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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
プロローグ 東の森林
9/80

閑話1.堀田陽人は選ばれた。

いつもの3倍くらいの文章量がある。

分けようと思ったが、本当はまとめるつもりだったのが伸びただけなので、別に面倒だったわけではない。


追記:アイテムボックス→収納に変更

 

 改めまして、堀田陽人です。

 僕は、車で轢かれた人を介抱しようと、駆け寄った直後、突然光に包まれてしまいました。光が消えた後に見えたのは、真っ白い部屋と、一人の老人でした。

 老人が口を開く、


「お前は英雄に選ばれた」


 どういうことだろう? 英雄? 何の?


「お前はこの世界の英雄に選ばれた」


 どうして僕なんかが?


「英雄は死んだ、魔王が使ったこの世界の運命を破壊する魔法によって。本来であれば彼が魔王を倒し、世界は平穏へと戻るはずだった。このままでは、この地は永遠の混沌と戦乱に支配されてしまう。だから私は、以前の英雄と同じく気高い魂を持つものを呼び寄せた。それがお前だ」


 意味が分からない。そんなお伽噺のようなことがある筈がない。


「ここは、お前の住んでいた地球ではない」


 え?


「故に、お前の世界では起こりえないことが起きる」


 む、ではとりあえずそこは納得しましょう。

 それで、僕が英雄としてこの世界を救うことで、僕にとって何かいいことがあるんですか?


「ない。お前が名声を得るのみだ」


 そんなことならお断りさせてもらいます。僕を元の世界へ帰してください。


「それはできない。お前は選ばれたのだ」


 ひどいな。一方的に呼び出して無理やり役を押し付けるなんて。そもそも、ただの一般人である僕が魔王なんてのを倒せるはずがない。


「できる。気高き魂を持つお前なら」


 気高き魂って何なんだ。何がすごいんだ? 意味が分からない。


「お前には幾つかの力を与える。使い方は何もせずともわかる」


 どういうこっちゃ。何で使ったことのないものの使い方がわかるのか。


「頼んだぞ、最低限の装備は整えてやる」


 こっちは了承してないんだけどな――


 僕は既に、さっきとは別の場所にいた。辺りには青々とした小麦畑が広がっている。その畦道に一人で立っていた。服は学生服ではなく、とても地味なズボンと上着だけを着ていた。腰には短剣が一本と薬草が入った麻の小袋がある。

 これが神様の言っていた力の一つ「英雄の感覚」のようだ。薬草なんて見たことないし、小麦畑も正直何の畑かわからなかったはずだ。それなのに名前とそれに対する知識が分かる。

 また、この力にはもう一つの作用があるようだ。この次にどこへ行くべきかがわかり、その場所のちょっと知識が得られる。

 人に思考を乗っ取られているようだ。気持ちが悪い。

 ただ、他に行く当てもないし、次に行くべきところ以外の知識は得られないのだ。

 仕方がないのでその力に従い、一番近くの町、ララストルへ行くことにした。眼前にはすでにおよそ城壁が見えている。距離は2キロほどだからすぐに着くだろう。






 町に着くと門の前にチェーンメイルを着て、槍を持った衛兵がおり、検問をしているようだった。入場料は小金貨一枚。小袋から出すふりをして《収納》から取り出す。《収納》は16種類までなら、どんなものでも8個まで持ち歩くことができる他に財布機能があり、小金貨1億枚分=一億ルルドまではいるらしい。今は50枚ほど入っていた。小金貨は、一円玉ほどの大きさだが、重さ遥かに重い。よく分からない模様が刻まれている。


