35.ローvsミリア
前回のあらすじ
ミリアに連れてかれた先には子供がいっぱい現れた。……帰っていいですか?
おわり!
まだ帰っちゃダメだってさ。
ミリアめ、こんなに人を呼んでこの後どうするつもりだよ。
「みんなー、ちょっと静かにして―! 今回集まってもらったのは、ローと遊んでほしかったからです。ローは生まれたばかりで人見知りだから、今のうちに慣らしておきたいんです」
え、ちょ、何それ?
「み、ミリア。聞いてないんだけど」
「いったら来てくれないでしょう?」
そりゃそうだな。だからってこれはひどい。
ミリアの発言を聞いて子供たちはガヤガヤしている。何人かの女の子はこっちをロックオンして、今にも襲い掛かってきそうなのだが。
どうするかは決まっている。
逃げるんだよォ!
じゅわっといつもの三倍くらいの早さで消える。
子供たちは「消えた!」などと驚いている。今回はミリアがいるから、派手な演出でとはいかない。目くらましをしても、ミリアが居場所が分かるのでは意味がないからな。
急いで逃げた、かつてないほどの速さで。方向は適当に決めたが、村へ入ってきた門の方角だった。
門の外まで逃げられた。ここまで来れば安全だろう。
はぁ。ミリアがこんな強硬手段に出るとは思わなかったよ。そこまでして人見知りを直させたいのか。そもそも、一人二人のガキに人見知りはしない。だからこそ、今日友達を紹介するってことは了解したんだし、やるんだったらそれくらいにしてくれれば良かったんだよ。
やれやれ……あれ?
なんか浮いてはいるものの、引っ張られるような妙な浮遊感がある。それに魔力が体から引き出される感じもする。
なんだこれ?
どっかであったような……あ、思い出した。ヤバいぞ、全然逃げきれてない。ミリアの奴には精霊召喚ができるんだった。契約したんだから当たり前だ。
くっそ、なんとかしな――
ダメでした……。目の前にはさっき見たばかりの子供たちが歓声を上げている。当然のように体もある。
「私から逃げられると思わないことですね」
ミリアが、悪の女幹部みたいな不敵な笑みを浮かべている。
久しぶりに、ガチ目な恐怖を感じたよ。
俺の恐怖と絶望を反映した顔を見て、ミリアは顔を紅潮させる。
ヤバい。Sな方のミリアが出て来てる。
状況は悪化する一方だ。
ミリアがソフトなお遊びを用意してるならそれでも問題は無いが、下手をすれば何も決めずにさあどうぞ、となる。そうなるわけにはいかない、俺はおもちゃじゃない。
これは俺も攻勢に出る必要がありそうか。しかし、いつもみたいに糸を使うのは、公衆の面前なのではばかられる。子供たちに変な性癖を目覚めさせるわけにはいかない。
幾つか方法はなくはない。問題はどれもほとんど初めてだってことだ。できるだけ安全にできなくては。
エスパーミリアも、顔色を変えずにいて、まだこちらの思惑には気が付いていない。
やるなら今だ。
発生させるのは水蒸気、だがそれはただの霧になるのではない。幻惑成分を含んでいる。森で使ってたやつの応用だな。
本来は数人の人間に使う魔法ではあるが、今回は霧に紛れさせて拡散させる。
出来れば、俺の存在を誤認させたかったが、これは相手の視聴覚を惑わせるだけだ。しかし、これでもミリアも俺のことをまともに見つけることはできないはずだ。
お次は……くっ!
霧が晴れていく。大事なことを忘れていた。ミリアも魔法ぐらい使える。咄嗟に回避できたか。
「どういうつもりですか、ロー? みんなを攻撃するつもりですか?」
ミリアが、相変わらず不敵に微笑んだままこちらを見据えている。詠唱が聞こえなかったが、風の魔法だろうか?
ミリアの言うみんなは全員俺のかけた幻惑を受けて、蹲っている。車酔いのひどい版な感じなのだろう。
ランは当然のようにすました顔でお座りの姿勢で待機している。マジ犬強い。
「い、いやー。ちょっと逃げられそうにないかなーって」
「いい度胸してるじゃないですか。流石の私も怒りますよ」
流石って何だろう? それにいい度胸って、精霊である俺が本気出したらミリア一人じゃ無理でしょ。
まさか、契約精霊に対してできる権限が他にも何かあるのか?
それは不味い。やはりさっさと糸で拘束すべきだったか。
どうすべきか。最善は俺が降伏することだろう。それなら互いにケガをしなくても済む。
しかしそれは嫌だ。なにか、傷つけずに逃げ出す方法はないものか……。
「”疾風走”」
うげっ! ミリアが一気に詰め寄ってきた。
しかし甘い。そんな一直線でしか使えない技など、避けるのに造作もない。
走りこんでくるミリアを、難なく避けた……かに見えたのだが、
方向転換してくるだと!? あの魔法にそんな応用力があったなんて。
驚いた俺はミリアの蹴りをもろに受ける。
いってぇ!!
俺の軽い体は強烈な蹴りにバランスを崩し、倒れる。
マジ痛い。蹴られた腹もだが、打ち付けた背中とかもすげぇ痛い。息が出来なくても苦しいと言うことがないのだけが救いだ。
ミリアが剣を持ってきていなくて良かった。
「次は手加減しませんよ」
目がマジなんだけど。いつもよりも下から見上げているので、威圧感がすごい。
って、これでも手加減されてんのかよ。人間――ってかハーフエルフ強すぎ。
この状況で負けを認めると、後々何されるかわからなくて余計に怖い。
こうなったら、マジで攻撃するしかない。
一瞬体を消し、すぐに立った状態で顕現する。精霊体に戻っても、どうせすぐに召喚される。そして、出た瞬間に殴られたりしたんじゃ話にならないからな。
「まだやる気ですか?」
呆れたような口調ではあるが、顔は微笑んだままだ。
俺を黙らせるくらいは余裕だという自信があるのか、ハッタリなのか。
……ハッタリだと言ってください。
格闘戦で経験が浅くリーチの短い俺では勝ち目がない。しかし、魔法は当たったら即死しかねない威力と、そもそも当てられるか分からないという問題がある。
よく考えると既に詰んでいる。
ああ、糸があった。これは手加減にはもってこいだ。最初に封印したから忘れてたぜ。
糸をミリアに向けて一気に6本放つ。
「”排炎”」
またも詠唱は聞こえなかった。その声にミリアの前に突如として暗い黄色の炎が燃え盛る。
届く前に火で燃やそうと言うのか、確かにこれは糸だが、有機物だとはだれも言っていない。魔力の産物であるこの糸が燃えるわけ…が……な、なんだとぉ!
有り得ない。どういう事なんだ。
「何を驚いているのですか。一度見た技を見切れなければ、冒険者なんてすぐ死んでしまいますよ」
確かにそうだけど、ミリアはまだ冒険者じゃないだろうが。
こんなことなら、ミリアにはただの糸だと説明しておけばよかった。
今は後悔するときじゃない。次の手を考えなくては。
ミリアは既に三属性行けます




