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オカルト系を含むもの

妖怪・・・観察する

作者: 無機名

 会社帰り、オイラは会社の同僚・友人と共に小料理屋で料理を摘みながら飲んでいやす。しかし、最近どうも彼はグチっぽくていけねぇ。


「……はぁ、なんでオレは結婚したんだろうな」

「いやいやいや、今でも幸せそうに見えるよ……なんでそんなに……」


 もう、何度、聞いたことでしょうかね。出された料理を肴に、一杯目の酒を飲んで出た言葉がこれなんて……。

 こんなことを言ってても、この友人。仕事はとても出来て、会社では上役さま達の憶えめでたく、順風満帆。それに気立て良く美人で出来た嫁さんをもらって、子供も出来て――。

 比べてオイラは、給金もらうのには恥ずかしくないだろう最低限の利益をせっせと出しながら、新人を教えて、あっという間に彼らに追い抜かれるのが常。こんなオイラにとっちゃ、友人は輝かしいにも、眩しすぎるってもんだ。


 なのに、ここ半年、似たようなグチを聞かされてばかり。

 同期ってことでこれまで付き合ってきやしたが、これまでは別の話題に変えていやしたが、我慢の限界ってやつでさ。


「そろそろ、いい加減にしてほしいよ。最近は飲みに付き合えば、いつもいつも、結婚を悔やんで見せて……あんなに幸せそうだったじゃないか」

「――っ」

「……話せよ」


 これまで、飄々と付き合ってたオイラがこんなことを言ったからかね。友人は目を丸くして、驚いた顔をうかべやした。

 ここで終わらしちゃ、オイラにとっても、友人にとっても、いけねえ。

 ワケを聞いてやろうと、対面に座る友人に向けて身を乗り出して話を促したんでさ。


「……わかってるんだよ。けどよ、うちのは変わっちまった。それが……な」

「変わった……って?いやいや、変わった様子なんて……」


 うん?数年前、オイラが最後に彼の奥さんに会った時、出産祝いを持って遊びに行った時は……。

 その時を思い出して、首をかしげていると、友人は酒をグビグビと飲みながら、冷たく醒めたような笑みを浮かべて言いやした。


「変わっちまったんだよ。ママ友……か?それと張り合う様になってな。

 ああ、金を子供に使うってならわかるさ。けどよ、豪華な昼メシを食いに行くだの、服だ、バッグだ、装飾品がほしいだの……」

「頼られているんだろ?けど、浪費はマズイね。一言、言ってやればいいじゃないか」

「そうだな、オレの稼ぎを当てにしてるのがわかる。ああ、でもなぁ……金の使いみちは子供の為だって決めたのによ……なんだってあんな無駄なことに使うかなぁ。言ってもお互い譲らずの主張ばかりでケンカだよ」

「あー、すまん。辛いことを聞いたな……」

「ん……いいさ。オレがこれまでさんざん愚痴ってたのを黙って聞いてくれてたし、やっぱりこうして言えるのはスッキリする。ともかくだ、アイツは変わっちまったんだ」

「……それで、なにか考えはあるのか?」

「まぁ、子供が大きくなるまでは……な。ガマンするさ。……っと」


 やり直しか、道を修正するのか、あるいは分かれるのか……決める時はスッパリと決めてしまう、仕事のときの辣腕を思い浮かべながら問うたら、なんとも歯切れの悪い答えが……。

 そして、携帯の連絡を見て、なんだか嬉しそうに笑って言いやした。


「最近、彼女ができたんだよ。ナイショな……アイツもああだし、お互い様ってこと」

「……」

「アイツに疑われたら、アリバイを頼むよ……な?ここは払っておくからさ。じゃーな」

「……ああ、それでも早く帰ってやれよ」

「ん、ああ、出来れば……な」

「いやいや、そんな……」

「……むしろ、さ。バレちまって離婚したほうが楽なのかね……?」


 それでも仲を取り持とうとするオイラの発言に対して友人は、寂しく、つまらなそうに言って、去っていきやした。

 本来のオイラの役割なら、くだらない茶々でも入れて、友人を不幸に持っていくんだろうけど……そんな気になれねえよ。


 ああ、それにしても、一人になって、残った肴をちまちま食いながら思うんでさ。

 人の心ってのは正しく、妖怪そのものではありませんかね?

 オイラは、チンケでもそれなりに生きた妖怪ですわ。けれど、そもそも大妖怪なんて呼ばれるのは、大概は人がものすごい情動を抱えて化けたモノであります。


 そうさな……さしずめ友人の奥さんは

『顔かたちうつくしけれども。いとおそろしきものにて、夜なゝゝ出て男の精血を吸、つゐにはとり殺すとなむ。』

 友人を……旦那をとり殺す。と、までは行ってないでしょうが、心は正に伝承どおり男を吸い尽くす類の怪生……飛縁魔ひのえんまにでもなっちまったんでしょう。


 友人もまた、てめえの社会的地位だの、収入だのステータスで自慢げになって、天狗になっちまった。……そして、寂しさに負けて浮気に走る。


 こんな人を眺めるのは、悲しいばかりさぁ。そして、楽しいばかりさぁ。

 給仕に追加の酒を頼んで、酒を飲む。

 当人にとっては悲劇でも、見る方からすりゃ喜劇。――酒の肴さね。


 それにしても、脅かすだけ、そこらに佇むだけ、見てるだけ……そんなオイラ達妖怪よりも、好き合った同士で、ちょっとしたきっかけで、嫌悪しちまう、嫌っちまう、憎んじまう。

 ずいぶんと人を見てきましたが、豹変……コレばかりは、恐ろしいってもんですよ。こんな人のほうが、よっぽどオイラ達・生来からの妖怪よりも、妖怪らしいじゃありませんか。

 

 ああ、オイラですかい?オイラは天邪鬼あまのじゃく……ただのひねくれ者でありやす。


ここまでお読みいただけたら幸いです。


妖怪"は"観察する。のか、妖怪"が"観察する。はては、妖怪"を"観察する。……のか。

わかったもんじゃないです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妖怪より、人間の方が、より妖怪っぽい。 なんとも皮肉な話ですよね。 [一言] 京極夏彦さんの小説【巷説百物語】を思い出させて頂きました。 こういう文章は、すごく好きなもので!!
2019/01/20 19:31 退会済み
管理
[一言] 短編ながらも、その中に人世のままならなさなどが明確に浮き彫りになっており、実に読ませる内容でした! 昔から言われてるけれど、本当に怖いのは……という奴ですね。
[良い点] 同士であります。わたくし天邪鬼。 でも、この作品が面白かったから、天邪鬼は封印。 色々考えさせられて、良かったです。 [一言] “が”なのか“は”なのか“を”なのか…… 何を選ぶかで…
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