「身分証はあるか?」


 衛兵が訊いてくる。英雄の感覚のままにこたえる。


「ない。ここまでは旅人で通してきたが、ここは駆け出し冒険者にちょうどいい街と聞いたのでやってきた」


「お前もか。わかった。一応名を名乗ってから、入場料の金貨一枚を出せ」


「ハルトだ」


 そういって小金貨を1枚渡す。衛兵はぼったくりが失敗して舌打ちしている。


「一応身体検査をするが、その短剣以外に武器はないな?」


「ああ」


 そういって地面に短剣を置く。衛兵は魔法を詠唱しはじめた。


「光よ、まわりあいて、望まぬものをしらべ、みつけ、ひかれ。”検査”」


 この魔法は文字通りのもので、詠唱次第で対象の任意の持ち物をサーチできる。《収納》に効果は及ばない。

 この場合は、余計な武器や、毒物などを探しているのだろう。

 こんな風に身体検査できるなんて、便利な世界だなとハルトは思った。


「通っていいぞ」


 そう言われたので、短剣を拾って腰に差しなおし、冒険者組合所へと向かう。




 町の中央部にある領主の家の周りに組合所はあった。中はほかの冒険者は少なく、受付も一人の女性がいるのみだった。

 おそらく、お昼前の中途半端な時間だからだろう。受付のところへまっすぐ向かい、そこにいる女性に話しかける。


「冒険者登録してほしいのですが」


「登録料は金貨一枚です」


 受付の女性は、そばかすのある白い肌と茶髪を持つ20代後半くらいの女性だ。特に何も言わずに小金貨10枚を出す


「では少々お待ちください」


 そういって後ろから紙を一枚取ってきた。名前や出身地などと書いてある。英雄の感覚のおかげで文字は難なく読める。


「こちらに記入をお願いします」


 と言ってその紙と金属製のペンを手渡された。書類を適当に文字で埋める。書き終わった紙を返して「どうぞ」と言う。

 女性は書かれた内容を確認して、今度は木の札を渡してきて言った、


「ここにもう一度名前をお願いします」


 言われたとおりに名前を書き、札を返すと、女性は魔法を詠唱しだした。


「己が持つ真なる力をはなち、しめせ。”作動”」


 すると木の札は光だして薄くなっていく、最後に残ったのはハルトとこの世界の文字で書かれた金属製のプレートだった。

 ”作動”は魔道具や、魔方陣の力を使うための魔法だ。詠唱を省略できる数少ない魔法だが、一般人には荷が重いようだ。

 因みに、短縮詠唱なんてのもあるが、その場合、使うのは魔法語のみで、とても覚えずらい上にイメージしにくい。


「こちらが冒険者の身分証となっております。なくした場合の再発行は、基本的に金貨一枚かかりますが、いろいろと制約があります聞きますか?」


「いえ、必要ありません。ありがとうございます」


 注意事項などは英雄の感覚で分かっているので、特に何も聞かない。


「階級認定試験は受けますか?」


「お願いします」


 階級は10~1まである。5級までは、力があれば人格は問われない。最低限の強さがなければ、やっていけないということだろう。冒険者は何でも屋ではないから。


「ではこちらへ」


 そういう女性の後を付いて行く。するとテニスコート二面分くらいの大きさの広場に着いた。


「担当者をお呼びしますので少々お待ちください」


 床には大きな魔方陣が書いてある場所もある。

 暫く待っていると、がたいのいい褐色のおっさんが来た。


「試験を受けるハルトってのはお前だな。俺はここで試験監督とか魔物の解体とかを担当してる、グリルドってんだ。よろしくな」


「ハルトです。よろしくお願いします」


 グリルドはとても大きな盾を携えている。


「やり方は簡単だ。そこの魔法陣の上で俺に対して攻撃して来い。一発でも当てられたら5級だ。それ以外は、お前の健闘次第で決めてやる。制限時間は5分だ。魔法陣は中の人間の体に膜を張って、ちょっとやそっとじゃ傷を付けられないようにするっていう有り難いもんだから、気軽に殺しにかかってこい。準備ができたら魔方陣の中に入れ。それが開始の合図だ」


 そう言ってグリルドは、魔方陣に一度手をついて”作動”と唱え、魔方陣の中に入る。流石に、省略詠唱くらいは余裕なようだ。

 魔方陣は光を放ち始め、グリルドを一度だけ光で包み込んだ。

 ハルトは軽く手足をひねり屈伸した後、短剣を右手に構えて助走をつけて魔方陣に突っ込む。戦闘に関しても、英雄の感覚は働く。それに身をゆだねるだけで、攻撃、回避、防御ができるようだ。


 まずは正面から突っ込み、フェイントの短剣を振る。当然、グリルドは盾でそれを防ぐ。その盾を体重を乗せて蹴りつけたが、簡単に押し返される。そのまま盾でできた相手の死角に潜り込み、右側に回り込む。それにとてつもない速度でグリルドは反応し盾をこちらに向ける。

 そんな感じでフェイントと回り込みを繰り返すが、グリルドの反応が早く、攻撃が通りそうもない。そのまま、魔法の詠唱を始める。


「ハヤキヨリフキノル。”疾風走”」


 これが短縮詠唱だ。言ってる本人もあまり理解できていない。

 すると、徐々にハルトの動きが早くなる。それでも、ただひたすらにフェイントと回り込みを繰り返すだけのようだ。

 しかし、本来であれば、疾風走は風の力を借りて速度を上げる魔法だ。つまり、追い風を作る魔法ともいえる魔法であり、前後左右への動きの速さを上げるようなものではない。だから、このような動きを取るのには緻密な操作が必要となるのである。

