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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
ハーフエルフ達と日常
80/80

75.これからも、ずっと……


何かが手から零れ落ちた。


「んん」


 もう一度握ろうとして、うめき声をあげながら目を開ける。

 目に飛び込んできたのはいつもの自分の部屋。そして、部屋の中に入ってきたムルアの姿と出て行くローの薄緑色の髪が見えた。

 そこで、さっき手からすり抜けていったものがローの手だったと思い至り、手を何度か握ってみる。

 その手は小さいはずなのに、さっきはどうしてか大きいように感じた。


 以前にもローを大きく感じることはあった。それは単にローが精霊だからとか、契約でつながっているからだとか、そういうふうに最初は考えた。

 しかし、それともまた違うような気がしていた。



 開いた自分の右手を見つめながら、ローの気配が離れていくのを感じていると、お母さんが声をかけてきた。


「気分はどう? お昼持って来たけど、食べられそう?」



----------------



「もう少し寝てれば風邪も治るから、午後も寝てなさいね」


 お母さんはそう言い残し、


 ――パタン


 と、ドアを閉めてミリアの部屋を出て行った。

 すると、部屋の中がしんと静まり返ると同時にミリアの心にむずむずとした感覚が広がった。


「うう」


 小さく声を上げて、ミリアは布団に顔を埋めた。

 そうすると、視界が真っ暗になる。そうすれば、いつも寝る時のようににスーッと心が落ち着くんじゃないかと思ったからだ。

 けれど、いつもと同じはずなのに、いつもとは違って騒めいた心が落ち着くことは無かった。


 ふと、ローに握られていた感覚を右手が思い出した。


 温かくて小さい。けれど、どこか大きい様な気がする不思議な手。

 思い出しながらその手を見つめていると、少しだけ、騒めいた心も静かさを取り戻してきた。


「ロー」


 声に出してみると、もっと落ち着いてくる。

 ローとのつながりを意識して探ってみると、ダイニングにいるのがわかる。きっと、食べ逃したお昼ご飯を食べているのだろう。


 寝過ごしてお昼を逃す。そんな、ちょっぴり間抜けなローを思って、クスッと笑いが込み上げる。


「妹、みたい?」


 この町で年が下の子たちと遊ぶことは多い。その時も、妹や弟ができたらこんな感じなんだろうなと思った。

 でも、その時とはどこか違う。よくわからないけど、ローとほかのハーフエルフたちでは違うのだ。


 考えていると、段々と眠気が襲ってきた。お昼を食べたからだろうか?


 明日は、いつも通り外で稽古できるだろうか。偶にはローも来てくれたらいいのにな。


 そうして、いつしかミリアは意識を手放していた。


 ……。



---------------



 お昼をゆっくり食べ終えてミリアの部屋に行ってみると、流石にミリアは眠っていた。

 寝顔を拝もうかと思ったが、起こしてしまうのもよろしくないので、さっき見た分だけで我慢するとしよう。


 にしても、弱ってるミリアは可愛かったなぁ。初めて会った時もすごく可愛かったけど、あの時もあの時で初めての一人旅に少なからず憔悴していたのだろう。

 弱っていたほうが可愛いとは不思議だ。……いや、割と普通か。守ってあげたくなる可愛さってのがあるしな。


 でもまぁ、ミリアが元気じゃないと調子が狂うな。やっぱりミリアはちょっと冷たくて、でも優しくて、いつも大人ぶってる、そんなミリアが一番だ。


「さーって、外寒いし今日もゆっくり昼寝するか」


 俺は、そう呟いて自室に戻って行った。



---------------



 それから、何事もなく夕飯を食べ、明日に備えて今日も今日とて早く寝た。


 そして翌日。

 早朝の仕事を終え家の中に入ると、病み上がりのはずのミリアだけが既に食堂に居た。


「おはようございます」


「あ、うん。おはよう……じゃなくて、ミリアもう大丈夫なのか?」


「はい、昨日は油断してました」


「いや、風邪だろ? 油断もクソもないだろ」


「心配してるんですか?」


 何を言ってるんだこいつは。


「当たり前だろ?」


「そ、そうなんですか」


 何だろう、今日のミリアもいつもと様子が違う。


「やっぱり、まだ風邪治ってないだろ」


「そんなことはないです。熱はないですし、体のだるさもありません」


 ホントかなぁ?


「自分でそう思ってても、ガリルさんやムルアさんに言われたら、ちゃんと寝るんだぞ」


「う、うるさいですよ。私のことは私が一番わかってます」


「そーかい」


 ダメだなこりゃ。まぁミリアは俺の事ペットか何かみたいに思ってるからな。


「別にそこまでじゃないですよ」


「じゃあ何?」


「えっ、いや、その」


 こんな煮え切らない態度のミリアは初めてだ。


「何でしょう? よく分かりません」


 んんん? どういうこっちゃ?


「何だよ、自分のことは自分が一番わかってるんじゃなかったのか?」


「自分じゃないです。ローの事ですから」


 さいでっか。


「でも、ローと一緒にいるとなんだか温かいです」


 表面を暖気でコーティングしてることもあるからかな。


「そういうのじゃないです。昨日一人でいるとき、ローが分からなくなりました。それが何だか怖くて」


「ふむ?」


「今もわからないですけど、でも、今はそれでもなんだか温かいんです」


「ほう?」


「ローは私と契約してくれたから、ずっと一緒にいてくれますよね」


「それはまぁ、ミリアと別れる予定はないかな」


「なら、それでいいんです」


「そう?」


「これからもそれでお願いします」


「うん、分かった」


 そう言うと、ミリアはニコッと笑った。それが可愛くて、俺もつられて笑ってしまった。



大変遅くなってしまい、申し訳ありません。

今後、このままこの話を続けていくのは難しいと思われたので、この話は一度ここでおしまいです。


今まで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。


良かったら、最近書いている新作「真のチート能力――『スキル生成』スキルで異世界を堪能する」(タイトル不定)のほうを読んでみてください。

URLはこちらです。

https://ncode.syosetu.com/n0190ev/


それでは皆様、よい読書生活をお過ごしください。

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