39.混ざりすぎてよく分からない
前回のあらすじ
一号とお別れした次の日、広場に向かう途中でミリアの友達のメオに遭遇した。
おわり!
お辞儀をするメオの貴族然としたその仕草はとても優雅なものであったが、顔をあげた後に、嬉しそうに揺れる耳が台無しにした。
可愛いんだけどね。
それでも、別にメオに用のない俺はすぐにでも広場に向かいたかったが、無視して進むわけにもいかずどうすべきか、思案していた。
すると、無言であることに耐え切れなくなったのか、メオは口を開いた。
「私、何か変でしたか?」
その顔は恥ずかしそうに少し赤くなっている。自分でもちょっと背伸びしている自覚はあったようだ。
とりあえず褒めておこうと思ったので、
「うーん……可愛かったよ」
ミリアをおちょくる時のような気分でメオを褒める。
「ありがとうございます」
メオは複雑そうな顔をしつつもお礼を返してくる。
その顔が見れたので満足である。
だから、この場を立ち去ろうとしたのだが、メオは再び話しかけてくる。
「あの、もしかしてミリアのところに向かっているんですか?」
出足をくじかれつつも答える。
「そうだけど」
「私も行っていいですか?」
いや、知らんよ。
「好きにどうぞ」
「ありがとうございます!」
そう言ってなぜか抱き着いてくるメオ。頬っぺたスリスリすんのやめーや。
ぐぬぅ、まだ小さいくせになんかいい匂いがする。
到着するまで、何故か手を繋がれて歩くことになった。
俺としては、被保護者にしか見えないことを除けば、正直満更でもない気分だ。その為、特に抵抗などはしていない。
メオのやたら動く耳を気にしつつ、話を聞いていて知ったのだが、メオの母方の祖母が獣人で、父方の祖母がハーフエルフらしい。つまり、獣人のクォーターで、八分の一がエルフってことだ。ややこしい。サラダボウルかよ。そして、そこはかとないフェティシズムを感じる。
耳が動くのは獣人ゆずりで、本来の獣人は尻尾もあるらしいが、無くなってしまったんだそう。
エルフの長い寿命と高い魔力に獣人の知覚の高さ、人間の適応力の高さを併せ持っていると言う事らしく、ハイブリットな才能を持っているようだ。人間の適応力ってなんやねん。
しかし、ミリアは今の子供たちの中でも天才らしく、模擬戦をしても手も足も出ないどころか、ついには精霊と契約に子供一人で向かって――人間的には15で成人である――成功させると言う偉業を成し遂げたのだそうだ。
ミリアは無駄にハイスペックなのな。
そんなこんなで広場に到着すると、やはり遅かったらしく、ミリアは既にランポさんと打ち合いをしている。その勢いが凄まじく、最後に見た時とは比べ物にならない速さで剣を繰り出している。早くてさっぱり分からん。
そんなミリアを見たメオもまた、溜息をついて言う。
「私ではあんなに早くはできません。ミリアはやっぱりすごいなぁ」
その声には尊敬が混じっていて、嫉妬のようなものは感じられない。心にやさいしいせかいだ。
あいつのヤバいところは、そこに魔法を織り交ぜるところだ。昨日の今日で思い知った。
それでも、当然ではあるがランポさんは余裕がある。あくまで指導であって、本気で掛かればミリアなど敵ではなさそうだ。マジヤバい。
ランベルトはそんなミリアの動きをしっかりと見据えていて、ランポさんの代わりに時々問題点を指摘しているが、とても暇そうだ。最初からそうだが、何のためにいるんですかね?
そんな皮肉を感じ取ったのか、ランベルトはこちらに気が付き、ミリアたちに一声かけて近付いてきた。
「おう、来たのかロー、でも今日は稽古するわけじゃねぇんだな。それにそっちの娘は確か……メルナさんの娘さんだったな」
ランベルトの記憶力が地味にすごい。話を聞いた通りだとすると、そのメルナさんとやらはハーフ獣人なのだろう。どんな人なのだろうか。
俺がそんな妄想に浸りながらも、メオはランベルトの声を聴いて、再び貴族のように礼をして言う。
「こんにちは、ミリアのお父さん。おっしゃる通り、メルナの娘のメオと申します。以後お見知りおきを」
またこれをやるとは懲りないやつだと思いました。
しかし、ランベルトは動じることなく言葉を返す。
「丁寧にどうもな、メオ。俺の名前はランベルトだ。まあ、この村にいない方が多いんで、ミリアの父ってことだけ覚えてくれてたんだからそれで十分だ」
おっさんらしくて良い笑顔で言うランベルト。どうでもいいけど、ランベルトはこんな町に住んでいるんだし、普通の人間よりも魅了耐性高そう。
でも何がとは言わないが、みんな小さいから、大きい人にはそうでもないかもしれない。
あ、そういえばこの村の住人にしてはメオは大きめだと言えるサイズだ。これが血の成せる技ですかね?
……まあ、身長はミリアよりも高いって程度だけど。
ランベルトはそのまま続けてメオに話しかける。
「それで、今日は見学か? 俺もローが来たらそっちに教えてやろうと思ってたんだが――」
そう言ってこちらに目を向ける。今日は稽古を受けないんだろ?ってことだろう。決めてなかったけど、気分は乗っていないので頷く。
それを見たランベルトも頷いて、メオの方に視線を戻す。
「――この通り暇になっちまったんでな」
メオはおっさんの方ではなく、こっちを見つめて、
「ロー様は精霊ですよね。剣の稽古もするんですか……」
少し感慨深げに言っている。
そんな興味深そうにしなくても……。俺は知り合いに一つ秘密がばれて、大したことじゃないんだけど恥ずかしい。
「ローの場合は剣が強くなりたいんじゃなくて、剣を使った面白いことがしたいって感じだけどな」
……そんな説明せんでもいいのに。
「確かに、ロー様は面白い魔法を使いますよね」
メオは俺がルールにせがまれてやった魔法を思い出しているのであろう、何かに納得して頷いている。
恥ずかしいから止めてや。黒歴史とか思い出してるような気分だよ。
俺はこれ以上何か言われるのが嫌だったので、いつものベンチに先に退避する。それをしている間、明らかに二人の視線がこちらに突き刺さっていた。
その後、暫くボケっとミリアの稽古を見ていると、ランベルトが戻っていき、メオが俺の隣に座った。おっさんと少女で、この少しの間とは言え、話す内容があったことに驚きだ。
そうして眺めていると、
「私も稽古しようかな……」
横からそんな呟きが聞こえた。
……無理して努力して強くなることも無かろうに。
メオとミリアの口調の書き分けができているか不安




