50.役得とはよく言ったものだ。全く嬉しくない。
前回のあらすじ
疲れたので雑談してました。
おわり!
気が付くと、ミリアがブーツを脱いでベッドに横にり、目を閉じていた。毎日トレーニングをしているとは言え、知らない場所ばかり歩いていたから、疲れが溜まっていたのだろうか。
うーん、ブーツを脱ぐ瞬間を見逃した。いっつも一緒にいるのに一度も見れてないぞ。おかしいな。
見たいと思ったのも初めてだけどな。
「ミリア生きてるかー?」
無言で手のひらを振って無事を伝えてきた。
ダメっぽいな。
そういえば、メオは大丈夫だろうか。ミリアでさえ疲れているんだ、メオは本当に死んでいるかもしれない。
ボフッと幼女に変身して、行ってきま――、
「ちょっと待つ!」
ミリアがガバッと起き上がった。
「メオのところへ行くなら私も行きます。ロー一人で行かれたら、私がへばってると思われるじゃないですか」
事実だけどな。
「それでもです」
ミリアにもプライドってやつがあったんだな。急いで靴を履いて追いかけてくる。ブーツではなく、普段履いている普通の革靴だ。
俺はコンコンとノックをして――、
「メオ、大丈夫ですか? 遊びに来ましたよ」
と言う。……ミリアが。
……ミリアは遊びに来たんだね。
「はーい」
大分間の抜けた声が聞こえてきた。やはり疲れているのだな。
しまった。手土産がない。遊びに行く友達もないのに、母から「友達の家に行くときはお菓子くらい持って行きな」って言われたのを思い出した。悲しい。
とはいえ、ちょっと様子が見たかっただけなので問題ない。すでにミリアが入り込んでいる。俺もそれに倣って部屋に入り、ドアを閉める。
メオはベッドに腰かけてミリアに手を振っていた。靴は脱いでいる。
俺が入って来たのに気が付くと、
「あ、ロー様だ。こっちおいで」
そう言って、手でこちらに来いとジェスチャーする。
特に何も考えずに近寄ると、メオは突然立ち上がりながら飛びついてきた。
「あぁあ、癒されるぅー」
駄目な人の声だ。頬っぺたすりすりしながら、逃げないようにがっちりホールドしてくる。地味に痛い。
ずっとお嬢様みたいなキャラだったから、最初に出会ったときのことを忘れていた。メオはこういうやつだった。
「痛い痛い。放して」
「だめです。折角会ったんですから、私を癒しきるまではこのままです」
ミリアに助けを求める視線を送る。
「……」
微笑とサムズアップが返ってきた。
そんなもんはいらん。なんでサムズアップが有んねんて聞きたいけど今は関係ない。
最終手段。強制離脱。
体を消して瞬時再生の流れ。魔法練習の合間にやってたので、今ではほとんど瞬間移動である。二メートルくらいしか動けないという欠点から目をそらせば、かなり有能だ。
逃げた俺を恨めしそうに見てくるメオ。
「癒しが足りません。癒しがぁ」
もうなんか亡者みたいになってんぞ。怖いんだけど。
俺が後ずさりをしていると、突然俺の頭に何かがおかれる。
「え?」
メオは目の前にいるから、犯人はミリアだ。
「ちょ、ミリア今は止め「”睡眠”」」
急に視界が真っ白になる。そして、それと同時に急激に意識が落ちて行った。
……苦しい。何かに締め付けられている感じがする。
目を開けると、見えたのは木の壁だった。木目が美しい。
って、そうじゃない。
辺りを見渡そうとしたが、首が動かない。目の動く範囲で見てみると、何かに掴まれていることだけは分かった。
そこでようやく思い出す。
そうか、ミリアに”睡眠”って魔法をかけられたんだ。つまり今、メオに抱き枕にされて寝ているということか。
この状況を楽しむにも、動くのは足ぐらいだ。これ以上このままでいても痛いだけで得は無いので、さっさと強制離脱を行う。
どさっとメオの腕が落ちる音がした。寝てるから痛くないよね?
少なくとも起きることは無いので、問題はないようだ。耳はぴくっと動いたけどな。
昨日と服装は変わっていないので、浄化しただけでそのまま寝たのだろう。この世界だと普通だからみんな気にしないけど、服を数日着まわしてるって美少女だからいいけど、おっさんは臭そう。匂いもとれるから臭いわけないんだけどね。
ミリアの部屋へ行くと、ミリアは既に起きていた。
「起きましたかロー。今起こしに行こうと思ってたところです。今日は早起きなんですね」
ミリアはそう言って、途中まで片付けていた荷物をしまっている。服を着替えてあるから、出したものを整理してたのだろう。
ちゃっかり皮肉を混ぜるんじゃない。
「ミリアのせいで変に寝させられたから起きたんだよ」
実際はまあ、抱きつきが痛かったからだけど。
「そうですか。それは災難でしたね」
しらを切ってやがる。しかし、別に怒るようなことでもないので、スルーする。
「ローは”睡眠”に抵抗無いんですね」
自分から言い出しやがった。隠すなら隠せよ。
睡眠に関しては抗う必要がないからなぁ。だけど、ミリアがそれを弱点と見て頻発されたら勝ち目がなくなるので、今後の課題なのかもしれない。
「今度模擬戦をしたら私の圧勝ですね」
うっ、もう好きに言ってろ。
ミリアは荷物を片付け終えると、
「じゃあ、メオを起こしに行きますよ」
そう言って俺の手を掴んで、連れて行く。まだ行くとは言っていない。
……行くけど。
今回はノックなしで入る。
ガチャっとドアノブをひねって入る。
布団の前まで引っ張られて、ミリアは俺を離してメオを起こしにかかる。俺は、奇襲を警戒して、いつでも強制離脱できるようにしておく。
「メオ、朝ですよ。起きてください」
毎日のように俺を起こしに来てるだけあって、起こし方が手馴れている。ぱっと見では、体を揺すっているだけだが。
「んん。なにぃミリア」
「朝ですよ。起きてください」
「あ、朝。おはよう、ミリア」
「おはよう」
そう言って微笑みあう二人。メオの顔はとろんとしていて可愛い。
「あ、ロー様もいる―。おはよー」
「おはよう、メオ」
凄くふにゃふにゃしてる。昨日といい、この様子だとメオは朝に弱いようだ。おかげで、警戒していて損したよ。
次はランベルトだ。寝起きバズーカしたい。
「お父さんはもう起きてると思いますよ。冒険者は早朝すぐに起きて動けるようにするのが普通ですから」
寝起きバズーカは見送りになった。残念だ。
筆が乗る……手がよく動く?のに中身がない。
悲しい現象だ。




