7.だんだんキモくなる
これでいいのか迷ってたけど、思いつかなかったので仕方がない。
前回のあらすじ
妖精がゾンビを連れて襲い掛かってきたので、捕縛した。
おわり!
「で、今度はいったい何がしたかったんだ?」
精霊であるクイが、木の枝に座るように固定されている妖精のラリに尋ねる。
今のところ、精霊と妖精の違いは見た目が有るか無いかぐらいしか分からん。何が違うのか、教えてルー兄ちゃん。
「ん? 多分、体があるかないかでしょ」
いや、そういうんじゃなくて、何か発生の方法とか、生活スタイルとかさ。そういうのが訊きたかったんだけど、
「知るわけないだろ。生まれてからの時間は、お前とそんなに変わらないんだから」
知るわけないか。そうだよね、俺のほうが長生きしてるもんね、別世界で。クイは尋問してるから話を聞けない。今度ハルトに会ったときにでも聞くか。知ってるか分からんが。
さて、そんなことは置いといて、尋問はどんな感じかな。
「あんた達みたいな体の無い搾りカスみたいな連中に、教えてやるわけないでしょ」
搾りカスって、ひどい言われようだな。俺に限っては、そんな感じでだいたい会ってるけど。
にしても、話は一歩も進んでないみたいだ。まあ、クイは尋問のプロってわけじゃないからね。
「やっぱり何も分からないか。まあいいか。エストイア様にこいつをどうするか聞こう」
なんか、初めから諦めてたようだ。でもその潔さは評価に値する。こいつに長々と話を聞くとか、こっちが拷問されてるようなもんだ。
クイがエストイア(様)と念話を始める。
「ああ、この糸さえ無ければ逃げ出せるのにぃ!」
この妖精はすごくうるさい。この短い時間でもよく分かる。逃げ出そうともがいているが、それで木が揺れてカサカサ音を立てている。うるささの波状攻撃だ。
そこで、話が終わったクイが告げる、
「二度とこの森に近づかないと誓えるなら、森の外へ出して開放してやってもいいそうだ。妖精ラリ、どうする?」
「カスども相手に誓う事なんて一つもないわ! 消えろ!」
「ふむ、では誓うと言うまではそこで拘束させてもらおうか」
「ふざけんな! さっさとほどけカス!」
え、その拘束しておく役って誰がやんの?
「お前だろ?」
ルーさん、そんなひどい。
そんな面倒臭いことやってられるか。こうなったら意地でも誓わせてやらねば。
さて、地獄の始まりだ。どれほど耐えていられるかな?
糸を何本か作ってより合わせる――詳しいやり方は知らんからねじっただけだ――そうして一本の太めな糸にする。端っこは糸をほどいたままにして、筆のようにする。それをこっそり妖精の後ろから忍ばせて……
「え、ちょ、何!? キャッ! く、くすぐったい。や、やめ、あ、キャフ。アハハ、く、くすぐったいから、やめてぇ!」
脇腹とか、足の裏とか、適当にさわさわってしただけである。この娘感度高いだーね。にしても、こういう声っていいっすよね。思わず、聴覚を最大まで強化しちゃったよ。
そろそろ一休憩させてあげましょい。
そこで、すかさずクイが言う。
「どうだ、誓えるか?」
「はあ、はあ、だ、誰が、誓うもんですか」
んー、何かあれだ。ここまで来たらゲスになりきっていきたい。新たなる感覚に目覚めそう。
クイもルーもやれと言わんばかりにこっちに意識を向けてくる。
んじゃ、さっきよりも気合い入れていきますか。
「え、また? く、ふふ。ん、ぐ、んん、んーん、んんーん、くふっ。くはっ、アハハハハ、だ、ダメ…じゃない! こ、こんなの、くふっ、全然効かないわ! んん! いくらやった、はあ、フー、って無駄なんだから!」
すごい効いてるようにしか見えませんけどね。もう、すごくいいっすね。もっといじめたくなる。
さて、また休憩入れましょか。もうお腹いっぱいです。
「すぅー、はぁー。こ、こんなのでアタシに勝てると思わないでよね。ふぅー」
勝てるってなんだよ。別に勝負してないから。
くすぐっただけだし、拷問のごの字ですらないからそれで吐くならスパイ失格だ。別にスパイじゃないと思うけど。
そんなどうでもいいことを考えていたら、ルーが
「こいつどうしたらいいんだ? 絶対にまた迷惑かけてくるだろうし、このまま返すのはまずいだろうけど、こうしていても埒が明かない」
不安そうに問うと、クイは
「まあ、前回もある程度厳しくやったけどずっとこんな感じだったから、結局そのまま帰しちゃったんだよね」
それはあきまへんな。だからこそ今回余計に付け上がってるとしか言いようがない。
うーむ、処分したらダメなんだろうか。
「(殺しては)いかんのか?」
「え、何が?」
言葉を濁したらクイには伝わらなかった。
「いや、何でもないです。もう今回も諦めて帰していいんじゃない?」
投げやりに答えておいた。
「そんなら早くほどきなさいよ!」って聞こえてきたけど無視して、
「流石に、こんな感じで何度も来られると困るんだよ。毛虫から、ゾンビになって厄介度が増してる。次はいったい何を連れてくるのやら、考えたくもない」
そっか、そうだよね。次はいったい何を持ってくることやら。毛虫、ゾンビ、共通点と言ったらキモイことくらいかなぁ。キモイと言ったらやっぱり”黒いアレ”とか最初に思いつくけど、虫からアンデッドに進化したからまた虫ってことはないと思う。思いつかないな。この世界のキモイものってあんまり分からんし、余計に想像がつかない。
あー、メンドイなんかもう適当でいいんじゃね?
「縛ったまま地面に埋めておいたらダメ?」
「ダメだろ。そんなことをしたら、他の妖精たちが探しに来る」
こんな奴のために来るのかな、来るんだろうな。だから前回も帰してしまったんだろうし。
なら、その他の妖精たちに来ないように言ってもらえないのか?
「あいつら、基本的に自由に好きなことやって暮らしてるから無理なんじゃないかな。そのくせ、変なところで仲間思いなんだから」
やれやれといった感じで言うクイ。
その言葉に、ルーが、
「どうやって仲間がピンチかわかるんだ? 普段自由に暮らしてるんなら、しばらくいなくても気にしないんじゃ……」
「自由に暮らしてるって言っても、生息地の近くからはあまり離れないらしいぞ。それに、ピンチになると、そういうサインみたいなのが仲間に伝わってくるって話だ。だから、あんまりこうしているのも良くないんだよ」
やっぱり、さっさと開放しちゃったほうがいい気がしてきた。さっきいじめまくったから、あとでひどい目にあわされる気がしてきた。やばくない?
そんな間にも、ラリはギャーギャー騒いでいる。