4.ハルト
本日2話目なり
前回のあらすじ
初めて南の森に侵入してきた「ハルト」の監視を命じられた。
おわり!
暫く、ハルトに付いて行って気づいたことがある。
こいつガチで、このほとんど何も持たない状態のまま徒歩で森を横断するつもりだ。これはあれだな、例のアイテムボックスとか時空間収納とかいうやつがあるパターンだな。でなきゃおかしい。歩くスピードは一時間あたり4キロほどで、それほど早くはない。街道とはいえ、ほとんど森だし妥当だな。
まだ休憩をとったりしてないから見てはいないが、アイテムボックスみたいなモノがなければ、途中で腹減って動けなくなるぞ。
もう一つ気付いたことはある。それはこの街道がめちゃくちゃ安全だってことだ。危険な魔物はすぐ討伐してしまっているし、盗賊なんかは、ほとんど人が通らないこの道に来ようとすらしないし、来てもすぐ追い返している。一番危険なのが熊とか猪ってどうなのよ異世界。普通じゃん。ただの森だよ。
まあ、盗賊に関しては、そもそもこの世界にはいないという可能性も捨てきれないけどな。
にしても暇だ。ハルトは無言で歩いているだけだから、ただひたすらにそれに付いて行くしかすることがない。ストーカーにでもなった気分だよ。ストーカーの気持ちはわからないけどな。
この間作った糸をまた作って、ハルトにつけて運んでもらおうかな? 重さなんてないから、気付かないでしょ、多分。でも気づかれたら少し恥ずかしいな、何となく。
そんな風に悩んでいると、
「あの、もしかしてついてきています? 精霊様」
なんかバレた。正確にはまだバレてない。あ、でも向こうから話しかけてくれるのは楽だな。
「バレた?」
「いえ、確証はなかったんですが。何となく見られているような気がして……」
やっぱり勘が鋭いのかこいつは。それとも確証がないってのは嘘だったのか? その場合、最初出会ったときにこちらに気づいていなかったのも嘘になるからそれはないかな。
ってか、エラそうな口調にするの忘れてた。
「侵入者の監視が我の任務であるからな」
「そうなんですか。なら言って下さったらよかったのに」
言ったら、尻尾を出さないだろ。というのは建前で、忘れてただけです。
「言う必要があるか?」
「それもそうですね」
やばい、会話が終わっちゃう。特に仲が良くもないクラスメイトと教室で二人っきり、みたいになっちゃう。
「精霊様は何か食べたりするのですか?」
お、こいつすごい。話を広げようとしてるぞ。なんとしてでも乗らねば、
「精霊は何も食わぬ。ただ、そこに魔力があれば生きていける」
なんてこった。話広げようがないじゃん。
「魔力に好みとかあるんですか?」
ナイスレシーブ。だがこれもきつい。
「我はこの森から出ることが出来ぬ故、それ以外の魔力は知らぬのだ」
「外へ出てみたいと思ったことなどはないです?」
「幾度となくある」
でもエストイア(様)のせいで無理どす。にしても、口下手な俺の口を割らせるとは、なかなかやるじゃないか。
「でしたら、何か外のことで聞きたいことがあれば、僕の知っている範囲でお答えしますよ」
やばい、こいつスゲー便利。まさか、自分からそこに話をもっていってくれるとはね。驚きだーね。
「ふむ。では、其方は対して荷物を持たぬようだが、大事ないのか?」
やっと聞けた。自分から聞けたらよかったんだけどね。
「僕は《収納》という能力を持っていまして、16種類までなら、どんなものでも8個まで持ち歩くことができるんです」
何なの。その凄いけど微妙な制約のある能力は。二進数にこだわりでもあるの?
でも16種類か、テントを骨と布に分けるか、テントとして収納できるかどうかで使い勝手が違うな。
テントって物と言葉があるか分からんから、ここは違うもので例えよう。
「それは、例えば食べ物は器ごと収納できるのか?」
「はい、器と食べ物に分けられるわけではありません。食べ終わった器は別のものとして保存されてしまいますけど」
大分ややこしそうな能力だな。ある一定の体積までならいくらでも、ってのほうが分かりやすいのに。
「ほかに何かあります?」
そうだな、あれも聞いておこう――
ハルトにいろいろ質問をしているといつの間にか辺りが暗くなり始めていた。ハルトは、いつの間にか飲み物を取り出して飲んでいることはあったが、一度も休憩をとらなかった。この世界ではこのくらい普通なのだろうか? そう思って聞いてみると、どうやら、ハルトは特別らしい。鍛えているから、歩くだけなら寝る以外の休憩は必要ないんだそうで。凄いっすね。
ここで少し街道の横にずれてテントを取り出した。テントあるやん。無いとか言ったの誰だよ。
それ、夜行性の動物に壊されたりしない? そんな趣旨のことを尋ねた。
「それはないですよ。このテントに入ると、人払いの効果が働きますから。普通の人や動物では、認識できなくなります」
見ててくださいとか言いながら中に入るハルト。
ふむ、確かに何となく存在をごまかしている。少し離れて意識しないようにすると、まったく見えん。精霊的に言わせれば、魔力の歪みでバレバレだが。
これは俺たちが人間を追い出すときに使っている幻術の応用かもな。
ハルトがテントから体を出して、「すごいでしょう」とか言ってる。
「まあまあだな」
正直に言ってやった。ここは危険が少ないからいいけど、他ではあまり過信できたもんじゃないと思う。まあハルトなら、そのくらい分かっているでしょう。
ハルトは少し苦い顔をして、今度は小さなテーブルとパン、スープを取り出す。パンもスープもあんまりおいしそうに見えない。どちらも出来立てのように温かいのが救いか。そういや森で動物達が食べてた木の実とかがあったな。あれって人間でも食えるんだろうか? 少し試してやろう。普段はすぐ面倒臭がるが、こういうことだけは別腹です。
「木の実を少しとってきてやる」
返答を待たずに飛び出す。そして、近くにあった食べられる(?)サクランボくらいの大きさの木の実を10粒くらいとって戻ってきた。
「口に合わなかったらすまないが、一応食えるはずの木の実だ」
そう言ってテーブルの上に置く。
「これはグミの実ですね。食べたことがあります。わざわざ持ってきていただいて、ありがとうございます」
……普通に食い物だったか。というかグミか、日本にそんなのあったよな。ってそれはもぎも○フルーツの間違いじゃ?
「情報の礼だ」
それにハルトは笑顔で「いただきます」と答えて、10個全部ペロッと食べてしまった。特につらそうにもしてない。負けた気分だ。
その後は、「では失礼します」とだけ言って、ハルトはテントに入ってしまった。女だったら寝顔を覗くのにな。
ここからもう、山が見えているので明日の午前中にはお別れになるだろう。
この時間が俺にとって、貴重な休憩時間だと気づいたのは翌日のことだった。
男二人の夜とか誰得ですかね。
早く女の子でてこないかな。
矛盾の修正とアイテムボックスを収納に変更