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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
エルフの里
60/80

55.出発

前回のあらすじ

 ミリアの好感度が上がった。

おわり!


 借りている家に戻ると、いたのはメオだけで、お昼は各自で食べるように言われたらしい。二人とも、料理はほとんどできないと言って、例の堅いパンをミリアの部屋で食べた。


 俺の分? 無いよ。


 食べなくても、不自由することも無いのでいいんだけどな。俺だけ食糧の無い状況に、もう慣れた。


 二人が食べ終わって、メオが口を開く。


「そういえば、明日には報告に帰るですって」


 早いな。折角遠くまで来たんだから観光……するようなところもないけど、もう少しゆっくりしてったらいいのに。


「お父さんと私たちだけ?」


「そうよ」


 ハーフ男女は置いて行くらしい。

 あれ? それじゃあどうやって川を渡るんだ?


「なあ、ミリア」


「ぁえ!?」


 ミリアに話しかけたら、メオが驚いた。

 薄々感づいていたけど、メオは精霊の俺がいてもわかってないよな。


「これはローの声だよ」


 ミリアはメオの驚いた声に驚き目を丸くしていたのを、普段通りに戻して言った。


「あ、そ、そうなのね。ロー様もいるならいるって言ってくれたらいいのに」


 俺が悪いのだろうか?


「メオはもう少し、魔力の流れを掴む練習をした方がいいですよ。それが出来たら、ローがいる時は簡単にわかりますから」


 嘘は良くない。動いてなかったら、契約しているミリア以外は気付かないだろ。まあ多分、メオを焚き付けているんだろうけどな。


「う、うん。やってはいるのよ。でも、結構難しくて」


 やっぱりな。

 激励のつもりか、メオのその発言を聞いて一度頷くミリア。そして、話題を変えようと、俺に話しかけてくる。


「それで、ローは何の用で話しかけてきたんですか?」


「何だっけ?」


 忘れた。


「忘れないでください」


 何だっけ。……明日帰るって話までは思い出した。


「……ああ、そうだそうだ。明日はどうやって川を渡るんだ? この前は船を作っただろ?」


「そんなことですか。あれくらい、私でもできますよ」


 あれくらいかぁ。そっか。俺でも多分できるけどさ。別な渡り方があるんじゃないかと今度こそ期待してたんだけどな。ミリアができるんじゃ、同じ方法になっちゃうよね。


「ミリアはできるんだね……。てっきり、橋を通って帰るのかと思ってました」


 行くときに聞いた橋か。河口近くの村にあるらしい。


「それでもいいけど、早く帰る必要があるんじゃないの?」


 ミリアが反論した。


「それもそうよね。ランベルトさんが帰ってきたら話してみるわね」




 待つこと小一時間。ランベルトが帰ってきた。


 ――かくかくしかじか。


「橋まで行く」


 ランベルトはそう断じた。


「え、私でも船はできるよ?」


 ミリアが驚いている。

 ランベルトはミリアの頭を撫でてから言う。


「お前がすごいのはよく分かってる。でも、別に急ぐことはねぇ。ゆっくり観光がてら、帰ろうじゃねぇか」


 ミリアは一瞬拗ねたように口を尖らせたが、


「お父さんがそう言うなら」


 と言って、明日の予定が決まった。


 強行軍には変わらないが、観光先が増えることは喜ばしい。明日が楽しみだ。


 その後は、家の近くで稽古となった。


 旅先でもご苦労なこって。

 俺は寝るがな。


 そう決めて、ミリアの部屋の隅にカーペットと布団を作成し、幼女モードで眠りに就いた。





「ロー、起きてください。もう出発しますよ」


 いや、流石の俺も午後一で寝たのに、起きたのが出発寸ってのはあり得ないだろ。


「有り得なくないです。起きないなら置いて行きますね」


 マジかよ。


 精霊に戻り、ミリアの肩に乗って家を出ると、すでにランベルトとメオが荷物を持って待っていた。


「ミリア、遅いわよ」


 メオに怒られてる。


「じゃあ行くか」


 ランベルトはニッと笑って、東の方へ振り向いて歩きだした。




 森を出るのに案内役として再びCさんと歩くことになった。Cさんは森を案内して外へ出ると、さっさと帰って行った。

 行きと違って、五匹もエイリアンが出てきた。全部Cさんの魔法で真っ二つだけどな。


「こっから北東に向かって、川に当たったらそのまま川下に下っていくからな」


 だそうです。


 所々岩肌がむき出しになっている草原を歩いて行くのだが、またまた魔物や野生動物が襲い掛かってくる。オオカミやら、ライオンみたいな肉食動物とその魔物だ。


 お前ら夜行性だろうが。


 前衛がランベルトで、積極的に敵の攻撃を抑え込みつつ大剣をぶち込み、その隙を狙ってミリアが魔法でとどめを刺している。メオは周囲の安全確認で、それ以外は何かをするようには言われていない。


「ミリアさんや。敵が多くはないかえ?」


「……そんなことないですよ。最近妙に襲われなかっただけで、頻度としてはこんなものですよ」


 俺のふざけた口調のせいか、方にいる俺を見る目は蔑むような目つきだった。

 こんな頻度で襲い来る敵をいなして東の森林にやってきたミリアを想像してみた……これは嘘だな。


「普段はこんな多くねぇよ。ミリアやメオはぱっと見だと小さくて弱そうな動物だから襲われるんだろ」


 ランベルトの補足が入った。

 その理論だと、ミリアの言ったことが本当になってしまう。


「いくらミリアでも一人だときついんじゃないか?」


「この辺の魔物や動物はきついですね。村や町の近くで襲ってきたのは小動物くらいですから」


 なるほど。嘘じゃなかったようだ。

 つーか、川を渡ると敵が強くなるとか、RPGかよ。


「――だからランが襲って来た時はもうダメかと思いましたよ。ローがいなかったら生きていた自信がないです」


 犬の位置づけって一体……。


「まさか、犬を手名付けられるとは驚きですよね」


 メオが話に乗ってきた。


「今のあいつは、何つーか、野生さがまるでないよな」


 ランベルトまで乗ってきた。


「何としてでも、旅立つまでに共闘できるようにならないとですね」


 ミリアが決意を新たにした。


 ふと思ったのだが、あの黒犬には俺の好かれる魔法で結果的に仲間に出来たのだろうか?

 ミリアに聞いてみると、「そうかもしれませんね」とだけ返ってきた。





 もう暫く歩くと、川が見えてきた。お昼はとっくに過ぎていたが、危険地帯でゆっくり食べていられるわけもないので、当然の措置だ。


「川の近くって安全なのか?」


 よく考えたら危険地帯は抜けてないのだ。


「川から出て襲ってくる魔物や動物はいないので、片方向いてればいいですからね」


 背水の陣……。

 川からは襲ってこないと断言できるのか。エイリアンの件もあるし、突然そう言うやつが現れてもおかしくないとは思うのだが、今は言わぬが花だろう。俺が見張っておくことにする。


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