りを見せる
「あぁそうだ… だが、お前達をここへ連れて来て…俺の右腕と左腕をヤり…結果、こうして俺に迷惑をかけている… 当然の始末だ…」
「迷惑…だと…?」
シードもまた、怒りを顕にする
「そうだ… わざわざ、俺が直接お前達を殺す羽目になっちまった… 面倒だ… たかがガキ2人を殺すだけで… 迷惑…だろ?」
ボアボスは大きな溜め息をつく
「何が迷惑だ… お前が…お前達が…町の人達に迷惑を掛けているんだろ! だから…俺達が! 俺達がお前らを始末してやる!!」
アレスは怒りと共に、ソウルを今まで以上に放出して攻撃体勢をとる
シードも同じく、ソウルを身体中に纏って臨戦態勢に入る
「グッフッフ… 始末するには…これぐらい速くやらないとな…」
ボアボスは、腰から何かを取り出した
シードはそれを見て、これから何をされるか瞬時に理解した
(ナイフ…!?)
小さなナイフを3本、ボアボスは取り出した
先程の小石と同様、腕を大きく横に振り上げる
「やべぇ…!」
アレスは頭と心臓を、ソウルをより多く纏わした刀を盾にして防ごうとする
シードは逆に、槍を両手でしっかりと握り、全神経をその飛んで来るであろうナイフに向けていた
『防ぐ』よりも『見極める』
つまり、避けようとしているのだ
何故ここまで物体を速く投げられるのか?
ナイフは真っ直ぐに飛んで来るのだろうか?
それさえ見極めれば、再び攻撃されても避けられることが可能である
そしてシードの中で、疑問が確信へと変わるからである
(見ろ…! 集中しろ…! ヤツの攻撃を…必ず避け
ドスッ
シードのそんな決意もむなしく、いつの間にか、気が付いたら、もうナイフがシードの足へ刺さっていた
「ぐぁぅっっ!!」
3本のナイフの内、2本は地面に、1本がシードの右足へと突き刺さる
小さくうめき声をあげるシード
膝をつき、痛みに悶えながらも、冷静に現状を整理する
「シード! あいつ…いつの間に…!」
「落ち着けアレス…当然だ… 恐らく、アレがあいつの才能だ…」
「さ…才能… それって…」
アレスは驚きながらも、少し納得したようだった
シードの『才能』と言う言葉を聞き、ボアボスは小さく笑う
「グッフッフ… その通りだ… これが俺の『才能』だ…」
アレスは盾にした刀を構え直し、シードと共に真剣な面持ちでボアボスを睨む
「シード… あいつの才能って?」
「断定は出来ねぇが…恐らく『手にした物体を高速で投げれる』… そんな所だろう…」
「そんな才能が…?」
シードはその才能自体がそうであるか疑問だったが、それが才能であることは確信していた
「気を付けろ… あいつが何かを投げたら当たっちまう… そうなる前に、高速で動いて的を絞らせないようにしろ…!」
「わかった…!」
アレスはシードからなるべく離れ、どんな動きをしても反応出来る様に、ソウルを纏いながらボアボスを凝視する
「…なかなか頭が回るようだな… だが、少し違うな… 『物を速く投げられる』訳じゃ無い…『自分の行動に勢いを付ける』… それが俺の才能…『猪突猛進』さ…」
ボアボスは、まるで自慢話をするかの様に更に語り続けた
「俺は、こう見えても『タックル』だけは自信があってな… 故郷の猪族の中じゃ負け知らずだった… それが俺の『才能』だと、その時は思っていた…俺のツレとケンカして、自分の本当の『才能』に気づくまでな… ケンカになってソイツを殴った時、ただ普通に力を込めて殴っただけなのに…それなのに『勢い良く』殴っちまって、ソイツが『勢い良く』吹っ飛んでいった… 俺はその時気づいたんだよ… 『勢い』のあるタックルが俺の才能じゃ無い… タックルの『勢い』そのものが才能なんだとな…」
