38.一号の最後
前回のあらすじ
久しぶりに食べたおにぎりはおいしかった。
おわり!
「ああ。だからおにぎりが少し不格好だったのか」
先ほど、ミリアが俺におにぎりは自分で作ったのだと明かしてきた。
美少女のおにぎりだ。やったぜ。
これ、前にも言った気がするな。
……あ、そう言えばミリアに作ってもらうって約束したな。その時かぁ。ミリアもお昼に自分だけ食べてから思い出したんだな。そんなにこそこそ作らなくてもよかったのに。
「不格好なのは、すみません。おにぎりを丸くするのがあんなに難しいなんて思いませんでした」
まあ、ミリアは手も小さいからな。多分、仕方ないと思う。
「でも、お、おいしかったぞ」
どもった。改めて褒めるのってこっちもなんか照れるよな。
「ふふ、ありがとうございます」
そう言うミリアはちゃっかり俺の頭を撫でている。
隙あらば撫でるのやめーや。
食事が終わり、部屋に戻ると、放置していた一号が目に入る。
背中を見ると、針は時折かちっと動く。
俺は今日のことで学んだ。いかにこいつのレベル上げをしようとも、普段持ち歩いていなければ何の意味もないと。
今日持って行っていれば、不意打ちには使えたはずだ。
魔方陣は大丈夫でも、存在価値が薄すぎる。こいつで練習しても、俺自身の格闘経験が増えないのも問題である。
そもそも、なぜ人形にしたのか覚えていない。ロマンか? ロマンだけだったのか?
やはり、自立稼働させるか? いや、それだとエネルギーの補給が面倒だ。食べて補給するにしても、食費が必要になってしまう。ミリアの家に寄生すると言うのも手だが、ニートは俺の信条に反する。
方法は二つか? 一つは人形をそのままを出し入れする方法を探す。二つ目は今のように半自立駆動でしかも生成後すぐに行動できる人形を作れるようなる。
うむ。分からん。
俺が分身出来れば二つ目はいくらでも可能だが、そんなことはできない。一つ目は論外だ。
そういえば、精霊召喚の時、ワープ出来たんだよな。それが自由にできれば召喚するとかもできそうなのに。真似してみたいが、一瞬のことでよく分からなかった。
よし。一回完全にアクセスしてみよう。それで何もなければ、人形の事は諦めよう。そのうち思いついたらその時にまた作ればいいからな。
幼女ボディを消す。そして、いつも通りに一号にアクセス。
かーらーのー、合体!
ピキーン(光はもちろん音も出ていない)と合体成功。感覚をアクセスした瞬間はやはり気持ち悪い。頭がくらっとしたよ。
ふむ、やはり体は難なく動く。糸剣を出して適当に振る。
すると、体は動きを自動でアシストしてくれた。SA○のスキルを使う感じってこんななんだろうな。
一通り試してみたところ、どうやら普段通りの行動は普通に行うのだが、この体で鍛えた技能はアシストされて使うことができるようだ。今は剣を振る程度だけどね。
これはこれで面白いな。消すのがもったいなくなってしまった。
でも……消そう。さよなら、一号。今度会うときは二号だね。一号の見た目は使い回すから、暫くは忘れないよ。
一号の体は粒子となって消えていき、後には服だけが残った。
――よし、寝よう。
目が覚めた。覚めてしまった。
くっ、今日もミリアに起こされるはずだったのに。最近寝過ぎなのかもしれない。逆に寝れなくなってきたんじゃなかろうか。
さて、今日は何をしようか。一号がいないので、今日は稽古に行く意味があまりない。
「ロー、起き――今日は起きてるんですね」
そう言いながらミリアが部屋に入ってくる。
「おはよう、ミリア」
「……おはようございます」
少し遅れて挨拶をするミリア。どうかしたのだろうか?
そういえば、ミリアのパジャマ姿一回しか見てないな。うーむ、もう一度見てみたいな。
「もう少し早く起こしてくれていいんだぞ」
「そうすると朝ご飯を用意しなくてはいけないので、もったいないからダメです」
面と向かって言いやがった。ま、まあ、それはいいんだけどさ。
ミリアは話を続ける。
「それに、ローは私が起こさないと起きないと思っていたので少しびっくりです」
最初の宿では勝手に起きていたのだし、そんなことも無かろうに。
それからミリアは「先に行きますね」と言って部屋を出て行った。
今日は稽古に行かないかもしれないと、伝えるのを忘れてしまった。まあ、特にすることも無いし、行くだけ行こうかな。
ひとまず予定を決めたところで、椅子ごと部屋の隅に寄せていた一号の服が目に入る。
これを返してから行かなきゃな。
そう思いながら服に手を伸ばし、丁寧に畳んで部屋を出たのだった。
今日はムルアのおかげで朝食にありつけた。米は昨日で終わりだったのか、サンドウィッチを渡された。
その後、幼女のまま広場に向かう。途中で飛んで行った方が早いと気が付いたが、急ぐことも無いと思い直したからだ。
しかし、それは失敗だったと言えるかもしれない。
道中、ミリアの友達の少女の一人が目の前の道を横切っているのに出くわしてしまったのだ。最初に紹介された時点で、こちらをロックオンしていた少女の一人でもある。自己紹介された気がするが名前は覚えていない。
見た目は黄色みがかっているものの、やはりエルフらしい白い肌と緑色の瞳を持ち、ミリアに劣らない可愛らしい顔をしている。
服装は何やらフリルの多い青いロリータ服っぽいものだ。この世界で見るのはまだ二度目の色鮮やかな服である。前回見た時は村人服だったのにな。そのせいで一瞬分からずに見つめながら接近してしまったのだ。
こちらに気が付く前に逃げ出したかったが、その長い耳がぴょこっと動き、こちらを捉えた。この娘のエルフ耳って動くんですね……。
「ロー様じゃないですか。おはようございます!」
その見た目相応の声は、嬉しさを多分に含んでいた。
うわー、なんか無駄に元気がいい。まあ、見知った仲だし、とりあえず挨拶くらいは返そう。
「……おはよう」
返答を聞いた少女は間髪入れずに話し出す。
「今日も可愛いですね。その頬っぺたフニフニしてもいいですか?」
そういうのはやる前に言うべきだと思うの。話しながら一瞬で距離を詰めてくるのは止めていただきたい。咄嗟に反応できなかった。
「ははひへふははい」
喋れないではないか。それでも、少女は理解してくれたようで、手を放してくれた。
「ごめんなさい。ミリアからは触りたければこうしたら良いって言われていたので」
ミリアの奴め、余計なことを教えやがって。昨日大人しくしてやったんだし、今日はお仕置きしてもいいのではなかろうか?
そう思いながら、少女の横を抜けて広場の方へ向かって歩き出すと、
「まってください」
そう呼び止められる。何だろうと振り返ると、
「私の名前、覚えてないですよね。ミリアがそう言っていたので。では改めて自己紹介しますね」
そう言って、少女はそこで一度咳払いをしてから続ける。
「私はメオと申します。以後お見知りおきを」
そう言って、スカートの箸をつまんで上品に礼をする。
こういうことをやってみたい年ごろなのだろうか?
(*ノ・ω・)ノミ__
予防線:暫く投稿が減るかもしれない。




