61.戦いは自由が売りなんです
前回のあらすじ
無事に聴取が終わり、雑談をしていたはずだった。
おわり!
暫く、ハルトとラリがどうでもいいことを言い合い、火に油を注ぐようにアリルがボソッと呟くという、終わりの見えない話し合いをしていた。
ラブコメに巻き込まれたモブ視点ってこんな感じなんだな。視聴者視点じゃないから、臨場感があって凄くウザい。
見たところ、アリルはハルトにラブ的な意味の好意を持っているようだ。しかし、ハルトはそれに気が付いていないかのように接する。何故それに気が付かないのか、やっぱり分からない。
……案外、あえて無視してるのだろうか。
「あの三人、仲がいいですねー」
「私も早く冒険者になってこんな風に賑やかな旅がしたい」
メオとミリアが立て続けに言った。
「賑やかねぇ。仲がいいというより、アリルがハルトのことを好きで、それをラリが茶化してるだけだよな」
「そうなんですか?」「本当です?」
え、こんなのお約束だし普通気付くでしょ。
……あそっか、この二人はその「お約束」を知らないのか。ラブコメ本なんて有るわけない上に、村のハーフエルフの子供は男女比1:5くらいだから恋愛経験とか無さそうだもんな。有っても「幼稚園の先生に恋をする」みたいな、大人に恋をする話だけだろ。
俺は一人でそう納得した。
「確かに、言われてみるとそんな気がします」
ミリア、本当にわかってんのか?
メオは俺の頭の上に顎を置くだけで何も言わなかったが、暫くして口を開いた。
「その好きって、私がミリアやローを好きって気持ちとは違うんですよね。でも、それってどう違うんでしょうか?」
お、なんだ? 思春期か? 少女漫画か?
ミリアの方を見ると、全くもって理解に及んでいないと顔にかいてある。
誰も返事をしなかったからか、気まずそうにメオは言う。
「う、分からないですよね」
もしかして俺に聞いてた? 俺が話振ったんだし当然か。
よし、ここは無難に答えておこう。
「もっと大人になったら分かるんじゃないか?」
「子供なローに何が分かるっていうんですかね」
即答すんなよ。お前に言われたくないのでその呆れ顔をやめるんだミリア。
ラブコメしてた三人は、誤解が解けることも無く話が逸らされ、再び六人?での雑談をした。俺はグループ会話に着いて行けるわけが無いので、話を振られたときに答えただけだが。
最終的に、今日は模擬戦をしようという事になったのだ。しかし、その前に好きな魚料理の話をしていた気がするのに、どうしてそうなったのだろうか。不思議だ。
「村のはずれの一角が、何もない広場になっているのでそこにしましょう」
懸案だった場所については、ハルトがそう提案したので模擬戦は決行となった。
見た目の男女比5:1の六人は、踏み固められて草も生えていない土の空き地にやってきた。当然だが、土管はない。橋の方なら近くの家まで50メートルはあるので、ある程度ドンパチやっても大丈夫だろう。
「最初は僕が相手になりますよ。誰がやりますか?」
ハルトは自信たっぷりだ。雑談中に聞いた話が本当なら当然だ。
「私が行きます」
ミリアは声を上げるなり、剣を抜いてハルトに駆け寄った。模擬戦って色々と自由なんだな。
ミリアの口が動いているので、しょっぱなから魔法を使うようだ。遠慮が全くない。ミリアの魔法は詠唱が聞こえないようにしているので、攻撃が予測し難い。以前の戦いであれは中々きつかった。
ハルトに剣を振りかぶる直前で、水の塊を出してハルトにぶつけようとする。ハルトはそれをあっさりと切るが、ミリアはその瞬間に後ろに回り込み、突きを放つ。
どう見ても殺しにかかってる気がするけど、ハルトは自分の左側へと横っ飛びで突きを躱し、ステップでミリアの方を向く。
そうして暫く剣による応酬があったのだが、なんかもう既に付いていけない。
まず、後ろに回り込んだミリアが即座に突きを放つって慣性はどうした。精神体以外に対してでも仕事やめたのか?
ついでに、ラリの野球中継を見るおっさんみたいな「そこだ!」とか「違う!」とかの応援もうるさい。
最終的に剣を弾き飛ばされて距離を取ったミリアが詠唱の短い簡単な魔法を浴びせ続けたが、途中で魔法を剣で切りながら詰め寄ったハルトに首へ剣を突きつけられて、降参したことで終わった。
「く、強いです。三級相当と言われるだけあります」
「ありがとう。君は思ってた以上に強かったよ、ミリア」
そう、ハルトは現在五級なのだが四級の条件を満たしつつ、実力は既に三級相当と言われているのだそうだ。雑談中にアリルとラリが言っていたのだ。だからこそ、初手から殺しにかかることが出来たのだろう。それにしても全く躊躇が無かったが。
しかし、ミリアは精霊魔法を使っていないので、ハルトの方が強いとは一概には言えない。まあ、ハルトにも奥の手が無いとは言えないが。
「行きます!」
ミリアが落ちた剣を拾いに離脱してすぐに、メオが両手に剣と短剣を持ってハルトへ走り寄る。
模擬戦ってホント自由だな。
そういえば、メオの近接戦は初めて見るな。稽古は見てなかったし、魔物との戦いは後ろからの援護だけだったからな。
駆け寄る速度はミリアにも引けを取らない。師が同じなので当然だが、ミリアのように声が聞こえないように魔法の詠唱もしている。
ハルトは、先ほどと同様に剣だけを構えて待っている。本来なら、近付くまで魔法を使うチャンスがあるはずだ。恐らく、手加減なのだろう。
「“光影分身”」
そう唱えたメオの体は、視覚的には完全に二人に分身した。
目では全く区別がつかないが、魔法の名前から推測するに音や魔力までは同一ではない。相手によっては目くらましにもならないだろう。
人間はおおよその情報を視覚に頼っているから、しっかり有効なはずだ。
ハルトは外套の内側から丸い盾を取り出して装着し、同時に繰り出された攻撃を両方とも受け止める構えだ。そして、ハルトの剣は空を切り、盾にはメオの剣が当たった。
しかし、それでメオの攻撃は終わらない。右手で縦に切りかかったまま、左手の短剣をハルトの胸元へ押し込もうとする。ハルトの剣は弾かれており、その間合いの内側にメオは入っている。
どう見てもメオの勝利が決まったように見えたが、ハルトはそこからブリッジのようにして、メオの二つの攻撃をかわし、そのまま地面を転がってから跳ね起きた。
その間メオは体重を乗せた攻撃を避けられてよろめいており、追撃をすることが出来ずにいた。
すると、ハルトが間合いを詰めてメオに切りかかる。メオはそれを最初のうちは二つの剣で何とか防いでいたが、すぐに剣を首元に着きつけられて降参した。
「勝ったと思ってしまった自分が悔しいわね」
「でも、いい作戦だったと思うよ」
ミリアの時と比べると、あっさりと終ってしまった。
二連続の鮮やかな勝利。ハルトめっさ強いな。
評価ありがとうございます!!
前触れ無しに遅れてすみません。
言い訳:この話、一回書き直して他二つくらい案があったんだけど、うまくつながらなくて、途中で飽きて投げてました。
今度こそ毎日投稿する……はず