ボアボスは悪巧みをする時の様な怪しい笑顔を見せ、高らかに語り続けた
「それから俺は! その『勢い』に身を任せた! するとどうだ!? 強奪、略奪を繰り返して遊び放題の生活! 従順な手下を持ち! 山賊の親分という地位を手に入れ! それをビジネスとして活かす事が出来た! これが…これが俺の才能だ!!」
…そう語り終わると、ボアボスの雰囲気が一変する
そしてその手に持つ斧に、多くのソウルが纏わさせる
「この…俺の『勢い』を…お前達の様なガキに止められる訳にはいかない… さっさと死んでもらうぞ…」
先程、アレスやシードに向けて放った斬撃を、再び放とうとするボアボス
そんなボアボスを見て、アレスは笑っている
「「!?」」
これには足に受けたナイフの傷に耐えるシードも、2人を殺そうとして斧を振り上げたボアボスも、驚きの表情を見せる
「お…おいおい、アレス…」
「ガキ…何笑ってんだ?」
アレスは刀を鞘へとしまう
その行為が、更に2人を驚かさせる
ボアボスはこの後、手にした斧から放出される地面をえぐるほどの斬撃を、『勢い良く』アレス達に向けて飛ばして来るに違いない
ほぼ即死と言っても過言では無い
それが今にも起こるであろうこの状況で、笑うことが…ましてや、武器をしまう事などやれるハズがない
驚く2人をよそに、アレスは静かに喋り出す
「お前の才能は『勢いを付ける』…だったな? それを止めれば、俺達の勝ち…だろ? 悪ぃけど…俺にも『勢い』ってやつがあるぜ…! お前をブッ倒す…『獣の勢い』ってやつがな!!」
「フンッ! 町のやつらに頼まれたのか知らんが、そんな『勢い』で俺が倒せると思っているのか!?」
「誰かに頼まれてお前を倒す訳じゃない! 俺は俺の『意志』で! お前を倒すって決めたんだ!!」
するとアレスは、右手を心臓へとあてがった
「その『意志』を形にするために…その『意志』を『力』として現せるように! 俺は強くなったんだ!」
アレスの身体中にソウルが巡り、心なしか目付きや体格、雰囲気も変わっていく気がする
そんなあからさまな力の増幅を、ボアボスが黙って見ているハズがもちろん無かった
右手に持つ斧を素早く振り上げ、ソウルを纏ったその斧をアレス目掛けて振り下ろす
斧から放出された斬撃が、瞬きをするよりも速く地面へと当たり、えぐりとった様な大きな跡をつける
『地面に当たった』…と言うことは、アレスには当たらなかったと言うことである
では、そのアレスは何処へと行ったのか?
シードはアレスが消えた瞬間も、斬撃が地面に当たった瞬間も見えなかった
それほどまでに速かったのだ
だがそれでも、アレスが何処に行ったのか…それは見ることが出来た
そこには、ボアボスの大きく出た腹に、強烈なるボディーブローを当てる、獣耳を頭頂部に生やしたアレスが居た
「グブォオォォォッッッ!!?」
大きな叫び声をボアボスはあげる
その声が、アレスの与えた衝撃の強さを物語っていた
そしてそのまま、ボアボスは建物の中へと吹っ飛んでいく
建物の中からガラガシャーンッと何か色々と壊れる音が響いてくる
シードは唖然として、その状況を遠目から見ていた
(あいつ…いつの間にあんな所へ…?)
