51.饒舌と不機嫌
前回のあらすじ
ミリアの魔法によって眠らされた翌朝、メオを起こし、おっさんに寝起きバズーカしようとして止められた。
おわり!
「そもそも、寝てるお父さんにイタズラしたら、体が真っ二つになるかもしれませんよ」
何それ怖い。
ミリアと共に、寝起きバズーカを諦めて部屋に戻ったときに言われた。
冒険者だから、外出先で寝込みを襲われると、危険を察知して体が動くという事らしい。冒険者は人間をやめている……?
「お父さんは特別です。なんと二級の冒険者なんですよ」
二級ってすごいのか? 師範八段とか言われたら分かりやすいけど、自慢するくらいだからな。
「上から二番目ってことでいいのか?」
「はい」
普通に考えれば、最強の一歩手前ってことだろう。しかし案外、冒険者らしい人ほど階級が高いとかもあり得る。
「一級ってどのくらい凄いんだ?」
「一対一でなら、勝てない魔物はいないって話ですね。魔物の中で最強と言われているのは空想上の存在を除けば、合成獣と呼ばれる二体以上の動物が合体して魔物になってしまったものですね。その中でも、歴史上に残り最も強いとされるのが、たった一匹の鷲の魔物です。だけど、それは見た目の話であって、そこには精霊の体が宿っていたそうで、空を縦横無尽に駆け回って敵を翻弄しながら、数々の魔法を放ち、決して敵を寄せ付けなかったそうなんです。それが原因となって、今では「無尽魔法の鷹」なんて呼ばれているんですよ。精霊が宿っているというのは現在の通説であって他にも諸説あるのですけど、その中にはそもそもそんな魔物はいなくて、ただの噂話だっていうのもあるんですよ。実際に、最初に発見されたときはデマだとしか思われていなかったそうで、ただ大きいだけの鷹の魔物に何を恐れるのかと、とある国で一番強い人が倒しに行ったんですよ。だけど、その人は魔法があまり得意ではなかったので、飛び回りつつもきわどい攻撃を繰り出す鷹に一切の手傷を負わせることが出来ずに――」
ミリアがすごく興奮していらっしゃる。きっとこういう話が好きなんだろうなと思う。どうせ相槌を打ってもいなくても気づかないので、適当に話半分に聞いて流す。
「――そうしてやっとのことで打ち取ったのですが、いくらなんでも一匹の魔物で国が亡びるわけがないってたまに言われるんですよね。そのせいか、噂説を信じる人が増えてきて、精霊説が薄れてきているんですよね。全く嘆かわしいことです。ローはどう思います? 精霊の立場として何か言える事は無いですか?」
まさか質問されると思ってなかった。
「ごめん、途中から聞いてない」
「えっ!? もう。人に聞いておいてその態度はひどいじゃないですか」
そんなことまで聞いてないので、怒られても困る。冒険者の強さについて尋ねただけだ。
「あーれ? そうでしたっけ?」
首をひねって記憶を掘り起こそうとしているが、忘れているようだ。
「まあいいですよ。次からはちゃんと聞いてください」
だから、別に俺のせいではないのだが。
っていうか、次があるの? 勘弁してほしいんだけど。
結局、一級ってのはその伝説になりかけの鷹の魔物と互角か、それ以上に戦える人間ってことのようだ。
そいつは生まれたての精霊である俺よりも自在に魔法を使うだろうから、俺は一級冒険者相手では本気をだしても手も足も出せない可能性があるってことだな。
やべぇな。寝起きバズーカしてたら、本当に殺されてたかもしれない。
「ちなみに、ミリアは冒険者で言うとどれくらいだ?」
ミリアは「んん」と唸って暫く考えてから答えを出した。
「四級ですかね」
四級か。ミリアの上にも三段階あるのか。
「精霊魔法を駆使して戦えるようになったら、三級になる自信はあります」
俺が加勢してもその程度か。悲しい。
でも話が本当なら、おっさんが強すぎんだよな。みりあがランベルトが生きていると信じて疑わなかった理由がよく分かった。
それからすぐに、いつまでも部屋から出てこないミリアを呼びにメオがやってきた。
メオは既に顔が切り替わっており、朝とは違ってしゃっきりしている。
「ミリアー、遅いよ。私のこと起こしておいて、何をしてるの?」
「ごめんごめん。なんかローがうるさいから」
ナチュラルに俺のせいにしていやがる。
「ロー様、昨日はありがとうございます。おかげでぐっすり眠れましたよー」
頬に手を当ててうっとりした表情でメオは言う。
全く目を覚まさないという意味では俺もぐっすりだったが、お陰で寝た気がしない。
「それは良かったな」
皮肉を込めてぶっきらぼうに返す。
それにメオは怯えて、
「わ、私は悪くないですよ」
早口にそう言った。俺のお仕置きの話をメオにもしてあるのだろうか。
元々ミリアが悪いのだし、少し可哀そうなので赦してあげようと口を開きかけたところで、
「そうですよ、悪いのは”睡眠”に耐性の無いローの方ですから」
死にたいらしいな。
「おっと、今のローでは私には勝てませんよ」
そう言ってきたミリアと睨みあいになる。
今回は俺にミリアに対する貸しは無い。しかし、悔しいことに”睡眠”がある以上、俺の勝ち目は薄い。
つい、覚えてろよって言いそうになった。
危うく、一生勝てないフラグを立てるところだったぜ。
「まあまあ、二人とも落ち着いてください」
メオが仲裁に入った。負けを認める前だったのでありがたい。でも、ミリアにはバレてるか……。しかし、言ってないからセーフだ。
ミリアは勝ち誇った顔で、
「メオに免じて立ち向かって来ようとした事、赦してあげますよ」
などと言い放つ。
くっそ、ミリアのくせに……。
どうやら、すこし冷静さに欠けていたようだ。
あの後、一人になるために、精霊に戻って森の上をゆっくり飛んでいる。森の中でないのは、虫やエイリアンがいるからである。
いつもなら、大人の寛大な心でスルーしたはずだが、魔法での睡眠はかなり屈辱的であった。それは、起きてから意識的に感じたものではなく、魔法の特性によるものだろう。あれは、意識を奪うものではなく、意識を押さえつけるものであった。それが故に、イライラしてしまっていた。
未だ下には、エルフが作った里によって気が疎らになっている場所が見える。その広さは中々のものだ。ハーフエルフの村よりも幾分か広いだろう。
それ以上にとてつもなく森は広い。飛び上がった時点で、南と西の方の果てが見えず、北側はかろうじて端が見えており、東には広大な海による水平線が見える。海の水面には太陽が浮かんでいて、二つに増えた日差しに照りつけていてとても眩しい。それと同時に、今まで見たことのない不思議にな光景にキレイだなと感動していた。
今更だけど、鳥みたいな顔の魔物と、バレーボールくらいの大きさの茶色くて丸いエイリアンはミジンコのことです。
分かった人っているんですかね。




