29.大事なことなので二回言いました
前回のあらすじ
ローは話しかけてきたガキを盛大に回避して、剣の稽古をさせる肉人形を作った。
おわり!
前回の人形制作をばっさり変更したので、見てない方は一度見ることをお勧めします。
大筋は同じなので問題ないですが。
気を取り直して稼働してみよう。
この体は顕現するときの要領で体を作成して、そこから俺本体を隔離したものだ。だから、糸によって体とのアクセスを作れば、三人称による体の行使ができる……はずだ。出来れば、神木とつながっていた時のような魔力的なアクセスが良かったのだが、できないものは仕方がない。やり方が分からんのだ。
糸を練習人形君一号とつなぐ。すると、本体はそのままで、体を動かすことができる。
やったぜ。
これなら、食事以外はこっちの方が都合がいいな。味覚もリンクさせられるはずだが、糸でのやり取りで、情報が劣化しないとも限らないからな。
ミリアたちは、こっちの様子に一度変な顔を向けたが、それ以降は意識して見ないようにしているようだ。ランポとミリアがさっきまでとは別の剣を使って打ち込み練習をしている。多分、練習用の葉を詰めた剣を用意していたのだろう。ランベルトは少し暇そうなので、チラチラとこっちを見ている。
ラジ○体操を覚えている範囲でやってみたが、問題なく動かすことができた。ゲーム感覚で体を動かすのは中々に面白い。肉体の制約がこちらに及ばないのもいいところだ。
「あー。あー」
練習人形君一号の発声練習もしておく。しっかり男の子っぽい声になっている。あのままでは違和感があるからな。
んー。後何か確かめるべきことはあるかな? まあいいか。大丈夫だろう。
剣を作るぞ。と言っても、金属の作り方なんてわからないから、木刀が関の山なのだが、あえて、糸の剣を作り上げる。さっきまで体を作るのに試行錯誤していたから、このくらいは造作もない。
しかし、このままでは細い刀身はへにゃへにゃしてしまうので、魔力を通し続ける必要がある。不便な道具だが、糸の効果でいろいろなエフェクトを乗せやすい仕上がりになっている。
まさにゲームのように振るうことに特化した剣なのだ。
試しにさっきのエフェクト魔法をかけて振ってみたのだが、どうも白い光しか出ない。ミリア基準だと、この剣は遅すぎると言うことか。
やはり剣術の練習が必要なのだろうか。
ランベルトは相変わらずチラチラとこちらを見ている。ちょいちょいと手をこまねいてみる。それに気づいたランベルトがこちらに近付いてくる。
「なんだ、俺に用か?」
こくっと頷いて、目の前で糸剣を振ってみる。ランベルトは察してくれたようだ。
「ああ、剣の振り方を教えろってか?」
うんうんと頷く。
「でもなぁ、俺そういうのは適当にやって来たから、あんま教えられることもねぇんだよな」
あー、だから教えてるのは大体ランポなのか。肩を落としてがっかりしていると、
「いや、でもまあダメそうなところくらいは指摘できるかもしれないから、ちょっと素振りして見ろ」
おっさんもやればできるらしい。
今は幼女でもないのにこんなにちょろいなんてねぇ。ランベルトは遠目に見ると比較的日本人ぽい容姿をしているから、何となく同族っぽくて放っておけなかったのかもしれない。
とりあえず、盾を構えるように左手を突き出してから、適当に縦に振る。イメージは当然緑の剣士だ。……新作をプレイしてからこっちに来たかった。
「うーん、軸がぶれているというか、剣の軌道が一定じゃないんだよな。もうちょっと真っ直ぐ振れないか?」
まっすぐねぇ。一応イメージしながら振ってみる。
「できてるとは言い難いがそんな感じだ。それが体に染みつくまで振り続けるのが基本だな」
何それ面倒臭い。
とりあえず盾を作ってからでいいよね。そう思って左手のあたりからぐるぐるっと円形の糸盾を作り、持ち手と、腕を固定する部分作って握る。糸が模様のようになっていて色さえ付ければかっこよくなりそうだ。
ランベルトは驚きはしないが、呆れて笑っている。
「アッハッハ。ミリアに慣れろと言われたが、意味が分からな過ぎて笑うしかないな」
盾を作っただけですよ? この世界に盾を一瞬で作る魔法がないにしても、そんな反応しなくたっていいのに。
「いや、別に盾が変だから笑っているわけじゃないぞ。だから期限直せ、な?」
おっさんはまた勘違いをしている。少しいい人過ぎるな。
それからはいろいろな振り方をしても、ランベルトはほとんど何も言わないので、黙々と剣を振るだけだった。
お昼なので休憩と言われるまで試行錯誤しながらやっていたのだが、最高で何とか黄色が出るまでにはなった。
ひとまずは、目指せ赤色エフェクト。
ミリアの方へ向かうと、
「なんで男の体なんて作っているんですか。可愛いのでいいですが」
そう言って頭を撫でられた。機嫌が悪くないようでよかった。文句言われたら、せっかく作った体を使いずらくなるからな。
体を一度ベンチに座らせて、アクセスを切ってから、ミリアの肩に留まる。
ミリアは持って来た荷物を取って、中から昨晩と同じサンドウィッチを取り出し、食べ始めた。
とてもおいしそうに食べている。
俺も以下に美味しいのか知っているので、食べたくはあるが、お腹は別に空かないので、我慢する気になれば全く問題はない。ミリアの嬉しそうな横顔や、ほかの二人の食事を眺めながらゆったりと休憩する。
ミリアが頑なに拒否したので、俺の分はないのだ。
そういえば、なんかいろいろあって考えることがなかったが、俺ってなんでこの世界に転生したんだろうな。来てしばらく経った頃にエストイア(様)に聞いたことはあったのだが、前世の記憶を持って生まれることがあると言うこと以外、何も知らないようだった。
今のところ、手掛かりは何もない。ある意味、この食文化をもたらした人間がいるんじゃないかとも思えるが、日本語を当然のように使っている以上、特におかしいことはでないだろう。
帰りたいという気持ちはあまりない。別に未練がないわけではないが、こちらの生活の方がはるかに楽だと言うことが原因だ。森を出てしまった俺の前には、どこへ向かっていいのか分からないほどの広大な自由がある。それで不安になると言うこともなく、ただ解放感と、自由に迷っていられるだけの時間がある。
精霊の体は、肉体を持たないがゆえに、欲はあっても欲望に飢えると言うことがない。出来ればこうがいいと思い、それが達成しなくても楽観できる。
それだけでなく、自由意志と理性を強く行動に反映できる。そして、それは並大抵の人間に出来る事ではない。今までの俺からすれば、至高の存在とも言えた。
ただ、もう一度になるが、未練はあるのだ。
あの新作のゲームだけはやりたい。
そしてそれは、二度とかなうことのない願いだった。




