56.これは観光地ではないのでしょうか?
前回のあらすじ
エルフの里を出て、川の近くでお昼になった。
おわり!
何事もなく昼を食べ終え、川下に向かって歩くこと三時間ほど。やはり、道中に牛やら鹿やらのちょっとした魔物に襲われたものの、問題なく追い返したり沈めたりした。
牛や鹿って群れてるイメージ有るんだけど、気のせいかな?
見えてきたのは大きな白色の橋と、その奥の方にある港と海だ。橋のこちら側には小さな小屋が用意してあるのみだが、橋の向かい側は漁村と言っていた割には大きな集落がある。
橋と同じ白い色の家が多く、海辺の観光地といった様相だ。
「思ったより小さいのね」
メオは俺と真逆の感想を持ったようだ。
ハーフエルフの村は畑がある分、集落としての大きさがララストルの町と同じくらいはあるからな。そこで育った人からすれば小さくも見えるだろう。
「でも、白い建物と青い海が合わさって、綺麗な場所」
ミリアはその光景を前に感嘆の言葉を漏らし、メオもそれに頷く。
「これだけでも来たかいがあるだろ?」
ランベルトはそんな二人に自慢するように言った。
ミリアとメオは同時に、
「うん」「そうですね」
と返事を返した。
橋まで行くと、通れないように門が閉じているのに気が付いた。ランベルトはそれに目もくれていないので、知っていたのだろう。
「話を付けてくるからそこで待ってろ」
そう言い残し、そのまま小屋の方まで歩いて行く。
門と言っても、そんなに仰々しいものではない。幅五メートルほどある橋を覆うように木の柵と、同じような木の柵の扉に閂があって、それに錠前が付いているだけだ。
「この柵って意味無いよね」
ミリアに同意を求める。
柵の高さは2メートルほどで、この世界の人なら垂直飛びで越えられることも多いだろう。そうでなくても、有刺鉄線なども無いので、上れば越えられる。
「そうですね。火を付けたらよく燃えそうです」
物騒だな。
「こういうのは勝手に越えたらダメだっていう意思表示だから、別にこれでも問題ないでしょう」
メオはなぜか詳しかった。日本だと常識だけどさ。少なくとも俺はこの世界で似たような物を見たことがないのだが、多分メオには心当たりがあるんだろう。
案の定ミリアは、
「そういうものもあるんですね」
と、納得している。
そんな感じで雑談していると、ランベルトが一人で戻ってきて、
「勝手に越えてってくれってよ」
そう言って、柵まで行くとバレーのレシーブのように両手を組んで、
「俺の手に足かけたら適当に分投げるからきちんと着地してくれ」
などと言う。
これ、ちょっとかっこいい連携技の奴じゃん。つーか、勝手に越えってってくれってどんだけ適当な仕事してんだよ、小屋の中の人は。
いかんな。憧れが先行して非常識に気付くのが遅くなってしまった。
ミリアは躊躇なく近づき、助走をつけてランベルトの手に飛び乗る。ふわっと景色が下に流れて、今度は上に流れる。肩に乗ってる俺からすると、ジェットコースターみたいで楽しかった。
メオは、深く息を吐いて呼吸を整えると、助走をつけて飛び乗り、あっさりと越えてきた。
「これ、ちょっと楽しいわね」
それは良かった。俺も戻ってやってこようかな。
そう思ったが、ランベルトは既に柵を飛び越えていた。重い鎧を着ているはずなのに、バク転で。
はぇー、すっげぇな。
衝撃がズーンて来ましたよ。まだ地面だからいいけど、橋だったら壊れそう。
橋は両端が坂になっているので、目の前は白い石の壁の様になっている。そこを登っていくと、さっきよりも近くなった町を見ることが出来る。
海の方を見てみると、村の奥の方は崖になっているがこちらに近づくにつれて低くなっていき、汽水域の辺りは砂浜になっている。崖を利用して港になっているようだが、防波堤は無いので港としての良さは微妙だろう。
町で食べたマグロのようなものは、ここで取れたのだろうか……。
「村に入ったらどうするか決めてあるんですか?」
メオがランベルトに尋ねた。
「とりあえず、宿を取りに行くか。そしたら後は自由に歩き回ってみるか」
「いいんじゃない」
「分かりました」
俺も特に異議は無い。
村ではあったが宿はあっさりと見つかった。港町(村)だし商人が多いのだろう。その分、やや高めな宿が多いらしい。前泊まった宿と比べたかったが、だいぶ前のことなので忘れた。俺のお金じゃなかったしな。
適当に、安めだけど粗悪でない宿を選んだようだが、シングルしかなかったので三部屋借りることになった。
この宿は、前回のように酒場が併設されているということも無く、普通の宿屋のようだ。しかし、繁盛しているわけでも無く、それだけで食っていけるはずがないので、兼業だろう。宿の値段がバカ高いという可能性も無くはないけどな。まあ、そんなところはどうでもいいか。
お金を払うと、ランベルトは言った。
「じゃあ、鍵を渡すから部屋に荷物を置いてゆっくりしててくれ。俺はこのまま知り合いのところに行ってくるから、二人は好きに観光すると良い」
ミリアとメオに鍵を渡すと、ランベルトは宿の外へ出て行ってしまった。
ここに来たのって、安全がどうのって言ったけど知り合いに会いたいってのが本音だったんじゃないんですかね……。
「外を回るのは一休みしてからでいい?」
メオの問いにミリアは頷き、
「なら、少しゆっくりしたらメオの部屋に行く」
「わかったわ」
そして、二人は別々の部屋へと向かう。
借りた部屋の中に入ると、ミリアは一度ベットに座ってふぅーっと息をついた。
殺風景な部屋だ。俺は何もないほうが落ち着くからいいんだけどな。
「疲れました。明日はローが荷物を持ってくれませんか?」
ミリアは伸びをしながらそう言う。
「もちろん拒否する」
「そう言うと思ってました」
以心伝心だね(テキトウ)。
「そろそろ行こう」
メオの部屋にて、ミリアの発言である。
「んー。最後にロー様ぎゅってさせてー」
「いいですよ。ローお願いします」
初めから無理やりやらされないのはミリアなりの進歩だろうか?
俺の体からマイナスイオンでも出てるのかもしれないな。少なくとも、今まで勝手に発動してた魔法は切った。案外、そのおかげでまた抱き着かれることが無くなるかも知れない。
そんな淡い期待をしつつ、どっちみち逃げても召喚されるので大人しく幼女モードで顕現する。
光が集まり始めた時点で、メオは抱き着こうと帯び掛かってきた。
……気が早すぎやしないか。
「癒されるぅー」
駄目な感じになっているメオに張り付かれて、俺の心境は複雑だった。
多分、五分くらいはすりすりされていた。可愛い女の子に抱き着かれているというと聞こえはいいが、人形扱いなのであまりいいものではない。圧迫されて苦しいし、引っ張られて痛い。
一、二週間ほど投稿が減ると思います。




