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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
ハーフエルフ達と日常
74/80

68.ステキな「デアイ」の予感

前回のあらすじ

 ミリア、メオは新しい衣装を手に入れた。

おわり!


 今日は行商人が来るらしい。

 今日じゃなくても月に二回ほど来ていたらしいが、来るのを事前に知ったのが初めてで、見に行こうと思ったのも初めてである。

 まあ、通信技術も発達していないこの世界の事なので、少しでも予定が狂えば、今日は来れなくなるろう。

 ……って(通信技術云々を除いたことを)ランベルトが言ってた。


 でも、精霊を通せば簡単な言葉の長距離通信は出来そう。人→精霊→人って感じで。もしやるとしても、こんな感じで精霊をこき使おうとするのは、ミリア以外いない気もする。

 そもそも、俺が作ってしまえば簡単か。今は必要ないけど、金が欲しくなったらやってもいいかも。……いや、金貨を直接作ればいいか。


 そんなわけで、畑仕事を終えた俺は精霊モードで門の近くの壁の上に陣取り、幼女モードで地平線まで続く草原を眺める。

 今更ながらに、前世で0.1まで落ちた視力が回復していることを有り難く思った。


 そんな嬉しい気分に身を任せてテキトウな童謡を歌い、最終的にモン○ンのテーマソングを口ずさんでいた時にそいつは現れた。


 俺は行商人って言われて、トル○コみたいな背負い籠(しょいご)のおっさんを想像していた。そうじゃなくても、馬車に乗ったおっさんだろうと。

 しかし、そいつは予想の遥か斜め上を行った。


 誰が幌付きのリアカーを引いてくると思うだろうか。


 ……え、なぁに、あれ? 頭おかしいんじゃないの?

 リアカーを引いてやってくるおっさんを茫然と見つめていると、さっきまで豆粒だったのにいつの間にか門の目の前までやって来ていた。

 荷物を引いているとは思えない速さ。流石に馬よりは遅いと思うけど、おっさんマジやべぇ。


「何用か!」


「わしじゃ。いつも通り検問を頼む」


 自衛団のテンプレに顔馴染みとして言葉を返すおっさん。

 自衛団の一人が下に降りて、おっさんと少し話をしてから幌の中を軽く覗き、門の方へと顔を向ける。


「開けていいぞ」


 門が開くと、おっさんは門の中へと入って行き、入り口近くの広場で荷物を広げ始めた。


 売り物は、食べ物から日用品まで様々だ。リアカーを一台持ってくるだけのことはある。

 ちらほらと村の住人たちが集まり始め、野菜やその加工品を売ったり商品と交換したりしている。


 俺のように行商人を待ちわびていた村人たちがいなくなったのか、広場にはおっさん一人になった。この隙を逃すまいと俺はおっさんに接近する。

 そんな俺におっさんは気付いて声をかけてきた。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。お使いかな……?」


 おっさんは俺の顔を見て少し不思議そうな顔をした。

 住人のほとんどがハーフエルフの村で、ハーフエルフではない初見の不思議な幼女が近づいてきたからだろう。

 俺はとりあえずおっさんの言葉を否定するように首を横に振る。


「そうか。今は客もいないし好きなだけ見てくれて構わないよ」


 営業スマイルのいいおっさんだった。

 お言葉に甘えて、商品を物色する。見るものは決まっている。武器だ。

 地面に広がる布の端に一応持ってきましたって感じで、斧やクワ、包丁、短剣何かが置いてある。これ見たくなるの、当然だよね?


「それは危ないから触らないでくれよ」


 釘を刺された。

 仕方が無いので見るだけに止めよう。しかし、普段見慣れない刃物なんて見ただけで楽しめるものではなかった。刃物の専門店でショーケースにやたらと並んだ包丁を眺めるのと似た感覚だ。


 次に隣にあった食器を眺める。磁器やガラス製の物もあるが、よく未舗装の道をサスペンションやゴムタイヤの無いリアカーで持ってくる気になるものだ。感心した。


 今度は食料品。別に大したものは無い。有るには有るけど何なのか知りたくない。シュールストレミングとかマーマイトみたいなのだったら困る。


 そして、最後に小さな箱を見つける。俺の学んだ文字の知識が間違っていなければ、その箱には日本語で言うひらがな(カタカナは無い)で「かーど」と書かれている。

 「かーど」って「カード」つまり「トランプ」だよな。


「お、お嬢ちゃんが初めて気づいたな。それはカードって言ってな、持ち運びできる宿のテントってのを作った人が作った新しい娯楽なんだ。今まで札遊びって言ったら、一通りの遊び方しかなかったけど、そのカードってのを使えばどんな遊び方でもできるんだってよ。興味があったら、お父さんかお母さんに話だけでもしてみてくれよ」


 説明乙です。

 テントにトランプ・・・来るぞゆーま! そのうち、U☆戯☆Oとか売りに出されるんじゃなかろうか?


 ふむ、しかしまぁ。同郷の人間がいるのは確実なようだな。三年後には旅に出るんだし、その時にそれとなく探してみるとするか。

 でもなぜにその二つがチョイスされたのか、謎だ。金に困った時に、知り合いに売れそうなものを作ったとかかな?

 ってか、トランプとか簡単に作れるものでぼろ儲けとかずるいよな。まぁやった者勝ちだから仕方ないか。少なくともこの村では売れてないし、儲けてるとも限らないしな。


「町の方では今じゃカードは大人気商品ですよ。運ぶだけで金が入って最高ですな。アッハッハ」


 なにわろてんねん。売れてんのかよ。だからここで売れなくても良いって算段だな。更に、ほんの少しだけ売って、人気が出たところを次に来た時に吹っ掛けるとかも考えてそう。汚いさすが商人きたない。


 さて、思わぬ収穫もあった事だし、帰るとするか。


「今度来た時は買ってくれよな、お嬢ちゃん」


 最後まで営業を忘れないおっさんに苦笑しながら頷いて、そろそろできるであろうお昼ご飯の待つ家へと向かった。






「おかえり、ローちゃん。行商人のところに行ったのでしょう? 何か面白いものはありましたか?」


 相変わらず無駄に音を立てるドアを開けると、ムルアの声が聞こえてきた。

 面白いものを優先的に聞くのか……、と思いつつ椅子に座る。


 ――さて、俺もトランプ欲しいし宣伝してやるか。


 俺はトランプ、もとい「カード」について、説明を開始するのであった。


「テント」が ジツハ フクセン ダッタ ノダー!

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