33.哲学と魔方陣
前回のあらすじ
家を出直して昨日と同じように稽古して、午後はランポさんの家の書庫に行ってから、文字に読めないことに気が付いた。
おわり!
さて、どうしたものか。せっかくファンシーで簡単そうな本を選んだのだが、まだ開いてすらいない。しかし、開いたところで読めないのは自明である。それでも、とりあえず本を開いてみることにした。
紙は植物でできている感じだ。和紙のようにざらざらしているから、たまに聞く羊皮紙とかいうのではないと思う。
中にはいろいろな動物の絵がかいてあって、魔法の本かと思ったが、動物図鑑のようだ。だいたいは地球にいたのと同じ生物ばかりである。何故なのか、甚だ疑問である。
可能性があるとすれば、神様がいると定義した上で、その神様が日本人の妄想を元に、もう一つの世界を作ったという仮説だろうか。神様がいるのならば、暇つぶしで何をやってもおかしくはない。だが、その場合、俺が記憶を持ったまま転生することになる理由が分からん。理由があるなら、何かしらの措置がある気がするから、理由はないのだと言える。つまりは偶発的に起こるようなことだと言うことか。
俺の転生が偶発的なものであるとすると、この世界に迷い込んだのは俺だけではないはずだ。そうなれば、そもそも似すぎている食文化の理由なども頷ける。しかし、どこまでが神様の作った世界観なのかは分からないから、他に元日本人がいるという証拠にはならないのが残念だ。
ああ、でもこの仮説が成り立つなら、テントは日本人がもたらした言葉なのだろう。パジャマももしかしたら、ある人が偶発的に持ち込むことができた物なのかもな。そんな貴重な物じゃないと思うから、もちろん冗談だ。
もし、俺を連れてきた理由があるとする。その場合、それに対する措置がないのか、俺がその措置自体を忘れているもしくは知らないか、精霊であることがその措置であるかの三つが考えられる。いずれにしても、説明を俺が受けたという記憶がない以上、試されているのか、観察されているのか、そのどちらかではないだろうか。試されているなら、俺に期待する行動があるのだろう。観察されているのなら、俺ができるだけ素直に行動すると喜ばれるだろう。どちらにしても、気にしてもしなくても問題ないことだな。
もう一つ捨てられない可能性は、これが俺の夢だと言うことだ。あの時頭を打って、そのまま植物人間ってわけだが、これは中々にきつい。死にかけているのに、親に金銭的負荷をかけてしまうのは申し訳ない。
夢だという割にははっきりしているし、人間になるとしっかりと痛みもあった。だから、夢だとは思えないが、そうだと言って夢でないと言う証明になるという確固たる理由が存在しない。この仮説はこれ以上考えても仕方がないな。
俺には想定できていないが、他に別な可能性があると仮定しよう。異世界がどうして似てるか、その理由を考えるために分かっていることを整理する。
簡単に5W1Hで考えよう。「いつ、何処で」は俺が死んだあの日、あの場所だ。「誰が」は分からない。ここは後々いろいろな者を仮定していくしかない。「何を」は俺をでいいだろう。「なぜ、どのように」もわかるわけない。
つまりは何かが何か理由があって(もしくはないが)どうにかして俺をこの世界に連れてきたのだ。
暇だし近所の犬が原因だと考えよう。近所の犬が俺を異世界の理由か……毎日目の前を通って鬱陶しかったからかな? その犬が実は世界を管理する者で、もともと間違って生まれて来てしまったおれに気が付いて、異世界へ飛ばしたとかかな?
最初二つを余裕で上回るひでぇ中二な妄想だ。この話はやめよう。
考えが元に戻ってきた。読めない本をどうにかして読みたいってのが本題だ。
ひとまず動物図鑑を元在った場所に戻し、魔法の本を探す。
まとまってると言われたが、文字が読めないので一冊見つけるまでは当てずっぽうだ。
10冊ほど取り出してようやく魔法の絵が描かれた本があった。表紙にあるでかでかと書かれた四文字のうち左二つが「魔法」なのだろう。右は多分「事典」とかじゃないかな?
パラパラとめくると、体に風を纏う絵が描かれているのを見つけた。”疾風走”だろう。何を書いてあるかは分からないが、言いたいことは分かる。
ここで一つ思いついた。
魔方陣の本は文字が読めなくても見よう見まねで何とかなるんじゃないか?
よし、魔方陣だ。魔方陣を探せ。
あったぞ。表紙に六芒星が書いてあるし多分そうだろ。
本を開いてみると、いくつかの図形が書かれているが、あまり絵は多くない。もしかしなくても、幾何学を数学の代わりに、図形の基礎から教えていたりするんじゃないかな。どうもそんな感じだ。
暫く捲り続けて、三分の一を捲ったあたりで、最初の魔法陣が登場する。正三角形の三辺に文字がちょろっと書いてあるだけのものだ。何が発生するかも絵にしてくれたら良かったのだが、仕方がない。
一度机の方へ向かう。紙に書いて実験するためだ。
引き出しを幾つか開けると、白紙が大量に入っているものがあった。そこから一枚取り出して、机の上にある瓶に入ったインクと何やら黒い棒を取る。黒い棒は先がとがっていて、多分ここにインクを吸わせるのではないだろうか。
とりあえず何もつけずに紙に線を引いてみるが、やはりインクは出ない。インクの瓶のふたを開け、先をちょんっとつけて、また線を引いてみる。インクがべちゃっとしてしまった。
やっべ、使い方わかんね。
もうめんどいから、黒い棒は放置して魔法でインクをすくい上げ、正三角形に垂らす。文字は絵を見ながら慎重に描いていく。
細くするとすげえ集中するので大変だった、こなみかん。
なんか、無理にインク使わずに一号の背中みたいに、魔法で描いた方がよかった気がする。
ともかく完成だ。早速”作動”させてみよう。
魔方陣が一瞬それに呼応したように脈打つと、三つの頂点近くが光を発し始める。
暗くしないと。電気電気……って、ああ、今は一号にアクセスしてるだけだから、精霊ビューだった。光なんぞ要らないので気付かなかったが、既に真っ暗だ。
本来この部屋は光魔法を使いながら入るのだろう。
魔法陣の明るさはよく分からないが、今みたいに真っ暗だと多少辺りが照らされる程度だろうか。
何というか……とても地味だね。
暫くすると、与えた魔力が切れたのか、光は消えた。
最初の魔法陣だから、可能な限り安全なものを選んだと言うことだろうか?
それから、いくつかの魔法陣を試してみたのだが、発生したのはどれも地味な魔法だった。
それで分かったのは、正三角形は地味な魔法しかなさそうだって事と主に頂点から魔法が発生すると言うことだ。
それならば、無限の頂点を持つ円は正三角形と比べると、強力になると言うことなのかもしれない。それだけで、幾何学を本の三分の一に亘って説明する意味が分からないけど。案外作者の趣味かもしれない。印刷社なんて無いだろうから、本には書きたいことが書けるしな。
追記:閑話読めば分かるけど、思いっきり見当違いです。
むしろ、一話丸ごと蛇足ってどうなんだろう。
それでも読んでくれた方は、本当にありがとうございます。




