42.なぁにやってるんですかねぇ
前回のあらすじ
ミリアに抱き着かれて悶々として、ランポさんがお茶目した後、花火を一発あげた。
おわり!
花火を終えて、細々とした精霊魔法の練習だけをして、午前中は早めにお開きになった。
そもそも、今日中に出来るようにならない可能性もあったのだ。そのため、明日までに今日やったことができたらいいなって感じだったらしい。
それはまあよろしいことで。
「もう少しここにいるから、ミリア達は先に帰ってていいよ」
俺がそう言うと、ミリアは俺を訝しげなジト目で見てくる。
嘘だとばれてる感があるな。
「まあいいですよ。何を企んでいるのか知りませんが、他の人に迷惑をかけることは止めてください」
そう言って、去って行った。
このテンプレがこの世界にもあるのかと驚いた。
さて、なぜ俺がわざわざ一人になったのか、もちろん理由がある。
最近は人間体でいることが多かった。戻った記憶があまりない。その為か、色々な欲求が出てくるのだ。
人間の三大欲求と言えば食欲、睡眠欲、性欲だ。この下に確か、生存欲とか社会的欲求とかあった気がするけど、三つ上げた時点で察してほしい。最初二つは満たされているんだ。
……後は言わなくてもわかるだろう?
以前、ムルアに抱きしめられた時はやばかった。しかし、その時は精霊体に戻ったことで冷静な状態にリセットされたのだ。これは、あくまでも体自体が欲求を出しているのであって、俺の本質には関係がないと言うことの証明になるだろう。
つまり、今精霊体に戻ると忘れていたこの欲求を無に帰すことになる。
今回はミリアのおかげで思い出すことができた。そのおかげで、いつでもチャンスはあると言えるかもしれない。しかし、思い出してほしいのだ。お腹がとても空いている時に食べた食事を、テスト勉強やら仕事やらで夜遅くなった時に布団に沈み込む感覚を。あれほどに素晴らしい感覚は中々に無い。暇を愛する俺としても、それは変えようの無い真実だ。
すなわち、欲求とは、高めれば高めるほど、最終的に得られる満足感は大きくなるのだ。
ところで、俺は我慢が苦手な人間である。そうでなければフリーターなんぞにならず、大学を出て、それなりの会社に勤め、それなりの生活をしていただろう。
故に、思い出してしまった以上、我慢するのは難しいのだ。精霊体に戻っても、興味が勝って、早々と人気のないところへと向かうだろう。しかし、そこで得られる満足はそれなりなのだ。無意識にこれほどまでに高められていると言う最大のチャンスを、逃してしまっていいのだろうか。
子供達にはお終いだから早く帰れと伝えた。まだ残ってるんだからやるんだろ?などと、うざい奴(もちろんあいつのことだ)もいたが。
しかし、問題はある。場所だ。
この村に来て二週間とは言え、まだあまり詳しくはない。
そこで有名なアレを思い出した。
……マジックミラーって知ってるか?
片面を暗くして、もう片方を明るくすると、明るいほうからはただの鏡にしか見えないが、暗い方からは外が見える鏡のことだ。日中にそれで囲った中に隠れていれば、外を窺いつつ、中の様子は見えない鉄壁な要塞だ。
この中に入っていれば、また何かをしていると思われても、ナニかしているとは思われないだろう。
今は魔法があるのだ。それならば、マジックミラーとは違って、ただ一方向からしか見えない壁にもできるのだ。鏡なら怪しまれても、壁ならばそもそも気づかないまである。
布団だって作れるから何も問題はない。
俺は勝利を確信して、修練場の外の端に壁を作り、お昼まで籠ることにした。
……結果は失敗だったかもしれない。
誤算があった。俺は今、幼女だったのだ。体に不釣り合いな胸のせいで忘れていた。つまり、身体的に未成熟である。くすぐったいか、もしくは痛い以上の感覚にはならなかった。
それならば何故、欲求が出たのか。それは俺の記憶から起因した現象だったと考えるしかないだろう。
そもそも、文明の発達が遅いと思われるこの世界で、ハーフエルフとしてのミリアはまだ未成年である。そして、俺の体はミリアがデザインして作ったものだ。その意味を考えれば自ずと答えは出る。
ミリアはまだ身体的に子供なのだ。だから、その手の感覚に疎いのだろう。
俺は一度精神体に戻り、冷静になることにした。
感情的になると、ロクなことはない。
そのことを、久しぶりに思い出すことができた。
人間体に戻っても、虚しさしか得られないことは分かっていたので、俺は大人しく家に戻ることにした。
大人の女性体も少し頑張れば今の俺なら作れるだろう。
しかし、それは見かけだけの偽物だ。本物の感覚は得られない。
ミリアが心身ともに大人になることを心待ちにしながら、俺は家に到着し、幼女に変身してから不貞寝することにした。
翌日はいつも通りやってきた。昼前に寝たから、何時間寝てんねんって感じだが、最近はいつもそんな感じなので気にしない。
起こしていったミリアも、もう出かけてしまった。
窓からこぼれる陽気が気持ちいい。
ふと、前世と同じ感覚で、たまには布団を干したいなと思った。汗などはかいていないはずなので、浄化すらしなくても不潔であるはずは無いが、唐突に気になるのはよくあることだ。
ついでに言えば、お日様の香りがする布団は、また格別なのだ。
……とある事実が存在する。お日様の香りは汗や皮脂が分解されてできるものなのだ……。
そんなことは露知らず、俺はムルアの元へ向かい、布団を干しても良いか尋ねる。
「布団を干す……? うーん、良いけど……食べたりしないでね?」
不思議な物を見る目で見られてしまった。
そういえば、魔法で浄化と乾燥ができるこの世界で、少なくともハーフエルフは食べ物以外を干すことはない。何か勘違いをされてしまったようだ。
体が小さいせいで、持って運ぶのがつらかったので、途中から魔法で布団を浮かせて外へ持ち出した。
照り付ける陽光は優しく、絶好の布団干し日和と言えよう。
そのことで上機嫌な俺は、当然ほす場所がないので、地面から石の柵を隆起させ、磨いてつるつるにした後、一応浄化もして布団を掛ける。
二時間くらいしたらひっくり返しに来よう。
満足げにそんなことを考えて、今日は外の散歩でもしようと決めたのだった。
一度しっかりと、魔法を使ってひっくり返して、再び散歩に行ってお昼前に帰ってきた。
そろそろいいだろう。
そう思って、布団に抱き着いてみた。ふわふわしてて温かい。しかし、何かが足りない。
寝転がってないからだろうと決めつけて、布団を一度部屋に運び込むことにする。気分がいいので、歩きながら鼻歌を歌っていた。
鼻歌歌いながら、空飛ぶ布団の後を追いかける幼女の姿は、さぞかし滑稽であっただろう。
事実、その光景を目撃したムルアは、いつものような微笑ではなく、吹き出して笑ってしまっていた。
それも知らない俺は、部屋へ戻り、布団を敷く。由緒正しき儀式に則り、布団へのダイブを実行する。
ボフンッ
……お日様の香りがしない……
その日は一日中悩んだ末、異世界だからだと決めつけ、諦めることとなったのだった。
この次の閑話でこの章は終わりです。(予定)
と言うわけで、感想が欲しいです。
これやる意味あんの?
頭おかしいんとちゃう?
変に理屈こねてるけど、~~の辺りのことって考えてあるの? ←重要:矛盾があると困る
みたいな質問も待ってます。
※魔方陣は無いはずだったので考えていない模様。全ては衛生観念のため




