閑話4.東の山脈の大洞窟
前回(閑話3)のあらすじ
雑魚ラッシュの末、ボスガイコツを倒した。
おわり!
町に戻ってくると、何やらすごく持ち上げられてしまった。多くの冒険者の前でガイコツを一人で倒してしまったが故である。
これは僕にとって喜ばしいことだ。英雄とは偉業を成し遂げてこそ得られる称号だ。今回のことは予想を遥かに超えて、それを後押ししてくれた。
ほんの小さな町一つのことではあるが、英雄への第一歩としてはまずまずだろう。
作戦の成功を祝って組合主催の祝勝会が行われて、その時には多くの人が僕と話をしようと詰めかけてきた。
流石に見ず知らずの人に次々と話しかけられるのはつらかったので、夜も更けてきたころに抜け出して、宿へと戻った。
次の日の朝。ララストルにいた時のように朝早く起きて、組合へと向かう。
昨日の依頼での報酬の精算が終わったようなので、それを受け取りつつ適当な収集依頼を受けて町の外へ出た。ボーナスとして、報酬が基本の三倍ほどになっていたのは流石に驚いた。無駄に倹約していたので、お金は沢山あるから困ってはいないけど、やはりあればあっただけ嬉しいものだ。
収集依頼は森にある薬草を取ってきてほしいというもので、少し前まで森に入りづらくなっていたからか、報酬が多かった。
実のところ、僕はこの収集依頼と言うものと相性がいい。《収納》はやはり便利な機能だ。精霊様に話してしまった以外では誰にも教えていない。というか、教える必要も無かった。
それから数日は、討伐依頼で顔を見たって程度の相手から挨拶されるということがしょっちゅうある以外はいたって平凡に過ごした。魔物の命を毎日のように奪うことを平凡と言えればの話ではあるが。
そしてさらに数日後のある日、とある依頼が目に留まった。大量に出てきた魔物の発生原因と思われる、東の山脈の大洞窟を調べるというものだ。調べると言っても、魔物がいないかどうかというもので、結果次第で後日、学者が護衛を連れてもう一度行くのだそうだ。
東の山脈の東にこの街はあるので、向かうのは西なのだからこの世界に成れていない僕からすると、少しややこしく感じる。
英雄の感覚も最近はどこへ行けと一々注文してくることが無いから、気ままに生活していたのだが、これにはなぜか激しく反応していた。
英雄の感覚が唐突に反応するのはいつもの事だ。僕はそこに何かあるのだろうと考えて、その依頼を受けることに決めた。
ただ、その洞窟の場所の説明がかなりアバウトだったのが気がかりだ。いざとなれば英雄の感覚が連れて行ってくれるとは思うけどね。
依頼を受けたその日の午前のうちに荷物を準備して町を出た。道の無い森の中を通るので、どんなに早く出ても一泊する羽目にはなる。だから、さっさと行ってきてしまおうと考えたのだ。
森の中は先日の掃討戦のおかげか、魔物どころか動物にすら会う事なく進むことが出来たので、その日は予定よりもスムーズに移動できた。
以前とは違って、食べ物にお金をかけているから、昼も夜も温かいご飯が食べられた。もちろんこれも《収納》のお陰である。
余談だけど、ご飯はお椀によそった物や、炊飯器があればそれごと一つとカウントして、計16個入るようになっている。しかし、混ぜご飯は別になった。自動で選定されているのか、はたまた例の老人が一々選定しているのか、気になるところではある。
翌日、朝はパン派なのでパンにツナマヨ――だと思う――を挟んだものを食べた。
歩いたり食事をしたりと、とても退屈ではあったがそれだけ平和ともいえる。後は、この森の動物たちがまた戻ってきてさえくれれば問題はない。今のままでは生態系が崩れてしまうからね。
少し歩いたところで、山に差し掛かり地面は徐々に角度をつけていっている。
洞窟の場所については「ある程度登って下を見張らせるところで見渡せば石の広場が見えるはずだから、そこに向かえばある」だそうだ。石の広場なんか作るんなら、街道から真っ直ぐ来れる道を作ればいいのに。
その手順通りに行くまでも無く、僕は石の広場に辿り着いた。今日は運がいいようだ。世の中には、時短しようと思って英雄の感覚に頼って歩く人がいるらしいけど、誰なんだろうね? 僕は英雄の感覚を持つ人を一人しか知らないけど。
そんな冗談を考えながら、石畳に足を乗せた時のことだった。
「誰!?」
女の子の幼い驚くような声が聞こえた。姿は見えないけど、どこにいるのだろうか?
「僕はハルトと言います。冒険者組合の依頼を受けてきました」
とりあえず、自己紹介をする。
「冒険者ぁ? 人間が何の用なのよ?」
ただの隠居人って可能性もあるにはあるけど、声の主は人間ではないようだ。
「そこの洞窟に危険な魔物がいないか調べに来たんですよ」
「魔物なんているわけないじゃない。前と比べてほとんど魔力が無くなっちゃったから、この中にいるのは虫とか蝙蝠とかそんなのだけよ」
これで依頼達成だろうか。その言葉の通り、魔物の反応は無さそうだけど。
「そうか、教えてくれてありがとう」
「ふ、ふん。お礼なんていらないわ」
その言葉の割には、なんだか嬉しそうな声だ。
もしかしたら、話し相手くらいにはなってくれるかもしれない。そう思って、お昼を食べるくらいまでここにいようかと画策する。
「ねえ、君はどうしてここにいるの?」
「べ、別に! お仕置きで追い出されたとかじゃないわよ!」
追い出されたのか。
その言葉で、何となくこの声の正体が分かった。
「君は妖精なのか?」
「え!? 何で分かるのよ! こっちの場所もわかってないくせに」
実をいうと、広場にある柱の陰にいることは既に分かっているが、黙っておこう。あと、まだ妖精だと断定できてなかったんだけどなぁ。
洞窟の反対側の出口近くに妖精の住む村があるとは聞いていたけど本当だったようだ。
「そうだね、そろそろ出て来てくれないかな」
少し棒読みっぽくなってしまった。どうも僕は演技が苦手だな。
「しょうがないわね。代わりに何か食べ物をくれるならいいわよ」
「妖精って何を食べるの? 僕のお昼ごはんなら分けてあげられるけ――」
「やったわ! これでふつk……そ、それならで行ってあげるわよ」
何を言いかけたんだろうか。
出てきたのは白いワンピースの透き通る綺麗な蝶の羽をもつ女の子だ。身長は十五センチほどしかないが、浮いているので視線の高さは同じだ。
「それで? アタシに何を献上してくれるの?」
輝く金髪を風になびかせて近付いてくるその少女は、この世のものとは思えない可憐さがあった。
「あんた、ハルトだっけ? 聞いてるの?」
「……ん、ああ、聞いてるよ」
少女は一メートルほどの距離で近付くのを止めると、訝しげにこちらを窺っている。
「ええと、君は……そうだ。名前を聞いてもいいかな?」
「ラリよ! 折角名乗ったんだから、死んでも覚えときなさい!」
そう言って、その少女、ラリはニヒっと笑った。
予想できる中身なのに、無駄に前半長すぎた気もする。
もしかしたら次も閑話にするかも。アリルの話見たくない?




