出会い
四月二日。冬花は今日から通う学園の体育館で入学式に参加していた。
「(学園長の話……長いなぁ……)」
学園長の話が始まってから約十分。冬花は欠伸を我慢しながら話を聞き流していた。
更に十分後、ようやく話が終わり入学式を終えた新入生達は各自の教室に戻り、担任からの一言と自己紹介をして、その日は解散となった。
「(はぁ……やっと終わった……)」
冬花は机に項垂れながら周りを見渡した。
クラスメイト達は既にグループを作っていて、一人でいる人は冬花だけだった。
「(完全に出遅れた……まぁ、みんなこの街出身だからお互い知らない顔はいないよね……仕方ない仕方ない……とりあえず疲れたから帰ろう……)」
机の横に掛けていた鞄を持って立ち上がろうとした時、後から声をかけられた。
「冬花」
「?」
振り向くと、二人の女子が並んで立っていた。
「えっと……渚月と春奈だっけ。どうしたの?」
冬花の名前を呼んだ強気な見た目の鳴海渚月は隣にいた大人しい感じの少女、柳花春奈の背中を押した。
「春奈が言いたいことがあるってさ」
「何……?」
「えっと……その……冬花ちゃん……この後……予定空いてる……かな……?」
「何も無いけど……」
「じゃ、じゃあ……今から……カフェ……行かない……?」
「いいよ。ちょうど暇してたから」
「あ……ありがとう……じゃあ、行こっか……」
学園から少し離れたところにあるカフェに着いた冬花達は、各々飲みたいものを注文し終わってから雑談していた。
「へぇ、冬花って一人できたんだ」
「ええ。親が独り立ちしろってうるさくて」
「でも凄いよね……まだ十五歳なのに一人暮らしって……」
「そうかな……多分二人共やろうと思えばできるよ」
「いやー、あたしは無理かな。料理も出来ないし、始めたら惣菜だけで済ませちゃいそうだし」
「な、渚月ちゃん!ちゃんとお料理作れるようにならなきゃダメだよ!」
春奈って怒る時は怒るんだ、そう思った冬花はじっと春奈を見ていた。
「ど、どうしたの?冬花ちゃん……」
冬花の視線に気づいた春奈は見つめ返しながら聞いた。
「いや……二人共仲いいからさ……もしかして幼馴染?」
「そうだね。私と春奈って家近いからね。昔から遊んでるんだわ」
「なるほどねぇ……春奈、大変だね」
「ちょ、どういう事よぉ」
冬花と春奈は渚月をみて笑っていた。
渚月と春奈とカフェで別れてから、冬花は近くの八百屋や魚屋で夕食の食材を買い揃えて帰り道を歩いていた。道中にある桜の木のある公園の前を通り過ぎようとした時、木の下にあるベンチで座りながら寝ている学園の生徒を見つけた。冬化は気になってその生徒の近くに歩み寄った。顔を見ると、見覚えがあった。
「(この人……たしか、生徒会長の……)」
冬花は入学式で挨拶をしていた生徒会長の菊月明葉を思い出していた。
「(なんでここで寝てるんだろ……とりあえず、起こそうかな)」
「先輩、せんぱーい。起きてくださーい」
「ん……んー……?」
目を擦りながら目を覚ました明葉は目の前に立っていた冬花をぼーっと見ていた。
「大丈夫ですか……?」
「ええ……本を読んでたら……眠っちゃってたみたい……」
膝の上に落ちていた本を鞄の中に入れて立ち上がった明葉は、歩こうとした途端にくしゃみをした。
「だ、大丈夫ですか…………?」
「え、えぇ……少し寒気がしただけ……」
「いや、それ多分風邪ですよ。家ってどの辺ですか?そこまで送りますよ」
「ごめんなさい……助かるわ……」
「……そんなことってある……?」
冬花は明葉の家の前に着いて驚いていた。
そう、明葉の家は冬花の家の前にあったのだ。
「なんか……すごい偶然ね……」
「そ、そうですね……あはは………」
冬花はただ笑うしかなかった。
「では先輩、私はこれで」
冬花が自宅の方を向いて歩き始めたその時、後から明葉が冬花の腕を掴んで引き止めた。
「せ、先輩?」
「冬花ちゃんって、一人暮らしなのよね?」
「え、ええ。そうですけど」
「後で私の家に来てもらってもいいかしら」
「な、なんで……」
「送ってもらったお礼をしたいの」
「え、でも……風邪の方は」
「これくらい平気よ。だめ……かしら」
「わ、分かりました。とりあえず荷物置いてから行きます」
「ふふっ、ありがとう」
冬花は急いで家に帰り、荷物を置いてから身支度を整えて再度家を出ていった。