8.兄は女(?)で常識がある
前回のあらすじ
捕縛した精霊が吐かないので困り果てた
おわり!
結論から言うと、あんまりヤバくなかった。
話している間に、別な妖精が二人(?)ほどでラリを心配して探しに来たのだが、縛られたラリを見ていろいろ察してくれた。ありがたい。
「ごべんなざい、おに˝いぢゃん」
「妹がご迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ございません」
謝っているのは当然ラリだ。お兄ちゃんと呼ばれた妖精は、飛んでいたのを一度地面の上に降りて、深く頭を下げている。身長が15センチくらいだから、1メートルくらいの高さに浮いてる俺から見ると、すごく低いところにいるように見える。
もう一人やってきた妖精は、すでに発見の報告に帰ってしまった。それでいいんだろうか。
「お兄ちゃん」は見た目がラリとそっくりだから、男だと思っていなかった。いやだって、ワンピース来てるし。
言われてみれば男なのかもしれない、と思ったけど、性別は無いって言われたほうがしっくりくる。有るんだとしたら、似たようなものだと思ってたけど、やっぱり精霊とはいろいろ違うんですな。
「謝るのは僕にじゃなくて、精霊の方々にでしょ」
そうやって妹を諭す兄。ラリのほうは、来てすぐにお兄ちゃんに見つかってすぐに怒られて、それからずっと泣いている。糸は既にほどいた。
ラリが一応こっちを向いて、泣いたまま、
「ずびばぜんでじだぁ」
と、一応謝っている。一応と言うのは、体は兄のほうに向けて座り込んだままだからだ。どことなく謝られてる気がしないが、兄に免じてゆるしてやろう。クイとルーも謝罪を受け入れている感じの雰囲気だ。
俺たちを代表してクイが
「い、いや。今後このようなことが起きないようにしていただけるのでしたら、特に問題はありません」
若干戸惑っているが、仲間が来たらこっちが責められると思っていたので面喰っただけである。
クイの言葉に対して、「お兄ちゃん」は「二度とこんなことをしないように強く言っておきます」みたいな言葉を返した。しかーし、ラリは一回言っただけの約束を守るような奴には見えんからな、全く信用出来ない。
まあ、気にしても仕方ないですから、考えないでおきましょ。
「お兄ちゃん」が言ったのを聞いて、ルーが突然問いかける、
「そういえば、あなたの名前は?」
「申し遅れました、私の名前はルイと言います。ラリの兄です」
その後に続いて、ルイとクイが名乗ったので俺も「ローです」と適当に言っておく。
立て続けにルーが質問する。
「ルイはラリがなんでこんなことしたかわかる?」
いい質問だ。褒めてやろう。
「なぜおまえが褒める……」
ルイはそれに「フフッ」と笑い、
「ラリ、なんでこんなことしたんだ?」
と、いまだに泣いているラリに尋ねた。
「だっで、ここは魔力がいっばいあるがら。ここなら大丈夫だど思っで」
ルイはそれに「なるほど」と言って、
「どうやら、私たちの村に関係があるようです」
一度言葉を区切った。
長い話になるのかな? とりあえず、続けたまへ。
「私たちの村はもともと、この森のように魔力が多く集まる場所だったのです。しかし、最近になって何故か魔力がどんどん減っていってしまって。そこで、どういうわけか魔物がいつもより多く発生していたことを思い出しまして、そのために魔力が消費されているのではないか、と考えたのです。そうして、魔物退治が始まったのですが、倒しても倒しても一向に数が減りません。今まではそこまで発生しなかった魔物が、突然これほどまでに出現するようになった原因は分からず、どうしようもなくなっていた状態でした。
おそらくラリは、勝手にこの森を新しい住処にしようと考え、有り余る魔物を使ってこの森の守護者であるあなたたちを追い出そうとしたのではないでしょうか
そうだろ?」
ルイが尋ねると、ラリは頷いた。
その後、ルイ、クイ、ルー、俺の四人で、いろいろと話し合った。俺とルーは質問してばかりだったけどな。
そこで得た情報によると、ルイ達の村は東の山脈の中腹の洞窟にあるらしい。なんでも、その洞窟は山の東側と西側を貫通しているらしい。洞窟の中にほとんど動物たちはいない。――山を貫通する洞窟なら、最短距離でも20キロくらいありそうだし、妥当かもな――そのため、発生する魔物の多くは山の東側から来たのだそうだ。そのやってきた魔物は、魔力の豊富な洞窟で数少ない虫や蝙蝠などを食べて暮らしているんだろう。
また、動物が過剰に魔力を得た時に魔物になるなら、それを故意にできるんじゃないかと思って聞いてみたのだが、不可能では無いが、成功した例は聞かないんだそうだ。やったところで下僕にできるわけでもないので、やる価値はない。それでも、今回みたいに混乱を起こすためになら使えそうだが、それをできそうな魔力の扱いに長けた生物は見つからないのに、魔物は依然増え続けていたらしい。
ラリがどうやって魔物を森へ誘導したかについてだが、どうやら妖精は心を惑わせる魔法が得意なんだそうだ。ラリもその例に漏れず、ゾンビやら毛虫の行動をそれとなく誘導することくらいはできるようだ。ただし、意思のないやつらなので、洗脳とかはできないので、命令して連れてきたのではなく、あくまで誘導してきただけなのだそうだ。これは要するに、不規則に歩くアリを石を置いたりして目的の場所まで地道に連れて行くような作業だ。数十キロもある道のりを、よくもまあそんな地味なことやっていられたものである。逆にすごい。流石に、毛虫は無理じゃないっすかね。だが、やったっていうんだからやったんでしょう。
当の本人であるラリは、途中で泣き止んでから、ルイの背中に張り付いている。幼女っぽい。でも可愛くない。
それから、ルイとラリはもう一度こちらに頭を下げて、山のほうへと帰って行った。
そういえば、妖精に性別があるのか聞きそびれた。まあいいか、多分宝塚的な感じなんでしょう。
とりあえず一件落着だな。クイが神木に報告して、ルーと一緒に帰って行った。俺はこのまま、またパトロールである。
働きたくないでござるな。
ちょっと目……視覚の保養ができたので良しとしますか。
そうして、俺は新しい必殺技を考えながら今日も見回りを続ける。