52.ミリアの曾祖母
前回のあらすじ
ミリアと軽い喧嘩をして、頭を冷やしに空中散歩に出た。
おわり!
北東からやってきたのに東に海があるってことは、この辺りの海岸は「く」の字型の湾状になってるってことなのかなぁ。
そんなことを考えて、東の二つの太陽を眺めながら南に飛び続けていると、まるで森に穴が開いたかのように何か所も木が消えていいる場所に辿り着く。
例の、怪奇現象ポイントだ。
この程度のことが、魔法のある世界で騒ぎになるようなことなのかと不思議に思ったが、長生きなエルフや、調査隊に選ばれた聡明なはずのハーフ男女をもってしても解明できていないというのが答えの一つだろう。
それに、エイリアンこと、今まで存在していなかった微生物の魔物の大量発生が無関係なわけがない。それも加味すると、この現象の恐ろしさが際立つものだ。
この二つが関連しているというのであれば、空間を飲み込むような今までに無かった魔法によって、今まで存在しなかった魔物が生まれた。もしくはその逆に、存在しえなかった魔物を作るための魔法によって、空間が呑み込まれたということだからな。
原因を考えるのは俺の仕事ではないので、放っておこう。
――ただの思考停止である。
ん?
俺の視界の隅、森に空いた穴に人影があることに気が付く。
誰かが調査に来ているようだ。目を凝らしてみるが、その人の短い黒髪には長い耳は見当たらない。かと言って、黒い鎧を着ているわけではないから、ランベルトではない。
暫く見ていると、近くにもう一人いることに気が付いた。そちらは長い青色の髪を後ろで二つに縛った女の子のようだ。女の子だと思った理由が可愛らしいリボンで髪を縛っているからでしかないので、一概に女の子とは言えない気もする。
もしかしたら、エルフが人間にも救援を出していたのかもしれない。
そう思って、別に気にすることなく、俺はミリア達のいる家に戻ることにした。
「遅いですよ、ロー」
ミリアの借りている部屋に行くなり怒られた。
遅いって言われてもな。
「今日帰るんだっけ?」
ミリアはいつもの呆れ顔になった。
「違いますよ。ひいお祖母ちゃんに会いに行くって言ったじゃないですか」
言ってたっけ? 会わないのかって話はしたけども。
「今朝やってきた人にひいお祖母ちゃんについて聞いたら、話を通しておくからって言って、家の場所を教えてもらったんです」
なるほど。
「一人で行ったらよかったんじゃ?」
「それじゃ、折角精霊と契約したのに、自慢できないじゃないですか」
そういう事かい。
そんなわけで、家を出てミリアのお祖母ちゃんの家がある場所へ向かう。一応義理の孫であるはずのランベルトは行かないと言ったそうだから、俺をとミリアの二人だけだ。
どうやら、比較的西にある筈のここよりもさらに西にあるらしく、ひたすらにミリアが自分で書いたと思しきメモとにらめっこしている。
「多分ここです」
ミリアは徐に立ち止まり、一本の大木の上にある家を指さす。
ここか……他とそんなに変わらんな。
ミリアが来ることを伝えてあったからか、その家の外の通路からは縄梯子が垂れている。俺知ってる。これ結構上りずらいやつ。
「ロー、ちょっと下のところ引っ張って抑えててください」
「ほい」
すぐに顕現しようとして、考え直す。
少し重くないと、抑えられないよな。
なので、幼女(成人版)で顕現する。幼女なのに成人とはこれいかに。
見た目はほとんどそのままに、身長が大きく、顔が大人びている。初めてだが、余裕の成功だ。
「……やっぱりいいです」
そう不機嫌そうに言って、俺が抑える前にミリアは上り始めた。
ミリアには断られたが、両足で地面についている縄を抑えて、手でも下に引っ張る。
「やらなくていいって言ってるのに……」
不満げにそう言いつつも、抑えてからは楽そうに上っていくミリアだった。
自分より年下だからと、わざわざ幼女で作った体を勝手に大人版にされてムカついたのだろう。そんなミリアの後ろ姿というか、下から見た姿を温かい目で見つめておいた。
……尻なんて見てないぞ。
ミリアが昇りきったのを見届けて精霊に戻り、俺が肩に来たのを認めたミリアはドアをノックした。
「こんにちは。カロサさん、いませんか?」
名前はカロサっていうのか。みんな名前だけは日本語じゃないから、よく分からん。
ミリアの声に対し、部屋の中から足音が近づいてくる。
――ガチャ
「いらっしゃい。お名前を聞いてもよろしいかしら?」
出てきたのは、一人のマダムだった。エルフらしい真っ白な透き通る肌を維持しつつも、加齢には耐えられずにしわが刻まれている。髪の色はミリアの家族たちと違い、黄色味の強い金髪だ。
髪と肌の色を除けば娘であるはずのガリルとそっくりである。
「えっと、ガリルの孫のミリアです。そして、こっちが精霊のローです」
俺は今精神体なので肩に乗っているだけだが、自慢するためか、当然のように紹介する。
「やっぱりあなたがムルアの娘ちゃんなのね。ムルアを最後に見たころはまだあなたより小さい子供だったのに、本当にもう娘を持ったのね。来てくれて嬉しいわ。さあどうぞ中に入って。お茶でも飲みながらお話ししましょう」
「お邪魔しまーす」
「……しつれーしまーす」
カロサさんに連れられて家の中に元気よく入るミリアと一緒に入りながら、小声で一応挨拶しておく。俺にとっては他人の家でしかないので、一度もあった事のない親戚の家に連れてこられたみたいな気分だ。
中は一部屋だけで、壁の隅々にベッドや棚、ツボなどがおかれており、RPGのモブ家のようだ。ツボ覗きたい。中央にはテーブルと椅子が用意しており、そこにミリアを座らせた。
しかし、奇しくもお茶が見れるようでラッキーだ。さて、どんなもんか観察しておこう。
カロサさんは棚から二つ白磁のカップを取って、テーブルに一度並べる。それから、ポットを取って、俺の知らない“お湯”という魔法を当然のように使う。それによってポットにたまったお湯の中に、棚の横にある蓋付きの小鉢から、茶色い粉を小匙で二杯入れテーブルに置いた。
ここまでミリアから聞いた「お茶」の説明通りだ。
「もう少し待ってね。お茶はもうすぐできるから」
そう言いながら、別の棚へと向かい、箱を取り出して、深めの木皿と一緒に持ってくる。そして、ポットを軽く揺らして二つのカップにお茶を注いだ。
「さあどうぞ。こっちのお菓子も召し上がれ」
そう言って、見た感じ薄くて白く、緑色のほうれん草のような何かが混ざったせんべいのようなお菓子を木皿に入れてこちらによこした。
「ローさんもどうぞ」
俺が食べたいと思う前に言われた。ミリアの曾祖母とは言っても俺の心を読めるはずはないから、精霊が好むお菓子ってことなのかな?
そう思って、俺は幼女ボディで顕現した。