そしてアレスは、この才能について思い出していた―――
それはアレスの父、トレスと戦いの修行をしている最中の会話だった
「いいかアレス? お前にそろそろ『才能』について教える必要がある」
「なんで?」
「今日からセンスの修行を行っていくからだ。 センスの事を知らずにセンスの修行なんて出来ねぇだろ?」
「つまり…勉強?」
「まあそうなるな」
「いやだ! 俺は速く修行したい!」
「うるせぇぞ。 これも修行だ」
「勉強はキライだ…」
「んじゃあ1回で覚えろ。 いいか? 俺達人や動物、いわゆる生命体ってやつには『魂』が宿る。 それが細胞に宿ると生命エネルギー…つまり、『ソウル』が放出される」
「…? 俺達の『体』に魂が宿ってるなら、『ソウル』はずっと出っぱなし…って事になるの!?」
「いいや…ちょっと違うな… 正確に言えば、体の『核』となる場所…つまり、心臓に魂は宿っている」
「心臓に…?」
「そうだ。 心臓は、魂の『器』なんだ。 その『器』から、魂を細胞へと宿させる。 細胞は魂を元にエネルギーを生産…つまりソウルを作り出して、俺達の『意思』でそれを操作する… これが魂とソウルと細胞の関係性だ。 これで次のステップ…『センス』の話に入れる」
「センス… 確か、人それぞれが持つ特技や優れた個性…獣人なら、その種族特有の能力とかでも発現するっていう才能… それが『才能』だっけ?」
「あぁ…良く覚えてるじゃねぇか! だが、それも少し違う… 特技や個性、能力で発現する才能がセンスじゃねぇ… 『生物が持つ才能が進化したもの』…それが『才能』なんだ」
「???」
「例えば、『足が速い』やつの才能はそのまま『足が速い』だが、その『センス』は『脚力強化』や『体に受ける風の抵抗を無くす』なんてものが考えられる。 他にも、『ケンカが強い』やつの才能は『ケンカが強い』だが、センスとなると『筋力強化』や『反射神経超速化』、『殴った物を吹っ飛ばす』とか色々派生してどれかが発現するだろうな。 センスはそうやって、いろんな角度から考えられる…が、結局はそいつが持つ才能から派生してセンスが生まれるって事は覚えとけ」
「………うん」
「わかってねぇだろ… ただ、強化とかばっかりじゃないぞ? 例えば獣人の狼族なら、足が速いって才能だが、そのセンスは『風を纏わせ高速移動できる』、猪族なら突進の才能を持つが、そのセンスは『勢いを追加する』とか『肉体の硬質化』とかあるな」
「………うん」
「…まとめよう… 生物の『心臓』には『魂』が宿る。 『魂』が『細胞』に宿ると『ソウル』を放出する。 ここまではいいか?」
「大丈夫」
「人間や獣人の持つ特技や個性を総称した『才能』… それが進化して特殊能力として具現化したものが『センス』だ。 いいな?」
「大丈夫」
「それならここで疑問が生まれるな?」
「?」
「なら、そのセンスはどうやって発現する?」
「え?」
「才能に魂が宿せる訳が無いだろ? なら、センスはどうやって生まれると思う?」
「………」
「答えは…ここだ」
「…頭?」
「頭の中…つまり、『脳』だ。 『脳』に『魂』が宿ると、才能が進化して『センス』が発現する。 と言っても、一瞬でそうなる訳じゃねぇ… 脳が魂で刺激されて、偶発的に才能の本質が引き出される… それがセンスとなって現れるんだ」
「それが…『才能』…」
「お前にも、そのセンスは絶対存在する。 なんたって俺の息子だからな! お前は…あの時のあの力… 俺は、あれがお前のセンスだと思っている」
「それって…『獣人の力』…?」
「ああ… 人間は獣人の力を持つことができない… だか、お前はそれが使えた。 それは、才能でありセンスであると、俺は信じている」
「俺の…『才能』…」
「『獣人の魂を持つ人間』… 使いこなせるようになれば、お前は誰にも負けない…誰にも真似できない…唯一無二の『英雄』になれる事が出来るはずだぜ?」
「…」
「そうだ…そのセンスの名前も決めとくか?」
「…」
「まあ…別に名前なんていらねぇんだが、必殺技と同じで雰囲気が大事だからな。 自分の才能に名前を付けても悪くねぇだろ」
「…父さん… 俺、もう決めてるんだ… あの時に、この力を使って守りたいものを守るって… この力の名前も、決めてるんだ…」
「…そうか… なら話は早ぇ。 勉強は終わりだ。 早速、力を使いこなせるように修行を始めるぞ! …ちなみになんだか、そのセンスの名前は何だ? ちょっと気になってな…」
「この力… このセンスの名は―――」
頭頂部に生えた獣耳を揺らし、短いが鋭利な爪を両手に伸ばし、目付きが狼の様に鋭くなったアレスは、力強く叫ぶ
「俺はこの力で! お前を倒す! シードも殺させはしない! 守ってみせる!」
アレスは狼のように四つん這いになり、口の中に生えた牙を見せつけながら、唸るように声を荒らげる
「これ俺の才能…『獣心化』!!!」




