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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
ハーフエルフの村
40/80

36.子供の肌って柔らかいよね

前回のあらすじ

 ミリアから逃げようとしたら、バトルになったよ。

おわり!


 くそっ、無駄にミリアが強い。冒険者を目指しているのは伊達じゃないってことだな。

 突然、ミリアがこちらに手をかざしてくると、


「”捕縛”」


 と言う。また詠唱は聞こえなかった。

 あ、体が動かん。これは魔力壁か。全身に纏わり付かせて動けなくするんだな。

 しかし、この体なんぞ俺にとっては使い捨てでしかない。


「一度、動けなくなってもらいまし――あっ!」


 さらっと顕現しなおす。ミリア、忘れていたのか。ドジっ子め。

 ミリアは悔しそうに顔を歪める。


 この戦い、終わりが見えない。このままなら俺が負けるはずは無いし、ミリアに対して俺ができることはもうほとんどない。

 でも、ミリアが当初の予想通り、何か最終手段を持っている可能性がある。

 停戦を申し込もう。

 俺が口を開こうとすると、


「ロー、私に借りがありますよね。今日一日大人しくしなさい」


 それかぁ。そっちかぁ。

 もっとこう魔術的な手段で来ると思ってたのに、隠し持ってた手はそれだったのか。


「え、それはそうけど。でも今は――」


借り(・・)、がありますよね?」


「……はい」


 ぐぬぅ。卑怯だぞ。

 ミリアは悔しそうに言う。


「こんなに早く使うはずじゃなかったのですが、仕方ないですね」


 はぁ、悔しいのは俺の方だよ。それに、最初の蹴りはめちゃくちゃ痛かった。


「とりあえず、皆にかけた魔法解いてあげてください」


 これは当然の要望だな。

 そういえば、どうやって解けばいいんだろ。

 幻惑がかかっているんだから、状態異常を直す魔法をかければいいんだろ?

 ……何それ知らない。


「なあ、ミリア」


「何ですか?」


「なんか良い魔法知ってる?」


「もしかして、自分で使った魔法なのに、治し方を知らないのですか?」


 そこで、一度ため息をつくミリア。

 一対一でかけた魔法なら解除すればいいんだろうけど、ばら撒いちゃったからねぇ。


「詠唱魔法でかけた魔法の対処法はあるんですけどね、精霊が掛けた正体不明の魔法なんて、普通解けるわけないですよ」


 いや、多分二、三日で解けるとは思うけどな。


「詠唱魔法の時はどうするんだ?」


「大抵は、対応する聖もしくは無属性魔法が確立されています。魔物の魔法についても同様です。例外は病気をもらった時で、その場合は魔法で対処するのは難しいです」


 なるほど。つまり打つ手はないと。

 もしかしなくてもやらかしましたね。


「何を勝手に諦めているんですか。怒られるのは私なんですから、何とかしてください」


 何とかって言われてもねぇ。俺自身教わった魔法を真似ているだけなので、どうして人間に作用するのかわかってないんだよね。ただそういう状態を引き起こす因子を流しただけで。


 あ、思いついてしまった。


 気が進まねぇ。でもやるしかないか。


「ミリア、ちょっと自分にかけてみて解析してみるから」


 あんまりできるかどうか微妙だが、可能性があるとすれば、やるっきゃない。


「自業自得ですね。いってらっしゃい」


 いってらっしゃいってどういう意味だよ。やれやれ。


 目の前にちょこっとだけばら撒いたのと同じものを生成する。あの時は体に付かないように魔力壁を張ってたから、何ともなかった。


 吸い込んでみると、それはそれは気持ち悪い気分になる。頭痛がして、視界が歪んで、どんな音も黒板をひっかいた時の音のような不快なものに変わる。

 下手をすれば発狂しそうなものである。子供たちがこうなっていたら、二、三人死んでいるかもしれないので、ただの吸い込み過ぎだ。


 この状況ではロクに頭が回らないので、一号の時のように感覚だけアクセスを外す。その瞬間、完全に一体化している体を引きはがしたので、痛みのようで少し違うよく分からない強烈な不快感を感じた。

 ふう、外してしまえばどうってこたない。すごく気持ち悪かったけどな。


 そして、幼女な体を調べる。――字面自重せよ。


 因子は取り込まれることなく付着したままなので、表面を浄化して破壊すれば行ける気がする。

 浄化して、アクセスを元に戻す。その瞬間も、いろいろな感覚が一気に流れ込んできて、少し立ちくらみのようになった。しかし、問題の不快感は完全に消えている。

 意外と簡単だったな。


「おーい、ミリア。やり方わかったぞ」


「それなら、ちゃっちゃとお願いします」


 ミリアは手伝ってくれないらしい。

 仕方がないので、子供たち全員を包み込むように浄化し、同時に放つ魔法で因子をすべて破壊する。因子は純粋な魔力なので、拠り所がなければ拡散しやすい。だからこそ水蒸気に混ぜたのだが、空気中では拡散し易いので、更に散らしてしまえば早く消える。


 徐々に気を取り直す子供たち。使うときは気にしていなかったが、今までで一番エグイ魔法になってしまった。少し罪悪感がある。


 しかし、立ち上がった子供たちは、割とケロッとしていて、思った以上に効果は薄かったんじゃないかな? そうだと言ってください。

 そんな子供たちを見て、ミリアが声を上げる。


「みんな大丈夫? まだ気分が悪い人は回復かけてみるから、こっちに来てね」


 ガキッズの二人がよろよろとミリアに近づいた。

 ちっこいのには辛かったようだな。……凄い罪悪感。




 ミリアがその二人に”疲労回復”の魔法を使い、気休めのような治療をした後、地獄が始まった。

 手始めに、子供たちからもみくちゃにされて、体中をつつかれ、髪を触り撫でられ、服を脱がされ――ちょっ、脱がすな!


 それが終わると、ルールが広めやがったのだろうが、魔法を見せろ見せろと騒がれ、一回やったらアンコールが来て、また見せろと騒がれる。


 そしたら今度は、朦朧としながら俺たちが戦っているのを見てたやつがいるのか、ミリアとの模擬戦をせがまれる。サンドバックにされかねないのに誰がやるかと思っていたが、ミリアは乗り気だった。

 一方的にやられたくはないので、みずでっぽうを主体とした弱ポケ○ン魔法で応戦する。そのすべてを避けたミリアは、さっきの戦闘のように突進してきて、ガードする暇もなく格ゲーかと言わんばかりの三コンボをぶち込んでくる。当然ながらめちゃくちゃ痛かったが、子供たちは大盛り上がりだった。

 幼女をぶん殴るって、絵面的にどうなのよ。……喧嘩程度なのかなぁ。


 ここでお昼になって、漸く俺に平和が訪れたのだった。


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