 ハルトが目にも止まらぬ速さになったころ、ついに短剣がグリルドの脇腹に当たった。バリンと割れる音がしただけで、グリルドはまったくの無傷だった。


「いやー、強ええなハルト。まさか疾風走であんな変則的な動きができるとは。あんた天才だな」


 そういってガッハッハと笑うグリルド。最後のころは、体を動かしているはずのハルトも自分の動きが分からなかった。英雄の感覚は、ハルトの体が強く成れば、とんでもない化け物になりそうだ。だが、笑っているグリルドも持っているのが盾ではなく武器だったならば、攻撃をする間もなく負けていたのではだろうか。それほどの余裕がグリルドにはあった。


「ハルト。おめぇは文句なしの5級だ。身分証を出せ、俺が書いておいてやる」


 ごつい手を差し出してくるグリルドに、もらったばかりのピカピカな身分証を渡す。


「ん? なんだ新入りだったのか。そんでこの強さって、こりゃ将来有望だな」


 またガッハッハと笑うグリルド。そしていつの間にか魔法で「5級」の文字を書き足した身分証を返してきた。


「ありがとうございます」


「期待してるぜ、ハルト」


 右手を挙げて広場から出ていくグリルド。それと入れ替えに先ほどの受付の女性が少し興奮した様子で入ってくる。


「5級おめでとうございます。すごいじゃないですか、元2級のグリルドさんに攻撃を当てるなんて。私、ハルトさんのこと応援してますね」


 そう激励してくれたが、自分の実力ではないので少し複雑な気分のハルトだった。


 その日は、暫く広場を借りて訓練をしてから、近くの宿屋に泊まった。残金は、29ルルドだ。明日は、依頼を受けてみよう。そう決めて、眠りに就いた。



 朝は宿でパンとスープをいただいた。どちらも素朴な味で、あまり美味しくはなかった。早めに宿を出て登録所に行ったのだが、既に何人か掲示板を眺めている人がいる。後ろから覗き込んで、何かいい依頼はないかと見ていると、一つの依頼で、英雄の感覚が反応した。どうやら討伐依頼のようだ。後ろからスッと手を伸ばしてとり、受付に持って行った。受付は昨日の女性だった。


「これをお願いします」


「はい。あ、ハルトさん。依頼ですね。正体不明の魔物の調査・討伐ですか、相手の強さが分からないので十分注意して挑んでください。そもそも見つかるかわかりませんが」


「問題ありません」


「頼もしいわね。受理できましたよ。お気をつけて」


 そんな声を受けながら、町を出る前に武器屋に行くことにした。短剣ではいろいろと物足りないからだ。武器屋では細めの取り回しがしやすいロングソードを買い、一緒に売ってあった小さめの盾をついでに買った。残金は10ルルドだ。武器が意外と安くて助かった。



 英雄の感覚に従い、北の門から町を出て、西へと向かう。依頼書には東の畑に出たと書いてあったが、寝床がこちらなのだろう。魔物の詳細はよく分かっていないようだったが、おそらく猿の魔物だ。英雄の感覚は、その推理の過程における知識までは、与えてくれないようだ。

 ララストルの町がほとんど見えなくなるくらいまで歩くと、突然強い魔物の気配を感じた。魔物にあったことはないはずなのだが、当然、英雄の感覚の効果だ。

 気配は草原の中に不自然にある岩から感じる。なるほど、岩のような猿なんて、ぱっと見だと何だか分からないだろう。奇襲をかけるために魔法の詠唱を始める。それと同時にこちらに気づいた猿が、振り向いて一直線に走りこんでくる。


「”疾風走”」


 魔法を発動させると体が軽く感じはじめる。突っ込んできた猿を左に避けてやり過ごす。買ったばかりの剣を抜き、猿をとらえる。猿は勢いを殺さないように大きく旋回してまた突っ込んでくる。このまま避け続けるのもいいが、ここは魔法を使う。猿を足止め出来る魔法をだ。


「”岩石槍”」

 

 猿とハルトの間の地面が、鋭く隆起する。猿はよけようと体を捻るが、間に合わずに肩をぶつけて転倒した。一気にそこまで駆け寄って、目や腹の柔らかい部分を狙い連続で突きを放つ。そして、再び魔法を詠唱する。


「”水塊”」


 腹の中に直接大量の水を発生させると、すぐに距離を取る。猿の体は耐え切れずに、大きな音を立てて破裂した。辺りには、血と自分で出した水が飛び散った。この剣では切ることはできないだろうから仕方がない。

