3.南方、異常発見しました
あれ、なんか侵入者いない?
のんきに歌ってたら、すぐ近くに人がいる。いや、まったく気が付きませんでしたよ。
侵入者は若い男のようだ。急に歌を止めたからか、警戒しているように見える。こんなところまで何しに来たんだろうな? この辺だと森から出てもすぐに崖があり、その下は海だ。そっちから来たとは思えないから、多分西のほうの町から来たんだろう。少なく見積もっても、80キロメートルくらい。徒歩でどれくらい進めるか知らんけど、半日でこれる距離だとは思えない。だけど男は、大した荷物を持っていない。この男と森の動物たちの気配はないから、馬とか動物に乗って来たのではないだろう。荷物の気配なんて探りようがないから、案外荷車を引いてきたのかもな。
そんなことを考えていると、
「おーい、だれかいるのか?」
男が声をかけてきた。その声は見えない何かを警戒しているというよりは、純粋に、こんな場所にいる歌の主に興味を持ったかのような声だった。
よく考えてみたら当然か。相手にとってもここは人里から遠い場所だ。そんな場所で歌なんか聞こえてきたら、まったく興味を持たないとは思えない。
出て行ってやるか? ……メンドイ。いいや、放置で。一応エストイア(様)に報告だけしておこう。
神木とのつながりに声を乗せる。
『エストイア(様)きこえますか? なんか森に入ってきてる人がいるけど、どうする?』
『どんな輩だ?』
『ちょっとした防具と武器を付けた、無害そうなやつ』
『街道を通っている人間か。それならお前に、其奴が森を抜けるまでの監視の任を与える。頼んだぞ』
『え、めんどい』
返答はなかった。
監視か……パトロールより楽かもな。ここは地球を出て以来の人間観察と行きますか。
ってか、街道って何さ。そんなの聞いてないんだけど。めったに通らないから言い忘れてたってこと? そんな道あったかな? あーでも獣道っぽいのはあったか。あんなので街道とか笑える。
男はエストイア(様)と話している間も、しきりに誰かいないか探しているようだった。
監視の任務をいただいてしまったし、しっかり観察しておきますか。
その男は、黒髪のややイケメン寄りな顔立ちをしていて、歳は見た目中高生ぐらいだから、多分14~16歳だと思う。身長は170センチくらいで、別に太っても痩せてもいない。左手には丸い盾、腰には50センチくらいの長さの剣と小さな袋が三つベルトにぶら下がっている。こげ茶色のズボンと白っぽいTシャツみたいな服の上に、金属製の胸当てと手甲を装備している。足元はところどころ金属板が付いた、ブーツをはている。
どことなく冒険者っぽい? ゲームで言えばジョブはシーフかすっぴんだな。まだこの世界のことはよう知らんから、何とも言えないけどな。少し話を聞いてみようかな? 干渉するなとは言われてないからありだと思うけど。
でもなー。他人と会話するってメンドイんだよね。せめて美少女だったらよかったのに。そういえば、全く女性を見ないな。こっち来てから、精霊は男口調だし、エストイア(様)も爺さんみたいだし、森に入ってくる人間もみんな男だ。そうか、俺に足りないものが休息以外にもう一つあるぞ。それは癒しだ。癒しとなるような存在がいなければ、すぐ疲れるのも仕方のないことだ。うんうん。西の森当たりなら町が近いらしいし、たまに女の子もやってくるんじゃないかなぁ。西のパトロールさせてくれないかな。あ、でもあっちは人も良く来るから、こっちより忙しいのか。うーむ、悩ましい。
おっと、男の存在を忘れてた。まだ探してんのかい。いい加減諦めたらいいのに。このままじゃ、こいつが死ぬまでずっと監視し続けなきゃならんくなるぞ。……まあ流石にそれは無いよね。
やっぱり、話しかけるか。うまく喋れるかな。うわ、なんか人と話すのは久しぶりだからって、緊張してきちゃったよ。これはいかんな。こういう時は役になりきるんだ。そう、俺は侵入者の監視を命じられた精霊であって、それ以上でもそれ以下でもない。そうだ、何も問題はない――。
「おい、そこの人間。さっきから何をしておるのだ」
いけそう。やればできる俺、えらい。
男は周りをきょろきょろ見回しながら言った。
「どこにいるのですか? 私は人を探しています」
「人か、この辺りにはお主以外にはいないようだが?」
「そうですか。ということはあなたは人ではないのですね」
あれ、こいつ察しがいいな。あーでも、こんぐらいだれでも気づくのかも?
「ああ、わ、わし……我はこの森に住む精霊だ」
つい、先に正体を明かしてしまった。一人称あやふやだし。
「? 精霊様……ですか」
なんかすっごい怪しんでる。様付けた割には、何か間があったし。
ここはありのままを言ってやり過ごそう。変に嘘つくと失敗するし。
「うむ。人と話すのは初めてでな、少し緊張してしまったよ」
「ああ、なるほど。精霊様でも緊張したりするんですね」
多少は信じてくれたかな。ハルトはなるほどという様にうんうんうなずいていた。そして、会釈をしてから言った。
「僕はハルトと言います。東にあるオストルの町に向かうため、海沿いの街道を通っておりました。その折、何やら音楽が聞こえてきたので、その主を探していたのです」
へぇ。山脈の先にも町があるのか。その発想はなかった。
「ほう。先ほども言ったが、この辺りには誰もおらぬ。お主の聞き間違えか、もしくは其奴はとっくに何処かへ行ってしまったかのどちらかだろう」
「そうですか。残念です。精霊様、教えてくださってありがとうございます」
「大したことではない」
ハルトは今度は深くお辞儀をして、俺の言葉を聞くと、獣道もとい街道のほうへと歩き去った。
まあ、監視のために付いて行かなくちゃならんのだが。何が悲しくて、野郎のけつを追わなきゃならんのか。これが分からない。
にしてもこいつ。何考えてるのかさっぱり分からんな。表情がほとんど変わらん。リアクションも一々わざとらしい。久しぶりに話した人間がこんなのって、どうなのよ。
そういえば、いろいろこの世界についての話を聞こうと思ってたのに、聞きそびれたな。どうしたもんかねぇ。
適当な小説見てみても、もうちょっと文章量ある気がする。
これだと少ないのかな。