53.特殊な能力
前回のあらすじ
ミリアの祖父母の家に行ったら、お菓子を出されたので幼女に顕現した。
おわり!
ミリアの曾祖母ことカロサさんは俺が顕現したのを見るなり、
「あら、可愛らしい。それなら、もう一つカップを用意しなくちゃね」
そう言いながら立ち上がり、もう一つ白いカップを持ってきてポットに”お湯”と粉を一匙入れて持ってくる。そして、お茶を注ぎ、ミリアの左側にちゃっかり座る俺の前にカップを差し出した。
「冷めないうちにどうぞ」
なんか二度手間になってしまって申し訳ないと思ったり思わなかったりしつつ、
「いただきます」
と挨拶をして、カップに手を伸ばす。装飾が何もないシンプルで真っ白なそのカップは、シンプルが故の機能美が備わっていて俺好みだ。
そうしてカップを眺めている間に、さっさとお菓子に手を伸ばすミリアが目に入った。
俺も眺めていないで早く飲もうと思い、お茶を一口飲む。
お茶の味も、ミリアの説明通りほとんど緑茶であった。しかし、どこか緑茶とは違う苦みのようであった。渋みとも違い……辛み?なのかもしれない。体がポカポカすると言っていたのを思い出したからだ。ポカポカする実感はまだないが、辛みなら体を温める成分が入っていてもおかしくはない。
「美味しいお茶ですね」
いつの間にかお茶まで飲んでいるミリアが、カロサさんに向かって言う。
「私はあまりお茶を入れるのが得意じゃないのよ。本当はお湯の温度やらなんやらあるの。でも、いっつも曖昧にやっちゃう」
そうお茶目にいうカロサさん。
「でも、お母さんの出すお茶より美味しいです」
「そう? ありがとう」
そんな二人の会話に耳を傾けつつ、俺はその白と緑色のせんべい的な物に手を伸ばす。それは直径三センチほどで、エビせんのエビの代わりに何かしらの野菜が入っているような見た目だ。
半分だけパリッと齧る。塩味だが、しょっぱすぎない。普通のせんべいよりも強い甘みを感じる。そして、中の野菜――ハーブのいい香りがはじける。なんとも言い難い味わいだ。正直言ってあまり好きではない。
しかし、残すのは俺の信条に反するので、残り半分も口に入れる。そしてすぐに、お茶で流し込もうとカップを傾けた。
そこで気が付いた。このせんべいとお茶は併せて一つなのだと。あくまでお茶を引き立てるためのお菓子なのだと。
ミリアが、俺の見た限り家事に対してまめなムルアの出したお茶よりも、このお茶の方がおいしいと言ったのも頷ける。これだけお茶の味を引き立たせてくれるものがあれば、適当な入れ方をしてしまったはずのお茶の方がおいしく感じてしまうのも仕方がないだろう。
「……おいしい」
自然とそんな言葉も漏れだした。
それが聞こえたのか、カロサさんは目を一度こちらに向けて微笑んだ。それから、また他愛のない話をミリアと続ける。
うむ。お菓子は先に食べるものだったか。少し失敗したな。
そうして、お菓子とお茶のおかわりを遠慮なく頂きながら、緩やかに時は流れていった。
いくらおいしいお茶、お菓子があると言えども、三時間もいれば飽きる。積極的に会話にかかわらないようにしていたので尚更だ。
かと言って、何も言わずに適当に歩き回ったりするのも子供っぽいので遠慮して、話を聞くわけでもなく、正面の壁をぼーっと眺めていた。
「ロー、遊んできてもいいですよ」
いつの間にか俺の耳元に口を寄せたミリアが、小声でそう言ってきた。
完全に子ども扱いされている。誠に遺憾である。
だが、好機であることに変わりはない。遠慮なく退席させてもらおう。
そう思って、立ち上がろうと椅子の端を掴んだら、
「まあ、少しお待ち。ローさんにも聞きたいことがあるんだよ」
俺に? エルフは精霊と契約してないのか? いや、Cさんは使ってたな。
「ローなんかまだ一年にも満たない経験不足ですよ?」
ミリアよ。事実だが、その言い方はムカつく。
「そうなのかい? それは驚きだわ」
カロサさんは本当に驚いた表情をしている。
どういう意味でだろうか。私、気になります。
俺がカロサさんを見つめていると、にこやかな顔を解いて、真面目な顔で話し出した。
「そんな顔しなさんな。お前さんが使っている魔法のことだよ。わたしゃ魔法に関する知識は誰にも負けないつもりだったんだけどね、それは生まれてこの方見たことがないわ。他の精霊さんたちもそれは使っているのは見たことがないのよね」
手のひらを出して、カロサさんにストップを呼び掛ける。
ちょっとたんま。この家に来てから、俺なんか魔法使ったっけ?
ミリアの方を向くが、フルフルと首を振り返してきた。
「魔法、何か使ってましたか?」
カロサさんが目を見開いて、まばたきすること数回。
「使ってる自覚が無いのかしら」
独り言のようにつぶやく。
「使ってないと思いますけど」
そして、その独り言に返答する。
カロサさんは一呼吸おき、もう一度話始める。
「何と言うか、ローさんは相手に好かれる魔法のようなものを出しているように見えるわ。もしかしたら、魔法なんてものじゃないかもしれないわ。けれど、そこには明らかに魔力が絡んで見えるの。本当は、どうやってできてるのか教えて欲しかったんだけれど……自覚が無いんじゃ教えられないわね」
どゆこと?
思い返してみると、身に覚えがないことも無い。一人旅の旅先だというのに油断しきっているハルト。あからさまに怪しい子供であった俺を優しくトイレまで連れてってくれた宿屋の女将さん。そして無駄に懐いてくるガキども。
単に、可愛い幼女だったからだと思ってたんだけど、カロサさんの言うことが本当なら、それらに説明が付く。
オンオフの切り替えが出来ればもっと便利なんだがな。
ミリアも何やら思い出したような顔をしているから、俺と同じことを考えているのだろう。
「何か、他に分かることは無いですか?」
オンオフの切り替えするためのヒントが欲しいので、尋ねてみた。
「ローさんも、他の魔法は使ったことあるわよね? 魔法だとしたら、それと同じく制御できるはずよ。精霊さんは、想像と理屈が魔法を形作るんでしょう?」
魔法だとしたら、ねぇ。
相手に好かれるってことは、相手の精神に及ぼす魔法だから、混乱魔法と似たようなものだろう。しかし、これはクイに教えてもらったもののほとんどそのままだから、なぜ精神に作用させられるのかよく分かってないのだ。不快感を与える、好感を与えると言い換えればほとんど同じかもしれない。
だが、すぐには無理そうなので、外に行ったらゆっくりと練習してみよう。
カロサさんにそう伝えると、
「効果が出てるかわからなかったら、またここに来てみてね」
とのことだった。
ミリアはまだカロサさんと話足りないようなので放っておいて、俺は精霊に戻り家の外に出た。
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