 猿のように本来であれば群れで活動する動物は、魔物になるとこうして独りで活動することが多い。だから、群れの襲来を気にする必要はないだろう。

 討伐の報告用に、首を引きちぎり、町へと戻ることにした。




「ハルトさん、早かったですね」


 今はまだ昼前だ。午前中で終わると思っていなかったから。ハルトも驚いていた。

 猿の首を袋から出して、言う


「こいつが、畑に出てきた魔物だろう」


「岩猿ですか、硬い装甲と機動力を持つ厄介な魔物ですが、その様子だと難なく倒せたようですね」


「はい」


「少し待ってください。……では、こちらが討伐報酬の金貨5枚です」


「ありがとうございます」


「引き続き、依頼を受けますか?」


「今日はもうやめておきます。このまま訓練でもしていきます」


「そうですか、広場を自由に使って行ってください」


「はい」


 その日も夕方まで訓練をしてから、昨日と同じ宿に泊まった。






 こうして、この街を拠点に活動していると、一か月ほど経った頃には、新入りの天才ハルトとして、なぜか有名になっていた。

 そんなある時、英雄の感覚が、東の町オストルへの道を示した。少し迷ったが、ハルトは行ってみることに決めた。それから、旅の準備を整えて、ララストルの町を出たのであった。


 町を出て二日が経った頃、東の森林の中で不思議なことが起きた。


 なぜか僕の好きなゲームのBGMが聞こえてくる。


 元の世界には帰れないと僕を召還した老人が言っていた。だけど、もしかしたら方法がないわけでは無いのかもしれない。僕は一縷の望みにかけて、その音源を探してみることにした。

 感覚強化の魔法を使い、探し始めてすぐに、その音はぱったりと止んでしまった。こちらを警戒したのかもしれない。でも、諦められない。そーっと辺りを見回すが、何も見つからない。ううん、どうしよう。ひとまず声をかけてみるか?


「おーい、だれかいるのか?」


 はやる気持ちが抑えられない。見つからなかったらと、不安がある筈なのに、心のわくわくが止まらない。そうやってしばらく辺りを探していると、


「おい、そこの人間。さっきから何をしておるのだ」


 少し高圧的ながらも、優しさを帯びた女性のような声がする。どこにいるのかは分からないが、誰か人がいる。僕はうれしくなった。そして尋ねてみた。


「どこにいるのですか? 私は人を探しています」


「人か、この辺りにはお主以外にはいないようだが」


 探査魔法でも使えるのかな? 結構、魔法が上手な人なのかな、って今、僕以外に人がいないって言った?


「そうですか。ということはあなたは人ではないのですね」


「ああ、わ、わし……我はこの森に住む精霊だ」


 なんでどもっているんだ? もしかして人間のふりして、追い返そうとしてたのかな? よく分からないな。それにしても、精霊って確か、この世界の守護者みたいなものじゃなかったかな。精霊様って言ったほうがいいかな?


「? 精霊様……ですか」


「うむ、人と話すのは初めてでな、少し緊張してしまったよ」


「ああ、なるほど。精霊様でも緊張したりするんですね」


 だから、突然どもったんだね。焦って、照れているようなその声は、さっきまでの落ち着いた声と違って、少し可愛らしく感じた。

 ここは、多少なりともリラックスしてもらうために、自己紹介しておこうかな。僕は声のするほうに軽く頭を下げて、


「僕は陽人と言います。東にあるオストルの町に向かうため、海沿いの街道を通っておりました。その折、なにやら音楽が聞こえてきたので、その主を探していたのです」


「ほう。先ほども言ったが、この辺りには誰もおらぬ。お主の聞き間違えか、もしくは其奴はとっくに何処かへ行ってしまったかのどちらかだろう」


 精霊様が言っているのだから間違いはないだろう。

 あの音楽が聞き間違いだとするならば、英雄の感覚に任せて活動していたとはいえ、僕もだいぶ疲れが溜まっているのかもな。


「そうですか。残念です。精霊様、教えてくださってありがとうございます」


 そう言ってお辞儀をする。


「大したことではない」


 姿は見ることができないので、そのまま立ち去る。

 話している間に気が付いたことがある。探し始めてから英雄の感覚が働いていない。僕個人の願望にまで答えてくれるわけではないんだね。つくづく身勝手な力だ。これなら、僕じゃなくてもよかったんじゃないかな。

 それでも、久しぶりに自分のしたいことをできたっていう満足感がある。会話も楽しめたし。結果オーライかな。



 街道に戻り、移動を開始する。しかし、英雄の感覚が、追跡してくる気配を感じている。初めは人がいないって聞いていたから、誤作動かなと思っていたけど、一人と言うか、一つ?それができる存在に思い当たる。

 もしかして、さようならと言ってなかったし、まだ何かあるのかな? 一応声をかけてみるか。


「あの、もしかしてついてきています? 精霊様」


「バレた?」


 あれ、ほんとは尾行してたのかな。そうでないとしても、いたずらっぽく喋ってるから、ちょっとした興味本位なのだろう。


「いえ、確証はなかったのですが、何となく見られているような気がして……」


 つい、英雄の感覚のことを隠してしまった。まあ、無暗に教えないほうがいいよね。


「侵入者の監視が我の任務であるからな」


 その言葉は、言い訳っぽく聞こえる。付いて来たかったのかな?


