54.出口の用意された落とし穴
前回のあらすじ
ミリアの曾祖母のカロサにローが相手に好かれる魔法を使っていると言われ、ローはその制御に乗り出した。
おわり!
外に出たはいいものの、あまり遠くへ行くと迷ってしまいそうだ。
辺りは木々が不規則に並んでいるものの、それらの違いを意識して区別するのは難しすぎる。ところどころにあるエルフの家も、みんな似たような形で当てにならない。
地面も、落ち葉があるばかりで、どこを見てもほとんど変わりがない。
東の森林にいた時は、大体の位置が分かるような気になっていたけど、一か月以上過ごしてたからかもな。もしかしたら、エストイア様との繋がりのお陰だったのかもしれない。
いざとなったらミリアとの繋がりを辿れば、戻れるとは思うけどな。
とりあえず、近くの比較的開けた場所に陣取ることにした。
座っていて、また魔物が来ると怖いから精霊のままだ。
さてと、何から始めようか。確か、相手に好かれる魔法だっけか。
まずはそれを使うことを意識してみようと思う。魔法の使い方は分かっても、消し方なんてわからん。使えれば消せるからな。
普段魔法を使うときは意識して魔法を現象に変換させようとする。でも、ある程度できることに限りがあると気が付いていた。
俺の使える魔法の基礎は魔力操作と創造である。例外も幾つかあるけどな。
創造は、基本的には何でもありだが、仕組みの分からないものは作れない。見た目だけのものなら、俺の美的センスの許す限り、作れないものはないだろう。生きた人間は作れていないが、仮にガン○ムの仕組みを事細かく知っていたら作ることはできるってことだ。昔の葉っぱすら作れなかったころに比べて、随分と成長したもんだな。
作り出した火で燃やす、風を作る、水を作る、物を作る、物を動かす、それら全てが創造によってもたらされるものだ。
その過程で、魔力操作が必要だ。ただ魔力を消費してこうなりますようにって祈ったって何も起こらない。魔力とは実際には存在しない微粒子ようなものの集まりだ。それを変換しつつ繋げることで結果が得られる。その時の場所は選ばない。それだからこそ、遠くにいる契約者の元で現象が発生する精霊魔法が成り立つのだ。
すなわち、今回のような精神に影響を与える魔法は、その結果を与える何かを作る必要があるのだ。
混乱魔法はこう作ればいいと教えてもらったとおりに出来たもので、一種の毒のようなものだろう。それを魔力操作によって、相手のところで生成することで最終的に魔法が成立する。解除には解毒剤か、毒の破壊が必要だ。
好かれるってことは、フェロモン的なものだろうか。無意識に使ってるってのは、空気を媒体にしているのか、近くの人に直接投与しているのかどっちだろうか。……謎が多い。
化学や生物、薬学、医学に強ければ分かったかもしれないけど、生憎と俺は比較的物理派だからな。さっぱり分からん。
そういえば、“睡眠”についてミリアは耐性がないと言っていたが、改めて考えると、それって要するに薬剤耐性ってことだよな。この世界では、幼少期から毒にならすような生活をしているのか? ミリアなら有り得るけど、普通の人は無理だろう。“浄化”しても残ったほんの少しの毒なら食べる機会もあるだろうし、現代人よりも耐性があるだろうけどな。
ちなみに、“浄化”の効果は異物を隔離することにある。つまりは、詠唱魔法にはよくある「創造」と別枠の特殊な魔法だ。真似は出来ても、転用するのは難しい。壁に毒を塗った狭い密室で“浄化”を使ったら、かえって死ぬのではないかと思う。異物の範囲は詠唱で指定できる。
出来た気がする。魔力の消費を抑える方向での制御に変えたら、いつもよりも魔力の運用効率が良くなった気がしたからだ。
三十分と掛からなかったけど、楽で良かったということにしよう。
早速ミリアの元へ戻ることにする。暇だったから出てきたのだが、外は虫やら魔物やらがいるから落ち着かないんでな。
カロサさんの家に入って、顕現する。
「おかえり、早かったですね」
俺も意外だよ。
「自由に発動できるようになったのかしら?」
カロサさんに尋ねられたので、色々試して、最終的に魔力制御で抑え込んだと説明した。
「分からないままなの、残念ね」
本当に残念そうにしているカロサさん。
そんなにこの魔法が知りたいのか、このスケベさんめ――冗談だ。
「ミリア、お昼にはいったん帰るのか?」
「そうですね、あまり長居するのも良くないですね」
昼まであと一時間もない。お茶をもらってゆっくりするとしよう。
「それじゃあ二人とも、気を付けてお帰り」
「「はい」」
俺も人数に入ってるので返事したけど、すっごい違和感ある。人間でないことに慣れてきてしまったな。
ミリアが足を通路の縁から下ろしたので、縄梯子を下りるのかと思いきや、手で体を押し出して飛び降りた。高さ五メートルはあんですが。
着地前に地面の葉っぱが巻き上がり、ふわっと着地していたので、多分何か魔法を使ったのだろう。あいつの方が人間じゃない。……ハーフエルフか。
俺はそんなことはせずに(スカートだからとかそういうんじゃなく)一度精霊に戻ってからミリアのところへ行く。
ミリアはカロサさんに一度手を振ると、東へ向けて歩き出した。
暫く歩いてカロサさんの家が見えなくなったころ、ミリアは俺に話しかけてきた。
「ローがそんな魔法を使ってるとは思いませんでした。失望です」
ニヤニヤしてるし、冗談だよね?
「無意識だったみたいだからな。やりたくてやってたわけじゃないぞ」
「分かってますよ」
そういうミリアの顔は、真面目なものになっている。
「ただ、ローと仲良くしてたのが、ローの魔法で操作されてたものだったんじゃないかって不安になったんですよ」
そんな、思春期じゃあるまいし……あれ?俺まで不安になってきた。
その気持ちが伝わったのか、ミリアはフフッと笑った。
「大丈夫ですよ。カロサお祖母ちゃんに言われました。その魔法はそこまで強くないそうですよ。何となく嫌いになり難いってだけだから、そもそもずっと一緒にいられるくらい仲がいいなら、それは魔法なんかじゃなくて、互いに認め合ってるからだって。嫌いだったのを無理やり好きにさせられたんでもなく、初対面からずっと一緒にいたんだから、それは仲のいい友達とそんなに変わらないって」
ミリアの言葉は上手くまとまっていなくて、伝えたいことが曖昧だったけど、それでも俺には伝わった。
「……ミリア」
「なんですか?」
「ありがとうな」
ミリアはまた可愛らしく笑ってから言う。
「ローがお礼を言うなんて、バカみたいですね」
今回、書くことは決まってたんだけど、難しかった。
いい表現が思いついたら、ちょくちょく修正するかも。




