73.黒いオオカミ/ぼくのゆめは
前回のあらすじ
犬になってみた。
おわり!
森の中にとあるオオカミの群れがあった。全部で7匹の群れで、彼らは皆一様に黒かった。
その日も彼らは狩りに出て一匹の鹿を見つける。
鹿はこちらに気が付く事無く、一匹で座って草を食べている。足を怪我しているようなので、ついて行けずに群れに置いて行かれてしまったのだろう。
鹿の事情など、狩る側にとっては関係ない。動けなさそうな鹿など、良いエサでしかない。
オオカミたちは互いに合図すると、一斉に鹿に飛びついた。
それが罠だとは知らずに。
突如地面から網が昇ってきて、オオカミの群れを鹿と一緒にすべて捕らえた。
暫くすると、人間の声が聞こえてきた。
「今日も楽勝だったな」
「動物ってのはどうしてこうも頭が悪いのかねぇ」
声の主の二人はどちらも皮の防具を着た男だった。二人は台車を引いていて、その中に包丁などの解体道具が入っている。
「おお、黒いオオカミだ!」
「何!? 本当だ。黒いオオカミって確か懸賞金がかかってたよな」
「ああ! こいつはついてるぜ!」
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黒いオオカミたちは昔からこの周辺を縄張りにしていた。それが、近くに町が出来た影響で、動物たちが彼らの住処までやってこなくなってしまったのだ。
そこで、彼らは人間の家畜に手を出した。一度ひどい目を見たことで、彼らは人間たちがいかに危険であるかを知り、可能な限り家畜には手を出さないようにした。
しかし、動物たちは戻ってこない。仕方なく、危険を承知の上で何度も家畜に手を出した。
人間達は怒り、オオカミを殲滅に出た。
最終的に住んでいた黒いオオカミたちは数を減らし、空いた縄張りに別なオオカミたちが入ってくるようになった。
もはや、家畜を襲うのは黒いオオカミだけではなかったが、人間の黒いオオカミへの怒りは強く、死神などと呼ばれ、皮や肉とは別に捕ってきた人間に与える懸賞金が掛けられているのだ。
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オオカミたちの足は網に絡み、団子状に押し込められて、身じろぎするのがやっとだ。口を動かせるものもいたが、いくら噛んだところで網は切れそうもない。
「1、2、……7匹もいるぞ」
「暫く金には困らねぇな!」
黒いオオカミたちは自分たちの最期を悟った。
しかし、諦めることは無かった。
無作為に暴れていたオオカミたちはある一瞬のその瞬間同じ動きで一匹のオオカミを蹴り上げた。それはまだ若い一匹のオスだった。
「一匹飛び出したぞ!?」
「は、速い! 逃げられちまったぁあ!」
若いオスは必死に逃げた。本来なら成体になるもう少しの間、群れの中で過ごすはずだった。
だから、戻って皆を助け出す必要があった。あそこには父と母がいた。兄弟がいた。
それでも、彼は逃げ出した。彼には分かっていたのだ。これはチャンスなのだと。生き残り、血筋を絶やさないための唯一のチャンスなのだと。
人間たちは追って来なかった。また逃げられたらたまらないので当然だった。
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俺は指で目じりをなぞり、鼻をすする。
すぐに、辺りに静寂が戻ってきた。その後、時折聞こえるのは紙をめくる音とカップを取り飲み物をすする音、カップを置く音だけだ。
俺が小さな脚を延ばして座っているベットには二冊の本が置かれていて、片方はすぐ近くで開いており、もう片方は枕元に閉じて置かれている。その他にもう一冊の本があるが、それは俺の膝の上で時折音を立てているそれだ。
読んでいるのはジャンル的には寓話だろう。いくつかの短編によって構成されており、何も考えず読めばただの日常話でしかない。手書きの本ではあるが、文字は丁寧で初心者の俺でも読みやすい。しかし、ところどころに誰かの解説と言うか、注釈が書かれているのだが、こっちは汚すぎて読めたものではない。
時々読めない文字があると隣にある辞典を見て文字を探す。そうしていると、常用漢字と言う概念のありがたみが分かる。「やばい」に表音文字があるとかやめろよ。簡単だったからいいけどさ。
読み進めていくと凄く疲れる。主に頭が。
そこで、横になると良い感じに眠れる。本が汚れたり折れたりしないように除けてからなのは当然だ。本は村の共有資産だが、多すぎてもかさばるからと数は制限されているために、貴重なものが多いのだ。
それにしても、良い安眠グッズが手に入ったものだ。文字も勉強できて一石二鳥である。
夕飯にはミリアが起こしてくれるから安心だ。
心置きなく眠ることが……できて……。
……。
「起きてください」
目を覚ますと、俺の部屋だった。目の前にはミリアがいる。
「おはよう。ミリア」
この部屋にミリアがいると何だかギャルゲーみたいだ。
そう思って、テレビとゲーム機の電源を切る。
「朝ごはんは出来てますよ」
その声に振り向くと、テーブルの上にご飯に味噌汁、それに卵焼きにベーコンと、子供の頃を思い出すメニューが並んでいた。
そうか、実家に帰省してたんだっけな。
そう思って、箸を取りにキッチンに行くと、兄も同様に箸を取りに来ていた。
俺は先に「おはよ」と挨拶すると、
「はよ」
と言いながら、俺の箸も取ってくれた。
いつもと違って優しいなと思って先に戻った兄がいるダイニングを見ると、ランベルトが我が物顔で白米をかっ食らっていた。
俺は六ヵ所ある椅子のいつもの場所に座り、テーブルの上の本を手に取る。さっきまで読んでいた本だ。
その本を手に取り、もう一度立ち上がって扉から外へ出ると、見慣れた廊下がある。そこを進んで、自室のドアを開けると、そこにはランがいる。
ランを撫でようと手を伸ばすと、よろめいて頭をぶつけてしまった。
「ッ!? ロー!」
目の前にはミリアがいる。体を起こすため腰を上げようとしたけど、仰向けに寝ているのでうまくいかない。体が反ってしまった。
「ローが頭打ってバカに……」
あれ? 転んで気を失っていたのか?
……ああ、寝てただけか。
「ミリア、おはよう。……ってさっき言ったか」
「言ってないですよ。本当に大丈夫ですか? 一度精霊に戻って頭を作りなおしたほうがいいんじゃないですか?」
一瞬すっごいバカにされているように聞こえたが、「寝ボケてるから一度シャキッとしろ」という意味だろう。ミリアの事だから、バカにもしてる気はするが。
しかし、ミリアの助言通りに体をリロードしておく。
「いやー。さっき変な夢を見たからさ」
「夢なんて全部変じゃないですか」
「まぁそうだけどさ」
「それで、どんな夢でしたか?」
…………?
「忘れたんですね」
いつものごとく呆れたようにそう言う。
「……そうみたいだ」
「よくあることですけど、変な夢って言うくらいなら覚えておいてください」
ミリアは変な夢ってのが気になったらしい。
「前向きに検討します」
夢日記をつける趣味は無いのでね。
感動できるシーンが書けぬかった