「そうなんですか。なら言って下さったらよかったのに」


「いう必要があるか?」


 人間と話すだけで緊張してたくらいだし、言い出しずらかったのかもね。ここは話を合わせておこう。


「それもそうですね」


 いつもと違って、自分で活動してたからか、少しお腹が空いてきてしまった。食べ物には限りがあるし、無駄にするわけにはいかないからなぁ。そういえば、


「精霊様は何か食べたりするのですか?」


 そんな風にいろんな質問をしてみた。そしたら、精霊様は世間知らずなことに気が付いた。勝手に博識だと思ってたから、すごく意外だ。

 森から出られないと言っていた精霊様はすごく寂しそうにしていた。だから、外のことを知っている限りで話すと言ったら、嬉しそうにいろんなことを聞いてきた。


 そうやって問答を繰り返しているうちに、辺りは暗くなり始めていた。

 どうせ人は来ないだろうが、一応道の横に避けて野宿をすることにした。テントを《収納》から出して設置していると、精霊様が、テントが壊されないかと心配してくれた。

 さも自分が作ったかのように、性能を自慢してみたのだが、一発で欠点を見破られてしまったようだ。においや魔法で探査すると、違和感のある場所を見つけられてしまうため、大抵は見張りを立てながら使うものだ。僕の場合は、英雄の感覚が察知してくれるので、欠点にはなりにくいけどね。


 テーブルとパンを取り出していると、精霊様が木の実を取ってきてくれると言った。食べ過ぎないように節約しているため、食べ物が増えるのはとてもありがたい。しかも、精霊様が持ってきてくれたのは、グミの実だったのだ。食べるのは小学生以来だろうか、親戚の家で食べたことがある。懐かしいな。甘酸っぱい味が印象的で、よく覚えていた。最近は甘いものを食べていなかったので、お礼を言って食べ始めると、いつの間にか無くなってしまっていた。


 精霊様に会ってからとても気分がいい。この出会いとおいしい食べ物に感謝して、いつもより気持ちを込めて「ごちそうさまでした」と言った。




 その夜は、いつもよりぐっすりと眠れた。そういえば、こちらの世界に来てから、あまり深く眠れていなかったと思う。

 起きた時を思い返してみると、少し眠りすぎて頭がぼーっとして、英雄の感覚も働いていなかった気がする。その代わり、精霊様に言われて水魔法を使い、顔を洗うと、いつも以上に疲れが取れているのを感じた。何かすっきりした気分だ。


 英雄の感覚が何か近づくのを感じてそちらを見ると、木の実が飛んできていた。精霊様が運んでいるのだろう。そういえば、持ってくるって言ってた気がする。テーブルを出すと、精霊様はそこにグミの実を置いてくれた。

 しっかりとお礼を言って、他の朝食も出し、グミの実を8個だけ残して全て食べた。「ごちそうさまでした」としっかり言って片付けていると、精霊様が丁寧な挨拶に疑問を持ったようだ。精霊様との出会いに感謝を込めている、と言うのは恥ずかしかったので、食糧が心もとないからだと言っておいた。嘘じゃないから問題ない。


 出発すると英雄の感覚で、精霊様が肩に乗ったのが分かった。小動物みたいで可愛いので乗せてってあげることにした。


 その後は何事もなく、無事に山の登り口に着くことが出来た。精霊様は森から出られないそうで、ここでお別れだ。


「ありがとうございました。精霊様のおかげで、かなり楽に来ることができましたよ。精霊様に合うまでは、時々野生の獣に襲われたので、もしかして結界でも張って下さったのですか?」


 そう聞いてみたが、偶然なんだそうだ。でも、こちらに気を使ってるのかもしれないし、無意識でやっていることなのかもしれない。

 気を付けてと言われたので、「はい」と返事をした。そして、普通にさようならとだけ言うつもりだったのだが、無意識にまた会いたいと言ってしまった。恥ずかしくなって急いで振り向き、その場を後にしたのだった。


主人公は女声(伏線かもしれない)



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