41.花火……見たかった
前回のあらすじ
ミリアは初めての精霊魔法を成功させた。
おわり!
初めての精霊魔法を成功させたミリアと俺は大いに喜んだ。
「すごいです! ”点火”であれだけの炎になるなんて。あれじゃむしろ火はつけられないです」
ミリアは喜びすぎて意味が分からないことを口走っていた。
そういう俺も、つい立ち上がってしまって、飛びついてきたミリアに再び押し倒されていた。座布団がなければ死んでいた。
でもこういった攻めは嫌いじゃない。いい匂いがして、一応動いている心臓がドキドキする。
しかし、そういった問題でもない。
「ミリア、喜ぶのが早すぎるんじゃないのか?」
「何言っているんですか、いくら近くにいるって言っても、何度も練習してやっと出来ることですよ」
ミリアはそう言っている。嘘だろ。めっちゃ簡単にできたやん。
俺は何とか首を動かして、疑わしげな視線をランポさんに向ける。
「ミリアちゃんの言う通りですよ。私自身も、初めは何度も失敗して漸く成功したのですから」
本当らしい。ミリアの天才さは格が違った。
ふと思い出したのだが、ミリアが過剰に恐れていたやつがいたな。もちろん、今は可愛らしいペットになっている黒犬のランのことだ。
え、あいつって少し前ではあるもののミリア以上に強いってこと? マジっすか。今度ここに連れて来て実験してみようかな。
……そろそろ、色々と触りたくなってきた。ミリアから伝わってくる温もりが色々とアカン。邪念を払い続けている俺を誰かに褒めてほしい。この場でゆりゆりするわけにはいかんでしょ。
「ミリア、もういいか?」
抱き着いているミリアを引きはがそうと、服の裾を引っ張る。
ミリアが俺の上でガバッと起き上がりながら言う。
「むあっ? ローがあんまり抱き心地良いから、我を忘れていました」
我を忘れていたんなら、邪念については問題ないようだ。セフセフ。
引き続き五、六回精霊魔法を試してみたが、問題なく使えていた。どれもそんなに大きな魔法じゃないので俺も全然魔力を消費してはいない。岩を地面から隆起させたり、それを風で切り裂いたり、その破片を飛ばしたりと、そんな感じだ。
途中から、いつも通り子供たちが集まりだして、今日はミリアの使う魔法に歓声を上げている。その規模の小さな魔法は、結果的にいつも俺が使うのと同じ程度の派手さであるので、それをミリアが使っているとあって、俺の時以上に歓声が大きい。
なんか悔しい。
「まだ魔力は大丈夫だし。最後にドーンとでっかいのやってみない?」
そうミリアに提案する。
「でっかいの? 何かあるかな?」
ミリアは腕を組んで考え出す。
いや、花火みたいなのがいいかと思ってたんだけどな。ミリアが考えるならそれでいいか。
ミリアがな暫く悩んでいると、見かねたランポさんが提案をする。
「それでは、知り合いが作った面白い魔法が一つあります。それを試してみてはいかがですか?」
「どんな魔法ですか?」
「もともとは、火蜥蜴のような”捕縛”を難なくすり抜ける魔物を捕まえるために、知り合いの魔導士が作った”氷ノ手”と言う魔法なのですが、これがとても綺麗なのです。それを一緒に見ていた友人が改良したものです。やってみますので詠唱と一緒に覚えてみてください」
ランポさんは少し嬉しそうに語った。中々に期待できそうだ。
誰も居ないほうに目を向けると、ランポさんは詠唱を始める。
「水よ我がまわりにつどいてその姿を変えつめたき氷となりて――」
ちょっ、長い長い。覚えられるのかよこれ、捕獲に使う魔法じゃなかったのかよ。それから十秒以上ぶつぶつ言っていたが、一度集中を切らすと、何を言っているのかさっぱりだ。
ミリアはじっとランポさんの方を見つめている。一回で覚えてるの? そんなわけないよね?
詠唱魔法の難しさの所以はこれなのだろうか。
「――空をうがて、”氷樹”」
すると、ランポさんの目の前の地面に亀裂が入り水がしみだしてくる。それが亀裂の中心にたまり始めたのが見えた。
次の瞬間。
バキィッ!っと天を切り裂くかのように氷が突如として姿を現し、地面に根を伸ばすのを反転したかのようにバキバキと音を立てながら空へ向かって枝分かれする。
それは成程、透き通った樹木のようでとても綺麗だ。
”氷ノ手”の時はこれが手の様になっているのだろう。恐らく、追い込んでトラップのようにして使うのではなかろうか。生えてくるのは二秒と掛かっていなかったからな。それならば、これほど詠唱が長くても使えなくはない。
外から歓声が聞こえる。子供たちにも大いにうけているようだ。
俺はその一瞬の出来事に呆気にとられて、声が出せなかった。もともと無口ではあるけれども。
ミリアは、そこまで驚いた様子ではないが、この美しき樹木を感動したように見つめている。
しかし、一つ問題がある。
俺の感性ではこれをもう一度作ったところで、そんなに面白いとは思えないのだ。ここぞって時に出して人の心を鷲掴みにする、そんな使い方をするものではなかろうか。
ミリアも同じことを考えたようだ。
「これはすごいですけど、これより大きく作ったところで今ほど感動しないと思うのですが」
「ふむ、それもそうですね。少しばかり感情が昂って、考えが至りませんでした」
ランポさんは反省したようにそう言う。普段は冷静な紳士の少しお茶目な一面が見れたようだ。
これよりインパクトが強いものとか、そうそうない気がするんだけど。凄くハードルが上がってしまった感じだ。
「改めて何にしましょうか」
ミリアがそう言って考えている間暇だったので、氷の樹に近づいて行って、七色の光でライトアップしておく。昼間なのであまり見えないのが残念だ。子供たちも、俺が設置した七色に光る光源を不思議そうに見つめている。
あんまり面白くないので、すぐに消してミリアの方へ振り返る。
まだ悩んでいる。
もう花火でいいか。
そう考えて、手のひらで発生させた赤い火の玉を空に向かって飛ばす。結界ギリギリの辺りで破裂させて、そこを中心に赤い炎を発散させる。爆発していないので音がない。
簡素だが、まあまあ綺麗だ。子供たちの歓声も聞こえてきた。
これで終わったことにしようじゃないか。
そんな視線をミリアに向けると、ミリアもいつもの呆れ顔でこちらを見返していた。
あー、ヒトカゲネタ入れ忘れたと思って修正しようとしたのに、別な流れになってて無理だった。
ロー(ん? 今ヒトカゲって言ったか?)
ロー「ヒトカゲってどんな魔物だ?」
ミリア「私は見たことないです」
ランポ「全長30センチほどの溶岩のような色の蜥蜴ですよ。確か常に尻尾に火が灯っているのです。その火が重要なものなのか、尻尾を切り離すことはなく、それどころか、頭より優先的に守るそうです」
ロー(微妙に違うけど、やっぱヒトカゲやんけ。おっしゃ、モンスターボ○ル持ってこ)




