閑話2.海岸の町オストル1
前回(閑話1)のあらすじ
ハルトは英雄となるために活動して、無意識に疲弊していたが、ローと過ごすことで元気になった。
おわり!
……これはあらすじじゃない気がする。
今日はもう一は投稿予定です。
精霊様と別れて、30分ほどかけて山を登ると、すぐに山の尾根に来た。道はそのまま下っているので、特に休憩は取らずに山を下る。
今までは英雄の感覚に歩かせている状態だったが、気分がすっきりした今では、自分から英雄の感覚を使っているので、今まで以上に楽に歩けていた。
もう一泊することも視野に入れていたが、外敵に襲われることもなかったので、この分なら夕方までにオストルに着きそうだ。
右手には、木々の合間に青い海が時々見えている。波が反射するチラチラとした光が眩しい。時折、心地よい潮風が木々を抜けてやってくる。
ハルトはハイキングにでも来たような気分だった。
もちろん、ここが異世界でいつ外敵が襲ってきてもおかしくない状況だとは理解している。それでも、敵の気配がない今、ハルトはとても気楽に歩いているのだった。
山を下りてしばらくは森が続いていたが、すぐに背の低い草原に出た。だだっ広い海岸沿いの草原の中を歩いていると、内陸の方から多くの魔物の気配がした。英雄の感覚は、その魔物に敏感に反応しつつも、街の方へと進路を示している。今は倒すべきではないということだろうか。
どうするか迷いはしたが、さしあたっての危険がない以上、万全の状態で当たるべきだと考えた。そのため、一度町へと向かうことにした。
そうしてしばらく進んでいると、高台の上のお屋敷と町を囲む壁が見えてきた。見えている屋敷は町の領主のものだ。町には、山の方から流れる川が流入している。
このオストルと言う町は漁業が盛んだ。川も流れ込んでいるため、海、川の両方の魚が一応取れるらしい。海には大型の魔物が発生していることがあるが、この辺りの海は比較的浅いので問題はないらしい。それでも、小型の魔物が時々出てくるので、漁師たちはその屈強な体だけではなく、戦闘技術も備わっているのが普通だ。
門の方まで歩くと、衛兵が立っている。
誰も居なかったので、冒険者の身分証と入場料を出して町に入った。4級になれば入場料が必要なくなることが多いらしいが、そうなるためには実績が足りていなかった。
この街に冒険者は少ない。大陸の東の果てということもあるし、漁師が強いためあまり出番がないというのが理由だ。本来ならば観光以外では冒険者はあまり来ないが、今回この街に来ることになったのは、途中で感じた大量の魔物が原因だろう。
そこまで考えると、冒険者組合に着いた。建物は、ララストルの町のものより断然小さい。受付も一つしかなかった。
しかし、建物の中には多くの人が集まっていた。大量発生した魔物に気づいているのだろう。
衛兵は町に何か不利益が起こるまでは基本的に動かさない。あくまでも町の防衛が任務であるからだ。その代わりに、冒険者などから義勇兵を募るのが一般的だ。その報酬は大抵割高になっている。
人が多いので、ハルト一人が中に入っても誰も気が付かないだろう。話している声を盗み聞く限り、今日は受ける人員を募って説明を行うだけのようだ。そこまで理解すると、ハルトは、部屋の端にある列の方へと向かう。ここが受け付けのための列なようだ。
こんなことをせずにさっさと倒しに行きたいものだが、それでは報酬もなく、冒険者としての実績としてもカウントされにくい――魔物の討伐自体は評価される――ので、仕方がないのだ。
あまりにも人が多いので、受けるだけ受けて、参加せずにこっそり見守って、報酬を受け取ることもできそうだ。当然ボーナスは無いが、安全に稼げるだろう。そんな人もいそうだが、そこの対策が出来ているのかは分からない。けれど、今回は6級以下は参加できないので、5級以上の人のみだ。それなら普通に倒せる魔物もいるはずだろう。きっちり倒せばボーナスが出るのに、わざわざさぼる人もいないだろう。そう結論付けた。
気になってざっと数えてみたが、50人ほどだろうか。これに漁師たちの一部も参加すると言うので、合計で60人ほどだろう。数にしてしまうと案外少ないものだが、いくら魔物が多いと言っても、多くて200ほどだ。一人4匹も狩れればもんだいないだろう。
30分ほどでようやく受付が終わり、明日の一応注意事項などを聞いて、今日は宿を探しに街に出た。
今までは、安全面でぎりぎりの安い宿を何も考えずに使っていたが、今はお金に多少の余裕がある。無理して、安宿に泊まる必要もないだろう。そう考えて、受付の人に宿を聞いておいた。
いくら自分では動いていなかったとはいえ、疲れが溜まっていたことは昨晩にはっきりとわからされた。これからはもう少しゆとりを持って生活しようと思うのだった。
そのおかげで、現在とてもおいしい料理にありついている。この世界に来てから食べたのは、値段重視の安い物ばかりだったので、まったく美味しくなかった。しかし、まさか米、しかも精米があるとは思っていなかった。稲は、ララストルの町でも全く見かけることはなかったのだ。
訊いてみると、この街の北の村で、水稲栽培がおこなわれているらしい。いつか見た、郊外の田園風景を思い出し、少し興味が沸いた。
焼き魚定食は最高だ。
でも、大根おろしが欲しい。
翌日、言われた通り、門の前にやってくると、タンクトップな漁師たちは早起きなようですでに十数人待機しているのに対し、冒険者はハルトを含め、5,6人しか来ていない。まだ指定された鐘はなっていないが、こんな状況で大丈夫なのだろうか?
漁師たちは大体タンクトップを着ていた。防御的にどうなんだと言いたいが、そういうものかと納得しなくてはいけないのだろうか。流石に聞く勇気はない。漁師の武器も、長い棒などが多く、意外に刃物は少ない。魚に使う刃物は魔物には使わないと言うことだろうか。とても謎の多い人たちだ。
結果的に、鐘がなるころに多くの冒険者が流れ込んできた。時間は守るのかとほっとしていいのやら、そんなギリギリでいいのかと呆れたらいいのやら、よく分からない。日本の高校で、十分前辺りからくる人が増えたのを思い出して、少し懐かしく思った。
今回で第二章は終わりです。




